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セスはゆっくりと目を開けた。
パチパチと瞼を開閉して視線が彷徨っている。どこかまだ放心状態だが、視線が合うとその目は大きく見開かれた。
「リュリュ?」
「あぁ、俺だ。大丈夫か?」
「……どうして……?」
「──ん?」
彼の唇は半開きのまま閉じず、何か変なものでも見ているかのような驚きようだ。
セスは俺の方に手を伸ばしてきた。──だが、その手は俺に触れる前に下ろされる。
「昨日まで短かったリュリュの髪の毛が伸びている……?」
「は? 何だそれ? 認知の歪みかも……なぁ、この指は何本に見える?」
催眠術の副作用かもしれない。
彼の様子をみながらいくつか質問をする。
人物名や家族構成、魔術式など、セスは俺の質問に怪しみながらも答えた。
質問を続けていると、セスに重大な記憶障害が見つかった。
セスには近年の記憶がごっそり抜け落ちていたのだ。
催眠術で忘れるように言ったからだろうか。
“企み”の一部記憶だけを忘却するつもりだったが、曖昧な指示に彼の記憶がごっそり抜け落ちてしまったようだ。
──責任重大。
一瞬青ざめたが、よくよく考えればセスの人間関係は狭く、人付き合いで影響が出るとは思えないのだ。
そして学力に問題ないときた。この程度の記憶喪失ならば、すぐに日常生活に戻れるのではないだろうか。
支障が出なさそうだと判断したが、セスは深刻な表情のまま背を丸める。
「何故、俺は平然とリュリュと一緒にいるのだ? ……いや、思い出せない。何故、この教室にいるのかも分からない」
「──あぁああ、あのな、セス! 無理をして記憶を思い出す必要はないさ。深呼吸でもして気分を落ち着かせよう!」
彼の背をポンポン叩きながら宥めて、もう一度椅子に座らせた。
蹲る彼の手を握って、「俺は味方! セスの良き理解者だぞぉ。ずっと仲良しなんだから!」
暫く彼は蹲っていたが、暗示を強めるように何度もそう声をかけると、ようやく顔を上げた。
「……有り得ない」
「有りえ……い、かよ。そうかい、はい分かったよ。…ところで君はいくつだい?」
彼は担任の名を覚えていなかった。もしかして年単位で記憶がないかもと判断し、そう質問をした。
「先ほどからおかしな質問ばかりだな……お互い、十五歳だろ」
……十五歳。
思った以上に記憶が抜け落ちている。
その時期何があったか──そうだ……十五才と言えば、丁度自分が非魔法使いであると診断を受け、魔法使いになるのを断念した年だ。セスに嫌味を言うのも馬鹿らしくなり、突っかかることを止めた時期。
……いつから俺の事を嵌めようと企んでいたのだろう。
胸の内がモヤモヤしてきたが、それを堪えて彼に本当の年を話す。
「今、俺達は十八歳だよ。セス」
「──十八歳?」
三年も記憶が抜け落ちているなら、それは仰天するだろう。
そう予想したが、年齢を伝えたことで彼は腑に落ちた様子を見せる。「そうか、では……」と自分を納得させるかのように頷くと彷徨っていた視線は真っすぐに俺を見る。
注がれる視線の強さは顔に穴が空いてしまうのではと思ったが、ことの責任を感じている俺は我慢した。
「可憐だ」
パチパチと瞼を開閉して視線が彷徨っている。どこかまだ放心状態だが、視線が合うとその目は大きく見開かれた。
「リュリュ?」
「あぁ、俺だ。大丈夫か?」
「……どうして……?」
「──ん?」
彼の唇は半開きのまま閉じず、何か変なものでも見ているかのような驚きようだ。
セスは俺の方に手を伸ばしてきた。──だが、その手は俺に触れる前に下ろされる。
「昨日まで短かったリュリュの髪の毛が伸びている……?」
「は? 何だそれ? 認知の歪みかも……なぁ、この指は何本に見える?」
催眠術の副作用かもしれない。
彼の様子をみながらいくつか質問をする。
人物名や家族構成、魔術式など、セスは俺の質問に怪しみながらも答えた。
質問を続けていると、セスに重大な記憶障害が見つかった。
セスには近年の記憶がごっそり抜け落ちていたのだ。
催眠術で忘れるように言ったからだろうか。
“企み”の一部記憶だけを忘却するつもりだったが、曖昧な指示に彼の記憶がごっそり抜け落ちてしまったようだ。
──責任重大。
一瞬青ざめたが、よくよく考えればセスの人間関係は狭く、人付き合いで影響が出るとは思えないのだ。
そして学力に問題ないときた。この程度の記憶喪失ならば、すぐに日常生活に戻れるのではないだろうか。
支障が出なさそうだと判断したが、セスは深刻な表情のまま背を丸める。
「何故、俺は平然とリュリュと一緒にいるのだ? ……いや、思い出せない。何故、この教室にいるのかも分からない」
「──あぁああ、あのな、セス! 無理をして記憶を思い出す必要はないさ。深呼吸でもして気分を落ち着かせよう!」
彼の背をポンポン叩きながら宥めて、もう一度椅子に座らせた。
蹲る彼の手を握って、「俺は味方! セスの良き理解者だぞぉ。ずっと仲良しなんだから!」
暫く彼は蹲っていたが、暗示を強めるように何度もそう声をかけると、ようやく顔を上げた。
「……有り得ない」
「有りえ……い、かよ。そうかい、はい分かったよ。…ところで君はいくつだい?」
彼は担任の名を覚えていなかった。もしかして年単位で記憶がないかもと判断し、そう質問をした。
「先ほどからおかしな質問ばかりだな……お互い、十五歳だろ」
……十五歳。
思った以上に記憶が抜け落ちている。
その時期何があったか──そうだ……十五才と言えば、丁度自分が非魔法使いであると診断を受け、魔法使いになるのを断念した年だ。セスに嫌味を言うのも馬鹿らしくなり、突っかかることを止めた時期。
……いつから俺の事を嵌めようと企んでいたのだろう。
胸の内がモヤモヤしてきたが、それを堪えて彼に本当の年を話す。
「今、俺達は十八歳だよ。セス」
「──十八歳?」
三年も記憶が抜け落ちているなら、それは仰天するだろう。
そう予想したが、年齢を伝えたことで彼は腑に落ちた様子を見せる。「そうか、では……」と自分を納得させるかのように頷くと彷徨っていた視線は真っすぐに俺を見る。
注がれる視線の強さは顔に穴が空いてしまうのではと思ったが、ことの責任を感じている俺は我慢した。
「可憐だ」
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