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懺悔其の四 浮気しちゃいました
しおりを挟む「はー、最近のアイドルってやたら数が多いんだなぁ。こんなにいても名前覚えられないぞ」
アタシはスマホでニュース記事を読みながら、懺悔室で次の迷える子羊が来るのを待っていた。スマホ見ながら待つのは不謹慎だって? 暇だからいいんだよ。
最近流行の大人数量産型アイドルの記事を読んでいたらドアの開く音がした、どうやら今日の迷える子羊が来たようだ。
見た感じは二十代後半くらいの男性、良く言えば恰幅が良い、普通に言えば太ってる、悪く言えばデブな男が懺悔室に入ってきた。
「ぼ、僕の懺悔と悩みを聞いてください」
話すのが苦手なのか、オドオドしながら喋り、時々声が上ずっている。
頭に青いバンダナを巻き、服はアイドルの顔の写真がプリントされたTシャツ、そしてリュックサックには色とりどりの棒が刺さっている、あの棒は確かサイリウムってヤツだな。
言い方は悪いが典型的なオタクってヤツだと言いたいが、今時此処まで露骨なオタク見た事無いぞ……
「ど、どうか聞いてください」
ゴニョゴニョと喋ってて聞き取りにくいなぁ。とりあえず仕事だし返事するか。
「どうされましたか?」
アタシが返事をすると、オタクは「フヒ!」と漏らしてニヤーと笑う、こっわ!
「アニメっぽい可愛い声ですねフヒヒ」
「は? はぁ? 声? あ、有難うございます?」
ごめん、正直キモイんだが……一応褒めてくれてるようだしな、自分の声なんて意識したことないけどそんな声なのか……
「それで、どういった話でしょうか?」
さっさと先に進めよう、アタシのためにも。
「そ、そうでした。実は僕は浮気をしてしまいました」
「そうですか……それは……はぁ!?」
「はぁ!? ってどんな反応でつか」
いやいや、まてまて、コノヤロー。
「お前、冗談言いに来たのかよ!!」
「冗談なんて言ってません」
「ヴァカなアタシにだって恋人がいないのに、お前なんかが……」
「ち、違います。そういう浮気じゃないでつ」
ん? どういうことだ?
「どういうことだよ?」
アタシはオタク男に話を続けるように促した。
「僕はですね、ずっと『S&W44』の多田野ヒカルちゃん推しだったのですが最近出てきた『下り坂46』の坂下雅代ちゃんに心奪われてしまいました」
「んだよー、アイドルの話かよくだらねー」
浮気ってアイドルの事だったのかよ、しかしヒデェ名前のグループ名だよな……S&W44って拳銃かよ、もう一つも下り坂ってデビューして行き成り終わりそうな名前だよなコレ。
「ムキー! お姉さんにはくだらなくても僕には重要な事なんでつ!」
怒る時本当にムキーって言うヤツ初めて見たよ。
「わかったわかった、バカにして悪かったよ」
「あと、お姉さん口調随分かわってますよ、可愛い声でその口調もたまりませんな」
「いいんだよ、細かいことは気にするな! あとキモイ発言やめろよ」
そもそもアニメっぽい声ってどんな声なんだ?
「で? 浮気っていうがアタシは別に何人のファンになろうが構わないと思うんだが」
「しかし、ヒカルちゃん一筋だったという自負がそれを許さないのでつ」
コイツ何故かしらんが『す』が『つ』になるなぁ……
「両方共を同じだけ応援するんだ、平等に愛せば神はきっと許してくださる……多分」
「そうなんでしょうか? あと最後聞き取りにくかったでつが多分って言いました?」
「いや、言ってない言ってない! あと大丈夫、向こうはきっとお前なんてファンの一人としか認識してないし、顔も覚えてないから!」
アタシの一言にうなだれるオタク。
「確かに毎回握手会に行ってるのに、毎回初めましてって言われてるつ……」
どうやら地雷だったようだな、困ったもんだ。
「……あー、ゴメンなんか言っちゃいけない一言だったかな? まあ、元気出せよな」
「お姉さんが可愛らしく『元気出してね』って応援してくれたら立ち直れまつ」
「く、コイツ……」
「あぁ、お姉さんのさっきの一言が心に刺さって痛いでつー」
うぜぇ、ぶん殴りてぇ……
「く……仕方ない。 『元気出してね』 」
くあーーー!恥ずかしい!!
「これでいいか……」
「少しぎこちない所もグッドでした!」
昔のアタシなら確実に殴ってたよ……
「しかし、お姉さんの言う通りでつね、二人とも同じくらい好きになって応援すればいいだけでつね」
「ああ、アイドルは皆の物だろ? なら逆に言えばお前も誰か一人の物じゃないんだよ」
「わかりましたー!」
なんか納得してくれたな、おそらくこれで相談は終了って事だな。ふう、なんとかなったってことだな。
「で、お姉さんの声なんでつが声優に興味は無いでつか?」
「興味ねぇよ」
「僕達が作ってるゲームの声優として出てほしいのでつが」
「興味ねぇって」
「あ、ゲームでもR18でつけどね」
「エロゲーかよ! 絶対にでねーよ!!」
こいつ何で行き成り勧誘してくるんだよ。
「勿体ないでつ、お姉さんの声ならきっと人気声優になれるのでつが……」
「いいよ、アタしゃシスターなんだぞ。 シスターがエロゲー声優ってヤバイだろうが」
「僕はお姉さんの声好きでつけどねぇ、仕方ありません。また今度仲間と一緒にここに来まつね」
冗談じゃないぞ、コイツの仲間とかどんな魑魅魍魎だよ!
「いや、もう来なくていいよ。相談終わったならさっさと帰れよ」
「つれないこと言いまつね、ですが今日はこれで帰りまつ」
「ああ、さっさと逝け」
「今、行けの発音が違ったように聞こえましたが……」
「気のせいだから」
「そうでつか」
そう言いつつオタクは席を立つ。
「では今度は顔も見せてくださいね」
「嫌だよ!」
「フヒヒ。さて僕は帰りに下り坂の握手会の応募券付きCDを一〇〇枚買って帰りまつね」
「わかったから。さっさと帰れ」
アタシはカーテンの向こうにいるオタクにシッシと手を振ってやる。
「それでは今日は相談に乗ってくれて有難うございました」
そう言うとオタクは太った体を揺すりながら、軽い足取りで部屋を出て行った。
やっと帰ったか、これで今日の分は終わりっと。
まったく、アタシの声のどこがいいんだか……
「……ま、褒められて悪い気はしないけどね」
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