夏と竜

sweet☆肉便器

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余話11 ゆまは12歳、その偏執なる執着

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 「わたしもナッちゃんと一緒に引っ越す」そう言ってみたもののもちろんそれが許される訳もなく、両親と叔母さん叔父さんを困らせるだけの結果で終わった。

 わたしは割りと自由に生きてきたと思っているが、こうして自分の思ったとおりにならないと親の庇護下にある不自由さを強く感じてしまう。
 両親は嫌いではない、むしろ大好きなのだが、早く成人になりたいと強く思ってしまう。

 引っ越しの当日、手伝いとの名目でナッちゃんたちの引っ越し先まで付いていった。
 新幹線でおよそ一時間半、日守のお爺ちゃんのお家から車で一時間ほどの場所にある庭付きの借家がナッちゃんたちの新居だった。
 
 ナッちゃんはさっそく庭に出て木の枝にくっついていた虫をわたしに見せてくれたり、ふたりでクローバーで花冠を編んだりした。

 どうやらナッちゃんはこの地方の暮らしに馴染めそうだと安堵しつつも、わたしの知らないナッちゃんにこちらでなってゆくんだと淋しい気持ちにもなった。

 引っ越しもつつがなく終わり母と共にお暇をしようとしたのだが、ナッちゃんがわたしを引き留め泣き出した。
 どうやらナッちゃんはわたしもこの場所で一緒に住むのだと思っていたらしく、わたしが帰ると知り悲しくなってしまったようだ。
 わたしの服にしがみつき火が着いた様に泣きじゃくる。
 わたしもナッちゃん同様に泣きたかった。だがそれは事前に母から止められていた事態、別れの時にナッちゃんの前で泣かないようにと約束をさせられていた。

 しどとに溢れる涙を拭おうともしない可愛いいとこをそっと抱き寄せわたしはその耳に唇を近付ける。

 「ナッちゃん、お姉ちゃんとは今までみたいに毎日は会えなくなっちゃうけれど、ずっとの事じゃないの」

 母から手渡されたハンドタオルで涙を拭ってあげながら言い聞かせる様に言葉を続ける。

 「お正月もお盆もお爺ちゃんのお家で会えるし、それに普通の日だってお姉ちゃんが電車で会いに来るわ」

 「ホント?」

 「ホントウよ。それに毎日電話でお話をしましょう!? お姉ちゃんナッちゃんがこっちでどんなことして遊んだか、どんなことお勉強したか知りたいわ。ナッちゃんお姉ちゃんにお電話してくれる?」

 「うんっ! ぼくゆまはねえちゃんにまいにちおでんわするよっ! だからゆまはねえちゃんもぼくのことわすれたりしないでねっ!」

 忘れたりなんてするわけ無いじゃないっ!! ナッちゃんからの溢れ出る様な思慕の感情に下腹部と心が熱くしながら、かつそれを悟られぬよう振る舞いつつナッちゃんと約束の指切りを交わす。

 「指切りをげんまん嘘ついたら結婚するっ! 絶対に結婚するっ!! 入籍を前提にお付き合いしてナッちゃんが成人したら絶対絶対絶対ぜぇーーーーーーーーっっったいっわたしのモノにするっ!!!!! 指切ったっ」

 ふたりの小指どうしが離れるとわたしはナッちゃんを見ないようにしながら車へと走ったり、助手席に座ると母に車を出すよう頼む。
 これ以上ナッちゃんと一緒に居ると溢れ出しそうになっている諸々の限界が越えそうなのだ。

 わたしは徐々にちいさく遠ざかってゆくナッちゃんの声を耳にしながら、助手席にうずくまり涙を流し続けた。






 愛おしいいとこの姿がわたしの側から消え、進学したわたしはさっそく旅費を貯めるためにアルバイトを探した。
 とは言え中学生に出来るアルバイトなどそう多くはない。最初は早朝の新聞配達をはじめた。朝早いのにはなかなか身体が慣れず辛かったが、寝る前の習慣となったナッちゃんとの電話を支えに頑張った。
 
 新聞配達のアルバイトをはじめてから四ヶ月ほど過ぎた頃だろうか(ちなみにその間ナッちゃんの元へは四回行っている)、母の知り合いの伝でモデルのアルバイトを紹介された。
 どうやらわたしはあまり自覚していなかったのだが見た目に優れているらしく、母の友人で雑誌編集を生業としている人物が中学生モデルの不足を理由に母にこの話を持ってきたそうなのだ。

 わたしはバイト代の多さに眼が眩み一も二もなく了承した。
 正直拘束時間の長さはネックでもあったが、ナッちゃんに会えない時間など何をしていようともそう変わりはしないと納得して。
 但し、ナッちゃんに会いに行く日と電話をする時間だけは何があってもアルバイトはしないと釘は刺しておいたが。
 
 最初は金銭の授受だけが目的のただの仕事でしかなかった。

 だから写真に写る表情も笑顔は作るものの「何処の誰に対しての笑顔なのか判らずに不気味だ」だとか「顔とスタイルは一級だがまるで感情が伝わってこない。これならばマネキンに服を着せているのと換わらない」だのと散々の評価だった。
 だがわたしの載った雑誌をナッちゃんに見せたら「ゆまはねえちゃんすごくかわいい、きれいなおようふくきてるおねえちゃんすき!」と大好評をもらった。
 以来わたしはモデルとしての仕事に熱意を傾けるようになった。
 
 コスメの研究をし自分にあったモノを揃え、肌のケアにも本気で取り組み、ナッちゃん関連意外は怠惰であった生活を改め体型の維持に努めるようになった。
 さらにはナッちゃんの事に関して意外無関心だった自分の性格も改善、社交的で誰にでも好かれる橘ゆまはを造り上げた。

 全てはナッちゃんが自慢できる姉で在るため、ナッちゃんが誇らしく語れる半身で在るためなのだ。

 するとわたしの努力に応えるようにわたしのモデルとしての評価が上がっていき、他の雑誌からも仕事のオファーが来るようになりさらにそれで名を挙げる好循環になっていった。
 
 とあるネット掲示板のモデル板ではこう書かれていた。

 『YUMAHAは表情が以前に比べて生き生きとしてきたよね。以前は顔がいいだけで死んだ魚の眼をしていたけれども、今は希望にキラキラと輝くような表情をしている。
 清純さの中に隠れても漂う色気が感じられる。きっと恋でもしているのでしょうね』

 わたしはこの書き込みを読み「見ているヒトは見ているんだなぁ」と感心したものだ。

 次いで下の書き込みにはこう書かれていた。

 『彼女恋しているのはファインダーの向こうわたしたち読者よ、わたしたち読者の支持が彼女を高みへと昇らせたんだわ。YUMAHA がモデルとして仕事を始めた初期から応援しているわたしにはよくわかるの』

 この書き込みを読み「長く応援していたって見えていないヒトは見ていないんだなぁ」と失望したものだ。

 ともあれ、学校にモデルのアルバイトに(ナッちゃんの)推し活にと忙しい日々を送るわたし。

 気付けばもうすぐ18となり自動車免許の取れる年齢となっていた。

 わたしは迷わず自動車学校の門を叩き普通自動車免許習得の用紙に名前を書き込んだ。

 目指すはナッちゃんとのラヴュラヴュドライブデートなのだっ!!

 実車講習初日、教官のお手本の運転を助手席で見て停止線で停車、今度はわたしがハンドルを握る番になった。
 さすがに鉄の箱を自分で動かすのは緊張する。
 周囲の安全を確認しドアを開き乗車、シートベルトを装着しバックミラー、サイドミラーの位置を確認、ブレーキペダルを踏み始動ボタンに手を伸ばし、そこでようやっと気が付いた。

 「? 橘さん、どうしました? 問題ないですから車を発進させてください」

 助手席に今日運転の指導をしてくれる教官が座っているのだ。

 「……………助手席にはじめて乗せるのはナッちゃんって決めていたのに」 

 「は?」

 …などと問題も時としてあったが、わたしは無事普通自動車教習の第一段階を修了し仮運転免許を手にしたのだった。

 「おめでとうございます橘さん、これで公道で運転ができますよ」

 「ありがとうございますっ! これでナッちゃんとドライブデートに行けるんですねっ! わたし最初は海にって決めていたんですっ! むかしわたしの家族とナッちゃんの家族全員で海に海水浴に行ったときにナッちゃんすごく喜んでいたんですっ! その姿がかわいくってわたし一緒に砂を掘ってお風呂だって言って一緒に入って…… いえ、もちろんお風呂に一緒に入ったのが初めてって訳じゃないんですよ? 引っ越す前はナッちゃんをお風呂に入れてあげるのもわたしの役目だったから、ナッちゃんのスベスベのお肌に傷が付かないように手にボディーソープを付けて………」

 「あ、いえ、海は正式に免許を習得してから行ってくださいね? 仮免許はあくまでも仮のもので練習目的意外で公道を走るのは禁止されて………」

 もうわたしは教官の声など耳に届いていなかった。すでにわたしの心はハンドルを握りナッちゃんを迎えに国道17号を走り出していたのだから。

 免許(仮)を手に入れた翌日、わたしは母が自分へのご褒美にと買ったケータハムスー○ー7の鍵をちょろまかし一路ナッちゃんの住む街へとアクセルを踏んだ。
 ナッちゃんはこの時期お爺ちゃんの家に行っているのは叔母さんから聞き取り済みだ。ナッちゃん案件に関してリサーチ抜けなどこの橘ゆまはにありはしない。

 だがわたしは知らなかった。リサーチに抜けがあった。この時ナッちゃんが裏のお社で出会ったドラゴンを育てているなどと、そしていろいろな事件を経てわたしたちが異世界へと飛ばされトロールの一族に保護され侵略国家と戦うなどと、その後元の世界に帰還を果たすが異世界の人々との大抗争に巻き込まれるなどと、さらには抗争が激化し異世界の人々も人類も滅亡しわたしとナッちゃんだけが生き残り吹田さんが「こんなこともあろうかと」と備えてくれていたコールドスリープ装置で長い眠りにつくなどと。さらにさらに一五〇〇〇〇年後に目覚め新しい人類のアダムとイブになるなどと、もっと言えばそれからのいろいろで肉体を失い情報体となったふたりが融合を果たし文字通り神に至るなどと…………………………………そう、その時のわたしは予想もしていなかったのだ。




































 ※作者注:途中より橘ゆまはの誇大妄想が含まれており物語と違った展開をみせています。

 
 
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感想 1

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みんなの感想(1件)

星埜銀杏
2019.11.17 星埜銀杏

竜との出会いがほのぼのとさせられます。描写されるうさぎとの対象が秀逸ですね。

2019.11.18 sweet☆肉便器

感想をいただきありがとうございます。
今後とも夏と竜をどうぞご贔屓に

解除

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