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救済
しおりを挟むその言葉を聞き、オデットの心臓は凍った。
まるでその瞬間、時が止まってしまったかのような錯覚を覚えた。
なぜ。どうして。
言葉にしたいことはたくさんあった。
だが、なにをどう言えばいいのか分からない。
「あいつは一体どうしてそんなことをしたんだろうな」
「ジョナが……自ら……」
言葉がうまく紡げない。
「これは少し歯車が掛け違えば、避けられたはずの運命だった。ジョナは本来、死ぬ必要のない人間だったんだ。オデット、君が彼の運命を左右する鍵だった」
その言葉を聞き、心が潰されそうになる。
オデットの瞳からぽろりと涙が溢れ、それを手首で拭った。
「……私の、せいで……彼は……」
息を詰め、オデットは脱力したかのように地面に平伏す。
罪悪感と悲壮感、そして絶望がオデットの心を侵食していく。
唇は蒼褪め、体は小刻みに震えていた。
「それは違う」
シーボルトはそんな負の連鎖を断ち切るかのように、はっきりと断言した。
オデットは青い顔をゆっくりとあげる。
「お前のせいだけというわけではない。運命は複雑に絡み合うものだ。だれか一人のせい、そんなことはありえない」
「でも……!」
私がいなければ、ジョナは死ななかった。
オデットはそう主張しようと女神を見据える。
だが、先に口を開いたのは女神の方だった。
「だからお前に選択を課す。ジョナを救うか、それとも諦めるか」
「救うことが……出来るのですか?」
オデットは絶望の入り混じった顔でシーボルトを見上げる。
女神は鷹揚に頷く。
「救えるかどうかはお前次第ではあるが」
「……っ」
オデットは息を呑む。
先程までの絶望に支配された顔とはうってかわって決意が表れていた。
答えは既に決まったも同然だった。
そうしなければ、オデットは後悔するに決まっている。
救えるはずの人間を救わずして、なにが神の元に使える信者か。
オデットは殺されなければ修道院へ行き、修道女となる予定だったのだ。
それは、罪を犯したことに対する償いだった。
周囲には悟られないようにして、オデットのは父親を殺めた。
犯人として名乗りをあげることをしなかったのは、弟に迷惑がかかるからだった。
家名に汚名をつけることは未来ある弟を潰してしまうことと同じ。
弟を自分の罪の犠牲にすることと、秤にかけたのだ。
そしてオデットは己の罪は己の中だけにしまい続けることにした。
オデットは重い体を起こし、立ち上がる。
「私は……ジョナを必ず救います。これで私の罪が無くなることは絶対にありませんが、救えるものを救わずしてなにが人でしょう」
「あい分かった。ただ一つ。救うという言葉の意味を履き違えてはならない。本当に救うというのならば、お前はジョナの心まで救わなければならない。それをよく覚えておくんだ」
心を救う。
そう易々といくわけがない。
だが──。
「はい」
オデットは小さくも、決意に満ちた声色で返事をした。
シーボルトが小さく何かを唱えると、オデットの周囲に光が満ちる。
それに包み込まれ、彼女の体は跡形もなく消え去った。
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