卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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水切り

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 大学の授業が終わった午後。
 部室に戻る前に、ひかりんが突然「ねぇ、川行こ!」と提案した。

「川?」
「うん、キャンパスの裏手にある小さい川。あそこで“修行”するの」

 修行って……。
 でも、ひかりんが目を輝かせて言うと、断れない。
 わたし――しおりんは小さくため息をついて鞄を肩にかけ、彼女の後をついていった。



 川辺に降りると、秋の風が頬をなでた。夏の名残りが少しだけ残っているけど、空気は澄んでいて冷たい。 夕方の太陽が斜めから差し込み、水面が金色に光っていた。

「わぁ……やっぱりいいね、ここ」
 ひかりんはスニーカーを脱いで、裸足で石の上をぴょんぴょん跳ねている。 その姿が子どもみたいで、思わず笑ってしまった。

「で、修行って?」
「ふふふ。水切りだよ!」

 彼女は得意げに平たい石を拾い上げた。

「……やっぱり遊びじゃん」
「違うの! これは“座道水面跳躍術”!」
「そんなの聞いたことない」
「今つくったから!」

 ……ほんと、こういうところ、昔から変わらない。



「まずはわたしのお手本を見てて!」

 ひかりんは腰を落とし、石をスッと投げた。
 シュッと風を切る音。
 ぱしゃん、ぱしゃん、ぱしゃん――。

 石は七回も八回も跳ねてから、やっと沈んだ。

「どう? 今の跳ね、完璧でしょ!」
「……すごいね」

 素直に拍手すると、ひかりんは得意げに胸を張る。子どもみたいに笑うその横顔に、ちょっとだけ胸がざわついた。

「じゃあ次はしおりんの番!」

 促されて石を拾う。でも、うまく平たい石が見つからない。手にしたのは、やや丸っこい石だった。

「それじゃだめだよ! ちゃんと探して!」
「はいはい……」

 二人でしゃがみ込み、石を選び始める。指先に触れる石の感触。川の水が冷たくて、ちょっと心地いい。

「これなんかどう?」
 ひかりんが差し出した石は、薄くて楕円形。
 
「うん、これならいけるかも」

 わたしは石を構え、深呼吸した。
「いくよ……!」

 思い切って投げる。

 ぽちゃん――。一回で沈んだ。

「わははは! 一発沈み!」
「うるさいよ!」



 何度も挑戦しているうちに、二回、三回と続くようになった。そのたびに、ひかりんが「やった!」と手を叩いて喜んでくれる。まるで子どもを褒めるみたいに。

「しおりん、やればできるじゃん!」
「……ありがとう」

 小さな言葉が、意外に重かった。こんなふうに褒められるの、いつぶりだろう。

 ふと横を見ると、ひかりんがじっとこちらを見ていた。その視線があまりにもまっすぐで、心臓がドキッとした。

「な、なに?」
「んー、しおりん、やっぱりかわいいなって」
「ひゃぁ!?」

 慌てて声が裏返る。ひかりんはにやりと笑い、また石を投げた。



「ねぇ、こうやって二人で遊んでるとさ……デートっぽいよね」
 ひかりんの言葉が唐突に落ちてきた。

「な、何言ってるの……」
「だってそうでしょ? 川辺で石投げて、夕陽見て。ほら、ラブコメのシーンみたいじゃん」

 わたしは言葉に詰まる。反論したいのに、そう言われてみると確かにそんな気がしてしまう。

「……まあ、そうかもね」
 小声でつぶやくと、ひかりんは嬉しそうに目を細めた。

「やっぱり! じゃあ今日の修行は“デート修行”に決定!」
「勝手に決めないで!」

 でも、頬がほんのり熱くなるのを止められなかった。



 夕暮れが迫り、空が茜色に染まる。二人は石を投げ尽くし、川辺に並んで腰を下ろした。

 水面に波紋が広がり、虫の声が響く。 静けさの中で、ひかりんがぽつりとつぶやいた。

「……ねぇ、しおりん」
「なに?」
「わたし、やっぱりしおりんのこと好きかも」

 心臓が大きく跳ねた。

 けれど、ひかりんはすぐに笑って「なーんてね!」とごまかした。
 その笑顔がわざとらしくて、かえって胸に刺さる。

「……まったく」
 わたしは小さくため息をついた。

 でも、笑いながらも心のどこかで思っていた。
 ――もしかして、本気なんじゃないか。



 キャンパスに戻る道すがら、川のせせらぎがまだ耳に残っていた。
 ひかりんの「好きかも」という言葉と一緒に。

 水切りは、遊びだったのか、修行だったのか。
 それとも――デートだったのか。

 <<でしょでしょ! こういうのってハーレムエンドって言うんだよね>>

 あの時の言葉が思い浮かぶ。

  う――――――――――――――ん
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