催眠術をかけたら幼馴染の愛が激重すぎる⁉

モト

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 大きくて包まれる感覚に心地よさを感じながら、ふっと目を覚ました。
 至近距離の美形ゴリラの安堵する表情に、意識を失った経緯を思い出す。

 死ななくてよかった。
 まずはそう思うことにした。

 セスから視線を逸らすと、なんとここは自室だ。
 さらに、ベッドに腰をかけたセスの膝上に横抱きにされている。つまり、まだセスにかけた催眠術が解けていないことを意味していた。

「……送ってくれてありがとう。──今日は帰れよ、な?」

 気絶した俺を自宅まで送り届けてくれた、その点に関してお礼を言いながら俺は彼から離れようとするが、俺の腰に巻き付く腕は剥がれない。手足をばたつかせても無駄だった。

「はあはあはあ! 君の馬鹿力は一体どうなっているのか! いい加減に離せ!」

 後ろから抱きつく男に振り向き文句を言うと、彼の腕が剥がれた。
 ようやく解放されたと喜んだのもつかのま、俺の身体はベッドに押し倒されていた。
 ぬっと俺の身体を覆い被さってくる大きな体。

 一難去らずしてまた一難。

「ひい……何を……っ⁉」
「リュリュ」

 爛々とする瞳に自分が映っていて、自分はこの男の獲物なのだと自覚する。
 ひっ……俺を見て、舌なめずりをしたぁ……。

 何を……え、本当に俺を押し倒して、どうするつもりなのだ。まさかナニを俺のどこかに突っ込むつもりではないか⁉
 ギシリとベッドの音が鳴り、身体が大きく飛び跳ねる。

「キスしたい」

「わあ、キスならさっきしただろう⁉ 近い近い近い!」

「リュリュを見ていたら、すぐにしたくなる」

 なら見るな。こちらを向くな。

 文句を言いたいが、彼の顔が有無を言わずに、どんどん近づいてくるから俺は無駄に整った顔を両手で掴んだ。

「もう我慢出来ない、よく聞け! あんなのはキスじゃない! このド下手! 窒息するところだっただろう、筋肉ゴリラめ!」

 そうだ、世の男は自分が好意を寄せている相手に“ド下手”なんて言われたらダメージが大きいはず。
 無敵ゴリラにダメージを食らわせるなんて出来ないだろうが、せめてやる気が萎えてほしい。

 最低最悪のキスであることを必死に伝えていると、セスは深々と頭を下げた。

「すまなかった」
「ほへぇ?」

「苦しめて本当に悪かった」

 真摯な表情で謝るセス。

「どうすれば許してくれるだろうか? そのためなら何でもするよ」

 セスはプライドが高く、簡単に謝るような奴ではないことを知っている。へつらうような態度を取る今の彼は誰だ。

「嬉しかったのだ。リュリュと恋人だと思うと手加減が出来なかった」

「え……そう、なのか」
「あぁ、お前の唇は柔らかくて、俺はとても気持ちがよかった。だが苦しめるつもりはなかった。本当にすまない」

 いつも見下ろされて睨まれていた俺は、必死に許しを請う彼を見て新鮮な驚きで包まれる。

 ──まるで、幼いころに戻ったみたいじゃないか。

 まだセスに魔法が使えなかったころ、俺の後ろをついてきて甘えたで。俺に遊んで欲しいと泣きついてきたこともあったっけ。

「教えてくれ。どうすればいい?」
「え……いやぁ、どうすればって言われてもぉ?」

 教えてくれ?

 何でも出来る故に教師に逆に教えているような彼が、俺に教えを乞うている。この状況にひそかな悦びが湧きあがってくる。

「リュリュ、頼む」
「えぇ~、そんなこと言われましてもぉ」

 絶対人に頼らない男に頼み込まれる優越感に浸りたいが、俺には経験がない。先程のキスがはじめてだ。
「そうだ、さくらんぼの茎を口の中で括れるようになると上手くなるらしいぞ」

「そうか。練習する」

 流説を知ったかぶりしただけだというのに、彼は真剣な表情で頷く。素直な様子に可愛げを感じ、気分がますます大きくなる。

「他は?」
「他? あぁ、相手の息継ぎに合わせるとか、君の場合は力が強すぎるから抱きしめるのも手加減するとか?」

 セスの場合は、キスと死が隣り合わせだ。

 力加減に気をつけることが最重要課題であると伝えると、これまた分かったと彼は頷く。

「ふふん、君も素直にな──」

 言いかけた時、顔を覆う影と柔らかい感触。
 長い白いまつ毛と褐色の肌。

「これでいいか?」

「……」

 セスの唇はすぐに離れた。

 またしても唇を奪われたことに、吃驚して自分の思考が完全にフリーズする。
 しかも、俺が何か反応する前に、二度目のキスが襲ってきた。
 強引なキスとは別物だ──さっきは事故みたいでキスとも思えない行為だったけれど、今はまともなキスだ。

 彼の唇の柔らかさがしっかり伝わるふれあい。

 驚きの最中にいて、瞬きもせず固まっていると、セスの唇が離れた。そして、セスは俺の名前を耳元でやけにセクシーに囁いた。

 いつもの低くて不機嫌な声音じゃなく、ただひたすら甘い──
 ゾクンと腰に変な感覚が込み上げる。

「キス、苦しくなかったか?」

「……え、……あ ……うん」

 うんって、俺は何を頷いているんだよ⁉

 相手はセスだぞ。無言・威圧・睨むの三点セット──…… 
「よかった。早く上手くなるから」

 安堵の溜息を吐くセスがあまりに嬉しそう。だからなのか、俺はちゃんと拒否が出来なかった。

「安心しろ。今日はもう帰るよ」

「え? もう?」

 セスは俺とキスをしたことに満足したのか、ベッドから立ち上がった。
 部屋ドアに向かうその背を見て、安堵する。

 とにかく早く帰ってもらいたいと、俺も彼を見送ろうと立ち上がった瞬間、彼がくるりと振り向いた。

「あ……なに?」
「記憶がないからと言ってリュリュに淋しい想いはさせない。至らない点があればさっきのように何でも言ってくれ。努力はおしまない、最善をつくそう」

 記憶がないことに対してセスは前向きだ。催眠術をかけた張本人としては良心が痛まなくていいが、頭が痛い。

 セスは俺の頭を撫でて、うきうきした様子で部屋を出て行った。
 静かになった部屋で、足の力が抜けてその場に座り込む。

「は、何故こうなった……。催眠術でセスが別人格になってしまった」



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