卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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バトンリレー

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 GW明けの日、座道部の部室はいつもより少しだけ賑やかだった。
 
  桜ヶ丘ランドでの一日が、私たちの心にまだ色濃く残っていて、畳の上でお茶をすすりながら、つい昨日の話で盛り上がってしまう。

「ねえ、ゆはりんのあの悲鳴、ほんとすごかったよね! ジェットコースターの音より大きかったんじゃない?」  

 奈々りんが、湯呑みを手ににやにやしながら言う。

「うぅ……あ、穴があったら入りたいです……」  

 ゆはりんは顔を真っ赤にして、畳に視線を落とした。でも、その口元には小さな笑みが浮かんでいる。

「でもさ、ゆはりん、観覧車でのあのキスジンクス、めっちゃノリノリだったじゃん!」  

 私がからかうと、ゆはりんは「ひゃっ」と小さく声を上げて、両手で顔を覆った。

「か、かおりんまで! もう……あの時は、奈々りんのペースに巻き込まれただけで……!」  

「えー、ゆはりん、めっちゃ楽しそうだったよ~!」  

 奈々りんが追い打ちをかける。部室に笑い声が響き、いつもより少しだけ温かい空気が流れた。

 そんなとき、部室の引き戸がガラッと開いた。  
 
「やあ、お前たち、ずいぶん楽しそうな雰囲気じゃないか!」  

 現れたのは、隣の茶道部の部長、玲央先輩だった。少し長めの黒髪をポニーテールにまとめ、いつも通り涼やかな笑顔を浮かべている。  
 
「玲央先輩! どうしたんですか、急に?」  

 私が驚いて聞くと、先輩は「ふふ」と笑って、手に持っていた小さな紙袋を軽く振った。  

「実はな、茶道部でちょっとしたイベントを企画していて、座道部にも声をかけたくてね。ほら、これ見てみなよ」  

 紙袋から取り出したのは、爪楊枝と輪ゴムの束だった。  

「え、それって……バトンリレー!?」  

 奈々りんが目をキラキラさせて叫んだ。  

「バトンリレー?」  

 ゆはりんが首をかしげる。私も、なんだか聞きたい。
 
 「そうそう、そのバトンリレー! このゲーム、めっちゃ楽しいんだから! ほら、用意するのはこれだけ!」  
 
 奈々りんが爪楊枝と輪ゴムを手に持って、得意げに説明を始める。  

「ルールは簡単。ジャンケンか何かで席順を決めて、みんなで輪ゴムを爪楊枝で隣の人に渡していくの。落としたら負け! 最後まで残った人が勝ち!」  

 玲央先輩がにこにこしながら頷く。  
 
「うん、茶道部でもたまにやってるんだ。集中力も試されるし、意外と奥が深いゲームだよ。で、せっかくなら、座道部と合同でやってみない? 部室対抗バトンリレー大会!」  

「うわ、めっちゃ面白そう!」  

 奈々りんはもう完全に乗り気だ。私はゆはりんと顔を見合わせて、つい笑ってしまう。  

「楽しそう……ですけど、座道的にどうなんですか? これ」  

 ゆはりんが少し心配そうに言うと、奈々りんは胸を張った。  

「座道ってのは、心を整えることだけじゃないよ! 仲間と笑い合って、絆を深めるのも大事な修行! だろ、かおりん?」  

「うん、まあ……奈々りんの言うことも、一理あるかな」  
 私が苦笑しながら答えると、玲央先輩がクスッと笑った。  

「いいね、そのノリ! じゃあ、放課後にでも、茶道部の部室でやろう。準備はこっちでするから、座道部は気楽に来てくれよ」  

 そう言って、玲央先輩は軽やかな足取りで部室を後にした。  

*  

 放課後、茶道部の部室はいつもより少しだけ賑やかだった。畳の部屋には、座道部の私たち三人と、茶道部の玲央先輩を含む四人が集まっている。茶道部の部室は、いつもお抹茶の香りがほのかに漂っていて、なんだか落ち着く空間だ。  

「よーし、じゃあ早速始めようか!」  

 玲央先輩が仕切り、まずはジャンケンで席順を決めることに。
 
  結果、円形に座る順番はこうなった:私、奈々りん、ゆはりん、玲央先輩、茶道部の後輩・美咲ちゃん、そしてもう一人の茶道部員・悠斗くん。  

「ふふ、かおりんの隣か。負けないよ~!」  

 奈々りんが爪楊枝をくわえながら、いたずらっぽく笑う。  

「奈々りん、すぐ落としそうだね」  

 私がからかうと、みんながクスクス笑った。  

 ゲームのルールを確認し、玲央先輩が輪ゴムを手に持つ。  
 
「じゃ、スタート!」  

 玲央先輩が爪楊枝で輪ゴムを慎重に美咲ちゃんに渡す。
 美咲ちゃんは少し緊張した顔で、爪楊枝を傾けて輪ゴムを受け取る。すると 輪ゴムが爪楊枝の先で揺れるたび、みんなが「おおっ」とか「危ない!」とか声を上げて、部室が一気に賑やかになった。  

 美咲ちゃんから悠斗くんへ、悠斗くんからゆはりんへ。ゆはりんは真剣な顔で、ゆっくり、ゆっくり、輪ゴムを受け取る。  

「ゆはりん、落ち着いて! 大丈夫だよ!」  

 私が応援すると、ゆはりんは小さく頷いて、慎重に輪ゴムを私に渡してきた。  

「よし、きた!」  

 ──顔が近い。遊園地のアレを思い出してしまう。

 私が真っ赤になって輪ゴムを受け取った瞬間
 
 「うわ、かおりん、めっちゃ上手いじゃん!」  

 と、奈々りんが叫ぶ。

「まだ油断できないよ!」  

 私は笑いながら、爪楊枝を傾けて奈々りんに輪ゴムを渡そうとする。  

 ──また顔が近いー。

 ──わっ、奈々りん、動きが大きすぎ!  

「うわっ、待って、奈々りん、落ち着いて!」  

 私の叫びもむなしく、奈々りんが勢いよく爪楊枝を動かした瞬間、輪ゴムがぽろっと畳に落ちた。  

「うそ、奈々りん、落とした!?」  

 ゆはりんが目を丸くする。  

「うわああ、ごめんごめん!」  

 奈々りんが頭を抱えて笑い出すと、みんなも爆笑。  

「意識しちゃった……」  

 奈々りんが真っ赤な顔でボソっと言う。

「奈々りん、めっちゃ早い段階で脱落じゃん!」  

 玲央先輩が笑いながら言う。  

「うう、座道の心が乱れた……!」  
 奈々りんが大げさに畳に突っ伏す。  

 奈々りんが脱落したことで、ゲームはさらに白熱。次の輪ゴムはまた玲央先輩からスタート。美咲ちゃん、悠斗くん、ゆはりんと順調に進む。私がゆはりんから輪ゴムを受け取る瞬間、ゆはりんの爪楊枝が少し震えているのが見えた。  

「ゆはりん、深呼吸! 大丈夫!」  

 私が小声で励ますと、ゆはりんは「う、うん……!」と小さく答えて、なんとか輪ゴムを渡してくれた。  

 私が輪ゴムを奈々りんに渡そうとした瞬間──奈々りん、すでに負けてるからただの観客なのに、わざと変な顔をして私を笑わせようとしてくる!  

「ちょっと、奈々りん! 邪魔しないで!」  

 私が笑いながら言うと、輪ゴムが危うく落ちそうに。  

「うわ、かおりん、集中! 集中!」  

 悠斗くんが叫ぶ。  

 なんとか輪ゴムを奈々りんに渡し終えた私は、ほっと一息。  

 ゲームはどんどん進み、輪ゴムが落ちるたびに笑い声が響く。美咲ちゃんが緊張で爪楊枝を噛みすぎて「うっ、口痛い……」と呟いたり、悠斗くんが「これ、めっちゃ集中力いるね!」と真剣になったり。  

 そして、ついに最後の二人。ゆはりんと玲央先輩。  

「ゆはりん、がんばれー!」  
 私が応援する。奈々りんはもう完全に観客モードで、「玲央先輩、負けないでー!」と茶道部側を応援。  

 ゆはりんは真剣そのもの。爪楊枝をくわえ、輪ゴムをゆっくり玲央先輩に渡す。玲央先輩も、さすがの集中力で、落ち着いて輪ゴムを受け取る。  

 ──が、その瞬間、ゆはりんの爪楊枝が、ほんの少し、揺れた。  

「うっ!」  

 ゆはりんの小さな声。輪ゴムが、畳にぽとりと落ちる。  

「うわああ、ゆはりん!」  

 奈々りんが大げさに叫ぶ。  

「ご、ごめんなさい……!」  

 ゆはりんが真っ赤になって頭を下げる。  

「いやいや、ゆはりん、めっちゃ頑張ったよ!」  

 玲央先輩が笑顔で言う。「これ、ほんと難しいよね。座道部、なかなかやるじゃん!」  

 ゆはりんは恥ずかしそうに微笑みながら、「でも……楽しかったです」とぽつり。  

*  

 ゲームが終わった後、茶道部の美咲ちゃんがお抹茶を点ててくれて、みんなでまったりとお茶を飲んだ。  

「いやー、バトンリレー、めっちゃ盛り上がったね!」  
 奈々りんが満足げに言う。  

「うん、なんか……座道部と茶道部、いつもと違う感じで交流できて、楽しかった」  

 私が言うと、玲央先輩が頷いた。  

「だろ? こういう時間、仲間との絆を深めるのに最高だよ。座道も茶道も、結局は“心”が大事だからな」  

 ゆはりんが、湯呑みを手に小さく微笑む。  
 
「今日のこと……日記に書きます。『座道部と茶道部、心のバトンリレー』ってタイトルで」  

「ゆはりん、相変わらずタイトル重いね!」  

 奈々りんが笑うと、部室はまた笑い声でいっぱいに。  

*  

 その夜、帰宅してから、私はベッドに寝転がりながら、桜ヶ丘ランドや今日のバトンリレーのことを思い出した。  

 ジェットコースターの恐怖と笑い。観覧車の静かな時間。バトンリレーでの仲間との絆。  

 座道部に入ってから、こんな風に心から笑ったり、仲間と特別な時間を過ごしたりすることが増えた。奈々りんの明るさ、ゆはりんの優しさ、玲央先輩の頼もしさ。みんながいるから、こんなにも毎日が楽しいんだ。  

 ふと、観覧車のジンクスを思い出す。  
 ──一番上でキスすると、ずっと一緒にいられる。  

 あのときの、ゆはりんの頬に触れた感触。奈々りんのいたずらっぽい笑顔。  

 別にキスじゃなくても、こうやって一緒に笑い合える時間があれば、きっとずっと一緒にいられるよね。  

*  

 窓の外では、春の夜風がそっとカーテンを揺らしていた。  
 私は目を閉じて、今日の笑顔を思い浮かべながら、静かに眠りについた。
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