19 / 61
獣人族の国 3
しおりを挟む
リリカをかばい怪我をしたタムルは、足を引きずりながら荷台の中で震える体を寄せ合う娘たちを見つけ抱きしめた。
「ココ、メナ、大丈夫だ。みんな助かるから・・・」
最後の裁きは、この世界の言葉を引用すると、大地の唸りだった。
暴走するリリカの怒りは収まらない、ゴ、ゴゴ、ゴゴゴと大地が怒り狂うような地鳴りが辺りに響き始めた。
数秒間、ゆっくりと地面が左右に揺れた後、直ぐに大きな揺れへと変わった。
大地に立つ者を全て跪かせる揺れが数分続くと、丘に向かって無数の地割れが発生した。逃げ惑う兵士達は、大きく口を開けた大地から深淵へと引きずり込まれていく。
こうなるともはや戦争どころではない、命が惜しければ、助かりたかったら早くこの場か逃げなければならない。
極限状態に耐え切れなくなった将校たちは、さすがに音を上げ逃げ出した。
それを見た兵士達は、慌てふためきながら将校の後を追いかけて行った。
全てが終わった、それを知らせるかのように、リリカを包む光も消えた。
宙に浮いていた彼女は、意識を失い地面に崩れ落ちた。
駆け寄った春馬は彼女を抱きかかえ、「しっかりしろ、リリカ、リリカ・・・」
想像をはるかに超える魔法の力は、甚大な被害を帝国軍にもたらした。敵軍は、現実に起こった脅威を信じられない面持ちで撤退して行く。
城門の上で全てを見ていたエメリンは、タガー将軍と兵士達に命じた。
「将軍は、直ぐにあの子達を保護して、私の部屋に連れてきて。それ以外の者は、城外で負傷している市民の救護を急いで」
命じられたタガー将軍は、城壁の階段を駆け下りて城門から真っすぐ、リリカと春馬の元へ向かった。
「さあ、早く、こちらへ」
声の方に向かって、気が立っていた春馬は手にしていた剣を向けた。切っ先が、タガーの喉元で止まる。
「うっ・・・、あなた達に危害を与えるつもりはありません」、タガーは両手を上に上げ、敵意の無い事を示した。
「今は、信じてください。だから、私の後に付いて来てください」
意識を失うリリカを抱き抱え、春馬はタガーの後を追いかけた。
信じるも何も無かった。今はただ、リリカを早く安全な場所に連れて行く事が先決だった。
城門を抜けると、街の中心にそびえる岩山が見える。青々と茂る木々、頂上が平らに削り取られ、その上にはまるで要塞のような城が建っている。
城へ真っすぐ伸びる道沿いには、素朴な木製の建物が並ぶ。
山に近づくにつれて、狭い坂道が続いた。
城の入り口は、巨大な岩石をくり貫き作られていた。落とし格子式の門で、守られている。入り口の左右には、炎のたてがみがのライオンの彫刻が、城に入る者を睨みつけていた。
城の奥へは、岩石をくり貫いたトンネル状の通路を通る。中は広く左右の壁には火が灯され、所々に大きな扉がぼんやりと見えた。全ての扉は閉まっていたが、中は馬小屋から物資の貯蔵庫など軍用の部屋だ。
獣人族の国マラガ王国は、城の外と中で防御力に特化した造りだった。小国故に知恵を絞り、攻められ難い国づくりを追求したのだろう。
軍司の執務室へ案内されると、タガーは急を要する仕事があると言い残し去った。咳ばらいをした春馬が大きな扉を開けると、部屋の奥にある机の上で足を組んで座る女性と目が合った。
探る様に部屋の中を見ると、背の低いテーブル、それを挟むようにソファが置かれていた。一番奥には窓があり、その前には大きな机、壁には本棚。
机から脚を下ろしたエメリンは、春馬のそばに歩み寄った。
「初めまして。私は、軍司をしているエメリンよ」
「ああ、俺は、一条春馬です。意識を失っているが、この子はリリカだ」
「ふーん、まだ子供っぽい女の子だったのね。うふ、可愛い」
「此処に連れて来たのは、何か目的があるんですか」
「それは、ほら、意識を失った女の子を放っておけないでしょ」
「本当にそれだけですか?」
「ふふふ、そんなに警戒しないで。あなたたちは、この国を帝国軍から守ってくれたでしょ。貢献者を招き入れるのは、ダメかしら」
「はあー、そうですね。結果的には、この国を守ったことになるのか」
「詳しい話は、彼女を私の寝室で休ませてからにしましょうか」
妖艶な軍司は、隣の部屋へ春馬を案内した。
寝室には大きなベッドがあり、そこでリリカを休ませる。
直ぐに給仕が四名入って来ると、リリカの汚れた服を着替えさせ身体をきれいにするからと話し、春馬は寝室から追い出された。
寝室のドアを閉めた春馬は、エメリンに話しかけた。
「大丈夫なんですか?」
「えっ、大丈夫とは、何が?」、春馬の質問の意図がエメリンには伝わらなかった。
質問するには、言葉が足りない。男性にありがちなパターンだ。
「すみません、あなたなら、リリカの今の状態が分かるかと思って」
「うん、それなら安心して。彼女は魔力を使いすぎて眠っているだけだから」
「そうか、良かった」、安堵した春馬は胸をなでおろした。
「ただし、覚悟してね。2、3日は目を覚まさないわよ」
数日間目を覚まさないと言われると、春馬は動揺した。
「昏睡状態、・・・そんな訳ないよな」
「いえ、それに近いかも知れないわね。魔法士は、力を使いすぎると意識をなくして動けなくなるから。下手したら命を落とす危険もあるけど」
二人は向かい合ってソファに腰を下ろした。
「リリカを休ませてもらい、感謝しています」
エメリンは、軽く頭を下げた春馬に微笑みかけた。年上の彼女は、年齢に関係無く素直な男性が好きなのだ。黒髪の青年に興味が沸いてくる。
「あなた、この世界の人間じゃないわよね」
「えっ、バレてるの。仕方ないな、そうですよ」
「あなたが、魔法陣の中から現れるのを見ていたの。それに、光る剣を何もない所から出して使っていたわよね」
「あれは、俺専用の武器です」
「そっか、じゃあ、小さな魔法士さんがあなたを召喚したのかしら? 人を召喚する魔法なんて初めて見たけど・・・」
春馬は、驚いた。この世界の魔法士は、みんなパートナーが居ると思っていたからだ。エメリンの口ぶりから、この世界に召喚されている異世界人は、どうやら自分だけしか居ないみたいだ。
「ココ、メナ、大丈夫だ。みんな助かるから・・・」
最後の裁きは、この世界の言葉を引用すると、大地の唸りだった。
暴走するリリカの怒りは収まらない、ゴ、ゴゴ、ゴゴゴと大地が怒り狂うような地鳴りが辺りに響き始めた。
数秒間、ゆっくりと地面が左右に揺れた後、直ぐに大きな揺れへと変わった。
大地に立つ者を全て跪かせる揺れが数分続くと、丘に向かって無数の地割れが発生した。逃げ惑う兵士達は、大きく口を開けた大地から深淵へと引きずり込まれていく。
こうなるともはや戦争どころではない、命が惜しければ、助かりたかったら早くこの場か逃げなければならない。
極限状態に耐え切れなくなった将校たちは、さすがに音を上げ逃げ出した。
それを見た兵士達は、慌てふためきながら将校の後を追いかけて行った。
全てが終わった、それを知らせるかのように、リリカを包む光も消えた。
宙に浮いていた彼女は、意識を失い地面に崩れ落ちた。
駆け寄った春馬は彼女を抱きかかえ、「しっかりしろ、リリカ、リリカ・・・」
想像をはるかに超える魔法の力は、甚大な被害を帝国軍にもたらした。敵軍は、現実に起こった脅威を信じられない面持ちで撤退して行く。
城門の上で全てを見ていたエメリンは、タガー将軍と兵士達に命じた。
「将軍は、直ぐにあの子達を保護して、私の部屋に連れてきて。それ以外の者は、城外で負傷している市民の救護を急いで」
命じられたタガー将軍は、城壁の階段を駆け下りて城門から真っすぐ、リリカと春馬の元へ向かった。
「さあ、早く、こちらへ」
声の方に向かって、気が立っていた春馬は手にしていた剣を向けた。切っ先が、タガーの喉元で止まる。
「うっ・・・、あなた達に危害を与えるつもりはありません」、タガーは両手を上に上げ、敵意の無い事を示した。
「今は、信じてください。だから、私の後に付いて来てください」
意識を失うリリカを抱き抱え、春馬はタガーの後を追いかけた。
信じるも何も無かった。今はただ、リリカを早く安全な場所に連れて行く事が先決だった。
城門を抜けると、街の中心にそびえる岩山が見える。青々と茂る木々、頂上が平らに削り取られ、その上にはまるで要塞のような城が建っている。
城へ真っすぐ伸びる道沿いには、素朴な木製の建物が並ぶ。
山に近づくにつれて、狭い坂道が続いた。
城の入り口は、巨大な岩石をくり貫き作られていた。落とし格子式の門で、守られている。入り口の左右には、炎のたてがみがのライオンの彫刻が、城に入る者を睨みつけていた。
城の奥へは、岩石をくり貫いたトンネル状の通路を通る。中は広く左右の壁には火が灯され、所々に大きな扉がぼんやりと見えた。全ての扉は閉まっていたが、中は馬小屋から物資の貯蔵庫など軍用の部屋だ。
獣人族の国マラガ王国は、城の外と中で防御力に特化した造りだった。小国故に知恵を絞り、攻められ難い国づくりを追求したのだろう。
軍司の執務室へ案内されると、タガーは急を要する仕事があると言い残し去った。咳ばらいをした春馬が大きな扉を開けると、部屋の奥にある机の上で足を組んで座る女性と目が合った。
探る様に部屋の中を見ると、背の低いテーブル、それを挟むようにソファが置かれていた。一番奥には窓があり、その前には大きな机、壁には本棚。
机から脚を下ろしたエメリンは、春馬のそばに歩み寄った。
「初めまして。私は、軍司をしているエメリンよ」
「ああ、俺は、一条春馬です。意識を失っているが、この子はリリカだ」
「ふーん、まだ子供っぽい女の子だったのね。うふ、可愛い」
「此処に連れて来たのは、何か目的があるんですか」
「それは、ほら、意識を失った女の子を放っておけないでしょ」
「本当にそれだけですか?」
「ふふふ、そんなに警戒しないで。あなたたちは、この国を帝国軍から守ってくれたでしょ。貢献者を招き入れるのは、ダメかしら」
「はあー、そうですね。結果的には、この国を守ったことになるのか」
「詳しい話は、彼女を私の寝室で休ませてからにしましょうか」
妖艶な軍司は、隣の部屋へ春馬を案内した。
寝室には大きなベッドがあり、そこでリリカを休ませる。
直ぐに給仕が四名入って来ると、リリカの汚れた服を着替えさせ身体をきれいにするからと話し、春馬は寝室から追い出された。
寝室のドアを閉めた春馬は、エメリンに話しかけた。
「大丈夫なんですか?」
「えっ、大丈夫とは、何が?」、春馬の質問の意図がエメリンには伝わらなかった。
質問するには、言葉が足りない。男性にありがちなパターンだ。
「すみません、あなたなら、リリカの今の状態が分かるかと思って」
「うん、それなら安心して。彼女は魔力を使いすぎて眠っているだけだから」
「そうか、良かった」、安堵した春馬は胸をなでおろした。
「ただし、覚悟してね。2、3日は目を覚まさないわよ」
数日間目を覚まさないと言われると、春馬は動揺した。
「昏睡状態、・・・そんな訳ないよな」
「いえ、それに近いかも知れないわね。魔法士は、力を使いすぎると意識をなくして動けなくなるから。下手したら命を落とす危険もあるけど」
二人は向かい合ってソファに腰を下ろした。
「リリカを休ませてもらい、感謝しています」
エメリンは、軽く頭を下げた春馬に微笑みかけた。年上の彼女は、年齢に関係無く素直な男性が好きなのだ。黒髪の青年に興味が沸いてくる。
「あなた、この世界の人間じゃないわよね」
「えっ、バレてるの。仕方ないな、そうですよ」
「あなたが、魔法陣の中から現れるのを見ていたの。それに、光る剣を何もない所から出して使っていたわよね」
「あれは、俺専用の武器です」
「そっか、じゃあ、小さな魔法士さんがあなたを召喚したのかしら? 人を召喚する魔法なんて初めて見たけど・・・」
春馬は、驚いた。この世界の魔法士は、みんなパートナーが居ると思っていたからだ。エメリンの口ぶりから、この世界に召喚されている異世界人は、どうやら自分だけしか居ないみたいだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる