• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』

ヨォコ

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第一章:黄金の瞳の令嬢

   (後半)雪原に落ちた至宝(ヴィンセント視点)

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兄である――この国の皇帝との会談は、実に愉快な時間だった。
 唯一の肉親であり、良き理解者でもある彼と、帝国の未来について美酒を酌み交わしながら語り合う。それは私の数少ない安らぎのひとときだ。
「ヴィンセント、お前もそろそろ再度身を固めたらどうだ? お前の血を引く優秀な娘を見たいものだよ」
「ふっ、兄上。私に務まるような柄ではありませんよ」
 そんな冗談を交わし、温かな余韻に浸りながら、私は漆黒の馬車で帰路についていた。
 窓の外は、激しい吹雪。だが、皇帝から贈られた極上の毛布が、車内を春のような温もりに保っている。
「閣下、吹雪が強まってまいりました。お急ぎになりますか?」
 御者台に座ってるカインの声が風に混じって届く。
「いや、構わん。急ぐ旅でもなし、ゆっくりと……」
 言いかけた言葉が、不自然に止まった。
 窓の外、真っ白な雪原の中に「異質な色」を認めたからだ。
 私は、自分でも驚くほどの速さで馬車を止めさせた。
「閣下、何事ですか!」
 慌てて駆け寄るアルベルトを制し、私は雪の上へと降り立つ。
 
 そこには、汚れ一つない新雪の上に、銀色の糸を撒き散らしたような美しい髪が広がっていた。
 近づけば近づくほど、それが「人」であることがわかる。それも、驚くほど小さな子供だ。
 
 その子は、薄い部屋着一枚という、死を待つためだけに用意されたような姿で倒れていた。
 あまりの痩せ細り方に、一瞬、胸が締め付けられるような不快感を覚えた。誰がこれほどの幼子を、このような場所に捨てたのか。
 
 私がその頬に触れようとした、その時――。
 雪に埋もれた小さな顔が動き、その瞳がカッと見開かれた。
「……っ!?」
 息を呑んだ。
 冬の闇を切り裂くような、鮮烈な黄金の輝き。
 それは、先ほど皇帝の宮殿で見たどんな宝物よりも、遥かに尊く、そして呪わしいほどに澄んでいた。
 
 瞬間、頭の中に強烈な衝撃が走る。
 ——視界共有(リンク)。
 
 私の意識が少女の瞳に吸い込まれ、私は自分自身の姿を、雪の中に横たわる子供の低い視点から見上げていた。
 絶望の淵に立ち、死を目前にしながら、この少女は私という存在を、その特異な能力で、しかと「捉えた」のだ。
(……なんと、凄まじい「生」への執念だ)
 先ほどまで語り合っていた穏やかな世界とは、真逆の地獄。
 この子は、自分を殺そうとする運命そのものを、その黄金の瞳で睨みつけている。
「……子供、選ばせてやろう」
 私はその震える顎を持ち上げ、静かに、だが熱を持って告げた。
「このまま雪の中で眠るか、それとも、私という悪魔の手を取って、お前を捨てた世界を焼き尽くすか」
 少女は、骨の浮いた細い指で、私の漆黒の外套を、必死に、ぎゅっと掴んだ。
 
「……た、すけて……。……おなかが、すいたの……」
 そのあまりに切実で、幼い言葉。
 復讐を唆す私に、この子は「生きたい」と乞うた。
 その瞬間、私の中に、兄上との会話で感じた以上の、強烈な「所有欲」と「慈しみ」が湧き上がるのを感じた。
「……ふっ、いい答えだ」
 私は、この世で最も貴重な「奇跡」を扱うように、彼女の体を抱き上げた。
 兄上が跡継ぎの話をしていたのは、この出会いを予言していたからだろうか。
「カイン、クラウス。今日からこの子は私の『娘』だ。我が公爵家の最高傑作……いや、私が生涯をかけて守り抜く、我が愛娘だ」
 馬車に戻り、皇帝から贈られた最高級の毛布で彼女を包み込む。
 眠りについた少女の小さな手を見つめながら、私は心に決めた。
 
 この子を捨てた愚か者どもには、皇帝に代わって私が裁きを。
 そしてこの子には、帝国のすべてを跪かせるだけの「愛」を。
 
 兄上、私にもようやく守るべきものが見つかりましたよ。
 漆黒の馬車は、冷たい雪原を後にし、新たな「希望」を乗せて走り出した。
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