大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚

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第2章 東エルフィニア

02-014 シンガザリの敗退

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 東エルフィニアはモモの実が2回実ったいまも、いまだ建国の途上にあった。

 彩華とエルマのパン屋は盛況で、耕介は移動販売車を作らされてしまった。ベース車は解体される予定だった軽トラバンで、再生後はよく走る働き者になった。

 JB74ジムニーシエラを回収した場所、海岸から25キロ内陸の車輌が集まっている地点は、宝の山だった。
 許容範囲内で修理できそうな車輌は少ないが、使えそうな部品が多かった。また、積載している物資も少しだが残されていた。
 耕介と健吾は、この貴重な2億年前の物資を一時期生活した北岸のキャンプに集積した。
 他の地域にあった車輌も、移動可能な状態であれば、このキャンプに移動した。
 耕介と健吾は過去1年間で、正体不明の4人乗り乗用型バギーとボルボC303バンを修理していた。
 バギーはモンテス少佐の日常の足となり、路外走行性能が驚異的に高いC303バンは心美とレスティの小口輸送で使われている。
 武器も少しだが入手できた。
 イギリスは広範に旧式兵器を放出したようで、リー・エンフィールド小銃1挺、ブレン軽機関銃1挺、ボーイズ対戦車ライフル1挺を入手している。
 M151ケネディジープが積んでいたブローニングM1919機関銃も修理の見込みがあった。
 そのケネディジープも手間はかかるが修理可能。
 彩華が望むAR15アサルトライフルは、残骸さえ見かけていない。

 問題もある。
 シルカと亜子が働かない。
 この2人はやたらと強いのだが、労働力としては最悪。天は二物を与えなかった。
 ひまわり油輸送隊の護衛など、物騒な仕事を担当している。

 耕介は大豆の栽培にも成功し、健吾が味噌、醤油、豆腐を作っていた。当初は自家消費分だけだったが、隣近所と村の飯屋と宿屋が醤油を欲しがるので、かなりの量を醸造するようになっていた。
 豆腐を作っていることから、豆乳もあり、十分な栄養が残る雪花菜(おから)はクッキーに加工されて携行食になった。
 これも最初は自家消費分だけだったが、村民から求められれば無償で分けていた。青臭い豆乳は不評だったが、雪花菜クッキーは旅の非常食から子供のおやつまで結構な人気になる。
 亜子たちはヒトではあるがエルフに受け入れられていて、村の民としての権利が与えられ、同時に義務を負っていた。
 当然、納税義務もあった。

 クルナ村は、トレウェリ3カ村と隣接するアクセニ3カ村の中心的な村になりつつあった。
 各村は村を牛耳る実力者の存在に苦労しながらも連携を強めていった。
 各村は健吾の案を積極的に受け入れた。
 健吾は、各村が責任をもって徴税することで何かと問題の多い徴税官の派遣を断ることに成功する。
 また、各村共通制度の徴税を行い、行政を行うための独自の財源を確保。
 さらに、各村が人員を出し合う常備軍を新設して、集団的な防衛力を配備した。常備軍は司令部機能と若干の戦力を保持しているが、軍事的侵攻があれば直ちに兵を集めることができた。

 この常備軍の存在は、各村の実力者たちと中央政府が派遣する役人にとっては、実に厄介なものだった。
 数年前、まだ徴税官がクルナ村に訪れていた頃、当然のこととして徴税官は賄賂を要求。
 徴税官は捕らえられ、村の裁判所で賄賂の強要を理由に極刑の判決が出される。
 この状況に慌てた徴税官の一族は、多額の賠償金を村に支払い、徴税官の身を取り戻している。
 これ以降、役得どころか言動如何で殺されかねないクルナ村と周辺5カ村へやって来る役人はいなくなった。
 役人の派遣は、まともな用件のみとなった。

 各村の実力者に対しては、常備軍が役に立った。常備兵力は1個中隊程度なのだが、村の実力者の用心棒の頭数と比べたら、圧倒的に多い。
 以前なら彼らの用心棒が怖くて泣き寝入りするところだが、各村の保安官が軍の出動を要請すれば、すぐにやって来る。
 ある村の実力者邸宅敷地内で戦闘となり、実力者の母屋、倉庫など一切が焼かれ、用心棒の大半が捕縛されるか殺された。
 実力者の老いた両親、末娘、跡取り息子も生命を落とした。
 この容赦ない取り締まりによって、実力者たちの横暴は急速に萎えていった。

 エルフの社会には、罪から免れる制度が2つある。損害の賠償に慰謝料を加えて支払う金銭的免責。もう1つは、決闘だ。
 この決闘では、被害者側は代理を立てることができる。
 女性の性的暴行事件では、被害者はシルカを代理人に指名することが多かった。
 代理人には報酬が支払われるのだが、シルカは報酬の多少には頓着しない。
 そう多くはないことなのだが、ある村の実力者の次男坊と三男坊の事件、村を通過する際に悪行を働いた中央政府の役人の事件、帰省途中で農家に押し入って悪さを行った親衛師団将校の事件で、シルカは首をはねている。
 シルカの強さは、正規軍でも知られていた。

 東エルフィニアの政治と経済の中心は、東の海岸部に集中しており、クルナ村周辺は辺境にあたる。
 シンガザリの侵攻を受けても、援軍が来るまで数日かかる。最低10日、場合によっては1カ月間。その間は、自力で抵抗しなければならない。

 クルナ村の飯屋で、知古の行商が飯屋の女将に「モイナク村にシンガザリの旗があって、怖くて立ち寄らなかったの」と話した。

 シルカがターフの下で、亜子とフィオラを相手にお茶を飲んでいる。
 フィオラが「モイナク村がシンガザリに占領されたみたい」と告げる。
 シルカは黙っている。
 亜子は「放ってはおけないね。偵察でもする?」と提案する。
 口うるさい耕介と健吾は、北岸で作業している。告げ口名人の心美とレスティは、仕事で他村に行っている。
 彩華とエルマは、おそらくこの情報を得ている。だが、パン屋は盛況で、他村の争い事にかまっている余裕がない。

 彩華とエルマのパン屋で働くと、5グラム相当銀貨1枚が日当として支払われる。
 貴重な日払い現金収入で、クルナ村の女の子にとっては憧れの職場だ。いまでは、10人が働く村最大の職場。

 モイナク村に侵攻したシンガザリ軍の兵力は、わかっていなかった。また、モイナク村の支配者たるスーサミルと彼の家族・郎党がどうなったのかもわかっていない。
 村民が村から逃げ出した形跡がないのだ。

 クルナ村と隣村は、一気に警戒レベルを引き上げる。常備軍は兵の召集を始める。
 まさか、コムギの収穫前に侵攻してくるとは誰もが考えてもいなかった。
 それは、シルカも同じだった。
 当然だが、常備軍が動き出すまでには、もう少しの時間が必要だ。コムギを収穫しなければならないからだ。

 シルカが立ち上がる。
「見物に行ってくる」
 亜子が気怠そうに尋ねる。
「シンガザリを見に行くのか?」
「そうだ」
「危険だし、メンドクサイ」
「だが、兵力によっては我らの脅威になる」
「村の軍に任せるべきだ」
「アコの意見は当然だが、私には視界に入る限りの畑を守る義務がある。
 ただ飯食いの義務だ」
「シルカは軍を辞めたのだろう?」
「そうだが、降りかかる火の粉は払わねばならぬ」
「まだ、火の粉は見えない」
「火の粉が見えてからでは遅い。
 火元を断たねば……」
 フィオラも立ち上がる。
「私も付き合う」
 亜子が少し考える。
「彩華が健吾にボーイズにスコープを付けさせた。
 あれを試したい」
 シルカが亜子を見る。
「あれは、威力があるのか?」
「とんでもなく、……ね。
 ボーイズ対戦車ライフルの13.9×99ミリ弾は、装甲を撃ち抜くために作られた弾薬だから。銃は重くて16キロもある。クルマじゃなければ運べないけど、威力はすごいよ。
 健吾がミスしていなければ、1キロの距離があっても頭を吹き飛ばせるよ」
 シルカが少し考える。
「ムンゴに積めるようにしてあるんだろ?
 それと、ムンゴには機関銃も積める。
 ブレンとブローニング……」
「シルカも剣より銃のほうがよくなった?」
「剣も銃も、所詮は殺しの道具でしかない。何も生み出さないし、利益をもたらすこともない。
 どちらを使っても結果は同じだ。
 私が勝ち、敵が負ける。敵が勝つことはない」
 フィオラが呆れる。
「凄い自信だね」
「そう思わなければ、生きていけない」
「シルカ、アコ、私も付き合う」
 3人はゆっくりとムンゴに向かった。

「耕介、このジープは直るのか?
 直してどうする?
 希少車だとはわかるが、いいクルマじゃないだろ?」
 M151ケネディジープの修理を付き合わさせられている健吾は、わずかに抗議の声音を含めていた。
「こいつはA2がベースだ。
 A2から後輪のサスがセミトレーリングアームに変わったから、横転する問題は解決されている。前輪はダブルウィッシュボーンだし、走りはいいはず」
「耕介……。
 だけど、荷物は積めないし、フレームはそれほど頑丈じゃないモノコック構造だろ。直したって、何に使うんだ?」
「下駄……」
「ったく!
 少しは労力の使い道を考えろよ」
 健吾はそうは言ったが、トレーラーを牽引すれば軽トラの代わりになるし、トレーラーを作る材料はある。
 健吾は話題を変える。
「見つけたあれ、どうする?」
「迷うな。
 それこそ、労力に見合うか、ってね。
 使い道はあるんか?」
「どうかな?
 リッパーを牽かせたら、役に立つかも」
「健吾、FV106サムソンは農機じゃないよ。どう考えても」
「FV102ストライカーと同じエンジンを積んでいるんだろ?
 ディーゼルだよな?
 ならば、ひまわり油の輸送で使ったら?
 牽引力があるだろうし、車体の後方の駐鋤の機構は残っている」
「キャタピラは燃費が悪い。
 それに、視界も悪い。
 使うなら、北岸調査だ。装甲兵員輸送車としては、かなり小型だし、悪路走破性もいい。全地形対応とはいかないけど、渡渉能力、登坂能力、超壕能力は車輪のクルマとは次元が異なるからね」
「耕介は、探せばまだ物資が手に入ると?」
「あぁ、何でもいい。
 使えるものがほしい。プラグ1本でもストックしたいんだ。物資がなくなることが怖い」
「俺も同じだよ、耕介。
 うっ、やっと回った。ボルト1本外すのに1時間かかっているぞ」
「健吾は要領が悪いんだ。
 だから、彩華に利用される」
「要領が悪いんじゃない。
 ボルトが悪いんだ。
 だけど、彩華に手玉にとられていることは認める。たぶん、それが俺の人生ってヤツだ」
「何か、寂しくないか?」
「いいや」
「おまえ、エルフの美人さんを選び放題なんだぞ」
「美人系は好みじゃない」
「かわいい系が好み?
 彩華は違うだろ」
「そうでもない」
「こっちのボルトも取れたよ。
 で、どうする?」
「回収、する?」
「そうしようよ」
「あぁ、いいよ。
 ビッグフットなら牽引できるだろうし。
 何であっても、ないより、あったほうがいいからね」
 コムギの刈り入れ前の農閑期を利用して、2億年後にやって来て始めて見つけた軍用装軌車輌の回収に向かった。
 目的の装甲兵員輸送車は、西に150キロ、北に50キロの内陸にある。
 いつもよりは長い旅になる。

 彩華は店員が1人、出勤しないことが気になっていた。農家の真面目な子で、欠勤したことがない。毎朝、7時に必ず出勤している。
 だから、エルマに確認に家に行かせた。

「アヤカ、たいへん!
 リューラはいつも通りに家を出たって!」「途中でヘンなことはなかった?」
「なかったよ。
 帰りも道の周辺を注意しながら走ったよ」
 エルマは店前に止めた、彼女が使っているハンターカブを振り返る。
「エルマ、店をお願い。
 私が探しに行く。
 悪い予感がする」

 リューラは恐怖で発狂しそうだった。
 彼女の身長の倍はある長い木杭の先端には、首が刺されている。それが、何十本も並ぶ。
 立派な軍装の口髭男が兵をなじる。
「こんな痩せた女しかいなかったのか?」
 兵はたまたま街道を歩いていたリューラを掠った。指揮官の「女を掠ってこい」という命令には抗えないが、同時に危険を冒したくはなかった。
 この命令を受けた下士官は、何度かクルナ村付近に侵攻した経験があり、クルナ村の警戒線に引っかかって、こっぴどく叩かれた経験がある。
 クルナ村と近隣の民兵は、にわか仕込みの農民兵と侮ることなどできないことも知っている。
 だから、侵入は短時間で、退却は速やかに行った。命令は、どうでもよかった。

 シンガザリ軍指揮官の言葉を聞いたリューラは、逆に落ち着き始めていた。シルカの言葉を思い出す。
「死者は怖くない。
 怖いのは生者だ」
 シルカはそう言った。
 その通りだ。木杭の首は怖くない。
 リューラが声を発する。その声音は、自分でも驚くほど落ち着いていた。それに、シルカからの教えを守ってもいた。
「無意味な抵抗はするな。
 いざというときのために体力を温存するんだ」
 リューラが指揮官をにらみつける。
「掠う相手を間違えたな。
 私はコルナ村のパン屋に勤めている」
 指揮官だけでなく、多くの兵が爆笑する。
「パン屋の小娘か!」
 男たちの声が治まりかけると、リューラが口を開く。
「パン屋の主はアヤカ。
 アヤカはすでに私を探しているはず。
 もし私を殺せば、アヤカはおまえを殺す。
 もし私を犯せば、アヤカはおまえの尻の穴に木杭を打ち込むだろう」
「小娘、そのアヤカとは何者だ?
 魔法使いか?」
「魔法使いさえ恐れるだろう。
 1500歩の距離からおまえを殺せる」
 指揮官は声を出して笑ったが、眼前の下士官はゴクリと唾を飲んだ。指揮官は、その下士官の様子を見逃さなかった。
「どうした?」
「指揮官閣下。
 お耳汚しをお許しください。
 ……。
 小娘の話は本当です。
 信じられない距離から鉛の粒を飛ばしてくる魔法使いがいます。
 この付近を攻めた兵の多くが、その魔法使いに殺されています」

 彩華は迷わずモイナク村に向かっていた。
 モイナク村とクルナ村の境界にある森の中からシンガザリ軍の様子を観察する。
 リューラは簡単に見つけた。
 大柄なシンガザリ兵に羽交い締めにされ、見事な軍装の男と何かを話している。エルフの年齢はわかりにくいのだが、男は初老なように見える。

 彩華は、狙撃できそうな少し高い場所を見つけて、そこまでの500メートルをシンガザリ兵に見つからずに向かうルートを探した。
 600メートルの距離では、命中は難しいが、混乱させることができれば、すばしっこいリューラなら逃げ切る可能性がある。

 指揮官はリューラに関心を持った。
「小娘、何を知っている?」
「おっさん、何を知りたいの?」
 身体を拘束されてはいるが、まったく臆さない少女の反応に、指揮官は激しく腹が立ったが、同時に畏怖を感じた。
 その感情から手荒い行動に出た。
 彼女の顔を拳で殴った。

 移動しながら、観察するポジションにあれば、彩華はリューラの様子を見ていた。
 そして、偶然殴られる瞬間をスコープの中に認めた。
 彩華の歩みが速まる。
「拳でよかった。
 剣先でなくてよかった」
 彩華の呟きをズゥーンという低い音の銃声がかき消す。
「ボーイズ?」

 シルカがボーイズ対戦車ライフルのボルトを引いて、排莢し、次弾を装填する。
 そして発射。

 シルカは、シンガザリ兵を狙いはしなかったが、兵が動き回るので、5発撃つと2発があたった。

 リューラを殴った指揮官は、シルカが撃った流れ弾が水瓶にあたり、その破片が目にあたって地面に蹲った。
 リューラは羽交い締めが緩んだ隙を突いて、自由になる。
 そして、身軽さを発揮して、脱出を試みる。

 彩華はようやく、射点に取り付いていた。
 素早く援護射撃を開始する。
 目的は明確。リューラが逃げる手助けをすればいい。
 油壺に命中させると、飛び散った油が焚き火にまで飛び、大きな火炎球を作った。
 リューラを狙う弓兵を集中的に狙い、発射を徹底的に阻止する。

 シルカは5発を撃ちきると、新しい弾倉を受け取って、さらに5発を発射。
 シンガザリ軍は大混乱になる。

 彩華は潮時を感じて、彼女が乗ってきたハンターカブに向かっていく。
 途中でリューラと合流し、2人乗りで脱出する。

 この日、リューラは自宅に戻ったが、彩華は店に帰って仕事を続けた。

 シンガザリ軍に襲われたモイナク村は、結果として全滅してしまった。村の農地を買い占めたスーサミルは、首を斬り落とされてしまっていた。
 彼の家族と郎党の多くも同じ運命をたどった。雇われていた農作業員は、多くが逃げ切った。
 結果、周辺各村はモイナク村をどうするか、話し合わなければならなくなった。

 モイナク村を襲ったのは、盗賊ではないのか、とする説は消えなかった。行為があまりに粗雑で残虐だったからだ。
 しかし、短時間だがリューラが捕虜になっており、彼女が捕虜にされた理由が、どうも不埒な悪行を働くためだったのではないかと、リューラ自身が証言していることから、シンガザリ軍を装った盗賊の類いではないかとの疑いさえ浮かんでいた。

 シンガザリ軍をよく知るシルカは、盗賊説などまったく信じていない。
「連中は、正規兵であっても盗賊と大差ない。略奪、暴行、誘拐、拷問、虐殺、何でもやる。
 兵が粗暴なのではない。
 軍自体がそういう組織なのだ。他国の軍も上品ではないが、他国軍と同じと考えることは、明確に間違いだ」
 その夜の夕食時の会話で、そう言い切った。
 フィオラが「兵は上官の命令に従うものなんでしょ。命令は絶対なんでしょ」とシルカに反駁する。
 シルカの答えは明白だった。
「指揮官自体が略奪、暴行、誘拐、拷問、虐殺は軍事行動だと考えている。
 兵は上官の命令で、略奪、暴行、誘拐、拷問、虐殺を喜んで行う」
 耕介がとんでもない発言をする。
「モイナク村から去ったシンガザリ軍を追ってみないか?」
 健吾が怒る。
「追ってどうするんだ!」
 耕介がバツが悪そうに答える。
「シンガザリが何を考えているのか、確認する」
 健吾の声はやや怒声。
「どうやって!」
 耕介は自分の発言に後悔していた。
「……」
 答えない耕介に変わって、シルカがかわいい系か美人系かよくわからないクールな美形の筋肉を動かす。
「おもしろい。
 できるだけ高位の将校を捕らえよう。
 ストレスだっけ、それの解消で鞭打ちでもすれば何かしゃべるかもしれない」
 亜子が「賛成」と発言し、他は沈黙する。反対する意見はない。健吾自身、シンガザリの考えは知っておいたほうがいいと考えている。
 だから、自分から発言した。
「ムンゴじゃ危険だ。
 天井に装甲がないからね。密閉戦闘室がいる。
 で、耕介と見つけたんだ。全装軌の装甲兵員輸送車を。
 耕介、動くんだろ?」
「あぁ、動く。実際、動いたじゃないか」
「あれを使おう」
「整備は?」
「動くんだろう?」
「強引だな。
 健吾にしては、珍しい」
「俺、シンガザリが嫌いだ」
 シルカが笑う。
「私もだ」
 フィオラも同意。
「私も」
 その場の全員が頷く。

 イギリス製のFV106サムソン装甲兵員輸送車は、乗員2+5人乗りの小型の装甲回収車で、車体は軽合金でできている。
 この車体は、駐鋤とウィンチが撤去されているが、機構自体は残されていた。
 軽合金装甲は、旧ソ連製12.7ミリ弾程度ならば近距離でも防弾効果がある。
 重量は8トン強と軽い。NATO側の標準的装甲兵員輸送車のM113は12.3トンあるので、3分の2ほどの重量しかない。
 つまり、2億年後の世界では、比較的有効な車輌なのだ。イギリス軍から一部が退役しており、民間に払い下げられていた。
 履帯装甲でありながら、ディーゼルを搭載し、最高時速が72キロに達するので、2億年後への旅には適した車輌だった。
 イギリスは軍の機材を積極的に利用していたらしく、発見する国別機材では圧倒的に多い。
 何らかの地域性偏重があるのだろう。
 耕介と健吾は、そう話し合っていた。

 シルカ、亜子、耕介、健吾によるシンガザリ軍追跡作戦が実行される。
 準備は1日だけ。
 車長用キューポラには、M1919機関銃が装備された。

 モイナク村を退去したシンガザリ軍は、すぐに発見できた。
 シルカたち4人は、シンガザリ勢力圏下に深く侵入している。
 隠密行動はしていない。街道を走り、シンガザリ軍の弓の斉射を受け、バリケードを突破し、野営地を縦断して見せた。
 深夜、至近から大音量でヘビーメタルを聴かせてあげる。拡声器は、シンガザリの悪口を聞かせるために取り付けたのだが、それよりもメタルサウンドのほうが威力がある。
 これを毎夜、断続的に移動しながら何度も行う。

 シルカは最近、クルマの運転に目覚めてしまった。モンテス少佐が専有している4輪バギーを運転して以来、高い機動力に心酔するようになった。
 サムソンの操縦も難なく覚えてしまう。

 その夜は、シンガザリ将兵のためのヘビーメタルコンサートは行わなかった。
 久々の安息の夜だ。
 日の出の3時間前。歩哨も眠気に負ける時刻。
「よし行こう!」
 車長を務める亜子が命じ、シルカがアクセルを踏む。
 野営地の防護柵を破ることは、薄紙を裂くより簡単だった。
「左、11時の方向!
 あの立派なテントが指揮官の寝床だ」
 亜子の指示でシルカが方向を変える。
 テントを半分潰し、後部乗降ドアから飛び出した耕介と健吾がテント内に入る。
 全裸の女性が2人。
 パンツを履きかけている男が1人。
 耕介が女性に「危害は加えない。その場で蹲れ」と指示する。
 女性は悲鳴を上げるが、ベッド脇に蹲る。
 パンツ履きかけ男は、健吾が銃床で顔を一撃。パンツ履きかけのままで、仰向けに倒れる。
 腹にも一撃を加え、俯せにした後、結束バンドで縛り上げる。
 そのまま、サムソンの車内に放り込む。

 クルナ村は大騒ぎになっていた。
 シルカたちがシンガザリの将校を捕らえたからではない。
 サムソンにリッパーを牽かせると、耕作放棄地がごく短時間で立派な畑に変化するからだ。
 耕介たちが持つ農業トラクターと比べて、圧倒的なパワーがある。クルナ村のエルフたちは驚喜している。

 捕らえたシンガザリ軍将校は、残念だが指揮官ではなかった。指揮官は片目を負傷して、本国に帰還していた。
 彼は指揮官代理で、任務は部隊を本国に連れ帰ることだった。将校としては、それほどの階級ではない。
 当然、軍の根幹に触れる情報は持っていない。
 同時に、本国から直接派遣されていたので、シンガザリ国内の雰囲気や状況をよく知っていた。
 そこそこ意志の強い軍人で、どのような脅しにも屈しない。軍のことは昼食のメニューさえも話さず、口を固く閉じていた。
 水攻め、火攻め、土攻めなど、あらゆる
拷問の言葉を聞かせても、効果はなかった。

 だが、リズが「注射を打ってみようよ。ビタミン剤とかでも話すかもよ」と提案すると、亜子が「健康に実害はないからやってみる?」と賛意とも同意の取り付けとも感じられる発言をする。
 そこで、シンガザリ将校を押さえ付け、二の腕をゴムバンドで縛り、血管を浮き出させて、リズが小さな注射器を用意すると、将校の顔色が変わる。
「何をするんだ!
 その小さな筒は何だ!
 その針で何をするんだ!」
 リズが脅す。
「これは、おまえの血管に薬液を注入する道具だ。
 おまえの身体にこの薬液が入ると、おまえの肉棒は永遠に機能しなくなる。それと、睾丸も死ぬ。おまえの身体は女のように変化していき、胸も膨らんでくる。
 声も女のようになる。
 もし、この液が血管から漏れても、おまえは死なない。だが、筋肉が萎え、やがては手足を動かせなくなる。
 だから、動くんじゃない」
「女になるのはイヤだ!」
「女にはならない。
 男の機能を失い、女のような見かけになるだけだ。
 さぞや、不細工な女になるだろう」
「やめてくれ!
 ヤダ!
 ヤダ!
 ヤダァ~!」

 すごい暴れようで、最後は「何でも話すから、許して! お願いだから」と親に叱られた幼女のように泣いた。

 指揮官代理は聞きたいことは全部話した。
 シンガザリ軍は、アクセニの3分の2、メルディの西を勢力圏下に置いているが、占領地では凄まじい抵抗に遭っていて、兵力を分散しなければならないこともあり、かなりの苦戦を強いられている。
 本国の民衆には領土拡張の成果を見せなければならず、トレウェリに侵攻しているが撃退されるだけで、戦力を消耗しているだけ。
 本国の民衆、貴族、商人、政治家、軍人など、すべての階級と職業において、厭戦気分が蔓延しているらしい。
 王家、王族の状況は知らないそうだ。

 なお、シルカも注射が怖い。
 リズが「ビタミン剤、もったいないからシルカ打つ?」と尋ねると、シルカはブルッと身体を震わせて、恐怖に顔を歪めた。
「ヤダ」

 ナナリコが設計した建築途中の母屋は、冬の前に完成する予定だ。鉄筋を入れたレンガ積みの家で、この地方では初めての建築様式だ。
 2億年後にやって来たヒトたちは、少しずつ土地に根付いていった。
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この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

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