卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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尻相撲

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 6月の昼下がり、座道部の部室は畳の香りと、窓から差し込む柔らかな陽光に包まれていた。外ではセミの初鳴きが遠くに響き、夏の気配がそっと忍び寄る。
 
 今日はテスト明けのゆるやかな日。かおりん、奈々りん、ゆはりんの三人で、いつものように部室に集まり、畳に座ってまったりお茶会を開いていた。
 
 テーブルの上には、奈々りんが持ってきた塩キャラメルポップコーンと、ゆはりんお手製のレモンクッキー。わたしがコンビニで買ってきた冷えたジャスミンティーが並び、ほのかに甘い香りが漂う。
 
「ねえ、なんかウキウキするよね。夏が近い感じ!」

 わたしがジャスミンティーをちびちび飲みながら言うと、奈々りんがポップコーンを口に放り込みながら頷く。
 
「わかる! でも、なんかこう、座道部っぽいことしないと、ただのお菓子パーティーになっちゃうよね?」

 そう言ったのは、同じ1年の奈々りん。快活で、でもときどき急に照れたりする、ちょっと不思議な子。その奈々りんのショートカットが揺れ、いたずらっぽい笑顔がキラリと光る。

「うーん、確かに……何か修行っぽいこと、したいですね」

 もう一人の1年生、ゆはりんは控えめだけど観察力が鋭い。いまはお菓子の袋を畳の上で慎重に開いてた。そのゆはりんが、ふわっとしたロングヘアを指でくるっと巻きながら、ちょっと考え込む。彼女の華奢な体が正座でピンと伸びていて、まるで小さな茶釜みたいに愛らしい。

「ねえねえ、思いついちゃったんだけどさ!」

 奈々りんが急に立ち上がって手を叩いた。
 
「正座のまま、お尻で押し合いっこするってどう? ほら、『姿勢の安定性』を鍛える練習ってことで!」

「……それ、『尻相撲』じゃん」

 ゆはりんが苦笑する。でも私はなんだか、ちょっと面白そうだなと思った。

「……やろっか。正座のままなら、きっと座道っぽくなるし」

「よし! じゃあ、その『座道式尻相撲』やろうよ!」

「ルールはどうする?」

 奈々りんが、ポップコーンをポリポリかじりながら身を乗り出す。
 
「ふふ、ルールは簡単! 二人ずつ正座で向かい合って、畳の上でお尻をぶつけ合うの。姿勢を崩さず、相手を畳の外に押し出すか、正座が崩れたら負け! 座道の心と体のバランスが試される、究極の勝負!」

 わたしが胸を張って説明すると、ゆはりんの目がキラキラと輝き出す。
 
「かおりん、めっちゃ面白そう! 座道っぽいし、なんか燃えるね!」

 奈々りんがノリノリで畳の上で正座を整え、気合を入れる。
 
「じゃ、最初はわたしと奈々りんで対決! ゆはりんは審判ね!」

「任せてください! 公平にジャッジします!」

 わたしが提案すると、ゆはりんが小さく拍手しながらニコニコ笑う。

 お茶の湯気、かすかに汗ばむ制服、3人だけの、静かな午後。
だけど、どこか、空気の奥に「なにか」が揺れている気がした。



 畳の上に、わたしとかおりんが正座で向かい合う。膝が畳のざらりとした感触に触れる。ゆはりんは畳の端で正座して、ジャスミンティーを手に持ちながら、ドキドキした目でわたしたちを見守る。
 
「準備いい? ルールは、姿勢を崩さず、お尻だけで押し合うこと」

「……せーの……スタート!」

 ゆはりんの可愛らしい声が合図を出すと、わたしと奈々りんは一気に動き出した。
 
「うわっ、奈々りん、本気じゃん!」

 わたしが笑いながら言うと、奈々りんのお尻がグイッとわたしの腰にぶつかってくる。

「かおりんこそ、めっちゃ強い!」

 お互いゆっくり、お尻をひねるようにしてぶつけ合う。
 ふわっ、とスカートの布越しに伝わる感触に、一瞬、体が硬直した。

 ――近い

 奈々りんの太ももがふれる。体温がスカート越しにじんわり伝わってくる。お尻で押し合っているだけなのに、なんだか変に意識してしまう。

「んっ……!」

 ぶつかった瞬間、小さな息が漏れる。

 ――これ……思ってたより、ずっと……

 ドキドキする。
 ぶつかるたびに、スカートのすそがわずかに揺れて、相手の体の「かたち」が、いつもより鮮やかに感じられる。

「う、動いたら負けだよ~~~!」

 奈々りんの声も、ちょっと上ずって聞こえた。

 お尻がぶつかるたび、畳の上で小さな振動が響き、肩をピンと伸ばすのがだんだんキツくなる。ジャスミンの香りがふわっと鼻をかすめる。
 
「二人とも、姿勢きれい! 座道の極意、ばっちり!」

 ゆはりんが、ちっちゃい拍手をしながら応援してくれる。
 
「うっ、奈々りん、強すぎ!」

 わたしが少し押され気味で声を上げる。
 
「油断したら負けるよ!」
 
 奈々りんが挑発的に笑う。その瞬間、彼女のお尻がグッと押し込んでくる。わたしは膝を畳に押し付けて耐えるけど、バランスが微妙に揺らぐ。
  
「ひゃっ!」

 わたしが小さく叫んだ瞬間、膝がズルッと滑り、正座が崩れてしまった。スカートの裾が少しめくれて、慌てて手で押さえる。
 
「奈々りん、勝ち!」

 ゆはりんが、ぴょこんと立ち上がって手を上げる。
 
 「やったー!」

 奈々りんがピースサインを作り、得意げに笑う。
 
「くっ、奈々りん強い! 次は絶対リベンジするから!」

 わたしが畳にぺたんと座りながら言うと、奈々りんが手を差し出してくる。
 
「ふふ、かおりん、いつでも相手してあげるよ!」

 でも、負けた悔しさよりも、何か不思議な余韻の方が、心に残っていた。
 


 「は、恥ずかしいけど……やってみます」

 次は奈々りんとゆはりんの対決。わたしが審判役で、畳の端に座ってジャスミンティーを飲みながら見守る。
 
 正座したふたりがそっと向かい合う。
 ふだん物静かなゆはりんが、ほんの少しだけ眉を引き締めているのが新鮮だった。一方、奈々りんは余裕の笑顔で構えている。
 
「準備いい? せーの、スタート!」

 わたしの合図で、二人がお尻をぶつけ合う。
 
「はっ…!」
「ふんっ…!」

 静かな押し合い。でもスカート越しのふれあいに、顔を赤らめながらも必死なゆはりんの姿に、私は息をのんだ。

 ――こんなに近くで…お互いの体を感じながら……

 それなのに、誰もそれを「変だ」と思わない。
 だって、正座してるだけ。お尻で押し合ってるだけ。

 でも、なぜだろう。
 体の奥に、なにか小さな熱が灯るような感覚があった。

「ゆはりん、頑張って! 姿勢、めっちゃきれい!」

 わたしが声をかけると、ゆはりんが
 
  「う、うん……!」
  
 と頬を桜色に染めて、小さく頷く。彼女のロングヘアが陽光に透けて、まるで薄絹のように揺れる。
 
「ゆはりん、負けないよ!」

 奈々りんがグイッと押し込むと、ゆはりんが「ひゃっ!」と小さく叫び、バランスを崩して畳にぺたんと座り込んだ。
 
「奈々りん、勝ち!」

 わたしが笑いながら言うと、ゆはりんが恥ずかしそうに頭を下げる。
 
「うう、負けちゃった……」
 
 その愛らしい姿に、守ってあげたい気持ちがむくむくと湧いてくる。
 
 それにしても…… ゆはりんが座り込んだ時に、スカートの裾がふわりと舞い、素敵な太ももが見えたことが忘れられない。
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