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第4章 幸運の地
04-037 生存圏防衛
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フェミ川以北と以南は、動物相はもちろん、植物相も異なる。以南は2億年前の生物相に似せて改造された不完全で不安定な環境。
この、油断すれば崩れてしまう一帯をどうにかして守っていかなければならない。
同時に、エルフ社会における、耕介たちの立場、ウクルルの権益も守らなければならない。
大自然を対手にする防衛とヒト科動物の社会の欲得を同時に行っていかなければならない。
耕介が2億年後に移住して、20年が経っていた。17歳だった耕介は、37歳だ。ウクルルでは、名実ともに実力者となっていた。
息子と娘は、とんでもなく生意気。
耕介の理解者であったフィオラの父親は、老いが進んで他界した。決断しにくい複雑な問題の相談者であったモンテス少佐も病で亡くなった。
ゴンハジも他界した。齢80近くまで元気で、寝込んでから数日という大往生だった。
それでも、耕介は孤独ではない。フリッツやマイケルなど、多くの仲間がいる。
亜子やシルカもそうだ。彩華もいるし、ゴンハジの子たちもいる。
新しい世代も育っている。
フェミ川南岸の住民は、北岸以北の生物相の侵入を防ぎ続けなければならない。鳥のいない世界なので、空から種子が運ばれる可能性は低い。だが、胞子や花粉は風に乗って運ばれる。胞子や花粉だけでなく、種子を大型昆虫が運ぶことも観察されている。
発芽したら抜いて捨てる。
これを繰り返す以外に、フェミ川以南を守る術はない。もちろん、魔獣の進出は絶対に防がなくてはならない。
フェミ川沿岸のエルフは、代々がこの任を背負ってきた。少数だが、ヒトも加わった。 この任務は、これからも真摯に続けられる。この点において、耕介は心配していない。
問題は、ホルテレンだった。ウクルルは、年金や傷痍軍人への保障で軍を懐柔した。感情的に敵対する政治家は、暴力の臭いで脅した。
どうにもできない相手は、強い政治性を帯びた商人たちだ。政治の中心となる以前のホルテレンは、商人が支配するエルフ最大の商都であった。
その繁栄は抜きん出ていた。
職業政治家が支配するようになっても、政治性の強い商人たちは資金力を背景に隠然たる権力を手放しはしなかった。
そして、兵力1000の私兵を養った。多額の金銭で飼われている傭兵で、精強な軍隊だ。
同時に残虐でもある。
耕介は、このヴィッセル戦闘団と呼ばれる私設軍隊を警戒していた。
館での全体会議は、重かった。村役に再就任していたマイケルが発言する。
「村長会と村役会は、ヴィッセル戦闘団がいつ動くのか、それを気にしている。
ウクルルの意見を対立させるような攪乱戦術をとられたら、打つ手がない……。
認知領域でのゲリラ戦術は厄介だ。
誰もがそれを心配している……」
シルカがその心配を否定する。
「傭兵たちの出自を調べたのだが、野盗・盗賊の類いではない。多くが正規軍に所属した経験があり、将校は商家の子弟が多い。
下士官・兵は農家の三男や四男だ。下士官・兵は高額の給金に釣られて傭兵となったが、将校たちは家業を支援するために正規軍の軍籍を捨てている。
ヴィッセル戦闘団は10年以上の歳月をかけて、商人たちが育て上げた軍だ。ホルテレン政権正規軍の流れを汲み、正規軍よりも正規軍らしい軍律・軍紀が定められている」
耕介はシルカがこんなに長く話しをする様子を初めて見た。普通は、一言か二言。
シーラが引き継ぐ。
「重要なことは、ヴィッセル戦闘団という私兵には実戦経験がないことだ。
正規軍はシンガザリとの小競り合いと、場合によっては大隊規模の衝突を何度も経験している。
だが、ホルテレン政権とは関係がないヴィッセル戦闘団が、シンガザリとの戦闘に投じられたことは過去に一度もない。
連中は、大商人たちの道具だ。装備の質は正規軍を上回る。だけど、戦場で役に立つかはわからない。
それと、指揮官を含む上位階級の将校たちは、軍を美化しているようだ。認知戦やゲリラ戦のような非正規戦術は採らないだろう」
耕介はシーラもよくしゃべることに驚く。
もし、戦争になれば、耕介の子も、シーラの子も戦場に向かう。そういう年齢になっているから、誰もが真剣なのだ。
亜子が「戦わずして勝つ。これしかないね」と断言して、耕介を見る。
耕介は「そんな都合のいい手があるか!」と心中で怒鳴っていたが、顔は苦笑いだ。戦えば犠牲者が出る。犠牲者を出さないなら、戦わない以外の選択肢がない。
耕介は、シルカとシーラに再度確認する。
「ヴィッセル戦闘団は、本当に認知戦やゲリラ戦を仕掛けないんだな?」
シルカとシーラが頷く。
「ならば、対抗手段がある。
軍備の飛躍的な強化だ。
それしか方法はねぇ。
平和を欲するなら、戦争に備えよ、だ」
耕介は、ホルテレン正規軍が建設機械を恐れていることをよく知っている。
正規軍に頼まれて、機械式ショベルで塹壕を掘ってあげた際は、あまりの作業能力に指揮官が押し黙ってしまったほどだ。
機械工場には、ここで働く全員が集まっている。ここでは、輸送用トラクター、建設機械、エンジン、揚水ポンプ、その他機械全般を製造している。
耕介がメガホンを持つ。
「ホルテレンの商人は、相変わらずウクルルを目の敵にしている。
連中の私兵が動き出す兆候がある。軽装騎兵が1000だ。
我々は戦争などしたくないし、戦争に使う剣や槍など作りたくはない。
戦争は何も生まないからね。
だが、狂信的に戦いを望む連中もいる。我々は、そんな集団から目を付けられてしまった。彼らは、勝利を確信している。
当然、情け容赦のない攻撃を仕掛けてくる。ならば、攻め入ってきた狂信者たちを殲滅するしかない。
攻め入ってきたら……。
攻め入らさなければいい。その方法は、圧倒的な兵器の差だ。
これから、長らく使っていない装甲車を修理する。あれならば、軽装騎兵を蹴散らせる」
この日から、FV103スパルタン、FV106サムソン、ストーマーの各装軌装甲車の修理が始まった。
この3輌は、農機としても、建機としても、輸送車としても、中途半端で使いにくかった。車輌が揃ってくると、当然のように使われなくなる。
耕介は、この3輌を北岸基地に運んで、モスボール状態にした。今回は、その封印を解いて本来の兵器として使おうとしていた。
ナナリコは、警察隊指揮官からの要請で、ウクルルの東側境界付近4カ所に砦を築いた。
指揮官の参謀は工期を最短3カ月と見積もっていたが、ナナリコたちは1カ月で終わらせた。これに驚喜した指揮官は、南側にも4カ所の築城を要請してきた。
警察隊は臨時の保安官補を募集し、ヴィッセル戦闘団の侵攻に備えた。
何度目かの館での会議。
耕介が発言する。
「俺たちは、保安官補には志願しない」
耕介の息子を中心に、一斉に非難の目を弁士に向ける。
耕介は、少し怯んでいた。
だが、考えは変わらない。
「ホルテレン市街から出たところで、監視を始める。
その後、ウクルルの境界まで、行動を共にする。決して眠らせず、決して休ませない」
若者たちの多くは納得がいかなかった。そんな生やさしい対応で、ホルテレンの暴力商人たちが引き下がるとは思えないからだ。
FV101系列の3車輌に乗員2、乗車歩兵4の編制で出発する。
耕介はクルナ村に残り、亜子、シルカ、シーラがお目付役兼各車の車長を務めることになった。
亜子は半信半疑だったが、シルカとシーラが予想した通り、ヴィッセル戦闘団は海岸沿いの街道を北上する。
堂々たる1000の軽装騎兵は、沿道の住民に無敵と感じさせた。
その後方からゆっくりとついていく、金属に囲まれた奇妙なクルマは禍々しい雰囲気を放っている。
挑発するように、堂々とウクルルの大旗を翻しているからだ。
ヴィッセル戦闘団は、意外な展開に困惑する。攻め入ろうとしている相手が、後方から堂々とついてくるからだ。
指揮官が副官に命じる。
「折を見て、始末しろ」
街道周辺が開けた海岸草原になると、副官は1個小隊に「あの荷車を蹴散らせ」と命じる。
小隊がギャロップで急接近すると、装軌装甲車は路外に出て、高速で機動する。ウマが追いつける速度ではなく、簡単に逃げられてしまった。
数時間後、行く手を装軌装甲車に遮られる。にらみ合ったまま日没となり、その場での野営となった。
だが、ヴィッセル戦闘団の隊員は一睡もできなかった。サーチライトで照らされたり、エンジン音が急接近したり、サイレンに驚かされたりと、一晩中弄ばれた。
ウクルルとの境界に達した5回目の朝、ヴィッセル戦闘団の将兵は、十分すぎるほど疲れていた。
ただ、戦意を失うことはなく、ウクルルの境界防衛戦に達する。
砦を守備する警察隊よりも、周辺の村々から集まった怒れる住民のほうがはるかに好戦的だった。
各自が所有する武器を持ち寄り、古い胸甲を着けて戦う気満々の農民もいる。その数、ざっと3000。
砦の守備隊長は、この想定外の増援を有効に使った。
戦わせる気はまったくなく、鬨の声を上げ、剣で盾を打ち、姿を見せつけた。
シーラが「驚いたねぇ」と呆れた声を出す。シルカも自主的にこれだけの兵が集まるとは、想像していなかった。
亜子は「これで、おバカちゃんたちは帰るでしょ」と今後の展開を楽観する。
指揮官が将兵に命じる。
「木っ端雑兵がどれだけいようが、我らの敵ではない!
蹴散らせ!」
ヴィッセル戦闘団が突撃体制の横列を作ると、農民たちはトラクターを総動員して迎え撃とうとする。
トラクターがマフラーから排気を噴き出し、威嚇する。
農民たちは騎兵の怖さを知っている。一方、戦うためだけに純粋培養されたヴィッセル戦闘団の隊員は、トラクターのパワーを知らない。
何台かのトラクターは、車体前部にバケットを取り付けている。
しばらくすると、建設現場からの応援も到着する。当然のように建機を伴っている。
亜子が心配する。
「このままだと、戦いが始まってしまう」
シルカも同意。
「戦えば誰かが死ぬ」
シーラが嘆く。
「死ぬ本人はそれで終わりだが、家族隣人など多くが悲しむ。
怨みが残る。怨みが、新たな怨みを生む。
戦いを避けるべきだ」
彼女たちは戦い慣れしている。腕が立ち、優れた戦術眼を持っている。若者たちは、彼女たちが「勇敢でない」とは批難できないが、この瞬間は「勇気がないのか?」と心の中で叫んでいた。
しかし、ある若者は仲間に小声で「シルカさんは臆病なのか?」とは言ったが、シーラや亜子まで同時に臆病になる確率はとてつもなく低い。
それがわからないほど、愚かではない。
だから、大声で感情を吐露できない。3人に対して反抗的態度なんて、恐ろしくてできない。
彼は、亜子の発した言葉が信じられなかった。
「あんなショボい装備の連中と戦ったら、虐殺になってしまう。
ブルドーザーに剣で立ち向かうなんて、ドン・キ・ホーテじゃあるまいし!」
シルカが無表情に尋ねる。
「その、ドンキとは何者だ?」
「ドンキは何でも売ってるお店で、ややこしいな。
騎士道物語という小説の読み過ぎで、自分が騎士だと錯覚したおじさんの話だよ」
この砦周辺に偶然集まったウクルルの義勇兵たちは、農機や建機の後方について、手持ちの武器で戦う覚悟を決める。
これは、車輌を盾にして前進するウクルル独特の戦い方だ。
「何だ?
あのへっぴり腰は」
若い将校がホイールローダのバケットに隠れながら、身をかがめてボウガンを構える農民たちを笑った。
シルカ、シーラ、亜子の各車は、ウクルルの義勇兵とヴィッセル戦闘団の間に入る。
シルカが叫ぶ。
「双方とも引け!」
シーラも大声を発する。
「意味のない争いで死ぬことはない!
双方引け!」
各車は高圧タンクにドラム缶1本分200リットルの水を積んでいる。ただの水で、水自体に殺傷力はない。
タンク内の水には高圧がかけられている。バルブを開放すれば、強烈な勢いで噴射される。
亜子は、バルブ開放のためのトリガーを握っている。
派手な軍服の男の隣りにいる若い将校が叫ぶ。
「踏み潰せ!
雑兵を恐れるな!」
亜子は、タンク内の圧力を計器で確かめる。トリガーを引く。高圧の水がノズルから噴射され、最高位の将校と思われる男の胸に直撃した。
亜子は「チッ!」と声を出す。
「顔を狙ったのに」
ヴィッセル戦闘団の指揮官は、水溜に尻をついて座っている。仕立てのいい軍服は、泥だらけ。
その姿は、泥遊びに興じすぎた幼い子供のようでもあった。
シルカが冷たい声を発する。
「水をかけられただけで、転げ回るとは、立派な指揮官閣下だな」
義勇兵たちを理由なく見下し、勝利を絶対的に信じていた実戦経験のない若い将兵たちは、水をかけられて落馬し、ずぶ濡れになって呆けたように尻餅をついた指揮官をどう考えたらいいのか理解できなかった。
指揮官の姿をすべての将兵が目撃しているわけではない。
参謀を兼ねる副官は、どうすべきか判断できなかった。
剣で斬られたら、槍で突かれたら、矢で射られたら、彼は我が身を盾にして指揮官を守っただろう。
しかし、彼は水をかけられて落馬した。そんな無様な男を助ける理由があるのか疑問に感じる。
ヴィッセル戦闘団は、軍事行動にロマンを求める愚かな集団でもあった。そんな感覚はシンガザリ軍との過酷な戦闘において、正規軍はとっくに失っていたし、農民や商工業者を中心とするウクルルの義勇兵たちには最初からなかった。
ヴィッセル戦闘団がロマンから現実に引き戻されるまでの短い時間に、歴戦の義勇兵たちは南側面に回り込み、一部は東に達して退路を断っていた。
副官が半包囲されたことを悟るには、それほどの時間は必要でなかった。
シルカが叫ぶ。
「村の衆、街の衆!
子供を殺めて何になる!
指揮官を捕らえれば、それでよい!」
シーラが指揮して、指揮官を捕縛する。
保安官が歩み出て、指揮官を受け取る。
「殺人目的で徒党を組み、村に侵入しようとした罪で逮捕する」
兵力1000の私設軍隊の指揮官は、殺人目的での侵入を理由に逮捕された。
保安官は、副官に「このまま立ち去れば、罪には問わない。だが、さらに何かをしようとするなら実力を持って阻止する」と告げる。 この間に、周辺の村からも続々と武器を手にした農民や商工業者が集まってくる。
すでに勝敗はついていた。ヴィッセル戦闘団の兵力では全滅が不可避の状況になっていた。
ここで名誉の戦死を選ばなければ、名誉を保てないと副官は考えた。
副官が「総員、抜剣!」と命じようとして、近くの将校の顔を見ると完全に怯えた表情になっていた。
同時に、彼自身が怯えていて声がうわずっていることに気付く。
怖かった。
死ぬことが怖かった。
死なずに帰ることが怖かった。
副官は気付くと、フェミ川南岸の街道をウマに乗って歩いていた。彼の前方にも将校と下士官・兵がおり、彼の後方にも将校と下士官・兵がいる。隊列は組んでおらず、敗残の兵のように打ちひしがれて歩いている。
ウマまで、うなだれている。
指揮官は震え上がっていた。
最初の裁判は刑事で、住民の殺害を目的にウクルルに侵入した罪が裁かれた。しかし、罪を追及する担当は、民の殺害を目的にウクルルに侵入したとする主張を証明できず罪を問えなかった。
ウクルルが用意した指揮官の弁護担当は、優秀だった。
だが、民事は違った。彼は武装した大軍を率いてウクルルに侵攻したことは事実だ。それに対応するため、8つの砦を築き、60キロにもなる塹壕線を敷いている。
これに関わる費用全額を指揮官に請求するとした。
この請求権は認められ、指揮官は20日以内に全額を支払うことが求められた。支払えない場合は、身柄を賠償の一部とするというとんでもない決定だった。
つまり、指揮官の身体は、彼のものではなくなった。
ヴィッセル戦闘団は沈黙。ヴィッセル戦闘団を作り上げたホルテレンの商人たちは、この出来事自体を無視する。
すべてをなかったことにした。
指揮官は見捨てられた。
その後もヴィッセル戦闘団は存続し続けるが、決して対外勢力と戦うことはなかった。戦闘訓練だけで、一切の任務に就くことはなかった。
逆に身内である商人を脅すようになり、用心棒代を名目に多額の寄付金を強要するようになる。組織的な暴力行為も頻発し、豪商たちにとっての災厄となっていった。
ホルテレンの豪商はウクルルを倒すために養った私設軍隊によって、ウクルルと対立し続ける余裕を失っていく。
ホルテレンの豪商・豪農は、ウクルルの封じ込めを諦めていない。
ただ、ホルテレンの有力政治家、政商、軍は、表だってのウクルルとの対立を望んでいない。
15年前までは、ホルテレンとその周辺地域は圧倒的な経済力があった。
だが、同じメルディでも、ラムシュノンのように貧しい寒村が一大経済圏を作り上げる例が増えているのだ。
ウクルルとラムシュノンの台頭に呼応するように、メルディとトレウェリに跨がるカルカラルも大きな勢力になっている。
この経済圏は、東海岸に隣接して帯状に広がる。
ホルテレンがウクルルを封じ込めようとしている間に、複数の地域が経済連合体を作り上げてしまった。
ホルテレン政権は東エルフィニアの政府であって、ホルテレンのためだけの政治はできない。
村長会と村役会の合同会議がクルナ村で開かれた。
15年前、選挙制度が改定された。各村は東エルフィニア議会議員を選出できるが、村の住民の総数が1000以下だと議員を送り出すことができなかった。
農村の多くは1000を超える住民なんていないから、実質的に選挙権はない。実質、ホルテレン独裁がまかり通っていた。
これが、改定され複数の村が構成する経済圏にも住民5000に議員1の権利が与えられた。
これによって、ウクルルは4人の議員をホルテレンに送り出し、国政に影響を与えることができるようになった。
それは、ラムシュノンやカルカラルも同じで、地方に地盤を置く議員が一気に増えた。
同時に、国政におけるホルテレンの相対的な発言力は減じていた。
村長会と村役会の合同会議の議題は、住民の増加によって4議席から5議席に増えることが決定的になったことから、増加する1議席の議員候補を誰にするかだった。
会議の前から候補は決まっていた。
チュウスト村の村長が「どうやって、コウを説得するか、それが問題だ」と発言し、クルナ村の村長が「義父ががいれば、問答無用で決めるのだろうが……」とフィオラの父親がいないことを嘆く。
フィオラは、噂になっている彼女の夫が国の議会議員になることが恐ろしかった。
夫が議会議員になれば、妻はホルテレンに同行しなければならない。そして、いままで彼女が接触したことがない社会階層と付き合いをしなければならない。
それが、怖かった。
耕介も嫌がっていた。クルナ村とウクルルの役に立つなら何でもするが、北岸基地で遊べなくなることは耐えがたかった。
しかし、選挙で選ばれたなら、受け入れるつもりだ。選挙制度は厄介で、他薦による候補者名簿登録があり、本人の意思にかかわらず立候補させられる。
だが、当選した場合、当選者が拒絶すれば議員にはならない。次点者が当選することになる。
だが、健康や家庭の事情などがない限り、当選を拒否することはない。それは住民として、許されない。健康や家庭の事情があるならば、他薦された時点で候補者登録辞退を申し入れている。
正当な理由なく候補者登録の辞退はできない。
だから、耕介は候補者登録を辞退できない。フィオラが嫌がっていたとしても。
選挙の結果は、候補者とその妻が望まない結果となった。
耕介は、圧倒的得票で当選した。
東エルフィニアの議員は、当然だがエルフが占めている。ヒトは耕介だけ。
エルフの議員は白い服を着るが、耕介は迷彩服を選んだ。政治家然とすることを嫌ったからだ。
フィオラは首都での農家や商家との交流は良としたが、政治家夫人としての役割は拒んだ。耕介は「それでいい」と了承する。
ホルテレンでは、耕介がヒトであることよりも、耕介が議員であることを示す白い服を着ないことよりも、フィオラの行動のほうが噂になった。
最初は、議員夫人の会のような夫人たちの交流にフィオラが参加しないことが噂になり、それが批難に変わり、やがて呆れになっていく。
「田舎議員の妻だから、恥ずかしいのよ」
これは、好意的評価だ。
大方は「所詮はヒトに嫁ぐようなエルフだ。道理をわきまえていないのだ」と。
耕介は物事を荒立てないように注意しながら、用心深く議員活動を始める。
ウクルル選出の議員はもちろん、ラムシュノンやカルカラル選出の議員たちとも連携するよう心がけている。
議員1人の力では、できないことが多すぎるからだ。
フィオラは精力的に動いていた。彼女の活動は政治とは無関係で、完全に社会的な問題に対処しようとするものだった。
対シンガザリ戦による難民が多くいたので、彼らへの支援に没頭した。
農地を失った農民ほど、悲惨なものはないことをフィオラはよく知っていた。
同様の活動は、ウクルルでも行っている。そして、ウクルルにおけるこの活動は、村長、村役、ウクルル選出議員の妻たちが主導している。
もちろん、彼女たちだけではないが、こういった活動はときには権威が必要になることがある。
そのときこそ、彼女たちの出番だ。喜んで夫の威を借る妻となる。
ホルテレンの政治家は、多くが政治を家業にしていた。つまり、プロ政治家だ。
一方、ウクルルなどの新興地域の政治家は、方法はどうあれ各地域から選出された地域利益の代弁者であって、職業としての政治家ではない。
仕事が別にあり、地域のために一時的に政治家になったに過ぎない。多くは「早く辞めたい」と思っている。
ホルテレンのプロ政治家の社会は、極めて特異で、付き合い方が難しい。政治の矢面に立つ議員たちにも腹芸は必要だが、それでも本音で立ち向かえる。
しかし、妻たちは違う。新興地域選出の議員の妻たちは、プロ政治家の妻たちの陰口、無視、嫌がらせに耐えなければならない。
そして、過去、多くの新興地域選出議員配偶者は、この苦行に耐えてきた。
夫のために、地域のために。
耕介は、秘書官兼護衛としてシルカを選んだ。全幅の信頼を置けるからだ。それに、彼女は地方の似非王ではあるが宮廷に使えたことがある。
ある程度のことは、心得がある。
シルカについてきた亜子は、フィオラのサポートをしている。
シンガザリ戦争における難民支援だ。カルカラルは戦地から遠く、ラムシュノンも戦争の直接的な被害を受けていない。
だから、シンガザリ戦争に深く関与していて、有力な新興地域であるウクルルが積極的な戦争難民支援を行っていた。
これを、プロ政治家の妻たちがよく思っていない。
ウクルル選出の議員が4人であった頃、彼女たちは難民支援の炊き出しや仕事の斡旋を密かに行っていた。
プロ政治家の妻たちからの妨害を防ぐためだ。
5人目の配偶者であるフィオラは、この慣習と警戒をやめようと提案する。
全員が賛成。フィオラの意見に賛成したのではない。シルカや亜子がいるからだ。
2人がいれば、暴力的嫌がらせにも対抗できる。
ホルテレンの西郊外において、ウクルル選出議員の配偶者と仲間が、大がかりな炊き出しを行う計画を立てた。
この計画に対し、新参議員の妻であるフィオラは、プロ政治家の妻たちに呼び出される。
フィオラはシルカを伴って、その呼び出しに応じた。
プロ政治家の妻たちはいきり立っていた。リーダー格の議員妻がフィオラに詰め寄る。
「何を勝手なことをするつもりなの!」
フィオラは動じない。彼女は普通のエルフの女性だが、戦場を生き抜いた百戦錬磨の戦士でもある。
「戦争によって、多くの農民が家と農地を失い、途方に暮れている。
そして、シンガザリの侵攻はいまだ収まらず、難民は増え続けている。
彼らを支援することは、戦争の被害を受けていない我らの努め。
義務だ」
議員妻は、扇でフィオラの顎を上げた。
「偽善者、売名をしたいのね。夫が議員でいられるように」
フィオラは、扇を奪い取り、地面に叩きつける。
「売名もできぬ愚か者に、あれこれ言われる筋合いはない」
プロ政治家の妻が、フィオラの頬を平手打ちする。それほど強い力ではない。
フィオラが動く。
プロ政治家の妻が空を舞い、床に腰を打ち付ける。
「痛い!」
フィオラは夫から習った柔道の技である払腰を披露した。左腕を完全に決めており、プロ政治家の妻が床から半身を起こしたまま動けない。
彼女の護衛が抜剣する。
だが、剣を鞘から抜いた直後、護衛の腕はシルカによって貫かれていた。
「首を落とされたくなければ、控えておれ」
シルカの氷のような声音が、場の空気を冷やす。
フィオラはプロ政治家の妻を立たせると、今度は大外刈りを試す。
きれいに決まる。またしても、プロ政治家の妻は腰を床に打ち付ける。
「ごめんなさい、はどうした?
次は、もっと荒技になるぞ」
プロ議員妻は、憎しみの眼でフィオラを見る。
フィオラは、容赦なく一本背負いを決めた。
プロ政治家の妻は、ボールのように転がっていく。
シルカが「股を開く以外に何もできないくせに、生意気を言うからだ」と他の議員妻たちを睥睨する。
恐ろしい雰囲気だった。
以後、難民支援活動への妨害はなくなった。
この、油断すれば崩れてしまう一帯をどうにかして守っていかなければならない。
同時に、エルフ社会における、耕介たちの立場、ウクルルの権益も守らなければならない。
大自然を対手にする防衛とヒト科動物の社会の欲得を同時に行っていかなければならない。
耕介が2億年後に移住して、20年が経っていた。17歳だった耕介は、37歳だ。ウクルルでは、名実ともに実力者となっていた。
息子と娘は、とんでもなく生意気。
耕介の理解者であったフィオラの父親は、老いが進んで他界した。決断しにくい複雑な問題の相談者であったモンテス少佐も病で亡くなった。
ゴンハジも他界した。齢80近くまで元気で、寝込んでから数日という大往生だった。
それでも、耕介は孤独ではない。フリッツやマイケルなど、多くの仲間がいる。
亜子やシルカもそうだ。彩華もいるし、ゴンハジの子たちもいる。
新しい世代も育っている。
フェミ川南岸の住民は、北岸以北の生物相の侵入を防ぎ続けなければならない。鳥のいない世界なので、空から種子が運ばれる可能性は低い。だが、胞子や花粉は風に乗って運ばれる。胞子や花粉だけでなく、種子を大型昆虫が運ぶことも観察されている。
発芽したら抜いて捨てる。
これを繰り返す以外に、フェミ川以南を守る術はない。もちろん、魔獣の進出は絶対に防がなくてはならない。
フェミ川沿岸のエルフは、代々がこの任を背負ってきた。少数だが、ヒトも加わった。 この任務は、これからも真摯に続けられる。この点において、耕介は心配していない。
問題は、ホルテレンだった。ウクルルは、年金や傷痍軍人への保障で軍を懐柔した。感情的に敵対する政治家は、暴力の臭いで脅した。
どうにもできない相手は、強い政治性を帯びた商人たちだ。政治の中心となる以前のホルテレンは、商人が支配するエルフ最大の商都であった。
その繁栄は抜きん出ていた。
職業政治家が支配するようになっても、政治性の強い商人たちは資金力を背景に隠然たる権力を手放しはしなかった。
そして、兵力1000の私兵を養った。多額の金銭で飼われている傭兵で、精強な軍隊だ。
同時に残虐でもある。
耕介は、このヴィッセル戦闘団と呼ばれる私設軍隊を警戒していた。
館での全体会議は、重かった。村役に再就任していたマイケルが発言する。
「村長会と村役会は、ヴィッセル戦闘団がいつ動くのか、それを気にしている。
ウクルルの意見を対立させるような攪乱戦術をとられたら、打つ手がない……。
認知領域でのゲリラ戦術は厄介だ。
誰もがそれを心配している……」
シルカがその心配を否定する。
「傭兵たちの出自を調べたのだが、野盗・盗賊の類いではない。多くが正規軍に所属した経験があり、将校は商家の子弟が多い。
下士官・兵は農家の三男や四男だ。下士官・兵は高額の給金に釣られて傭兵となったが、将校たちは家業を支援するために正規軍の軍籍を捨てている。
ヴィッセル戦闘団は10年以上の歳月をかけて、商人たちが育て上げた軍だ。ホルテレン政権正規軍の流れを汲み、正規軍よりも正規軍らしい軍律・軍紀が定められている」
耕介はシルカがこんなに長く話しをする様子を初めて見た。普通は、一言か二言。
シーラが引き継ぐ。
「重要なことは、ヴィッセル戦闘団という私兵には実戦経験がないことだ。
正規軍はシンガザリとの小競り合いと、場合によっては大隊規模の衝突を何度も経験している。
だが、ホルテレン政権とは関係がないヴィッセル戦闘団が、シンガザリとの戦闘に投じられたことは過去に一度もない。
連中は、大商人たちの道具だ。装備の質は正規軍を上回る。だけど、戦場で役に立つかはわからない。
それと、指揮官を含む上位階級の将校たちは、軍を美化しているようだ。認知戦やゲリラ戦のような非正規戦術は採らないだろう」
耕介はシーラもよくしゃべることに驚く。
もし、戦争になれば、耕介の子も、シーラの子も戦場に向かう。そういう年齢になっているから、誰もが真剣なのだ。
亜子が「戦わずして勝つ。これしかないね」と断言して、耕介を見る。
耕介は「そんな都合のいい手があるか!」と心中で怒鳴っていたが、顔は苦笑いだ。戦えば犠牲者が出る。犠牲者を出さないなら、戦わない以外の選択肢がない。
耕介は、シルカとシーラに再度確認する。
「ヴィッセル戦闘団は、本当に認知戦やゲリラ戦を仕掛けないんだな?」
シルカとシーラが頷く。
「ならば、対抗手段がある。
軍備の飛躍的な強化だ。
それしか方法はねぇ。
平和を欲するなら、戦争に備えよ、だ」
耕介は、ホルテレン正規軍が建設機械を恐れていることをよく知っている。
正規軍に頼まれて、機械式ショベルで塹壕を掘ってあげた際は、あまりの作業能力に指揮官が押し黙ってしまったほどだ。
機械工場には、ここで働く全員が集まっている。ここでは、輸送用トラクター、建設機械、エンジン、揚水ポンプ、その他機械全般を製造している。
耕介がメガホンを持つ。
「ホルテレンの商人は、相変わらずウクルルを目の敵にしている。
連中の私兵が動き出す兆候がある。軽装騎兵が1000だ。
我々は戦争などしたくないし、戦争に使う剣や槍など作りたくはない。
戦争は何も生まないからね。
だが、狂信的に戦いを望む連中もいる。我々は、そんな集団から目を付けられてしまった。彼らは、勝利を確信している。
当然、情け容赦のない攻撃を仕掛けてくる。ならば、攻め入ってきた狂信者たちを殲滅するしかない。
攻め入ってきたら……。
攻め入らさなければいい。その方法は、圧倒的な兵器の差だ。
これから、長らく使っていない装甲車を修理する。あれならば、軽装騎兵を蹴散らせる」
この日から、FV103スパルタン、FV106サムソン、ストーマーの各装軌装甲車の修理が始まった。
この3輌は、農機としても、建機としても、輸送車としても、中途半端で使いにくかった。車輌が揃ってくると、当然のように使われなくなる。
耕介は、この3輌を北岸基地に運んで、モスボール状態にした。今回は、その封印を解いて本来の兵器として使おうとしていた。
ナナリコは、警察隊指揮官からの要請で、ウクルルの東側境界付近4カ所に砦を築いた。
指揮官の参謀は工期を最短3カ月と見積もっていたが、ナナリコたちは1カ月で終わらせた。これに驚喜した指揮官は、南側にも4カ所の築城を要請してきた。
警察隊は臨時の保安官補を募集し、ヴィッセル戦闘団の侵攻に備えた。
何度目かの館での会議。
耕介が発言する。
「俺たちは、保安官補には志願しない」
耕介の息子を中心に、一斉に非難の目を弁士に向ける。
耕介は、少し怯んでいた。
だが、考えは変わらない。
「ホルテレン市街から出たところで、監視を始める。
その後、ウクルルの境界まで、行動を共にする。決して眠らせず、決して休ませない」
若者たちの多くは納得がいかなかった。そんな生やさしい対応で、ホルテレンの暴力商人たちが引き下がるとは思えないからだ。
FV101系列の3車輌に乗員2、乗車歩兵4の編制で出発する。
耕介はクルナ村に残り、亜子、シルカ、シーラがお目付役兼各車の車長を務めることになった。
亜子は半信半疑だったが、シルカとシーラが予想した通り、ヴィッセル戦闘団は海岸沿いの街道を北上する。
堂々たる1000の軽装騎兵は、沿道の住民に無敵と感じさせた。
その後方からゆっくりとついていく、金属に囲まれた奇妙なクルマは禍々しい雰囲気を放っている。
挑発するように、堂々とウクルルの大旗を翻しているからだ。
ヴィッセル戦闘団は、意外な展開に困惑する。攻め入ろうとしている相手が、後方から堂々とついてくるからだ。
指揮官が副官に命じる。
「折を見て、始末しろ」
街道周辺が開けた海岸草原になると、副官は1個小隊に「あの荷車を蹴散らせ」と命じる。
小隊がギャロップで急接近すると、装軌装甲車は路外に出て、高速で機動する。ウマが追いつける速度ではなく、簡単に逃げられてしまった。
数時間後、行く手を装軌装甲車に遮られる。にらみ合ったまま日没となり、その場での野営となった。
だが、ヴィッセル戦闘団の隊員は一睡もできなかった。サーチライトで照らされたり、エンジン音が急接近したり、サイレンに驚かされたりと、一晩中弄ばれた。
ウクルルとの境界に達した5回目の朝、ヴィッセル戦闘団の将兵は、十分すぎるほど疲れていた。
ただ、戦意を失うことはなく、ウクルルの境界防衛戦に達する。
砦を守備する警察隊よりも、周辺の村々から集まった怒れる住民のほうがはるかに好戦的だった。
各自が所有する武器を持ち寄り、古い胸甲を着けて戦う気満々の農民もいる。その数、ざっと3000。
砦の守備隊長は、この想定外の増援を有効に使った。
戦わせる気はまったくなく、鬨の声を上げ、剣で盾を打ち、姿を見せつけた。
シーラが「驚いたねぇ」と呆れた声を出す。シルカも自主的にこれだけの兵が集まるとは、想像していなかった。
亜子は「これで、おバカちゃんたちは帰るでしょ」と今後の展開を楽観する。
指揮官が将兵に命じる。
「木っ端雑兵がどれだけいようが、我らの敵ではない!
蹴散らせ!」
ヴィッセル戦闘団が突撃体制の横列を作ると、農民たちはトラクターを総動員して迎え撃とうとする。
トラクターがマフラーから排気を噴き出し、威嚇する。
農民たちは騎兵の怖さを知っている。一方、戦うためだけに純粋培養されたヴィッセル戦闘団の隊員は、トラクターのパワーを知らない。
何台かのトラクターは、車体前部にバケットを取り付けている。
しばらくすると、建設現場からの応援も到着する。当然のように建機を伴っている。
亜子が心配する。
「このままだと、戦いが始まってしまう」
シルカも同意。
「戦えば誰かが死ぬ」
シーラが嘆く。
「死ぬ本人はそれで終わりだが、家族隣人など多くが悲しむ。
怨みが残る。怨みが、新たな怨みを生む。
戦いを避けるべきだ」
彼女たちは戦い慣れしている。腕が立ち、優れた戦術眼を持っている。若者たちは、彼女たちが「勇敢でない」とは批難できないが、この瞬間は「勇気がないのか?」と心の中で叫んでいた。
しかし、ある若者は仲間に小声で「シルカさんは臆病なのか?」とは言ったが、シーラや亜子まで同時に臆病になる確率はとてつもなく低い。
それがわからないほど、愚かではない。
だから、大声で感情を吐露できない。3人に対して反抗的態度なんて、恐ろしくてできない。
彼は、亜子の発した言葉が信じられなかった。
「あんなショボい装備の連中と戦ったら、虐殺になってしまう。
ブルドーザーに剣で立ち向かうなんて、ドン・キ・ホーテじゃあるまいし!」
シルカが無表情に尋ねる。
「その、ドンキとは何者だ?」
「ドンキは何でも売ってるお店で、ややこしいな。
騎士道物語という小説の読み過ぎで、自分が騎士だと錯覚したおじさんの話だよ」
この砦周辺に偶然集まったウクルルの義勇兵たちは、農機や建機の後方について、手持ちの武器で戦う覚悟を決める。
これは、車輌を盾にして前進するウクルル独特の戦い方だ。
「何だ?
あのへっぴり腰は」
若い将校がホイールローダのバケットに隠れながら、身をかがめてボウガンを構える農民たちを笑った。
シルカ、シーラ、亜子の各車は、ウクルルの義勇兵とヴィッセル戦闘団の間に入る。
シルカが叫ぶ。
「双方とも引け!」
シーラも大声を発する。
「意味のない争いで死ぬことはない!
双方引け!」
各車は高圧タンクにドラム缶1本分200リットルの水を積んでいる。ただの水で、水自体に殺傷力はない。
タンク内の水には高圧がかけられている。バルブを開放すれば、強烈な勢いで噴射される。
亜子は、バルブ開放のためのトリガーを握っている。
派手な軍服の男の隣りにいる若い将校が叫ぶ。
「踏み潰せ!
雑兵を恐れるな!」
亜子は、タンク内の圧力を計器で確かめる。トリガーを引く。高圧の水がノズルから噴射され、最高位の将校と思われる男の胸に直撃した。
亜子は「チッ!」と声を出す。
「顔を狙ったのに」
ヴィッセル戦闘団の指揮官は、水溜に尻をついて座っている。仕立てのいい軍服は、泥だらけ。
その姿は、泥遊びに興じすぎた幼い子供のようでもあった。
シルカが冷たい声を発する。
「水をかけられただけで、転げ回るとは、立派な指揮官閣下だな」
義勇兵たちを理由なく見下し、勝利を絶対的に信じていた実戦経験のない若い将兵たちは、水をかけられて落馬し、ずぶ濡れになって呆けたように尻餅をついた指揮官をどう考えたらいいのか理解できなかった。
指揮官の姿をすべての将兵が目撃しているわけではない。
参謀を兼ねる副官は、どうすべきか判断できなかった。
剣で斬られたら、槍で突かれたら、矢で射られたら、彼は我が身を盾にして指揮官を守っただろう。
しかし、彼は水をかけられて落馬した。そんな無様な男を助ける理由があるのか疑問に感じる。
ヴィッセル戦闘団は、軍事行動にロマンを求める愚かな集団でもあった。そんな感覚はシンガザリ軍との過酷な戦闘において、正規軍はとっくに失っていたし、農民や商工業者を中心とするウクルルの義勇兵たちには最初からなかった。
ヴィッセル戦闘団がロマンから現実に引き戻されるまでの短い時間に、歴戦の義勇兵たちは南側面に回り込み、一部は東に達して退路を断っていた。
副官が半包囲されたことを悟るには、それほどの時間は必要でなかった。
シルカが叫ぶ。
「村の衆、街の衆!
子供を殺めて何になる!
指揮官を捕らえれば、それでよい!」
シーラが指揮して、指揮官を捕縛する。
保安官が歩み出て、指揮官を受け取る。
「殺人目的で徒党を組み、村に侵入しようとした罪で逮捕する」
兵力1000の私設軍隊の指揮官は、殺人目的での侵入を理由に逮捕された。
保安官は、副官に「このまま立ち去れば、罪には問わない。だが、さらに何かをしようとするなら実力を持って阻止する」と告げる。 この間に、周辺の村からも続々と武器を手にした農民や商工業者が集まってくる。
すでに勝敗はついていた。ヴィッセル戦闘団の兵力では全滅が不可避の状況になっていた。
ここで名誉の戦死を選ばなければ、名誉を保てないと副官は考えた。
副官が「総員、抜剣!」と命じようとして、近くの将校の顔を見ると完全に怯えた表情になっていた。
同時に、彼自身が怯えていて声がうわずっていることに気付く。
怖かった。
死ぬことが怖かった。
死なずに帰ることが怖かった。
副官は気付くと、フェミ川南岸の街道をウマに乗って歩いていた。彼の前方にも将校と下士官・兵がおり、彼の後方にも将校と下士官・兵がいる。隊列は組んでおらず、敗残の兵のように打ちひしがれて歩いている。
ウマまで、うなだれている。
指揮官は震え上がっていた。
最初の裁判は刑事で、住民の殺害を目的にウクルルに侵入した罪が裁かれた。しかし、罪を追及する担当は、民の殺害を目的にウクルルに侵入したとする主張を証明できず罪を問えなかった。
ウクルルが用意した指揮官の弁護担当は、優秀だった。
だが、民事は違った。彼は武装した大軍を率いてウクルルに侵攻したことは事実だ。それに対応するため、8つの砦を築き、60キロにもなる塹壕線を敷いている。
これに関わる費用全額を指揮官に請求するとした。
この請求権は認められ、指揮官は20日以内に全額を支払うことが求められた。支払えない場合は、身柄を賠償の一部とするというとんでもない決定だった。
つまり、指揮官の身体は、彼のものではなくなった。
ヴィッセル戦闘団は沈黙。ヴィッセル戦闘団を作り上げたホルテレンの商人たちは、この出来事自体を無視する。
すべてをなかったことにした。
指揮官は見捨てられた。
その後もヴィッセル戦闘団は存続し続けるが、決して対外勢力と戦うことはなかった。戦闘訓練だけで、一切の任務に就くことはなかった。
逆に身内である商人を脅すようになり、用心棒代を名目に多額の寄付金を強要するようになる。組織的な暴力行為も頻発し、豪商たちにとっての災厄となっていった。
ホルテレンの豪商はウクルルを倒すために養った私設軍隊によって、ウクルルと対立し続ける余裕を失っていく。
ホルテレンの豪商・豪農は、ウクルルの封じ込めを諦めていない。
ただ、ホルテレンの有力政治家、政商、軍は、表だってのウクルルとの対立を望んでいない。
15年前までは、ホルテレンとその周辺地域は圧倒的な経済力があった。
だが、同じメルディでも、ラムシュノンのように貧しい寒村が一大経済圏を作り上げる例が増えているのだ。
ウクルルとラムシュノンの台頭に呼応するように、メルディとトレウェリに跨がるカルカラルも大きな勢力になっている。
この経済圏は、東海岸に隣接して帯状に広がる。
ホルテレンがウクルルを封じ込めようとしている間に、複数の地域が経済連合体を作り上げてしまった。
ホルテレン政権は東エルフィニアの政府であって、ホルテレンのためだけの政治はできない。
村長会と村役会の合同会議がクルナ村で開かれた。
15年前、選挙制度が改定された。各村は東エルフィニア議会議員を選出できるが、村の住民の総数が1000以下だと議員を送り出すことができなかった。
農村の多くは1000を超える住民なんていないから、実質的に選挙権はない。実質、ホルテレン独裁がまかり通っていた。
これが、改定され複数の村が構成する経済圏にも住民5000に議員1の権利が与えられた。
これによって、ウクルルは4人の議員をホルテレンに送り出し、国政に影響を与えることができるようになった。
それは、ラムシュノンやカルカラルも同じで、地方に地盤を置く議員が一気に増えた。
同時に、国政におけるホルテレンの相対的な発言力は減じていた。
村長会と村役会の合同会議の議題は、住民の増加によって4議席から5議席に増えることが決定的になったことから、増加する1議席の議員候補を誰にするかだった。
会議の前から候補は決まっていた。
チュウスト村の村長が「どうやって、コウを説得するか、それが問題だ」と発言し、クルナ村の村長が「義父ががいれば、問答無用で決めるのだろうが……」とフィオラの父親がいないことを嘆く。
フィオラは、噂になっている彼女の夫が国の議会議員になることが恐ろしかった。
夫が議会議員になれば、妻はホルテレンに同行しなければならない。そして、いままで彼女が接触したことがない社会階層と付き合いをしなければならない。
それが、怖かった。
耕介も嫌がっていた。クルナ村とウクルルの役に立つなら何でもするが、北岸基地で遊べなくなることは耐えがたかった。
しかし、選挙で選ばれたなら、受け入れるつもりだ。選挙制度は厄介で、他薦による候補者名簿登録があり、本人の意思にかかわらず立候補させられる。
だが、当選した場合、当選者が拒絶すれば議員にはならない。次点者が当選することになる。
だが、健康や家庭の事情などがない限り、当選を拒否することはない。それは住民として、許されない。健康や家庭の事情があるならば、他薦された時点で候補者登録辞退を申し入れている。
正当な理由なく候補者登録の辞退はできない。
だから、耕介は候補者登録を辞退できない。フィオラが嫌がっていたとしても。
選挙の結果は、候補者とその妻が望まない結果となった。
耕介は、圧倒的得票で当選した。
東エルフィニアの議員は、当然だがエルフが占めている。ヒトは耕介だけ。
エルフの議員は白い服を着るが、耕介は迷彩服を選んだ。政治家然とすることを嫌ったからだ。
フィオラは首都での農家や商家との交流は良としたが、政治家夫人としての役割は拒んだ。耕介は「それでいい」と了承する。
ホルテレンでは、耕介がヒトであることよりも、耕介が議員であることを示す白い服を着ないことよりも、フィオラの行動のほうが噂になった。
最初は、議員夫人の会のような夫人たちの交流にフィオラが参加しないことが噂になり、それが批難に変わり、やがて呆れになっていく。
「田舎議員の妻だから、恥ずかしいのよ」
これは、好意的評価だ。
大方は「所詮はヒトに嫁ぐようなエルフだ。道理をわきまえていないのだ」と。
耕介は物事を荒立てないように注意しながら、用心深く議員活動を始める。
ウクルル選出の議員はもちろん、ラムシュノンやカルカラル選出の議員たちとも連携するよう心がけている。
議員1人の力では、できないことが多すぎるからだ。
フィオラは精力的に動いていた。彼女の活動は政治とは無関係で、完全に社会的な問題に対処しようとするものだった。
対シンガザリ戦による難民が多くいたので、彼らへの支援に没頭した。
農地を失った農民ほど、悲惨なものはないことをフィオラはよく知っていた。
同様の活動は、ウクルルでも行っている。そして、ウクルルにおけるこの活動は、村長、村役、ウクルル選出議員の妻たちが主導している。
もちろん、彼女たちだけではないが、こういった活動はときには権威が必要になることがある。
そのときこそ、彼女たちの出番だ。喜んで夫の威を借る妻となる。
ホルテレンの政治家は、多くが政治を家業にしていた。つまり、プロ政治家だ。
一方、ウクルルなどの新興地域の政治家は、方法はどうあれ各地域から選出された地域利益の代弁者であって、職業としての政治家ではない。
仕事が別にあり、地域のために一時的に政治家になったに過ぎない。多くは「早く辞めたい」と思っている。
ホルテレンのプロ政治家の社会は、極めて特異で、付き合い方が難しい。政治の矢面に立つ議員たちにも腹芸は必要だが、それでも本音で立ち向かえる。
しかし、妻たちは違う。新興地域選出の議員の妻たちは、プロ政治家の妻たちの陰口、無視、嫌がらせに耐えなければならない。
そして、過去、多くの新興地域選出議員配偶者は、この苦行に耐えてきた。
夫のために、地域のために。
耕介は、秘書官兼護衛としてシルカを選んだ。全幅の信頼を置けるからだ。それに、彼女は地方の似非王ではあるが宮廷に使えたことがある。
ある程度のことは、心得がある。
シルカについてきた亜子は、フィオラのサポートをしている。
シンガザリ戦争における難民支援だ。カルカラルは戦地から遠く、ラムシュノンも戦争の直接的な被害を受けていない。
だから、シンガザリ戦争に深く関与していて、有力な新興地域であるウクルルが積極的な戦争難民支援を行っていた。
これを、プロ政治家の妻たちがよく思っていない。
ウクルル選出の議員が4人であった頃、彼女たちは難民支援の炊き出しや仕事の斡旋を密かに行っていた。
プロ政治家の妻たちからの妨害を防ぐためだ。
5人目の配偶者であるフィオラは、この慣習と警戒をやめようと提案する。
全員が賛成。フィオラの意見に賛成したのではない。シルカや亜子がいるからだ。
2人がいれば、暴力的嫌がらせにも対抗できる。
ホルテレンの西郊外において、ウクルル選出議員の配偶者と仲間が、大がかりな炊き出しを行う計画を立てた。
この計画に対し、新参議員の妻であるフィオラは、プロ政治家の妻たちに呼び出される。
フィオラはシルカを伴って、その呼び出しに応じた。
プロ政治家の妻たちはいきり立っていた。リーダー格の議員妻がフィオラに詰め寄る。
「何を勝手なことをするつもりなの!」
フィオラは動じない。彼女は普通のエルフの女性だが、戦場を生き抜いた百戦錬磨の戦士でもある。
「戦争によって、多くの農民が家と農地を失い、途方に暮れている。
そして、シンガザリの侵攻はいまだ収まらず、難民は増え続けている。
彼らを支援することは、戦争の被害を受けていない我らの努め。
義務だ」
議員妻は、扇でフィオラの顎を上げた。
「偽善者、売名をしたいのね。夫が議員でいられるように」
フィオラは、扇を奪い取り、地面に叩きつける。
「売名もできぬ愚か者に、あれこれ言われる筋合いはない」
プロ政治家の妻が、フィオラの頬を平手打ちする。それほど強い力ではない。
フィオラが動く。
プロ政治家の妻が空を舞い、床に腰を打ち付ける。
「痛い!」
フィオラは夫から習った柔道の技である払腰を披露した。左腕を完全に決めており、プロ政治家の妻が床から半身を起こしたまま動けない。
彼女の護衛が抜剣する。
だが、剣を鞘から抜いた直後、護衛の腕はシルカによって貫かれていた。
「首を落とされたくなければ、控えておれ」
シルカの氷のような声音が、場の空気を冷やす。
フィオラはプロ政治家の妻を立たせると、今度は大外刈りを試す。
きれいに決まる。またしても、プロ政治家の妻は腰を床に打ち付ける。
「ごめんなさい、はどうした?
次は、もっと荒技になるぞ」
プロ議員妻は、憎しみの眼でフィオラを見る。
フィオラは、容赦なく一本背負いを決めた。
プロ政治家の妻は、ボールのように転がっていく。
シルカが「股を開く以外に何もできないくせに、生意気を言うからだ」と他の議員妻たちを睥睨する。
恐ろしい雰囲気だった。
以後、難民支援活動への妨害はなくなった。
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