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第4章
第92話 世界情勢
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200万年後の世界では、西ユーラシアに住む多くの人々は太陽系第3惑星地球を正しく理解していない。
世界は平板だと考えている人々も、けっこう多い。実際、ロワール川流域一帯におけるヒトの行動圏は狭く、古代ローマ帝国ほどの世界観もない。
これは、現実だ。
ドイツ出身のロシア人天文学者フリードリヒ・フォン・シュトルーヴェは、子午線弧長の三角測量を265カ所の測量点を設けて行った。総距離は2800キロに達する。
19世紀前半のことだ。
この遠大な科学的調査によって、地球の大きさの確定と地球が球体であることを実証している。
この世界では、地球が球体であることを主張しても宗教裁判にかけられたりはしない。 蛮族のシャーマンの中には、この主張をあざ笑ったり、強硬に抗議するものがいる。
だが、外洋に出る船乗りは経験的に海水面が平面でないことを知っている。彼方から接近する船は、まずマストの先端が見え、徐々に船体すべてが見えてくるからだ。
ノイリン北地区が保有する双発攻撃機FMA IA 58 プカラにロケットエンジンを追加し、高度1万5000メートルまで上昇させたことがある。
この高度まで上がれば、半径450キロを見渡せる。地中海の形状や大西洋岸海岸線の形状も画像として記録できる。
攻撃的なシャーマンには、この画像を見せ、納得できなければ、高度1万5000メートルに連れて行く、という。
ほとんどはこれで黙るし、それ以上何をいっても部族の中で浮くだけだ。一歩間違えれば、シャーマンとしての地位を失う。
そもそも、ほとんどのヒトにとって、地球が平面だろうが、球体だろうが、関係なんてない。
東地中海方面だが、イタリア半島東のアドリア海は存在しない。また、エーゲ海もない。この一帯は、草原か森林だ。砂漠化の傾向は見当たらないが、寒冷が原因の乾燥傾向にある。
黒海はかなり小さい。クリミア半島はない。黒海から東地中海に流れる大河がある。
クレタ島とキプロス島は存在している。シリア、レバノン、イスラエルの海岸線は、大きな変化はない。
東地中海はインド洋とつながっている。
スエズ地峡はない。シナイ半島がなく、東地中海と紅海は幅200キロから350キロの海峡でつながる。紅海はインド洋につながる。
このため、ユーラシアとアフリカは、地続きではない。したがって、北アフリカにはドラキュロが生息しない可能性がある。
白魔族が、北アフリカを拠点とする理由は、これかもしれない。
地中海は3分割されている。東から東地中海、ティレニア海、西地中海。
東地中海とティレニア海には、シチリア北端とイタリア南端の間に狭い海峡がある。シチリアは北アフリカと地続きで、島ではない。
イタリアの西にあるコルシカ島とサルディーニャ島はつながり大きな島になっている。
コルシカ・サルディーニャ島と半島ではないイタリアに挟まれた海域がティレニア海だ。
コルシカ・サルディーニャ島とユーラシアの間には、幅20キロほどの海峡がある。
コルシカ・サルディーニャ島と北アフリカの間には、幅75キロから90キロの海峡がある。
この二つの海峡で、ティレニア海と西地中海はつながる。
西地中海は、イベリア半島先端と北アフリカに挟まれたジブラルタル海峡で大西洋とつながる。
アフリカの気候は、200万年前とは大きく異なる。
北アフリカ・サハラは年間を通して雨が降り、気候は温暖、湿度はやや高め。
サハラ以南は、ナミビア、アンゴラ、ジンバブエ、モザンビークのラインまで、極度に乾燥している。
アフリカ南部は森林に覆われている。
西ユーラシアに攻め込んだセロは、ドラキュロの脅威に接し、撤収してしまった。
あの残虐で排他的な種は、ドラキュロという食物連鎖の頂点に君臨する、不可解な生物によって駆逐されてしまった。
皮肉なことに、ヒトの天敵であるドラキュロによって、ヒトはセロの侵略から守られた。
一時的に、ではあるが……。
俺は、ノイリン中央地区の議場にいる。
まもなく、20歳になったマトーシュの報告が始まる。トルクとライマが育てた、自慢の息子だ。高身長で、発達した筋肉を持つマッチョだ。
この会合は、ノイリン北地区独自のものだが、北地区の総意に基づいてはいない。表向きは、有志による内々の報告会だ。
だが、フルギアからはアシュカナンの有力者が、ヴルマンからはノイリン駐在大使が出席している。ノイリン他地区からの傍聴者も多数いる。
表向きは有志による地理の勉強会なのだが、実際は今後の行動方針を探る重要な報告会なのだ。
マトーシュが演題に立つ。
報告が始まる。
「いままでは高高度からでしたが、今回は低空からティレニア海と東地中海を結ぶメッシーナ海峡を偵察しました」
報告会場となっている中央地区の議事堂は、数百人が集っているにもかかわらず静寂の中にあった。
マトーシュが続ける。
「ご承知のように、メッシーナ海峡の幅は最短2キロしかありません。
水深は現状では不明ですが、ジブラルタルが残した資料によれば、最大でも4メートルとされています。
この水深では、大型船は通過できません。
今回の偵察で傍証ですが、それを裏付けたように思います。
この写真を見てください」
50インチ液晶モニターに高解像度画像が映し出される。
「この防壁は、白魔族が築いたものと推測しています。
推定、高さ20メートル、総延長35キロ。石造製と思われます。
この防壁、または城壁は、間違いなく人食いの渡海を阻止するために設けたのでしょう。
よく知られているように、人食いは水を嫌います。水深が50センチ以上あれば川を渡らないともいわれますが、実際は水に落とされれば泳ぎます。
ジブラルタル海峡は、潮流が速く、水深があり、幅も20キロに達することから、人食いは北アフリカに渡れません。
東地中海はインド洋とつながっています。地殻変動によって広域が陥没したスエズ海峡の幅は、200キロ以上あり、ユーラシアとアフリカは陸続きではありません。
ユーラシアとアフリカの接点は、メッシーナ海峡だけです。
メッシーナ海峡を封鎖すれば、人食いはアフリカに渡れません。
アフリカには人食いがいない可能性があります」
俺の横に座るデュランダルがボソッと呟く。
「白魔族は、メッシーナ海峡を渡って中央平原まで出張ってきていたのか」
彼の仮説は、間違いではないだろう。
マトーシュの報告が続く。
「もし、アフリカの一画、スエズ海峡とナイル川に挟まれた一帯を確保できれば、人食いの脅威にさらされることなく、ヒトはインド洋に抜ける拠点を築けます」
俺たちは何回かの中東方面航空偵察で、信憑性のある噂とされていた「カフカス山脈以南にはドラキュロはいない」はまったくの誤りであることを知っていた。
アナトリアやイラン高原には、相当数のヒトが住んでいるとか、発達した機械文明があるといった噂は、まったくの虚構だった。
そうあってほしいと願うヒトの心が作り上げた幻だ。
知る限りヒトは、西ユーラシアと西アフリカのごく一部に生んでいるだけだ。
西アフリカ・ギニア湾東部沿岸のヒトは、過去数十年の間に絶滅したようだ。セロによる攻撃が主たる原因だ。
西アフリカ大西洋沿岸(セネガル、ギニア、シエラレオネ、北部リベリア方面)には、まだヒトが住んでいる。
ただ、ヒトのルーツを完全に忘れており、数百年の時をかけて独自に文明を再構築した人々だ。
クマン王国という、中世的王制の封建国家が存在するが、精霊族やヴルマンによれば、セロによって滅亡の淵に追い込まれている。
距離がありすぎて、我々との連携はかなり難しい。
一方で、若者を中心に「セロから守るべきだ」とする意見は根強い。
そんな余力は、ノイリンを含む西ユーラシアのヒト世界にはないのだが……。
マトーシュの報告が続いている。
「……、メッシーナ海峡の防壁には、砲が装備されています。
画像を解析した結果では、砲身長24口径、砲口口径37ミリと推測しています。
これが800門確認されました。平均45メートル間隔で設置されています。
人食いの渡海を防ぐと同時に、ヒトの襲撃にも備えているのでしょう。
それと、白魔族の拠点は、北アフリカのティレニア海沿岸であり、東地中海沿岸には拠点はありません。
白魔族は現在、西地中海東端付近でセロと激しく戦っています。
仮にですが、ヒトがナイル川東岸を確保しても、手出しはできないでしょう」
だが、北アフリカにヒトが住んだ形跡はない。一考の余地はあるが、確保といっても、維持は簡単ではない。ノイリンからナイル川河口まで3000キロもあるのだ。
マトーシュの報告は確信に至る。
「……、ですが北アフリカの一画を確保することは、事実上不可能です。
航空機での往復は不可能な距離で、海路だとメッシーナ海峡で白魔族の砲列に阻止されます。
北アフリカに拠点を設けるならば、アフリカを一周しないと……」
マトーシュの報告が終わる。
次はチュールだ。彼はスリムな体型だが、筋肉は発達している。ごついマトーシュよりも、優男風だ。見かけとは異なり、律儀で真面目だ。
「まず、赤道以北の大西洋は、セロの支配下にあります。
今回は、セロの哨戒網を突破して、南大西洋に進出しました。
潜水輸送船ソードフィッシュ号は、赤道を通過する際、水深80から120メートル、速度3ノットで800キロ、6日間連続で潜航したまま航行しました」
議場がどよめく。
ソードフィッシュ号の性能に驚いているのだ。
「往路は南北アメリカ東岸を、復路はアフリカ西岸に沿って航海しました。
アフリカ南部西岸と南アメリカ東岸の地形は、遠い過去と大きな差はありませんでした。
南アメリカと南極半島とは1000キロ離れていますが、この海域は完全に結氷していました。南極と南アメリカは氷床によって、陸続きです。この氷床は、パタゴニアの南半分を覆い尽くしています。
ホーン岬も、マゼラン海峡も、氷に覆われていて実質存在しません。
南アメリカ南端を通過して、太平洋に至る海路はありません。
この巨大な氷床は、真の冬の前後数年間で急速に発達したものと推測していますが、温暖期に入った現在でも海と陸を覆いつくしています」
議場は静まりかえった。温暖期に入ったのに、まったく暖かくならないのだ。年間平均気温は真の冬の厳冬期と比較して、わずか0.75度上昇したに過ぎない。
農作物の生育は悪く、人々の焦燥は大きい。
だが、この寒さはドラキュロの活性化を抑止している。
チュールが続ける。
「アフリカ南端から南極までの距離は約4000キロあります。結氷はしていませんが、多数の氷山がアフリカ南端に達しています。
これら氷山を避けて、1回か2回、突破してアフリカ東岸に達することは可能でしょう。
ですが、安定した航路を開くことは不可能です。岩礁、暗礁とは異なり、氷山は動くので……。氷山を避けるための海図は作れません。
それに、赤道上大西洋の強い低気圧を避ける方法は潜水船以外ありません。輸送力は限られます。
スエズまでたどり着けても、燃料の補給なしでは戻ってはこれません。
私たちは、地球の一画に閉じ込められています」
チュールが降壇するが拍手はない。ジブラルタル出身者からの情報や、その他の状況から、大西洋の南端・北端が氷で閉ざされ、巨大な塩湖のようになっているのではないか、と誰もが想像していたのだが、その事実を突きつけられて、拍手をする気にはなれないのだ。
画像を見せながらの説明で、洋上に浮遊する巨大な氷河を何度も見せられれば、信じるしかない。
相馬悠人が登壇する。
「現在、陸地には大量の水が氷床として封じられています。
この水の総量を計算により類推し、過去のデータと照らし合わせて、西インド洋から赤道以南西太平洋の現状をシミュレーションしてみました。
我々が住む地球の気候は、いまから207万年前から201万6000年前のヴュルム氷期に似ています。
ただ、現在のほうがやや暖かく、陸に封じ込められている水の量は3パーセントほど少ないと想定しています。
ヴュルム氷期の時代、タイランド湾から南シナ海にかけてスンダランドと呼ばれる陸地がありました。
また、ニューギニアとオーストラリアは一体の陸地となり、サフルランドと呼ばれていました。
どちらも地殻変動によって生まれた陸地ではなく、水が陸地に封じ込められて起きる海退によって、海水準が低下して陸地となりました。
ヴュルム氷期でも、スンダランドとサフルランドは陸続きではありませんでした。
東南アジアからオーストラリアには、有胎盤類は移動していません。
海を渡る技術を持つヒトと、ヒトと行動を共にしていたイヌだけがオーストラリアに渡ったのです。
最初にオーストラリアに渡ったヒトは、207万年前から205万年前でした。
ちょうど、ヴュルム氷期の真っ只中です。
ユーラシアとオーストラリアの境界には、ウォレス線やウェーバー線といった生物相による区分があります。
海水準が低下しても、ここには海峡がありユーラシアからオーストラリアへ、あるいはその逆、大陸間を動物が移動できなかったのです。
現在の環境でも、そうなっているとのシミュレーション結果が出ました。
スンダラントとサフルランドは陸続きではありません」
議場の反応はない。
相馬の説明が、どんな意味があるのかわからないのだ。
モニターにスンダランドとサフルランドの予想される海岸線図が映し出される。
議場がどよめく。相馬悠人が指摘する問題点がわかったからだ。
「この図を見てわかる通り、マレー半島とスンダ列島が融合したユーラシア東南部、ニューギニアとオーストラリアが一体化した大陸の間には海峡が存在します。
ですが、マレー半島とスマトラ島の間にあったマラッカ海峡は存在しません。
西太平洋に進出するならば、かなりの遠回りとなります」
議場が静まりかえる。
ヒトには焦りがあった。このままでは、セロがドラキュロのいない地域の支配者となる。
そして、ユーラシアは、ドラキュロの世界。ドラキュロがいない北アメリカと南アメリカは、セロの世界。
そのセロが西アフリカに上陸し、一部の地域ではヒトを絶滅に追い込んだ。
ドラキュロがいない地域にヒトの橋頭堡を築こうとすれば、必ずセロと衝突する。
西ユーラシアのヒトは、東からドラキュロに迫られ、西からセロに攻撃されている。
戦わずに生き残る術はないのだが、動こうにも何かが足りず八方塞がりなのだ。
再度、チュールが登壇する。
いよいよチュールが、核心にせまる報告を始める。
「私たちは往路で、北アメリカ東海岸を海上から偵察しました。
北アメリカは、ノバスコシア付近まで氷床に覆われています。
氷床南端から1000キロほど南に下がると比較的温暖になり、海岸部にはセロが築いたと思われる街が点在しています。
さらに1000キロ南下すると、その付近がセロの中心地らしく、大型の建造物が一気に増えます。
北アメリカ東岸の海岸線は、200万年前の地図と比較すると、まったく異なっており、フロリダ半島と呼ばれていた大陸から突出した陸地は存在しません。
ユカタンとキューバは陸続きです。
かつてメキシコ湾と呼ばれていた海域に、巨大な内海が存在します。この内海をメキシコ海と名付けました。
メキシコ海は、フロリダ沖とキューバの間に大西洋とつながる海峡があります。
カリブ海も内海になっています。
キューバ、ハイチ/ドミニカ、プエルトリコ、そしてグレナダまでが、地峡のようになっています。
これらは、ヘリコプターによる上空からの偵察で、目視確認しています」
チュールが概略の海岸線図と、ユカタンやカリブ海を撮影した画像をモニターに表示する。
さらに続ける。
「カリブ海は、南アメリカのトリニダードトバゴ沖、ハイチとキューバの間にある海峡の2カ所で大西洋とつながっています。
セロの中心地は、フロリダからバハマにかけての大西洋岸一帯、およびメキシコ海北岸だと推測しています」
チュールが手元のノートに目を落とし、呼吸を整える。そして続ける。
「キューバからトリニダードトバゴに至る地峡の沖に島があります。
この島の面積は800平方キロ程度、今回の調査の限りでは無人島です。セロもいません。
200万年前には、同じ位置にバルバドスと呼ばれる430平方キロほどの島国があったそうです。
セロの中心地から2300キロ以上離れています。
パナマ地峡はありません。南北アメリカは、幅200キロのパナマ海峡によって分断されています。いまから500万年前のアメリカ大陸南北大交差(パナマ地峡成立によって、南北アメリカの動物が相互に移動した事変)以前の地形に似ています。
セロは、カリブ海と大西洋を結ぶパナマ海峡に軍事的拠点を置いていますが、それはセロ同士の戦いに向けたものです。
またセロは南アメリカ北部に大規模な植民を行っているようですが、パナマ海峡の監視と防衛は比較的手薄なようです。
また、カリブ海全体を支配しているわけでもなさそうです。
セロはいくつもの国に分裂しており、ヒトから見れば自滅的な抗争・戦争を繰り返しています。
現下の状況を鑑みて……」
俺は、チュールの出した結論を知っていた。だが、それが受け入れられるとは考えていない。ヒトは生きるだけで、精一杯なのだ。
だが、承知の上で彼はいった。
「バルバドスを攻略し、ここに前進基地を築き、パナマ海峡を突破すれば太平洋に入れます。
トリニダードトバゴ付近にセロは棲息していないようなので、ここは占領しなくてもいいでしょう」
議場に嫌な沈黙が満ちる。
チュールの説明では、バルバドスに拠点を築く論拠が弱い。どこかに拠点を築くにしても、トリニダードトバゴやグレナダでもいいはずだ。
バルバドス以外では、カリブ海内のキュラソー島も候補に挙がった。
島に限っている理由は、過去数年のセロとの接触において、セロが大型の水上船を使った形跡がないからだ。セロは陸上移動はいとわないが、海上は飛行船に頼る傾向が強い。
そして、飛行船は数に限りがあるらしい。島を拠点にすれば、継続的に維持できる可能性が高い。
キュラソー島を外した理由は、カリブ海を封鎖されると孤立するからだ。その点、バルバドスは大西洋上にある。
今回の報告会では、質問は受け付けない取り決めになっている。
だから、チュールの“バルバドス攻略”には突っ込みは入らない。
そのはずだった。
東南地区の機械商人が手を上げた。
進行担当が静止する。
「この報告会では、質問は認められません」
中年の大柄な商人が、進行担当に答える。
「それは知っているよ。
質問じゃなくて、意見だ。
意見をいうな、という取り決めはないだろ」
その通りだ。
進行担当の30代女性が黙る。
「それじゃぁ、一言。
バルバドスを落とす前に、カナリア諸島に拠点を築くべきだ」
南西地区の毛皮商人が手を上げる。
進行担当の「あのぅ」という言葉を制し、「俺も意見だ。かまわんだろ」と。
「俺は、北アメリカの北側、大西洋東岸に中間拠点を築くほうがいいと思う」
南西地区の何人かが「そうだ!」と賛意を示す。
西地区の船舶技術者が発言。
「大西洋上中間付近には、島がない。どこを中間拠点にしようが、アゾレス諸島以外は6000キロも離れている。アゾレス諸島からだって、4700キロはあるだろう。
それを考えたら、全通甲板を持つ大型の輸送船を2隻建造するほうがいい。北地区が1隻持っているだろう?
あれをもう1隻造るんだ。
その船があれば、甲板上でヘリコプターの運用ができるし、大型機の輸送もできる。
できれば、北地区の船よりも大型がいい。全長150メートル、全幅15メートルの船体で、船首に高射砲を搭載し、船体各部に高射機関砲を装備すれば、セロの哨戒飛行船に発見されても撃退できるんじゃないか?
エンジンは、西地区のガスタービンを使えば最大25ノットは発揮できるよ」
その意見に北地区の発電エンジニアが反論する。
「ガスタービンじゃぁ、ダメだよ。
燃料を食いすぎる。
ディーゼルがいい。ディーゼルならば、航海速力12ノットで、8000海里以上、1万海里の航海距離だって不可能じゃない。
ガスタービンじゃ、その半分がやっとだよ。
でも、大型の船はほしいね」
俺は動揺していた。セロを刺激したくない、という意見が大勢を占めると考えていた。だが、ヒトがロワール川流域で繁栄を築くことはできない。
ドラキュロの侵入を食い止められないし、地下資源も少ない。ドラキュロの侵入を食い止めたら、セロが舞い戻ってくる。
それと、セロは北アフリカ西部、アルジェリア西半分とモロッコ付近沿岸を制圧した。白魔族は押されている。
白魔族という食人動物は、セロによって滅ぼされようとしている。
それが終われば、次はヒトだ。セロは滅ぼす順番を変えただけだ。
ヒトの多くが、それを理解しているのだ。
だが、全長150メートル級の船を建造することは容易じゃない。積載量で数千トンに達するだろう。
ジブラルタルで入手したアッパーハット号の船体をモデルにすれば、建造できるかもしれないが簡単ではない。
しかし、あらゆるデータが200万年後に持ち込まれているから、我々が希望するような船の設計データが存在する可能性はある。
それと、西地区が全長90メートル、全幅8メートル、ガスタービンエンジン2基2軸、最大船速35ノットの高速武装貨物船をロワール川河口の造船所で年1隻のペースで建造している。
無理だ、不可能だ、と主張する根拠はない。
本日4人目の登壇。トゥーレだ。
どこで、どういういきさつがあったのかは知らないが、トゥーレはイエレナと同居し、子供はお姉ちゃんと弟くんの二人。
「北アフリカの情勢について、報告します。
セロは事実上、ジブラルタル海峡を制圧しました。北アフリカ側に長距離ロケット砲が多数配備されており、ヒトの船は安全な海峡の中央を通過できません。
ですが、ユーラシア側は占領されていないので、座礁の危険を承知で、ユーラシア沿岸至近を航行することは可能です。
精霊族と鬼神族の船は、攻撃こそされませんが、積荷を検閲されており、海峡通過を躊躇う状況が続いています。
精霊族と鬼神族は、セロとの戦いが近付いていることを確信しているようです。
ただ、現状、セロは白魔族と戦っています。詳細は不明ですが、双方とも相当な消耗戦となっているようです。
ノイリンの情報収集活動、航空偵察の分析では、セロと白魔族の戦いは終盤に入っているようです。
かつて、チュニジアと呼ばれていた土地が白魔族の本拠地であることは、ほぼ確実ですが、セロはチュニジアの西に迫っています。
エスコー川(ローヌ川)河口から西100キロの街カラバッシュは、頻繁に偵察機をチュニジア上空に侵入させていますが、これを嫌ったセロが数カ月前、この街を爆撃しようと、中型飛行船10隻程度を差し向けたようです。
カラバッシュ航空隊とセロ飛行船の間で、激しい空中戦が起きたとのヒトの目撃情報があります。
ご存じのように、カラバッシュは、ヒトと精霊族の混血の街。また、開放的な街でもあり、情報の統制や秘匿とは無縁なのですが、今回の空戦については多くのことがわかっていません。
カラバッシュの軍が、相当な損害を受けた可能性もあります。
西ユーラシア内陸は寒冷から抜け出せていませんが、西地中海、ティレニア海、東地中海沿岸は、温暖といっていいでしょう。
住みやすい土地です。
早晩、セロが侵出してくるでしょう。
それを阻止するためには、ジブラルタルを再占領する必要があります」
俺とデュランダルは、顔を見合わせた。トゥーレがそんなことを考えていたなんて、驚きだ。
トゥーレの妻イエレナは、アシュカナンの指導者であったドネザルの娘だ。ドネザルは政治家・軍人の現役を退いており、街の郊外で農場を営んでいる。
トゥーレはノイリン域外を旅して、情報収集を続けていたが、彼の存在があまりにも有名となり、また彼の卓越した情報収集能力を恐れて、各街が警戒したことから隠密行動ができなくなってしまった。
現在、彼は俺たちの銃器商社の幹部になっている。
ドネザルは、イエレナを尋ねて頻繁にノイリンにやって来る。滞在期間も長い。そして、この議場にもいる。
現役を退いてはいても、フルギア系の人々にとって、彼の存在は大きい。
また、我々“異教徒”とフルギア系との深部における接点として、イエレナとクラーラは大きな役割をしている。
クラーラは、東征王アプリエスの遺児であり、ベルトルドとノイリンに居を構えた。
議場がざわつく。
デュランダルが「6000キロも離れているバルバドスの攻略なんて、現実離れしているから、反対はないのだろうが、ジブラルタルとなるとねぇ……」と。
俺が「ジブラルタルには、誰もいない。一時期、鬼神族が進出したけれど、セロの攻撃を受けて撤退している。
しかし、西地中海の出入口は押させたい」というと、背後から声がかかる。
「ヴルマンは手を貸すぞ。
我らは鬼神族との取引ができなくて、大損害なんだ」
声をかけてきた女性は、ヴルマンの大商人だ。
過去6年で、ヴルマンの商船は帆走から内燃機関によるスクリュー推進に変わった。ヴルマンの異教徒との接触による社会変化は、フルギアよりも大きい。
女性商人が笑いながらいう。
「ヴルマンの男がウホウホやっている間に、女は異教徒から多くのことを学んだ。まだ追いついてはいないが、試した真似事は全部できた。
ヴルマンの女は、異教徒の足手まといにならないよ」
彼女のいう通りだ。ヴルマンだけじゃない。フルギア系の変貌も激しい。
ヒトは一枚岩ではないが、共通の目標には協調して対処できる。
その態勢はある。
トゥーレが続ける。
「チュールがいうように、バルバドスという島を攻略すれば、太平洋に進出できるでしょう。
そして、世界がどうなっているのか、ヒトはどうやって生きていくのか、その答えが見つかるかもしれません。
しかし、アゾレス諸島まで2300キロ、アゾレス諸島からバルバドスまで4700キロもあります。
セロは補給を妨害するでしょうし、バルバドスは孤立してしまう可能性が高い……。
私は……。
白魔族は弱体化しています。
まず、我々は白魔族の支配下にあるコルシカ・サルディーニャ島の北端に侵攻し、橋頭堡を築き、飛行場を建設します。
同時に、西地中海に船団を送り込み、コルシカ・サルディーニャ島からの航空支援を受けて、白魔族が封鎖するメッシーナ海峡を突破します。
コルシカ・サルディーニャ島北端とユーラシア間の海峡は、幅35キロから20キロほど。
コルシカ・サルディーニャ島南端と北アフリカとの海峡は、幅が75キロあり、この海域の白魔族による支配は完全でなく、航行が可能です。
私は、スエズ海峡経由でのインド洋進出を提案します。
コルシカ・サルディーニャ島北端からアデン湾の出口にあるソコトラ島まで、6000キロです。
ソコトラ島からインド亜大陸まで2300キロ、ヒトの文明があると一部で推測されているマダガスカルまで、2800キロ。
確認すべき、ニュージーランドまでは、1万3000キロもありますが……」
ヤジが入る。おそらく、ジブラルタル出身者だ。
「パナマからだって、1万2000キロだ!」
ヒトの社会では、ヒトがこの世界で生き残るには、ドラキュロがいない土地を探し、そこに橋頭堡を築く必要がある、という非現実的な作戦が必要であることを理解され始めている。
ノイリンはジブラルタルからあらゆる物資を回収した。「床に張ったコンクリートまで剥がした」と悪口が広まるほど、何から何まで持ち去った。
だが、ジブラルタルには、修復可能な建物が残っており、港湾施設や滑走路、ザ・ロックの中に造られた地下乾ドックは残っている。
また、ノイリン北地区は、年に数回、ジブラルタルを偵察している。
ジブラルタルを再占領して、長期間維持することは、ノイリン北地区だけでは不可能だ。ノイリン全地区、いやヒトの力を結集しないと無理だろう。
それと、ジブラルタルでは作物は育たない。飲料水も確保できない。再占領すれば、重荷になる。
トゥーレの話が続く。
「ジブラルタルの対岸はセウタです。ここには、白魔族の街と軍事拠点がありました。
現在、セロがセウタを占領しています。
ジブラルタルとセウタの間は、23キロあります。ジブラルタル海峡の最短は15キロで、この距離があればセロの長距離ロケットは対岸、つまりユーラシア側には届きません。
セロの長距離ロケットの最大射程は6000メートルほどで、ユーラシア側に多数の灯台を設置して、ユーラシア側を航行すればセロの干渉を受けません」
デュランダルが小声でいう。
「灯台の設置はヒトだけじゃ無理だ。精霊族や鬼神族の力も借りないと」
その通りだ。
トゥーレの話。
「灯台の設置は何年もかかるでしょう。
灯台設置完了までの期間、ヒトの船は天候のよい昼間しか航行できません。
夜間航行を避けるには。船にとって安全な泊地が必要です。
それと、ジブラルタルには真水がありません。
しかし、ジブラルタル湾沿岸全域を見れば、ジブラルタル湾には比較的大きな川だけで2本流れ込んでいます。
ジブラルタル湾沿岸全域を確保すれば、ヒトにとって強力な拠点になります。
ヒトは従来、地中海地方に拠点を持っていませんでした。
ジブラルタル湾沿岸は、精霊族、鬼神族とも領有したことはなく、唯一、ニュージーランド勢力が短い期間ですが確保していました。
このことから、精霊族、鬼神族とも、ジブラルタル湾沿岸にヒトが進出することを容認すると思います。
ジブラルタルは、大西洋に対するヒトの拠点としても有効です。
私は、大西洋への進出、インド洋への航路開拓のどちらも、ジブラルタル沿岸の完全領有がその一歩となると考えます」
俺たち“老人”は、保守的になりやすい。だが、若者は違う。無謀と思えるほど、未来を見据えている。
デュランダルが呟く。
「いよいよ、中央平原制圧だな」
それは、大事の前の小事だが、ヒト世界の拡大には役立つ。推定30万の人口は魅力だ。白魔族を神の使徒と崇めていたフルギア人でさえ、変わったのだ。ヒトのルーツを知る中央平原の人々が、真実を受け入れないはずはない。
同時に、この一帯にドラキュロが侵入したらどうなるか?
30万の武装した難民が生まれる。
夜の居館食堂は、激しい議論に包まれていた。論者の中心は、10代後半から20代前半まで。
おじさんたちは、黙って聞いているだけ。アンティやイサイアスでさえ、出る幕じゃない。
マトーシュが「ヒトがたくさんいるならば、俺たちの存在を知らせるべきだ」といった。
チュールが反論する。
「中央平原の人々は、白魔族のいいなりだ。彼らに意味はない」
マーニが兄を掩護。
「私が中央平原に行ったら、機関銃を撃ちまくる。そうすれば、我々が白魔族よりも怖い存在だと理解させられる。
その程度の人々」
シルヴァがマーニに賛意を示す。
「中央平原の人々は、機械や車輌のために子供を誘拐して、白魔族に渡していた。
彼らと協調するなんて、絶対に無理」
アンティが何かをいおうとしたが、イサイアスが制止する。隣に座っているアンティの右腕を左手でつかみ、首を左右に振る。
トゥーレの妹で、20歳になったアマリネもシルヴァやマーニと同じ意見。
「中央平原の人々は、何も作れない。何かの役に立つとは思えない」
チュールたちは、中央平原では恐い思いが多かった。辛いこともたくさんあった。
だから、中央平原を全否定しているのだ。
その気持ちはわかる。
わかるのだが……。
俺はチュールたちとは、別な理由で中央平原、つまり北イタリアの一帯、200万年前にミラノやトリノがあった地方は、放棄せざるを得ないと考えていた。
アルプス以南の北イタリアは少しの気温上昇で、確実に東と南からドラキュロに侵入される。年間平均気温が0.5度上昇したら、ドラキュロの侵入が始まる。
あの一帯に住む人々は、かつてアルプスと呼ばれていた山岳地帯に逃げ込む以外、逃れる術はない。
現在の気象条件では、アルプス南麓の標高1000メートル以上での冬期における生存は不可能だ。極寒に耐え得る特殊な建物があれば別だが、そんなものはありはしない。岩陰や洞窟に避難するしかない。
ドラキュロの顎門〈あぎと〉から逃れたとしても、自然に殺される。
俺は推定30万のヒトが全滅してもいい、と考えているわけではない。現状において、30万の難民が発生した場合、彼らを誘導する場所がないのだ。
ロワール川とソーヌ・ローヌ川周辺のヒト社会では、30万もの難民は受け入れられない。食糧不足となり、共倒れになってしまう。
ドラキュロは恐ろしい動物だ。ドラキュロの北上が始まれば、推定30万は瞬く間に2分の1、3分の1に減じるだろう。それでも、15万、10万もの武器を持ったヒトが、我々が住む一帯に雪崩れ込んでくる可能性があるのだ。
争いが起こる。
俺は気温の上昇が、ヒト社会崩壊の引き金になることを恐れている。
幸か不幸か、気温の上昇は顕著ではない。低温は作物の生育を妨げるが、同時にドラキュロの活性を抑えてくれる。
俺は、なるべく早く中央平原と呼ばれている、アルプス以南一帯を調べる必要があると考えている。
また、ヒトが新たな住地を求めるとするならば、それは西ユーラシアの“どこか”と考えていた。
バルバドスはもちろん、ナイル川東岸でも遠すぎる。
千早がおもむろに言葉を発する。チュールとマトーシュの険悪な雰囲気が、場をしらけさせて、沈黙が支配した瞬間を狙った、絶妙なタイミングだった。
「中央平原は危険だよ。
放ってはおけない。
去年のデータだけど、“真の冬”から0.75度年間平均気温が上昇したでしょ。あと、0.5度上昇したら、ライン川以東にいる人食いが活発に動き出すといわれている……。
同じように、中央平原も南や東から人食いの群に襲われると思うんだけど……。
もしそうなった場合、私たちはどうすればいいのかな。
中央平原のヒトたちを助ける?
それとも、追い払う?
私たちに、助ける余裕はあると思う?」
22歳になった優菜が問う。
「千早はどうしたい?」
千早が反問する。
「優菜は?」
「私は、逃げる、かな。
なるべく早く、逃げる場所を探しておく」
「私も優菜の意見に賛成。
ヒトとヒトは、争うべきじゃない……し。
噂だけど、鬼神族はマヨルカ・メノルカ島を極秘に調べているらしい。
鬼神族は、バレアレスを300年前まで支配していたそうだけど、白魔族に奪われてしまった……。
だけど、セロとの戦いで弱体化した白魔族は、バレアレスの大きな島二つを放棄しそうなんだとか。
再占領を考えているんじゃないかな。
鬼神族は、急激な温暖化を警戒しているんだと思う」
トゥーレが説明する。
「バレアレスは、マヨルカ・メノルカ島とイビサ・フォルメンテラ島の二つの島からできている。
ここは、鬼神族の故郷だ。
鬼神族は、人食いが渡れないこの島で最初の農耕を始めたんだ。そして、西地中海北岸に進出した……。
二つの島を合計すると、1600平方キロ以上の面積がある。
すべての鬼神族が移住しても、生活していける面積だね」
優菜がトゥーレに問う。
「精霊族の情報は何かある?」
「精霊族は鬼神族と違って、亜種が多いから一枚岩ではないらしい。
部族、支族間で意見の対立があるんじゃないかな」
精霊族であるララが発言。
「一部の支族は、コルシカ・サルディーニャ島への移住を考えているみたい。
あの島も白魔族が支配していたけど、撤退したらしいから」
白魔族の弱体化は、西地中海方面において勢力の空白を作っている。セロは、それに乗じてはいない。
精霊族と鬼神族は、現在の住地を捨てる意思はない。いままでも温暖化はあったし、それでも街を守ってきた。
それはヒトも同じ。街を捨てようとは思っていない。
だが、最悪の事態に備えて、絶対的に安全な場所、つまりドラキュロがいない場所を求めている。
そういった地域は、白魔族が支配してきた。白魔族の弱体化は、ヒト、精霊族、鬼神族にとって、勢力を伸ばす千載一遇のチャンスではある。
千早が俺に問いかける。
「養父〈とう〉さん、コルシカの北端あたりを確保できないかな。
ノイリンから550キロほどだから、ロワール川河口までと距離的には変わらないと思うんだけど……」
俺は即答した。
「それは無理だ。コーカレイの維持だって大変なんだ。その上で、新たな拠点を確保するなんて、我々の能力を超えている」
言葉とは裏腹に、俺は相当以前からコルシカ・サルディーニャ島北端付近の無血領有を考えていた。
白魔族が弱体しているいまならば、サン=フロラン湾一帯を占領できる。
ここには、小さいが白魔族のためにヒトが建設した街がある。状況がコーカレイに似ており、都市設備などヒトが住むには都合がよい。領有できれば西地中海における拠点にできる。
建設したのは、おそらく中央平原に住む人々の祖先だ。
珍しく、千早が食い下がってきた。
「でも、考えたほうがいいよ。
大西洋の出口を確保したんだから、インド洋への出口も手に入れなきゃ。
コルシカ・サルディーニャ島は、何百年も前は精霊族が支配していたらしいけど、ヒトが実績を積み重ねていけば、精霊族と争うことにはならないと思う。
精霊族を追い出すわけじゃないし……」
精霊族はテリトリーを強く主張しない。排除しない限り、抗争にはならない。コーカレイ同様に開かれた街にすれば、精霊族は干渉しないだろう。
鬼神族は厄介と感じるほど情緒的だが、精霊族はめんどくさいほど合理的だ。
合理的理由があれば、受け入れてくれる。鬼神族は仁義を通せば、厄介な相手じゃない。精霊族よりもヒト的だ。
大西洋沿岸と西地中海北岸の交易は、ヴルマンの独断場だった。フルギアは、ロワール川による内陸交易が中心で、海にはあまり出ていない。
西地中海とティレニア海の状況については、我々はヴルマンから情報を得ることが多い。東地中海については、白魔族がイタリアとシチリアを隔てるメッシーナ海峡封鎖しているので、ヴルマンでも海峡以東のことは知らない。
俺は海水準が低下していることから、中東とアフリカはシナイ半島で陸続きだと、つい1年前まで信じ込んでいた。
また、200万年前、ヒトが開通させたスエズ運河は、存在しているはずはない。
ノイリンからスエズまで、3000キロもある。この距離を往復できる航空機を、我々は保有していない。
双発双胴輸送機のC-119ボックスカーを特別に燃料過積載状態にして、北サハラ東部の強行偵察を行った際、アフリカとユーラシアが陸続きでないことがわかった。
この偵察は、北サハラ東部の白魔族の根拠地を探すことが目的だったが、当然あると思い込んでいたシナイ半島が消えていて、非常に驚いた。
おそらく、アラビアプレートがユーラシアプレート寄りに動き、それが原因で起きた地殻変動によって、シナイ半島が消えたのだろう。紅海自体、地溝帯の一部であり、大地の裂け目だ。
あり得ないことではない。
この大発見以来、大西洋を横断するか、地中海からインド洋に入るか、どちらが世界の情勢を知るのに都合がいいか、我々の居館では論争が続いている。
パナマ海峡はセロが、メッシーナ海峡は白魔族が封鎖している。
幅が200キロもあり、セロの監視が甘いパナマ海峡か、幅が最短2キロしかないが、弱体化が著しい白魔族が支配するメッシーナ海峡か、そのどちらが突破しやすいか、それが話題だった。
千早が続ける。
「メッシーナ海峡は狭く浅いけど、白魔族が通過を妨害するなら上空から援護すればいいと思うの。
35キロの壁は壊しちゃダメだけど、壁のアフリカ側はメッタメタに叩いてもいいじゃないかな。
海と空から攻撃されたら、白魔族はどうにもできないでしょ」
千早がパナマ海峡突破に対する懸念を示す。
「でも、パナマ海峡通過は、空からの支援はできないから……。
遠すぎて……。
セロの飛行船に追撃されたら、逃げ切れないよ。高射砲で一時的に追い払えても、10日も20日も追われたら、乗員は参っちゃうんじゃないかな。
いままでだって、そういうことたくさんあったから……。
セロの飛行船に追われて、ヒトの防空圏に逃げ込もうと、必死に船を走らせること、船乗りなら必ず経験するって聞いたよ」
千早の意見は正論だ。
正論過ぎる。
反論の余地がない。
食堂は、沈黙が支配した。その居心地の悪さをどうにかしようと、相馬悠人が年の功を発揮して発言する。
「千早の意見はもっともだが、バルバドスにも意味はある。
バルバドスを占領できれば、セロを牽制できる。滑走路を造れば、不沈空母バルバドス号の完成だよ」
俺は笑い出したかった。
まさか、相馬悠人が“不沈空母”なんていう言葉を使うとは思わなかった。
200万年前の日本国内閣総理大臣がアメリカのメディア相手に発した「日本をアメリカの不沈空母にする」という世迷い言から生まれた物騒な言葉を使うとは!
だが、バルバドスは“ノイリンの不沈空母”になり得る。
セロに押されっぱなしのヒトにとっては、バルバドス攻略が反撃の狼煙になる。
同時に、ヒトの現有戦力では、6000キロ以上離れたバルバドスを恒常的に維持できない。
性急に事を運べば、バルバドスは孤立して“大西洋の餓島(ガダルカナル)”になってしまう。
その点、千早のメッシーナ海峡突破作戦は、現実的だ。
シチリアが北アフリカ・チュニジアと陸続きであるこの世界には、200万年前にチュニジア沖に存在したシチリア海峡はない。
ティレニア海と東地中海を結ぶ海路は、幅わずか2キロのメッシーナ海峡しかないのだ。
ヒトがここを突破すれば、インド洋への道が開きヒトの行動圏は劇的に広がる。
俺は千早の意見を支持し始めている。
千早が続ける。
「メッシーナ海峡を一度か二度突破しただけじゃ、意味がないと思うの。
いつでも好きなときに通過できるようにしないと。
そのためには、ティレニア海に白魔族に対抗する拠点、滑走路とか、が必要なんじゃないかな。
そこから飛び立って、船を護衛するの。
コルシカ・サルディーニャ島北端に拠点を設ければ、700キロくらいあるけど、ギリギリ、戦闘機の行動範囲なんじゃない?」
ララが答える。
ララは戦闘機乗りになった。精霊族初のパイロットであり、すでにセロの飛行船との実戦を経験している。
「私たちのオルリクなら、正規で2000キロ、ドロップタンクを着ければ3000キロ近く飛べる。
作戦圏内だよ」
ディーノの孫娘シルヴァが問う。
彼女は23歳になっていた。左手で、美しい金髪をかき上げる。
「島の北端に拠点を作る理由は?
南端からならば、メッシーナ海峡まで500キロくらいだから距離が短い分、上空直掩には有利でしょ。
それにドロップタンクが要らないから、対地ロケットも積める……。
南端でなくても、ティレニア海沿岸の島の中央付近とか、でもいいように思うけど……」
千早が答える。
「ノイリンから遠すぎる……。
シルヴァの意見は重要なんだけど、もしコルシカ・サルディーニャ島の拠点を放棄しなければならなくなったら、850キロは遠すぎる、かな。
北端ならノイリンから550キロだし、カラバッシュまでは300キロ。いざとなれば、船でも逃げられる」
イサイアスが発言。
「白魔族は弱体化している。
我々が確保したコルシカ・サルディーニャ島の拠点に、白魔族が攻撃してくる可能性は低いぞ」
アンティが受けた。
「チハヤはセロを警戒しているんだ。
だが、島の南端とはいわないが、南側に不時着用の滑走路は必要だぞ。
飛行機の運転手には、俺やイサイアスみたいな飛ばすだけで精一杯のヘタックソもいるんだから」
チュールが一言。
「チハヤの案は、現実的で怖いよ」
マトーシュが意見を述べる。
「コルシカ・サルディーニャ島は、太陽の光が強い。
藻が育つから、燃料がたくさん作れる」
デュランダルが反対する。
「いいや、島の拠点はいつでも放棄できるようにしておいたほうがいい。
セロとの戦いは、これから始まるんだ。いままでは、ただの小競り合いに過ぎない。
だから、この先の展開が読めない。
それと、西アフリカのヒトを助けなくてもいいのか?
このままじゃ、セロに皆殺しにされてしまうぞ」
トゥーレが答える。
「いま、西アフリカ大西洋岸で生き残っている人々は、ヒトのルーツを忘れてしまっているけれど、農耕はしているんだ。大きな石造建築もあるし……。
文字は忘れていないし、暦だって作っている。
我々と同じじゃないけど、力になれると思うんだけど……。
言葉がまったく通じないから……」
ウルリカが躊躇いがちにいう。
「コルシカ・サルディーニャ島北端に拠点を築き、西アフリカの人々を助け、ジブラルタルを再占領したら、ノイリン北地区の財政は破綻よ」
ウルリカのパートナーである相馬悠人がため息をつく。
「もう、ノイリン北地区だけで、ことを決せられる時期は過ぎたんだよ。
最低でも、ノイリン全域で対処しないと……」
ノイリン北地区選出議員であり、ノイリン行政の一端を担うウルリカが結論を出す。
「時間がかかっても、議会に図らないと」
精霊族ララの母親ミューズが賛成する。彼女もノイリン北地区選出議員だ。
「ノイリンが一丸にならないと、セロに滅ぼされてしまいます」
好むと好まざるとにかかわらず、ヒトの行動圏は、西アフリカ大西洋岸と地中海全域に広がりつつあった。
世界は平板だと考えている人々も、けっこう多い。実際、ロワール川流域一帯におけるヒトの行動圏は狭く、古代ローマ帝国ほどの世界観もない。
これは、現実だ。
ドイツ出身のロシア人天文学者フリードリヒ・フォン・シュトルーヴェは、子午線弧長の三角測量を265カ所の測量点を設けて行った。総距離は2800キロに達する。
19世紀前半のことだ。
この遠大な科学的調査によって、地球の大きさの確定と地球が球体であることを実証している。
この世界では、地球が球体であることを主張しても宗教裁判にかけられたりはしない。 蛮族のシャーマンの中には、この主張をあざ笑ったり、強硬に抗議するものがいる。
だが、外洋に出る船乗りは経験的に海水面が平面でないことを知っている。彼方から接近する船は、まずマストの先端が見え、徐々に船体すべてが見えてくるからだ。
ノイリン北地区が保有する双発攻撃機FMA IA 58 プカラにロケットエンジンを追加し、高度1万5000メートルまで上昇させたことがある。
この高度まで上がれば、半径450キロを見渡せる。地中海の形状や大西洋岸海岸線の形状も画像として記録できる。
攻撃的なシャーマンには、この画像を見せ、納得できなければ、高度1万5000メートルに連れて行く、という。
ほとんどはこれで黙るし、それ以上何をいっても部族の中で浮くだけだ。一歩間違えれば、シャーマンとしての地位を失う。
そもそも、ほとんどのヒトにとって、地球が平面だろうが、球体だろうが、関係なんてない。
東地中海方面だが、イタリア半島東のアドリア海は存在しない。また、エーゲ海もない。この一帯は、草原か森林だ。砂漠化の傾向は見当たらないが、寒冷が原因の乾燥傾向にある。
黒海はかなり小さい。クリミア半島はない。黒海から東地中海に流れる大河がある。
クレタ島とキプロス島は存在している。シリア、レバノン、イスラエルの海岸線は、大きな変化はない。
東地中海はインド洋とつながっている。
スエズ地峡はない。シナイ半島がなく、東地中海と紅海は幅200キロから350キロの海峡でつながる。紅海はインド洋につながる。
このため、ユーラシアとアフリカは、地続きではない。したがって、北アフリカにはドラキュロが生息しない可能性がある。
白魔族が、北アフリカを拠点とする理由は、これかもしれない。
地中海は3分割されている。東から東地中海、ティレニア海、西地中海。
東地中海とティレニア海には、シチリア北端とイタリア南端の間に狭い海峡がある。シチリアは北アフリカと地続きで、島ではない。
イタリアの西にあるコルシカ島とサルディーニャ島はつながり大きな島になっている。
コルシカ・サルディーニャ島と半島ではないイタリアに挟まれた海域がティレニア海だ。
コルシカ・サルディーニャ島とユーラシアの間には、幅20キロほどの海峡がある。
コルシカ・サルディーニャ島と北アフリカの間には、幅75キロから90キロの海峡がある。
この二つの海峡で、ティレニア海と西地中海はつながる。
西地中海は、イベリア半島先端と北アフリカに挟まれたジブラルタル海峡で大西洋とつながる。
アフリカの気候は、200万年前とは大きく異なる。
北アフリカ・サハラは年間を通して雨が降り、気候は温暖、湿度はやや高め。
サハラ以南は、ナミビア、アンゴラ、ジンバブエ、モザンビークのラインまで、極度に乾燥している。
アフリカ南部は森林に覆われている。
西ユーラシアに攻め込んだセロは、ドラキュロの脅威に接し、撤収してしまった。
あの残虐で排他的な種は、ドラキュロという食物連鎖の頂点に君臨する、不可解な生物によって駆逐されてしまった。
皮肉なことに、ヒトの天敵であるドラキュロによって、ヒトはセロの侵略から守られた。
一時的に、ではあるが……。
俺は、ノイリン中央地区の議場にいる。
まもなく、20歳になったマトーシュの報告が始まる。トルクとライマが育てた、自慢の息子だ。高身長で、発達した筋肉を持つマッチョだ。
この会合は、ノイリン北地区独自のものだが、北地区の総意に基づいてはいない。表向きは、有志による内々の報告会だ。
だが、フルギアからはアシュカナンの有力者が、ヴルマンからはノイリン駐在大使が出席している。ノイリン他地区からの傍聴者も多数いる。
表向きは有志による地理の勉強会なのだが、実際は今後の行動方針を探る重要な報告会なのだ。
マトーシュが演題に立つ。
報告が始まる。
「いままでは高高度からでしたが、今回は低空からティレニア海と東地中海を結ぶメッシーナ海峡を偵察しました」
報告会場となっている中央地区の議事堂は、数百人が集っているにもかかわらず静寂の中にあった。
マトーシュが続ける。
「ご承知のように、メッシーナ海峡の幅は最短2キロしかありません。
水深は現状では不明ですが、ジブラルタルが残した資料によれば、最大でも4メートルとされています。
この水深では、大型船は通過できません。
今回の偵察で傍証ですが、それを裏付けたように思います。
この写真を見てください」
50インチ液晶モニターに高解像度画像が映し出される。
「この防壁は、白魔族が築いたものと推測しています。
推定、高さ20メートル、総延長35キロ。石造製と思われます。
この防壁、または城壁は、間違いなく人食いの渡海を阻止するために設けたのでしょう。
よく知られているように、人食いは水を嫌います。水深が50センチ以上あれば川を渡らないともいわれますが、実際は水に落とされれば泳ぎます。
ジブラルタル海峡は、潮流が速く、水深があり、幅も20キロに達することから、人食いは北アフリカに渡れません。
東地中海はインド洋とつながっています。地殻変動によって広域が陥没したスエズ海峡の幅は、200キロ以上あり、ユーラシアとアフリカは陸続きではありません。
ユーラシアとアフリカの接点は、メッシーナ海峡だけです。
メッシーナ海峡を封鎖すれば、人食いはアフリカに渡れません。
アフリカには人食いがいない可能性があります」
俺の横に座るデュランダルがボソッと呟く。
「白魔族は、メッシーナ海峡を渡って中央平原まで出張ってきていたのか」
彼の仮説は、間違いではないだろう。
マトーシュの報告が続く。
「もし、アフリカの一画、スエズ海峡とナイル川に挟まれた一帯を確保できれば、人食いの脅威にさらされることなく、ヒトはインド洋に抜ける拠点を築けます」
俺たちは何回かの中東方面航空偵察で、信憑性のある噂とされていた「カフカス山脈以南にはドラキュロはいない」はまったくの誤りであることを知っていた。
アナトリアやイラン高原には、相当数のヒトが住んでいるとか、発達した機械文明があるといった噂は、まったくの虚構だった。
そうあってほしいと願うヒトの心が作り上げた幻だ。
知る限りヒトは、西ユーラシアと西アフリカのごく一部に生んでいるだけだ。
西アフリカ・ギニア湾東部沿岸のヒトは、過去数十年の間に絶滅したようだ。セロによる攻撃が主たる原因だ。
西アフリカ大西洋沿岸(セネガル、ギニア、シエラレオネ、北部リベリア方面)には、まだヒトが住んでいる。
ただ、ヒトのルーツを完全に忘れており、数百年の時をかけて独自に文明を再構築した人々だ。
クマン王国という、中世的王制の封建国家が存在するが、精霊族やヴルマンによれば、セロによって滅亡の淵に追い込まれている。
距離がありすぎて、我々との連携はかなり難しい。
一方で、若者を中心に「セロから守るべきだ」とする意見は根強い。
そんな余力は、ノイリンを含む西ユーラシアのヒト世界にはないのだが……。
マトーシュの報告が続いている。
「……、メッシーナ海峡の防壁には、砲が装備されています。
画像を解析した結果では、砲身長24口径、砲口口径37ミリと推測しています。
これが800門確認されました。平均45メートル間隔で設置されています。
人食いの渡海を防ぐと同時に、ヒトの襲撃にも備えているのでしょう。
それと、白魔族の拠点は、北アフリカのティレニア海沿岸であり、東地中海沿岸には拠点はありません。
白魔族は現在、西地中海東端付近でセロと激しく戦っています。
仮にですが、ヒトがナイル川東岸を確保しても、手出しはできないでしょう」
だが、北アフリカにヒトが住んだ形跡はない。一考の余地はあるが、確保といっても、維持は簡単ではない。ノイリンからナイル川河口まで3000キロもあるのだ。
マトーシュの報告は確信に至る。
「……、ですが北アフリカの一画を確保することは、事実上不可能です。
航空機での往復は不可能な距離で、海路だとメッシーナ海峡で白魔族の砲列に阻止されます。
北アフリカに拠点を設けるならば、アフリカを一周しないと……」
マトーシュの報告が終わる。
次はチュールだ。彼はスリムな体型だが、筋肉は発達している。ごついマトーシュよりも、優男風だ。見かけとは異なり、律儀で真面目だ。
「まず、赤道以北の大西洋は、セロの支配下にあります。
今回は、セロの哨戒網を突破して、南大西洋に進出しました。
潜水輸送船ソードフィッシュ号は、赤道を通過する際、水深80から120メートル、速度3ノットで800キロ、6日間連続で潜航したまま航行しました」
議場がどよめく。
ソードフィッシュ号の性能に驚いているのだ。
「往路は南北アメリカ東岸を、復路はアフリカ西岸に沿って航海しました。
アフリカ南部西岸と南アメリカ東岸の地形は、遠い過去と大きな差はありませんでした。
南アメリカと南極半島とは1000キロ離れていますが、この海域は完全に結氷していました。南極と南アメリカは氷床によって、陸続きです。この氷床は、パタゴニアの南半分を覆い尽くしています。
ホーン岬も、マゼラン海峡も、氷に覆われていて実質存在しません。
南アメリカ南端を通過して、太平洋に至る海路はありません。
この巨大な氷床は、真の冬の前後数年間で急速に発達したものと推測していますが、温暖期に入った現在でも海と陸を覆いつくしています」
議場は静まりかえった。温暖期に入ったのに、まったく暖かくならないのだ。年間平均気温は真の冬の厳冬期と比較して、わずか0.75度上昇したに過ぎない。
農作物の生育は悪く、人々の焦燥は大きい。
だが、この寒さはドラキュロの活性化を抑止している。
チュールが続ける。
「アフリカ南端から南極までの距離は約4000キロあります。結氷はしていませんが、多数の氷山がアフリカ南端に達しています。
これら氷山を避けて、1回か2回、突破してアフリカ東岸に達することは可能でしょう。
ですが、安定した航路を開くことは不可能です。岩礁、暗礁とは異なり、氷山は動くので……。氷山を避けるための海図は作れません。
それに、赤道上大西洋の強い低気圧を避ける方法は潜水船以外ありません。輸送力は限られます。
スエズまでたどり着けても、燃料の補給なしでは戻ってはこれません。
私たちは、地球の一画に閉じ込められています」
チュールが降壇するが拍手はない。ジブラルタル出身者からの情報や、その他の状況から、大西洋の南端・北端が氷で閉ざされ、巨大な塩湖のようになっているのではないか、と誰もが想像していたのだが、その事実を突きつけられて、拍手をする気にはなれないのだ。
画像を見せながらの説明で、洋上に浮遊する巨大な氷河を何度も見せられれば、信じるしかない。
相馬悠人が登壇する。
「現在、陸地には大量の水が氷床として封じられています。
この水の総量を計算により類推し、過去のデータと照らし合わせて、西インド洋から赤道以南西太平洋の現状をシミュレーションしてみました。
我々が住む地球の気候は、いまから207万年前から201万6000年前のヴュルム氷期に似ています。
ただ、現在のほうがやや暖かく、陸に封じ込められている水の量は3パーセントほど少ないと想定しています。
ヴュルム氷期の時代、タイランド湾から南シナ海にかけてスンダランドと呼ばれる陸地がありました。
また、ニューギニアとオーストラリアは一体の陸地となり、サフルランドと呼ばれていました。
どちらも地殻変動によって生まれた陸地ではなく、水が陸地に封じ込められて起きる海退によって、海水準が低下して陸地となりました。
ヴュルム氷期でも、スンダランドとサフルランドは陸続きではありませんでした。
東南アジアからオーストラリアには、有胎盤類は移動していません。
海を渡る技術を持つヒトと、ヒトと行動を共にしていたイヌだけがオーストラリアに渡ったのです。
最初にオーストラリアに渡ったヒトは、207万年前から205万年前でした。
ちょうど、ヴュルム氷期の真っ只中です。
ユーラシアとオーストラリアの境界には、ウォレス線やウェーバー線といった生物相による区分があります。
海水準が低下しても、ここには海峡がありユーラシアからオーストラリアへ、あるいはその逆、大陸間を動物が移動できなかったのです。
現在の環境でも、そうなっているとのシミュレーション結果が出ました。
スンダラントとサフルランドは陸続きではありません」
議場の反応はない。
相馬の説明が、どんな意味があるのかわからないのだ。
モニターにスンダランドとサフルランドの予想される海岸線図が映し出される。
議場がどよめく。相馬悠人が指摘する問題点がわかったからだ。
「この図を見てわかる通り、マレー半島とスンダ列島が融合したユーラシア東南部、ニューギニアとオーストラリアが一体化した大陸の間には海峡が存在します。
ですが、マレー半島とスマトラ島の間にあったマラッカ海峡は存在しません。
西太平洋に進出するならば、かなりの遠回りとなります」
議場が静まりかえる。
ヒトには焦りがあった。このままでは、セロがドラキュロのいない地域の支配者となる。
そして、ユーラシアは、ドラキュロの世界。ドラキュロがいない北アメリカと南アメリカは、セロの世界。
そのセロが西アフリカに上陸し、一部の地域ではヒトを絶滅に追い込んだ。
ドラキュロがいない地域にヒトの橋頭堡を築こうとすれば、必ずセロと衝突する。
西ユーラシアのヒトは、東からドラキュロに迫られ、西からセロに攻撃されている。
戦わずに生き残る術はないのだが、動こうにも何かが足りず八方塞がりなのだ。
再度、チュールが登壇する。
いよいよチュールが、核心にせまる報告を始める。
「私たちは往路で、北アメリカ東海岸を海上から偵察しました。
北アメリカは、ノバスコシア付近まで氷床に覆われています。
氷床南端から1000キロほど南に下がると比較的温暖になり、海岸部にはセロが築いたと思われる街が点在しています。
さらに1000キロ南下すると、その付近がセロの中心地らしく、大型の建造物が一気に増えます。
北アメリカ東岸の海岸線は、200万年前の地図と比較すると、まったく異なっており、フロリダ半島と呼ばれていた大陸から突出した陸地は存在しません。
ユカタンとキューバは陸続きです。
かつてメキシコ湾と呼ばれていた海域に、巨大な内海が存在します。この内海をメキシコ海と名付けました。
メキシコ海は、フロリダ沖とキューバの間に大西洋とつながる海峡があります。
カリブ海も内海になっています。
キューバ、ハイチ/ドミニカ、プエルトリコ、そしてグレナダまでが、地峡のようになっています。
これらは、ヘリコプターによる上空からの偵察で、目視確認しています」
チュールが概略の海岸線図と、ユカタンやカリブ海を撮影した画像をモニターに表示する。
さらに続ける。
「カリブ海は、南アメリカのトリニダードトバゴ沖、ハイチとキューバの間にある海峡の2カ所で大西洋とつながっています。
セロの中心地は、フロリダからバハマにかけての大西洋岸一帯、およびメキシコ海北岸だと推測しています」
チュールが手元のノートに目を落とし、呼吸を整える。そして続ける。
「キューバからトリニダードトバゴに至る地峡の沖に島があります。
この島の面積は800平方キロ程度、今回の調査の限りでは無人島です。セロもいません。
200万年前には、同じ位置にバルバドスと呼ばれる430平方キロほどの島国があったそうです。
セロの中心地から2300キロ以上離れています。
パナマ地峡はありません。南北アメリカは、幅200キロのパナマ海峡によって分断されています。いまから500万年前のアメリカ大陸南北大交差(パナマ地峡成立によって、南北アメリカの動物が相互に移動した事変)以前の地形に似ています。
セロは、カリブ海と大西洋を結ぶパナマ海峡に軍事的拠点を置いていますが、それはセロ同士の戦いに向けたものです。
またセロは南アメリカ北部に大規模な植民を行っているようですが、パナマ海峡の監視と防衛は比較的手薄なようです。
また、カリブ海全体を支配しているわけでもなさそうです。
セロはいくつもの国に分裂しており、ヒトから見れば自滅的な抗争・戦争を繰り返しています。
現下の状況を鑑みて……」
俺は、チュールの出した結論を知っていた。だが、それが受け入れられるとは考えていない。ヒトは生きるだけで、精一杯なのだ。
だが、承知の上で彼はいった。
「バルバドスを攻略し、ここに前進基地を築き、パナマ海峡を突破すれば太平洋に入れます。
トリニダードトバゴ付近にセロは棲息していないようなので、ここは占領しなくてもいいでしょう」
議場に嫌な沈黙が満ちる。
チュールの説明では、バルバドスに拠点を築く論拠が弱い。どこかに拠点を築くにしても、トリニダードトバゴやグレナダでもいいはずだ。
バルバドス以外では、カリブ海内のキュラソー島も候補に挙がった。
島に限っている理由は、過去数年のセロとの接触において、セロが大型の水上船を使った形跡がないからだ。セロは陸上移動はいとわないが、海上は飛行船に頼る傾向が強い。
そして、飛行船は数に限りがあるらしい。島を拠点にすれば、継続的に維持できる可能性が高い。
キュラソー島を外した理由は、カリブ海を封鎖されると孤立するからだ。その点、バルバドスは大西洋上にある。
今回の報告会では、質問は受け付けない取り決めになっている。
だから、チュールの“バルバドス攻略”には突っ込みは入らない。
そのはずだった。
東南地区の機械商人が手を上げた。
進行担当が静止する。
「この報告会では、質問は認められません」
中年の大柄な商人が、進行担当に答える。
「それは知っているよ。
質問じゃなくて、意見だ。
意見をいうな、という取り決めはないだろ」
その通りだ。
進行担当の30代女性が黙る。
「それじゃぁ、一言。
バルバドスを落とす前に、カナリア諸島に拠点を築くべきだ」
南西地区の毛皮商人が手を上げる。
進行担当の「あのぅ」という言葉を制し、「俺も意見だ。かまわんだろ」と。
「俺は、北アメリカの北側、大西洋東岸に中間拠点を築くほうがいいと思う」
南西地区の何人かが「そうだ!」と賛意を示す。
西地区の船舶技術者が発言。
「大西洋上中間付近には、島がない。どこを中間拠点にしようが、アゾレス諸島以外は6000キロも離れている。アゾレス諸島からだって、4700キロはあるだろう。
それを考えたら、全通甲板を持つ大型の輸送船を2隻建造するほうがいい。北地区が1隻持っているだろう?
あれをもう1隻造るんだ。
その船があれば、甲板上でヘリコプターの運用ができるし、大型機の輸送もできる。
できれば、北地区の船よりも大型がいい。全長150メートル、全幅15メートルの船体で、船首に高射砲を搭載し、船体各部に高射機関砲を装備すれば、セロの哨戒飛行船に発見されても撃退できるんじゃないか?
エンジンは、西地区のガスタービンを使えば最大25ノットは発揮できるよ」
その意見に北地区の発電エンジニアが反論する。
「ガスタービンじゃぁ、ダメだよ。
燃料を食いすぎる。
ディーゼルがいい。ディーゼルならば、航海速力12ノットで、8000海里以上、1万海里の航海距離だって不可能じゃない。
ガスタービンじゃ、その半分がやっとだよ。
でも、大型の船はほしいね」
俺は動揺していた。セロを刺激したくない、という意見が大勢を占めると考えていた。だが、ヒトがロワール川流域で繁栄を築くことはできない。
ドラキュロの侵入を食い止められないし、地下資源も少ない。ドラキュロの侵入を食い止めたら、セロが舞い戻ってくる。
それと、セロは北アフリカ西部、アルジェリア西半分とモロッコ付近沿岸を制圧した。白魔族は押されている。
白魔族という食人動物は、セロによって滅ぼされようとしている。
それが終われば、次はヒトだ。セロは滅ぼす順番を変えただけだ。
ヒトの多くが、それを理解しているのだ。
だが、全長150メートル級の船を建造することは容易じゃない。積載量で数千トンに達するだろう。
ジブラルタルで入手したアッパーハット号の船体をモデルにすれば、建造できるかもしれないが簡単ではない。
しかし、あらゆるデータが200万年後に持ち込まれているから、我々が希望するような船の設計データが存在する可能性はある。
それと、西地区が全長90メートル、全幅8メートル、ガスタービンエンジン2基2軸、最大船速35ノットの高速武装貨物船をロワール川河口の造船所で年1隻のペースで建造している。
無理だ、不可能だ、と主張する根拠はない。
本日4人目の登壇。トゥーレだ。
どこで、どういういきさつがあったのかは知らないが、トゥーレはイエレナと同居し、子供はお姉ちゃんと弟くんの二人。
「北アフリカの情勢について、報告します。
セロは事実上、ジブラルタル海峡を制圧しました。北アフリカ側に長距離ロケット砲が多数配備されており、ヒトの船は安全な海峡の中央を通過できません。
ですが、ユーラシア側は占領されていないので、座礁の危険を承知で、ユーラシア沿岸至近を航行することは可能です。
精霊族と鬼神族の船は、攻撃こそされませんが、積荷を検閲されており、海峡通過を躊躇う状況が続いています。
精霊族と鬼神族は、セロとの戦いが近付いていることを確信しているようです。
ただ、現状、セロは白魔族と戦っています。詳細は不明ですが、双方とも相当な消耗戦となっているようです。
ノイリンの情報収集活動、航空偵察の分析では、セロと白魔族の戦いは終盤に入っているようです。
かつて、チュニジアと呼ばれていた土地が白魔族の本拠地であることは、ほぼ確実ですが、セロはチュニジアの西に迫っています。
エスコー川(ローヌ川)河口から西100キロの街カラバッシュは、頻繁に偵察機をチュニジア上空に侵入させていますが、これを嫌ったセロが数カ月前、この街を爆撃しようと、中型飛行船10隻程度を差し向けたようです。
カラバッシュ航空隊とセロ飛行船の間で、激しい空中戦が起きたとのヒトの目撃情報があります。
ご存じのように、カラバッシュは、ヒトと精霊族の混血の街。また、開放的な街でもあり、情報の統制や秘匿とは無縁なのですが、今回の空戦については多くのことがわかっていません。
カラバッシュの軍が、相当な損害を受けた可能性もあります。
西ユーラシア内陸は寒冷から抜け出せていませんが、西地中海、ティレニア海、東地中海沿岸は、温暖といっていいでしょう。
住みやすい土地です。
早晩、セロが侵出してくるでしょう。
それを阻止するためには、ジブラルタルを再占領する必要があります」
俺とデュランダルは、顔を見合わせた。トゥーレがそんなことを考えていたなんて、驚きだ。
トゥーレの妻イエレナは、アシュカナンの指導者であったドネザルの娘だ。ドネザルは政治家・軍人の現役を退いており、街の郊外で農場を営んでいる。
トゥーレはノイリン域外を旅して、情報収集を続けていたが、彼の存在があまりにも有名となり、また彼の卓越した情報収集能力を恐れて、各街が警戒したことから隠密行動ができなくなってしまった。
現在、彼は俺たちの銃器商社の幹部になっている。
ドネザルは、イエレナを尋ねて頻繁にノイリンにやって来る。滞在期間も長い。そして、この議場にもいる。
現役を退いてはいても、フルギア系の人々にとって、彼の存在は大きい。
また、我々“異教徒”とフルギア系との深部における接点として、イエレナとクラーラは大きな役割をしている。
クラーラは、東征王アプリエスの遺児であり、ベルトルドとノイリンに居を構えた。
議場がざわつく。
デュランダルが「6000キロも離れているバルバドスの攻略なんて、現実離れしているから、反対はないのだろうが、ジブラルタルとなるとねぇ……」と。
俺が「ジブラルタルには、誰もいない。一時期、鬼神族が進出したけれど、セロの攻撃を受けて撤退している。
しかし、西地中海の出入口は押させたい」というと、背後から声がかかる。
「ヴルマンは手を貸すぞ。
我らは鬼神族との取引ができなくて、大損害なんだ」
声をかけてきた女性は、ヴルマンの大商人だ。
過去6年で、ヴルマンの商船は帆走から内燃機関によるスクリュー推進に変わった。ヴルマンの異教徒との接触による社会変化は、フルギアよりも大きい。
女性商人が笑いながらいう。
「ヴルマンの男がウホウホやっている間に、女は異教徒から多くのことを学んだ。まだ追いついてはいないが、試した真似事は全部できた。
ヴルマンの女は、異教徒の足手まといにならないよ」
彼女のいう通りだ。ヴルマンだけじゃない。フルギア系の変貌も激しい。
ヒトは一枚岩ではないが、共通の目標には協調して対処できる。
その態勢はある。
トゥーレが続ける。
「チュールがいうように、バルバドスという島を攻略すれば、太平洋に進出できるでしょう。
そして、世界がどうなっているのか、ヒトはどうやって生きていくのか、その答えが見つかるかもしれません。
しかし、アゾレス諸島まで2300キロ、アゾレス諸島からバルバドスまで4700キロもあります。
セロは補給を妨害するでしょうし、バルバドスは孤立してしまう可能性が高い……。
私は……。
白魔族は弱体化しています。
まず、我々は白魔族の支配下にあるコルシカ・サルディーニャ島の北端に侵攻し、橋頭堡を築き、飛行場を建設します。
同時に、西地中海に船団を送り込み、コルシカ・サルディーニャ島からの航空支援を受けて、白魔族が封鎖するメッシーナ海峡を突破します。
コルシカ・サルディーニャ島北端とユーラシア間の海峡は、幅35キロから20キロほど。
コルシカ・サルディーニャ島南端と北アフリカとの海峡は、幅が75キロあり、この海域の白魔族による支配は完全でなく、航行が可能です。
私は、スエズ海峡経由でのインド洋進出を提案します。
コルシカ・サルディーニャ島北端からアデン湾の出口にあるソコトラ島まで、6000キロです。
ソコトラ島からインド亜大陸まで2300キロ、ヒトの文明があると一部で推測されているマダガスカルまで、2800キロ。
確認すべき、ニュージーランドまでは、1万3000キロもありますが……」
ヤジが入る。おそらく、ジブラルタル出身者だ。
「パナマからだって、1万2000キロだ!」
ヒトの社会では、ヒトがこの世界で生き残るには、ドラキュロがいない土地を探し、そこに橋頭堡を築く必要がある、という非現実的な作戦が必要であることを理解され始めている。
ノイリンはジブラルタルからあらゆる物資を回収した。「床に張ったコンクリートまで剥がした」と悪口が広まるほど、何から何まで持ち去った。
だが、ジブラルタルには、修復可能な建物が残っており、港湾施設や滑走路、ザ・ロックの中に造られた地下乾ドックは残っている。
また、ノイリン北地区は、年に数回、ジブラルタルを偵察している。
ジブラルタルを再占領して、長期間維持することは、ノイリン北地区だけでは不可能だ。ノイリン全地区、いやヒトの力を結集しないと無理だろう。
それと、ジブラルタルでは作物は育たない。飲料水も確保できない。再占領すれば、重荷になる。
トゥーレの話が続く。
「ジブラルタルの対岸はセウタです。ここには、白魔族の街と軍事拠点がありました。
現在、セロがセウタを占領しています。
ジブラルタルとセウタの間は、23キロあります。ジブラルタル海峡の最短は15キロで、この距離があればセロの長距離ロケットは対岸、つまりユーラシア側には届きません。
セロの長距離ロケットの最大射程は6000メートルほどで、ユーラシア側に多数の灯台を設置して、ユーラシア側を航行すればセロの干渉を受けません」
デュランダルが小声でいう。
「灯台の設置はヒトだけじゃ無理だ。精霊族や鬼神族の力も借りないと」
その通りだ。
トゥーレの話。
「灯台の設置は何年もかかるでしょう。
灯台設置完了までの期間、ヒトの船は天候のよい昼間しか航行できません。
夜間航行を避けるには。船にとって安全な泊地が必要です。
それと、ジブラルタルには真水がありません。
しかし、ジブラルタル湾沿岸全域を見れば、ジブラルタル湾には比較的大きな川だけで2本流れ込んでいます。
ジブラルタル湾沿岸全域を確保すれば、ヒトにとって強力な拠点になります。
ヒトは従来、地中海地方に拠点を持っていませんでした。
ジブラルタル湾沿岸は、精霊族、鬼神族とも領有したことはなく、唯一、ニュージーランド勢力が短い期間ですが確保していました。
このことから、精霊族、鬼神族とも、ジブラルタル湾沿岸にヒトが進出することを容認すると思います。
ジブラルタルは、大西洋に対するヒトの拠点としても有効です。
私は、大西洋への進出、インド洋への航路開拓のどちらも、ジブラルタル沿岸の完全領有がその一歩となると考えます」
俺たち“老人”は、保守的になりやすい。だが、若者は違う。無謀と思えるほど、未来を見据えている。
デュランダルが呟く。
「いよいよ、中央平原制圧だな」
それは、大事の前の小事だが、ヒト世界の拡大には役立つ。推定30万の人口は魅力だ。白魔族を神の使徒と崇めていたフルギア人でさえ、変わったのだ。ヒトのルーツを知る中央平原の人々が、真実を受け入れないはずはない。
同時に、この一帯にドラキュロが侵入したらどうなるか?
30万の武装した難民が生まれる。
夜の居館食堂は、激しい議論に包まれていた。論者の中心は、10代後半から20代前半まで。
おじさんたちは、黙って聞いているだけ。アンティやイサイアスでさえ、出る幕じゃない。
マトーシュが「ヒトがたくさんいるならば、俺たちの存在を知らせるべきだ」といった。
チュールが反論する。
「中央平原の人々は、白魔族のいいなりだ。彼らに意味はない」
マーニが兄を掩護。
「私が中央平原に行ったら、機関銃を撃ちまくる。そうすれば、我々が白魔族よりも怖い存在だと理解させられる。
その程度の人々」
シルヴァがマーニに賛意を示す。
「中央平原の人々は、機械や車輌のために子供を誘拐して、白魔族に渡していた。
彼らと協調するなんて、絶対に無理」
アンティが何かをいおうとしたが、イサイアスが制止する。隣に座っているアンティの右腕を左手でつかみ、首を左右に振る。
トゥーレの妹で、20歳になったアマリネもシルヴァやマーニと同じ意見。
「中央平原の人々は、何も作れない。何かの役に立つとは思えない」
チュールたちは、中央平原では恐い思いが多かった。辛いこともたくさんあった。
だから、中央平原を全否定しているのだ。
その気持ちはわかる。
わかるのだが……。
俺はチュールたちとは、別な理由で中央平原、つまり北イタリアの一帯、200万年前にミラノやトリノがあった地方は、放棄せざるを得ないと考えていた。
アルプス以南の北イタリアは少しの気温上昇で、確実に東と南からドラキュロに侵入される。年間平均気温が0.5度上昇したら、ドラキュロの侵入が始まる。
あの一帯に住む人々は、かつてアルプスと呼ばれていた山岳地帯に逃げ込む以外、逃れる術はない。
現在の気象条件では、アルプス南麓の標高1000メートル以上での冬期における生存は不可能だ。極寒に耐え得る特殊な建物があれば別だが、そんなものはありはしない。岩陰や洞窟に避難するしかない。
ドラキュロの顎門〈あぎと〉から逃れたとしても、自然に殺される。
俺は推定30万のヒトが全滅してもいい、と考えているわけではない。現状において、30万の難民が発生した場合、彼らを誘導する場所がないのだ。
ロワール川とソーヌ・ローヌ川周辺のヒト社会では、30万もの難民は受け入れられない。食糧不足となり、共倒れになってしまう。
ドラキュロは恐ろしい動物だ。ドラキュロの北上が始まれば、推定30万は瞬く間に2分の1、3分の1に減じるだろう。それでも、15万、10万もの武器を持ったヒトが、我々が住む一帯に雪崩れ込んでくる可能性があるのだ。
争いが起こる。
俺は気温の上昇が、ヒト社会崩壊の引き金になることを恐れている。
幸か不幸か、気温の上昇は顕著ではない。低温は作物の生育を妨げるが、同時にドラキュロの活性を抑えてくれる。
俺は、なるべく早く中央平原と呼ばれている、アルプス以南一帯を調べる必要があると考えている。
また、ヒトが新たな住地を求めるとするならば、それは西ユーラシアの“どこか”と考えていた。
バルバドスはもちろん、ナイル川東岸でも遠すぎる。
千早がおもむろに言葉を発する。チュールとマトーシュの険悪な雰囲気が、場をしらけさせて、沈黙が支配した瞬間を狙った、絶妙なタイミングだった。
「中央平原は危険だよ。
放ってはおけない。
去年のデータだけど、“真の冬”から0.75度年間平均気温が上昇したでしょ。あと、0.5度上昇したら、ライン川以東にいる人食いが活発に動き出すといわれている……。
同じように、中央平原も南や東から人食いの群に襲われると思うんだけど……。
もしそうなった場合、私たちはどうすればいいのかな。
中央平原のヒトたちを助ける?
それとも、追い払う?
私たちに、助ける余裕はあると思う?」
22歳になった優菜が問う。
「千早はどうしたい?」
千早が反問する。
「優菜は?」
「私は、逃げる、かな。
なるべく早く、逃げる場所を探しておく」
「私も優菜の意見に賛成。
ヒトとヒトは、争うべきじゃない……し。
噂だけど、鬼神族はマヨルカ・メノルカ島を極秘に調べているらしい。
鬼神族は、バレアレスを300年前まで支配していたそうだけど、白魔族に奪われてしまった……。
だけど、セロとの戦いで弱体化した白魔族は、バレアレスの大きな島二つを放棄しそうなんだとか。
再占領を考えているんじゃないかな。
鬼神族は、急激な温暖化を警戒しているんだと思う」
トゥーレが説明する。
「バレアレスは、マヨルカ・メノルカ島とイビサ・フォルメンテラ島の二つの島からできている。
ここは、鬼神族の故郷だ。
鬼神族は、人食いが渡れないこの島で最初の農耕を始めたんだ。そして、西地中海北岸に進出した……。
二つの島を合計すると、1600平方キロ以上の面積がある。
すべての鬼神族が移住しても、生活していける面積だね」
優菜がトゥーレに問う。
「精霊族の情報は何かある?」
「精霊族は鬼神族と違って、亜種が多いから一枚岩ではないらしい。
部族、支族間で意見の対立があるんじゃないかな」
精霊族であるララが発言。
「一部の支族は、コルシカ・サルディーニャ島への移住を考えているみたい。
あの島も白魔族が支配していたけど、撤退したらしいから」
白魔族の弱体化は、西地中海方面において勢力の空白を作っている。セロは、それに乗じてはいない。
精霊族と鬼神族は、現在の住地を捨てる意思はない。いままでも温暖化はあったし、それでも街を守ってきた。
それはヒトも同じ。街を捨てようとは思っていない。
だが、最悪の事態に備えて、絶対的に安全な場所、つまりドラキュロがいない場所を求めている。
そういった地域は、白魔族が支配してきた。白魔族の弱体化は、ヒト、精霊族、鬼神族にとって、勢力を伸ばす千載一遇のチャンスではある。
千早が俺に問いかける。
「養父〈とう〉さん、コルシカの北端あたりを確保できないかな。
ノイリンから550キロほどだから、ロワール川河口までと距離的には変わらないと思うんだけど……」
俺は即答した。
「それは無理だ。コーカレイの維持だって大変なんだ。その上で、新たな拠点を確保するなんて、我々の能力を超えている」
言葉とは裏腹に、俺は相当以前からコルシカ・サルディーニャ島北端付近の無血領有を考えていた。
白魔族が弱体しているいまならば、サン=フロラン湾一帯を占領できる。
ここには、小さいが白魔族のためにヒトが建設した街がある。状況がコーカレイに似ており、都市設備などヒトが住むには都合がよい。領有できれば西地中海における拠点にできる。
建設したのは、おそらく中央平原に住む人々の祖先だ。
珍しく、千早が食い下がってきた。
「でも、考えたほうがいいよ。
大西洋の出口を確保したんだから、インド洋への出口も手に入れなきゃ。
コルシカ・サルディーニャ島は、何百年も前は精霊族が支配していたらしいけど、ヒトが実績を積み重ねていけば、精霊族と争うことにはならないと思う。
精霊族を追い出すわけじゃないし……」
精霊族はテリトリーを強く主張しない。排除しない限り、抗争にはならない。コーカレイ同様に開かれた街にすれば、精霊族は干渉しないだろう。
鬼神族は厄介と感じるほど情緒的だが、精霊族はめんどくさいほど合理的だ。
合理的理由があれば、受け入れてくれる。鬼神族は仁義を通せば、厄介な相手じゃない。精霊族よりもヒト的だ。
大西洋沿岸と西地中海北岸の交易は、ヴルマンの独断場だった。フルギアは、ロワール川による内陸交易が中心で、海にはあまり出ていない。
西地中海とティレニア海の状況については、我々はヴルマンから情報を得ることが多い。東地中海については、白魔族がイタリアとシチリアを隔てるメッシーナ海峡封鎖しているので、ヴルマンでも海峡以東のことは知らない。
俺は海水準が低下していることから、中東とアフリカはシナイ半島で陸続きだと、つい1年前まで信じ込んでいた。
また、200万年前、ヒトが開通させたスエズ運河は、存在しているはずはない。
ノイリンからスエズまで、3000キロもある。この距離を往復できる航空機を、我々は保有していない。
双発双胴輸送機のC-119ボックスカーを特別に燃料過積載状態にして、北サハラ東部の強行偵察を行った際、アフリカとユーラシアが陸続きでないことがわかった。
この偵察は、北サハラ東部の白魔族の根拠地を探すことが目的だったが、当然あると思い込んでいたシナイ半島が消えていて、非常に驚いた。
おそらく、アラビアプレートがユーラシアプレート寄りに動き、それが原因で起きた地殻変動によって、シナイ半島が消えたのだろう。紅海自体、地溝帯の一部であり、大地の裂け目だ。
あり得ないことではない。
この大発見以来、大西洋を横断するか、地中海からインド洋に入るか、どちらが世界の情勢を知るのに都合がいいか、我々の居館では論争が続いている。
パナマ海峡はセロが、メッシーナ海峡は白魔族が封鎖している。
幅が200キロもあり、セロの監視が甘いパナマ海峡か、幅が最短2キロしかないが、弱体化が著しい白魔族が支配するメッシーナ海峡か、そのどちらが突破しやすいか、それが話題だった。
千早が続ける。
「メッシーナ海峡は狭く浅いけど、白魔族が通過を妨害するなら上空から援護すればいいと思うの。
35キロの壁は壊しちゃダメだけど、壁のアフリカ側はメッタメタに叩いてもいいじゃないかな。
海と空から攻撃されたら、白魔族はどうにもできないでしょ」
千早がパナマ海峡突破に対する懸念を示す。
「でも、パナマ海峡通過は、空からの支援はできないから……。
遠すぎて……。
セロの飛行船に追撃されたら、逃げ切れないよ。高射砲で一時的に追い払えても、10日も20日も追われたら、乗員は参っちゃうんじゃないかな。
いままでだって、そういうことたくさんあったから……。
セロの飛行船に追われて、ヒトの防空圏に逃げ込もうと、必死に船を走らせること、船乗りなら必ず経験するって聞いたよ」
千早の意見は正論だ。
正論過ぎる。
反論の余地がない。
食堂は、沈黙が支配した。その居心地の悪さをどうにかしようと、相馬悠人が年の功を発揮して発言する。
「千早の意見はもっともだが、バルバドスにも意味はある。
バルバドスを占領できれば、セロを牽制できる。滑走路を造れば、不沈空母バルバドス号の完成だよ」
俺は笑い出したかった。
まさか、相馬悠人が“不沈空母”なんていう言葉を使うとは思わなかった。
200万年前の日本国内閣総理大臣がアメリカのメディア相手に発した「日本をアメリカの不沈空母にする」という世迷い言から生まれた物騒な言葉を使うとは!
だが、バルバドスは“ノイリンの不沈空母”になり得る。
セロに押されっぱなしのヒトにとっては、バルバドス攻略が反撃の狼煙になる。
同時に、ヒトの現有戦力では、6000キロ以上離れたバルバドスを恒常的に維持できない。
性急に事を運べば、バルバドスは孤立して“大西洋の餓島(ガダルカナル)”になってしまう。
その点、千早のメッシーナ海峡突破作戦は、現実的だ。
シチリアが北アフリカ・チュニジアと陸続きであるこの世界には、200万年前にチュニジア沖に存在したシチリア海峡はない。
ティレニア海と東地中海を結ぶ海路は、幅わずか2キロのメッシーナ海峡しかないのだ。
ヒトがここを突破すれば、インド洋への道が開きヒトの行動圏は劇的に広がる。
俺は千早の意見を支持し始めている。
千早が続ける。
「メッシーナ海峡を一度か二度突破しただけじゃ、意味がないと思うの。
いつでも好きなときに通過できるようにしないと。
そのためには、ティレニア海に白魔族に対抗する拠点、滑走路とか、が必要なんじゃないかな。
そこから飛び立って、船を護衛するの。
コルシカ・サルディーニャ島北端に拠点を設ければ、700キロくらいあるけど、ギリギリ、戦闘機の行動範囲なんじゃない?」
ララが答える。
ララは戦闘機乗りになった。精霊族初のパイロットであり、すでにセロの飛行船との実戦を経験している。
「私たちのオルリクなら、正規で2000キロ、ドロップタンクを着ければ3000キロ近く飛べる。
作戦圏内だよ」
ディーノの孫娘シルヴァが問う。
彼女は23歳になっていた。左手で、美しい金髪をかき上げる。
「島の北端に拠点を作る理由は?
南端からならば、メッシーナ海峡まで500キロくらいだから距離が短い分、上空直掩には有利でしょ。
それにドロップタンクが要らないから、対地ロケットも積める……。
南端でなくても、ティレニア海沿岸の島の中央付近とか、でもいいように思うけど……」
千早が答える。
「ノイリンから遠すぎる……。
シルヴァの意見は重要なんだけど、もしコルシカ・サルディーニャ島の拠点を放棄しなければならなくなったら、850キロは遠すぎる、かな。
北端ならノイリンから550キロだし、カラバッシュまでは300キロ。いざとなれば、船でも逃げられる」
イサイアスが発言。
「白魔族は弱体化している。
我々が確保したコルシカ・サルディーニャ島の拠点に、白魔族が攻撃してくる可能性は低いぞ」
アンティが受けた。
「チハヤはセロを警戒しているんだ。
だが、島の南端とはいわないが、南側に不時着用の滑走路は必要だぞ。
飛行機の運転手には、俺やイサイアスみたいな飛ばすだけで精一杯のヘタックソもいるんだから」
チュールが一言。
「チハヤの案は、現実的で怖いよ」
マトーシュが意見を述べる。
「コルシカ・サルディーニャ島は、太陽の光が強い。
藻が育つから、燃料がたくさん作れる」
デュランダルが反対する。
「いいや、島の拠点はいつでも放棄できるようにしておいたほうがいい。
セロとの戦いは、これから始まるんだ。いままでは、ただの小競り合いに過ぎない。
だから、この先の展開が読めない。
それと、西アフリカのヒトを助けなくてもいいのか?
このままじゃ、セロに皆殺しにされてしまうぞ」
トゥーレが答える。
「いま、西アフリカ大西洋岸で生き残っている人々は、ヒトのルーツを忘れてしまっているけれど、農耕はしているんだ。大きな石造建築もあるし……。
文字は忘れていないし、暦だって作っている。
我々と同じじゃないけど、力になれると思うんだけど……。
言葉がまったく通じないから……」
ウルリカが躊躇いがちにいう。
「コルシカ・サルディーニャ島北端に拠点を築き、西アフリカの人々を助け、ジブラルタルを再占領したら、ノイリン北地区の財政は破綻よ」
ウルリカのパートナーである相馬悠人がため息をつく。
「もう、ノイリン北地区だけで、ことを決せられる時期は過ぎたんだよ。
最低でも、ノイリン全域で対処しないと……」
ノイリン北地区選出議員であり、ノイリン行政の一端を担うウルリカが結論を出す。
「時間がかかっても、議会に図らないと」
精霊族ララの母親ミューズが賛成する。彼女もノイリン北地区選出議員だ。
「ノイリンが一丸にならないと、セロに滅ぼされてしまいます」
好むと好まざるとにかかわらず、ヒトの行動圏は、西アフリカ大西洋岸と地中海全域に広がりつつあった。
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