58 / 61
クーデター計画 9
しおりを挟む
光の剣を出した春馬は、ウィンストン長官の元へ歩いて近づく。
クーデターの首謀者は手綱を引こうとしたが、凍りついた手足は微動だにしない。目前にまで迫る剣を持つ青年から逃げたいのに、逃げ出せなかった。
こいつらは、何者だ?
桁違いの魔法を使う少女と光を持つ青年を前に、ここで終わるわけにはいかない。大統領を始末しなければと、自分の身を案ずる事しか考えていなかった。
「来るな! 私に近づくな。誰でもいいから銃を放て、ケイン中佐、早く何とかしろ」
馬上から長官が喚き散らしていると、リリカが静かな口調でゆっくりと詠唱を唱えていた。
「我の物となりし火よ、地獄よりもたらされし業火をもって我に答えよ!」
もの凄い勢いで地面から吹き上がる炎に、ガトリング銃が包まれた。炎の勢いは衰えず、見る見るうちに銃身が溶けて垂れ下がった。
全てが終わったと認めたく無いのか、ウィンストン長官は口を開けたまま目を見開いて睨みつけた。春馬を見下ろしす長官は、最後の足掻きを見せた。
「やあ、長官。諦めて、全てを話しませんか?」
「嫌だ、何を言っている。お前が、大統領を暗殺しようとした犯人ではないか」
「はあー、良く回る口だな。副大統領とあなたが、首謀者ですよね」
「違う、この国を守るためにやっているのだ」
「仕方ないな、正直になってもらうしかありませんね」
手にする剣を振りかざした春馬が長官に止めを刺すと、大統領は思った。
「駄目だ、春馬くん。殺してはいけない」
馬上から引きずり下ろされたウィンストン長官は、無様な姿で地面に座り込み命乞いをしていた。そんな長官を春馬は、何の躊躇も無く剣で突き刺した。胸元で、突き刺した剣を止める。
「ほら、心が痛いだろ。あなたの欲と偽りをそぎ落としやるよ。そうすれば、正直になれるだろう」
口から泡を出すウィンストン長官はガタガタと震えていたが、獣の様なうめき声を出した後は、体を硬直させ動かなくなった。
ゆっくりと春馬が剣を引き抜くと、長官は地面に倒れてしまった。最後に情けない姿を見せた長官に、軍人はもっと毅然とした態度を取ると思っていた春馬は、がっかりした。せめて部下の前だけでも、武人らしい振る舞いをして欲しかったのだ。
「嘘だろ、殺していないのか?」
春馬が肩で担いで連れて来た長官の胸元を不思議そうに大統領が触る。遠目でも剣が長官の胸を貫いていたのは確かだった。それなのに、出血や傷跡どころか服すら破れていない。
「殺していませんよ。大事な証人でしょう」
「確かに証人だが、そう簡単に全貌は話さないと思う」
「剣で彼の胸を貫きました、大統領」
「ああ、確かに見た。君が剣で彼の胸を刺す所を」
「正確には、胸では無く彼の心を切ったんですよ。彼の欲望と偽りを切り落とした。今の彼には正直さと善意の気持ちしかありません。だから、大統領の質問には、正直に全て答えるはずなのでご安心ください」
「本当なのか・・・、嘘みたいな話だな」
ウィンストン長官は目を覚まし、正気を取り戻した。
春馬の話す通りクーデターを起こした首謀者が、そんな簡単に心を入れ替えるのか。
しかも、悪しき心を剣で切ったなど、大統領は半信半疑だった。
「うん・・・、おお、大統領、ご無事でよかった。しかし、私はとんでもない過ちを犯してしまいました」、長官の言動と様子がおかしい。
「ウィンストン長官、全てを話してくれませんか?」
「全てお話ししますよ、大統領。私は、副大統領と共謀しあなたの暗殺を企てました。権力と金に目がくらんだのです。どうか、お許しください」
「やはり副大統領も首謀者だったか」
両手を腰に当てた大統領は、空を見上げる。
共にアテナイを良くしていこうと誓った仲間の裏切りは、心を鋭い刃に突かれるぐらいに痛い。どこで彼等は、間違ってしまったのだろうと悔やんでいた。
「ウィンストン長官、議会で副大統領の件も、全て証言してくれますか」
「もちろんです。嘘偽りなく、全てお話しします」
国防省長官の証言があれば、副大統領を含めクーデターに関わった者は全て拘束できるだろう。
しかし、国の中枢を担う人材の起こした事件は、そう簡単に解決しないものだ。一度狂った歯車は、中々元には戻らない。どうせ後から多くの問題が出て来るのは、目に見えている。だからこそ大統領としての手腕が、これから試される。そう考えるクリフォード大統領は、大鉈を振るう気持ちで改革を進めようと心の中で誓った。
凍えるような寒さから解放された兵士達は、長官の自供により事の重大さに動揺していた。上官の命令とは言え、自分達の選んだ大統領に銃を向け、危うく自国を貶める手助けをしようとしていたのだ。
整列する兵士達に大統領は、最高司令官として彼等の前に立った。
「我が、アテナイの兵士達よ。君たちの忠誠心には、改めて感服した。ウィンストン長官の企みに利用されただけだと、私は君たちを信じる。今より各中隊長の命令に従い、通常任務に戻りたまえ」
兵士達は、足を鳴らし大統領へと敬礼すると、隊列を組んで行進を始めた。
「畜生! このままでは、終われない」と、長官の飼い犬と評されるケイン中佐が泣き出しそうな顔で大統領の正面に飛び出してきた。
震える手で懐から出した拳銃を構える。
ケイン中佐と大統領の間に割り込んだリリカは、両手を広げて立ちはだかった。
相変わらず無茶な行動を取るリリカを、春馬が助けようとしたが。
「リリカ! くそ、間に合わない」
銃声を聞いたリリカは、目を閉じていた。何も考えずに飛び出してしまった、銃弾が当たる・・・。そう思ったのに何の痛みも感じない、そっと目を開けると、石畳の壁で守られていた。
助かったと感じたリリカは、全身から力が抜ける。
「ちょっと、春馬! ちゃんとリリカを守ってもらわないと困るのよね」
ヴェルガを引き連れて戻ったエメリンは、土魔法でリリカとケイン中佐の間に壁を出していた。間一髪の所を彼女に助けられた。
クーデターの首謀者は手綱を引こうとしたが、凍りついた手足は微動だにしない。目前にまで迫る剣を持つ青年から逃げたいのに、逃げ出せなかった。
こいつらは、何者だ?
桁違いの魔法を使う少女と光を持つ青年を前に、ここで終わるわけにはいかない。大統領を始末しなければと、自分の身を案ずる事しか考えていなかった。
「来るな! 私に近づくな。誰でもいいから銃を放て、ケイン中佐、早く何とかしろ」
馬上から長官が喚き散らしていると、リリカが静かな口調でゆっくりと詠唱を唱えていた。
「我の物となりし火よ、地獄よりもたらされし業火をもって我に答えよ!」
もの凄い勢いで地面から吹き上がる炎に、ガトリング銃が包まれた。炎の勢いは衰えず、見る見るうちに銃身が溶けて垂れ下がった。
全てが終わったと認めたく無いのか、ウィンストン長官は口を開けたまま目を見開いて睨みつけた。春馬を見下ろしす長官は、最後の足掻きを見せた。
「やあ、長官。諦めて、全てを話しませんか?」
「嫌だ、何を言っている。お前が、大統領を暗殺しようとした犯人ではないか」
「はあー、良く回る口だな。副大統領とあなたが、首謀者ですよね」
「違う、この国を守るためにやっているのだ」
「仕方ないな、正直になってもらうしかありませんね」
手にする剣を振りかざした春馬が長官に止めを刺すと、大統領は思った。
「駄目だ、春馬くん。殺してはいけない」
馬上から引きずり下ろされたウィンストン長官は、無様な姿で地面に座り込み命乞いをしていた。そんな長官を春馬は、何の躊躇も無く剣で突き刺した。胸元で、突き刺した剣を止める。
「ほら、心が痛いだろ。あなたの欲と偽りをそぎ落としやるよ。そうすれば、正直になれるだろう」
口から泡を出すウィンストン長官はガタガタと震えていたが、獣の様なうめき声を出した後は、体を硬直させ動かなくなった。
ゆっくりと春馬が剣を引き抜くと、長官は地面に倒れてしまった。最後に情けない姿を見せた長官に、軍人はもっと毅然とした態度を取ると思っていた春馬は、がっかりした。せめて部下の前だけでも、武人らしい振る舞いをして欲しかったのだ。
「嘘だろ、殺していないのか?」
春馬が肩で担いで連れて来た長官の胸元を不思議そうに大統領が触る。遠目でも剣が長官の胸を貫いていたのは確かだった。それなのに、出血や傷跡どころか服すら破れていない。
「殺していませんよ。大事な証人でしょう」
「確かに証人だが、そう簡単に全貌は話さないと思う」
「剣で彼の胸を貫きました、大統領」
「ああ、確かに見た。君が剣で彼の胸を刺す所を」
「正確には、胸では無く彼の心を切ったんですよ。彼の欲望と偽りを切り落とした。今の彼には正直さと善意の気持ちしかありません。だから、大統領の質問には、正直に全て答えるはずなのでご安心ください」
「本当なのか・・・、嘘みたいな話だな」
ウィンストン長官は目を覚まし、正気を取り戻した。
春馬の話す通りクーデターを起こした首謀者が、そんな簡単に心を入れ替えるのか。
しかも、悪しき心を剣で切ったなど、大統領は半信半疑だった。
「うん・・・、おお、大統領、ご無事でよかった。しかし、私はとんでもない過ちを犯してしまいました」、長官の言動と様子がおかしい。
「ウィンストン長官、全てを話してくれませんか?」
「全てお話ししますよ、大統領。私は、副大統領と共謀しあなたの暗殺を企てました。権力と金に目がくらんだのです。どうか、お許しください」
「やはり副大統領も首謀者だったか」
両手を腰に当てた大統領は、空を見上げる。
共にアテナイを良くしていこうと誓った仲間の裏切りは、心を鋭い刃に突かれるぐらいに痛い。どこで彼等は、間違ってしまったのだろうと悔やんでいた。
「ウィンストン長官、議会で副大統領の件も、全て証言してくれますか」
「もちろんです。嘘偽りなく、全てお話しします」
国防省長官の証言があれば、副大統領を含めクーデターに関わった者は全て拘束できるだろう。
しかし、国の中枢を担う人材の起こした事件は、そう簡単に解決しないものだ。一度狂った歯車は、中々元には戻らない。どうせ後から多くの問題が出て来るのは、目に見えている。だからこそ大統領としての手腕が、これから試される。そう考えるクリフォード大統領は、大鉈を振るう気持ちで改革を進めようと心の中で誓った。
凍えるような寒さから解放された兵士達は、長官の自供により事の重大さに動揺していた。上官の命令とは言え、自分達の選んだ大統領に銃を向け、危うく自国を貶める手助けをしようとしていたのだ。
整列する兵士達に大統領は、最高司令官として彼等の前に立った。
「我が、アテナイの兵士達よ。君たちの忠誠心には、改めて感服した。ウィンストン長官の企みに利用されただけだと、私は君たちを信じる。今より各中隊長の命令に従い、通常任務に戻りたまえ」
兵士達は、足を鳴らし大統領へと敬礼すると、隊列を組んで行進を始めた。
「畜生! このままでは、終われない」と、長官の飼い犬と評されるケイン中佐が泣き出しそうな顔で大統領の正面に飛び出してきた。
震える手で懐から出した拳銃を構える。
ケイン中佐と大統領の間に割り込んだリリカは、両手を広げて立ちはだかった。
相変わらず無茶な行動を取るリリカを、春馬が助けようとしたが。
「リリカ! くそ、間に合わない」
銃声を聞いたリリカは、目を閉じていた。何も考えずに飛び出してしまった、銃弾が当たる・・・。そう思ったのに何の痛みも感じない、そっと目を開けると、石畳の壁で守られていた。
助かったと感じたリリカは、全身から力が抜ける。
「ちょっと、春馬! ちゃんとリリカを守ってもらわないと困るのよね」
ヴェルガを引き連れて戻ったエメリンは、土魔法でリリカとケイン中佐の間に壁を出していた。間一髪の所を彼女に助けられた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる