ベータですが、運命の番だと迫られています

モト

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12.ゆびきり

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 今日の仕事は、八乙女宅じゃない。


 実は、八乙女には予約を独占されると他の顧客に迷惑になることを伝えていた。八乙女は強引だが、一応要求は聞いてくれる。
 暫く経って予約ページを確認すると予約変更してくれていたのだ。




「三栗さん、その恰好暑くないですか?」

 声をかけてきたのは、今をときめくアイドルのSEIだ。空き状況を確認したSEIはすぐに予約してくれたのだ。

「そうですね、服のチョイス間違えましたね」
「うん、五月後半にタートルネックは暑過ぎだよ?」

 作業中は自分の服を貸そうかと声をかけてくれるSEIに首を横に振る。
 SEIが俺の様子を怪しんで、ふーんと薄目にする。

 ……そうだよ。
 暑いけど、タートルネックを着ているのは、服のチョイスミスじゃなくてワザとだよ。二日前に八乙女に首チューされたせいで、痕が付いているんだよ。

 チラリとSEIの首元を見る。

 SEIの首には頑丈な太めのサポーターが巻かれている。
 特注のお洒落なものだ。部屋で外しているのを見かけた際、特別に触らせてもらった。フワフワとしたサポーターの中には針金が入っている。


「三栗さん、僕の首ばかり見ているけど何? 首のサポーター?」

「あ、失礼しました。SEIさんはどこをみてもお洒落だなぁと思いまして」
「あげようか?」
「え」

 一瞬、八乙女対策として欲しいな、と思っていたら、SEIを見るとニマァと笑った。
 
「ふふん。タートルネックといい、サポーターをジッと見てくる様子といい、気になる所がいっぱいなんだけど。やっぱり三栗さんってアルファに狙われているでしょ? 家庭代行の予約を埋めていたのもそいつが原因。──違う?」

「……」


 名推理だ。推理が冴え切っている。
 顧客情報を預かる身なので外部に情報は漏らすことは出来ない。それはSEIも分かっているので、それ以上詳しくは聞かなかった。
 ただ、否定のない沈黙はそれが正しいと言っているようなものなので「ふぅん」と彼はニマニマしていた。


 帰り間際、SEIは本当に首サポーターを俺にくれた。ついでに内側にサインをお願いする。


「これあげた後になんだけど、一つ頼みがあるんだ」
「はい、なんでしょう?」
「フェスに一緒に出てくれない?」
「?」

 SEIは七月上旬に野外フェスに出場することが決定している。
 それの付き添いをして欲しいらしい。


 仕事は空いているけど、芸能系は知識がなく役に立てそうにない。力も運動神経も並なので警護にも向かない。
 それを言えば、マネージャーの横で突っ立っているだけでいいそうだ。


 今回は四年に一度の大型フェス。SEIがどうしても出たい気持ちは分からなくもない。

 発情期があるオメガは万全の対策の上、参加が認められる。
 事務所で警備員を増員しているそうだが、アルファが相当数出入りする環境の為、フェロモンが強いSEIは心配して当然だ。


「もし警備員が僕のフェロモンで動けなくなっても、きっと三栗さんは動けるだろうから。いてくれるだけで安心するんだ」


 失敗したくないというSEIの言葉に頷いた。

「……そうですね。そういうことならお受けしましょう」

「やったぁ!! プレッシャーな上に心細くて……、引き受けてくれて本当に嬉しい!」


 SEIは目に涙を溜め込んで(多分相当不安だったんだろうな)、俺に抱き着いて喜んだ。

 7月7日。七夕。
 フェスの時刻は15時。
 リハーサルも含めたら前日から付き添うことになる。 

「三栗さん、約束だよ! 絶対お願いね!」
「はい」

 SEIが小指を立てた。俺もその細くて長い指に小指をそっと巻きつけた。

「指切りげんまん 嘘ついたら はりせんぼん」
「……」


 指きりの歌だなんて、久しぶりだ。

 指をふりふり。身体を揺らして振る動作は嘘をついちゃぁいけない。
 これは守らなくちゃいけない約束事だ。
 俺は、いつだったか、誰かとこんな風に約束をした。いつだったか……田舎の星空の……。

「ゆびきったぁ!」
「っ!」
「へへ、んもぅ、三栗さんのおかげで僕元気もりもり~! あ、僕、今日の20時に音楽番組出るから見てね♪ それじゃ、僕も仕事行ってきまーす」


 余程嬉しかったのか、SEIが俺の頬にちゅっと可愛くキスをした。

「鍵はあとでマネージャーが回収にくるからぁ!」


 アイドルっぽくウィンクしながら部屋から出て行った。
 アイドルってすげぇなと思いながら、頬を撫でた。

 雨予報が多い七夕は、SEIの為に晴れて欲しい。



 ◇ ◇

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