影武者の天下盗り

井上シオ

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第7章:天下の仮面

第49話:夢を食う者たち

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 「信長様の夢を、俺たちが継ぐんだ」

 その言葉を掲げる集団が、各地で蜂起していた。

 名は「夢喰(ゆめくい)党」。
 旗印には、赤い織田木瓜を模した異形の印。

 彼らは「信長公の再来」を名乗り、民衆を煽動する。
 農民たちは夢に飢え、武士たちは理想に飢え、彼らの言葉に縋った。

 「殿はまだ生きておられる!」
 「現の天下は偽り! 真の信長様が現れる日が来る!」

 奇妙なことに、彼らの中には「十兵衛」という名を知る者がいた。

 だがその名は、歪められていた。

 「かつての影武者が、本物の信長を喰らったのだ」
 「その罪を忘れぬために、我らは“夢”を喰らう」

 夢が理想ではなく、怒りと復讐の道具に変わっていた。

 ──

 安土城の一室。

 十兵衛は、焚書されたはずの一冊の書を手に取る。

 “黒田官兵衛 記録草稿”──夢喰党の中核にあった文書だ。

 「なるほど……名は、力になる。
  そして名は、やがて“怪物”になる」

 彼の声は静かだったが、瞳の奥に宿るものは、怒りではなかった。

 諦念と、それでも手放さぬ矜持だった。

 「わしが築いた“信長”という幻影は、
  やがて誰かの夢になり……他人の都合に使われていく」

 重臣・前田利家が進言する。

 「討ちましょう、夢喰党。殿の名を侮辱する者どもめ」

 だが十兵衛は首を振った。

 「否。奴らが見るのは、己が虚無を埋める夢。
  それを討てば、また新たな“虚構”が生まれるだけ」

 ──

 その夜、夢喰党の根拠地が何者かに襲撃された。

 犯人は不明。
 ただ一つ、現場に残された墨書。

 〈信長を語るな。信じられよ〉

 それは、誰が記したかも知れぬ、影からの戒めだった。
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