200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第4章

第93話 入植者

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 アフリカをヒトの頭部に例えると、右横顔の後頭部出っ張り、200万年前のセネガルの首都ダカールの沖に、ベルデ岬諸島の島国カーボベルデがあった。
 200万年前、アフリカとは最短でも600キロ以上離れていたが、200万年後も変わらず600キロ離れている。
 200万年後のセネガルは、緑の大地だ。特にガンビアを流れるガンビア川と75キロ南のカザマンス川に挟まれた一帯は、大穀倉地帯だった。環境に恵まれた豊饒の大地だ。
 セネガルとモーリタニアの国境を流れるセネガル川までは、草原と森、そして豊かな農地が点在している。もし、草原のすべてを農地に変えたら、地球の全人口の食糧を賄えるかもしれない。
 寒冷に怯える西ユーラシアでは、到底考えられない、恵まれた土地だ。
 セネガル川以北は、ヴルマンの言葉を借りれば“緑の地獄”だ。広大な湿原と深い森林で覆われている。人跡未踏の地域でもある。
 この“緑の地獄”は、アトラス山脈の南端付近まで広がる。
 この交通困難な自然が、長く西アフリカの人々を我々が“赤服”と呼ぶ北アフリカに進出したセロから守っていた。
 しかし、我々が“青服”と呼ぶセロが南から攻め、西アフリカ大西洋沿岸の主要都市のほとんどを制圧してしまった。
 
 200万年後の西アフリカ大西洋岸一帯には、多くのヒトが住む。
 正確な人口は不明だが、数十万人規模であることは、ほぼ間違いない。
 赤道に近い低緯度地域であることから温暖なのだが、ギニア湾沿岸に達すると大西洋上に居座る低気圧の影響を直接的に受けるので、200万年前の地図上の名称を使うなら、リベリアとコートジボワールの国境を北から南に流れるカバリー川以東・以南の環境は、ヒトが住むには厳しい。
 そのため、ヒトが多く住む一帯は、200万年前の地名に従うならばアフリカの最西端であるセネガルの首都ダカールからリベリアの首都モンロビア付近まで。
 ギニア湾に注ぐニジェール川下流沿岸と河口付近にも、採集狩猟と初歩的な農業を営む多くのヒトが住んでいたが、セロの殺戮によって絶滅している。
 リベリアからギニアビサウ付近にもヒトが住んでいるはずだが、街には野生動物以外の生き物はいない。
 ヴルマンの情報によれば、一時期、多くの人々が、セロに追われて北に逃げていたが、それも途絶えた。

 200万年後の西アフリカ大西洋沿岸にはクマン王国という、本領だけで推定人口30万を要する封建的な君主制国家がある。
 一帯では強大な国であり、大型の石造建築を可能にする技術、彫刻や絵画などの芸術、鉄製の道具など、一定の文明を持つ。
 古代ギリシャやローマ帝国の文明と、中世西ヨーロッパの社会制度が合体したような専制君主国だ。王都はボワニで、位置としてはギニアの首都コナクリにほど近い。
 この王国は、周辺地域にたびたび侵攻し、領土を広げてきた。その勢力は、セネガル川南岸付近まで及ぶ。
 西サハラの人々は、この地に移住後、完全に200万年前の出来事や記憶、知識を失った。
 そして、数百年をかけて独自に文明を築いた。
 だが、200万年前の名残もある。文字がアルファベットなのだ。言葉も英語が変化したもののようだ。数字も継承しており、アラビア数字を使っている。
 200万年後の西ユーラシアには、人種という概念はほとんどない。200万年後を目指した人々の絶対数が少なく、同時に地域的な偏りがあるのだ。
 200万年前を目指したのは、東アジアの一部とポーランドの中央を流れるヴィスワ川を境として、西ヨーロッパの一部地域の人々、中央アジアにアクセスできたヨーロッパ東端の人々に限られる。北アメリカ東部からの移住者も少しいるが、彼らは西ヨーロッパの“ゲート”を使った。
 西ユーラシアでは1000年にわたり混血が進み、独特の風貌に変化している。強いて似たヒトの顔立ちを求めるなら、西ヨーロッパ系と東アジア系の混血だろうか。

 一方、西アフリカに移住した人々の祖先は、明らかに東欧系の人々だ。チュルク系民族が祖ではないかと思われる。

 西ユーラシアと西アフリカを広く交易していたヴルマンは、商売相手であるクマン王国のことをよく知っている。
 クマンとの初めての接触は、ヴルマンの記録によれば150年ほど前のことになる。海岸線に沿って南下し、クマン属領の街を偶然発見したという。
 ヴルマンの交易船に乗って、相馬悠人とトゥーレがこの国を訪れている。

 いま、クマン王国が滅亡の瀬戸際にある。国王エスコラⅢ世はセロによって処刑され、王家直系の生存者は15歳の王女パウラしかいない。その王女は行方不明だ。

 セロのうち青服は、数年前に占領地政策を転換した。従来は先住の直立二足歩行動物を無差別に殺していたが、新たな政策では女性は年齢にかかわらず皆殺し、男性のうち幼児と老人および傷病者は殺すが、労働ができるものは生かして奴隷とし、過酷な労役を課す。

 王女パウラの生存情報は、精霊族からヴルマンにもたらされ、王女との面識がある相馬悠人に知らされた。
 精霊族は王都ボワニにおいて、数百年に及ぶ気象の変動調査を行っていた。
 歴代のクマン国王は、北からやって来るヒトではない精霊族に興味を示し、滞在と研究の許可を与え続けた。
 半年に一度、調査隊員の交代があり、そのたびに精霊族は金銀の細工物や敷物などの過分な進物をしていた。それも、クマン王家には魅力であったようだ。
 ヴルマンとクマンとの初期の交易では、精霊族が通訳をするなど一定の関わりを持ったと伝えられる。

 セロが王都ボワニを攻略した際、精霊族は何人かのヒトを保護し、王都を海路脱出して、北に向かった。
 だが、現在は消息が途絶えている。保護されたヒトの中に、王女パウラとヴルマン商人の娘がいるらしい。未成年者はこの二人以外いない、とされている。
 ヴルマンは商人の娘ミエリキを救出するため、兵の派遣を決めていた。また、ミエリキ以外にもヴルマン人の生存情報がある。
 そのため派遣船として、ノイリン北地区の新鋭調査船アークエンジェルの協力を求めている。船足が速いからだ。
 アークエンジェル(大天使=蛮族は大精霊と訳している)は、秘密裏に建造され、現在もその存在をノイリン北地区は秘匿している。
 だが、実際はめざとい商人の間で噂になっている。
 全長72メートル、全幅10メートル、全通甲板を有するドック型揚陸船の1番船。
 推進はディーゼル・エレクトリックによるウォータージェットで、8000海里の航続距離があり、最大船速は30ノットに達する。
 全長6.2メートル、全幅2.5メートルの水陸両用車4輌を艦尾に収容する。
 兵装は、35ミリ連装機関砲を船橋前後に合計2基装備。
 小型ヘリコプター1機を搭載し、中型ヘリの離着も可能だ。
 単発固定翼機の射出カタパルトを左舷に1基装備する。

 ノイリンへの協力要請は、精霊族→ヴルマン→相馬悠人だけでなく、精霊族→ミューズ→ララへもあった。
 精霊族唯一のパイロットであるララに、精霊族の長老が母親ミューズを通じて、捜索を依頼してきたのだ。
 片道4600キロを超えるので、空からの捜索は無理なのだが、それほど精霊族には打つ手がなかったといえる。
 ミューズを介した理由は、ララが同族を嫌っているからだ。父親は帳簿の記帳間違いを責められ、武器の所持さえ許されずドラキュロがうろつくノイリン域外に放逐された。
 ミューズとララは家を失い、雨が降る中、洗濯場で凍えていた。母娘に声をかけたのはルサリィで、母と娘はノイリン北地区が保護した。
 些細なミスを理由に同族に見捨てられたが、異種であるヒトが助けた。
 ララがパイロット候補生となり、正規の戦闘機パイロットとなると、精霊族は彼女から航空機の操縦を習おうと画策したが、ララに手厳しく拒絶される。
「あなたたちとは関わりたくない。どうでもいい失敗で、殺されかねないからね」とララは精霊族の賢者にいい放ったそうだ。
 賢者も黙るしかなかった。

 デュランダルが家族とともにコーカレイに赴任するので、飛行場に見送りに行くと、ララが近付き話しかけてきた。
「ハンダ様、西アフリカで同胞の調査隊が行方不明になっています」
「知っている。相馬さんから聞いたよ。
 クマンのお姫様とヴルマンのお嬢さんも行方不明なんだ。精霊族の調査隊と一緒らしい。
 ヴルマンから相馬さんに協力要請があった」
「捜索隊を出すんですか?」
「もちろん。
 その力があるのに、何もしないのは褒められることじゃない」
「捜索隊にわたしも参加したい!」
「それは、俺にじゃなく、司令官のフィーにいいなさい」
「司令が許可したら、同行してもいいですか?」
「もちろんだよ。
 今回はヘリを降ろして、小型水上機を2機積んでいく。飛行機のほうが航続時間が長いからね」

 調査船アークエンジェルは、北大西洋全域を覆う氷床調査を終え、ヴルマンのゲマール領にあるノイリン北地区が専有する港に係留されている。
 気象の厳しい北方を航海したことから、整備の必要があるが、作業を延期して、西アフリカへの捜索のために補給物資の積み込みを急いでいる。
 物資の調達と積み込みは、相馬悠人が指揮している。

 調査船アークエンジェルの出港は、慌ただしかった。
 相馬悠人が空路ノイリンに戻り、交代で俺がゲマールに向かう。
 今回の捜索隊を指揮するためだ。
 調査船アークエンジェルの船長は、クラウスが務めている。クラウスは何カ月もノイリンに戻っていない。
 この元ドイツ人は、それでも文句をいわず、精霊族の気象調査隊捜索の任務を同船クルーともども快く引き受けてくれた。
 ヴルマンからも西アフリカ上陸時の捜索要員50が選抜されている。実質的な戦闘員だ。彼らには、ノイリン製の自動小銃が領主ベアーテから貸与される。それが、危険な任務に対する報酬となる。

 ノイリンは、カラシニコフAK-47自動小銃系列の折りたたみ銃床型を製造しており、これが正規の装備だ。このほか、AK-47の軽機関銃型であるRPK、7.62ミリNATO弾仕様のドラグノフ狙撃銃(半自動)が主たる携行装備になっている。
 俺はいつものスプリングフィールドM14を持っていく。
 同行するイサイアス、ルサリィ、トゥーレ、チュール、納田優菜、半田千早はそれぞれの愛用を持っていくが、弾薬は7.62×39ミリ弾か7.62×51ミリ弾に制限している。
 弾薬を共通にしておかないと、いざというときに融通できないからだ。

 出航も慌ただしかった。セネガル沖まで、航海速力20ノットで5日ほどかかる。出航は、中途半端な午後の太陽が高い時間だった。
 セロに追われているヒトと精霊族は、この5日で発見され、殺されてしまうかもしれないのだ。
 捜索隊員には、得もいえぬ焦りがあった。

 西アフリカ沖を南下していくと、セロの飛行船をたびたび目撃するようになる。
 ただ、多くは輸送船らしく、ヒトの船を発見しても襲っては来ない。
 航海の3日目、1隻が急接近してきたが、35ミリ高射機関砲で追い払った。単にヒトの船に興味を持っただけのようだったが、浮体下部に懸吊されているキャビンに多数の命中弾を与えると、船体をふらつかせながら大西洋上空を西に向かった。

 4日目は雨に降られたが、風は強くなく順調に南下を続ける。また、雨に守られて、セロの哨戒にもかからなかった。

 クラウスは、やや危険な航路をとっている。現在、アフリカとカナリア諸島に挟まれた狭い海峡を通過している。こういった海域は座礁の危険があり、同時にセロの哨戒機に発見されると、回避しにくい。
 船長クラウスは、1時間でも航海を短くしようとしているのだろう。

 5日目の朝、俺が船橋に入ると、クラウスが告げる。
「ハンダ、今日の昼前には着く」
 そして、問うた。
「クマン王国が領有する海岸線は700キロ以上あるぞ。
 どこを探せばいいのか、見当はついているのか?」
「ヴルマンと精霊族からの情報では、セネガルのカサマンズ川付近だ。
 セロの哨戒を避けて、カサマンズ川を遡上した可能性がある。
 まずは、川の河口付近を空から捜索しよう」
「川の正確な位置は?」
「精霊族から提供された例の地図だけだ。
 ヴルマンの情報では、河口に大きな島があるそうだ」
「その島のある川を探すところから始めるわけか?」
「河口は水深があるらしい。情報通りならば、アークエンジェルを河口に隠そう」
「何日もは無理だぞ」
「2、3日でいい」

 目標の河口を探すために、セネガル沖で2機の復座水上偵察機をカタパルトから射出する。
 この機体は、ノイリンで新造された。ジブラルタルに設置されていた、小型機の生産設備をノイリンに移送して、製造したものだ。
 原型機は200万年前のビーチクラフト・ボナンザで、原型機に近い6人乗り、直列復座練習戦闘機、練習戦闘機のエンジン出力を向上させた単座の軽戦闘爆撃機、直列復座練習戦闘機に単フロートを装着した水上偵察機型がある。
 水偵型は、胴体下に大型のフロートが一つあり、一部が増加燃料タンクになっている。翼端には、外側引き上げ式の補助フロートが装備されている。主翼は上方に折りたためる。
 小型機だが、最大航続距離は3000キロに達する。
 エンジンはノイリン西地区製の900軸馬力ターボプロップだ。
 練習戦闘機型と戦闘爆撃機型は、胴体のデザインをPZL-130オルリクに習ったことから、側面形状がよく似ている。両タイプは“ワグテイル”と呼ばれている。
 水偵型は、零戦にフロートを取り付けて水上戦闘機にした二式水戦と似た性格の機体だ。
 主翼内に7.62ミリのラインメタルMG3機関銃機載型を各2挺、合計4挺装備する。主翼下には125キロ爆弾2発、82ミリロケット弾4発、12.7ミリ機関銃ポッドのいずれかを懸吊できる。
 2機は7.62ミリ機関銃弾だけを装備して、左舷側カタパルトから飛び立った。2機の離船には、20分の間隔を必要とした。

 2機は船から南東方向に向かって飛び、1時間かからずに河口部に大きな島がある大河を見つける。
 2機はその川を遡上するが、上空からでは精霊族の船は発見できなかった。
 だが、上流200キロに大きな湖があり、その湖の南側で大勢のヒトが何かの作業をしている様子を発見する。
 同時にヒトの周囲には、例の赤服ではない青服のセロらしきウマに乗った武装兵を見つける。

 ララからの無線。
「大天使、こちらマガモ。
 地上に多数のヒト。
 その周囲にセロらしき武装兵」
 クラウスが応答する。
「確かにセロか?」
「わかりません。
 銃を持っています。それと、セロの青服を着ています。
 ですが、セロかどうか、確信はありません」
「何人かが手を振っています。
 飛行機を知っているようです。
 手を振っているのは精霊族のようです。
 服装が精霊族です」
「確かか?」
「服装は精霊族です。汚れているのか、服地は白には見えません。茶色です。
 ですが、形は精霊族の服です」
「もっと高度を落として、確認できないか?」
「無理です。
 この一帯は高い木が多く、これ以上降下すると接触の危険があります」
「しばらく待て」
 クラウスが俺に何かを話そうとした。
 それをララ機の偵察員席に乗る半田千早の声が遮る。
「たいへん!
 銃で殴られている!
 手を振ってくれた精霊族たち!」
 ララが許可を求める。
「地上掃射の許可を求めます」
 クラウスは一瞬躊躇った。
「掃射は待て、掃射は待て。
 帰還せよ」

 調査船アークエンジェルは、全速でララが発見した河口部の島に向かう。
 3時間30分後に島に到着。

 クラウスがいった。
「ハンダ、行ってくれ」
 俺は頷いた。

 6メートル級水陸両用車4輌が1輌ずつ、調査船アークエンジェルの最後部から、海上に静かに走り降りる。
 各車には、12.7ミリ重機関銃1挺を搭載する。
 この水陸両用車は四輪駆動で、ノイリン周辺での軽貨物輸送から人員輸送まで、幅広く利用されている。非装甲の船形ボディを備え、ショートボディの4トントラックと同じくらいの大きさだ。長時間の水上航行に耐えられるよう、ビルジポンプ(排水ポンプ)を装備している。小型だが良好な凌波性がある。
 この水陸両用車には、各車12人が乗る。
 水陸両用車は、9ノット(時速17キロ)で遡上を始める。予定では、約13時間で湖の南に到着する予定だ。

 48人の中には半田千早もいた。偵察から戻ると、船橋にいた俺に「見殺しにしないよね!」と問い詰めるようにいった。
 クラウスが取りなすように「チハヤ、セロはヒトを平気で殺す。攻撃を仕掛けたら、皆殺しにされていたかもしれない」と。
 半田千早は、目に涙をためていた。

 セロに追われているヴルマンと精霊族を救出する。
 今回の作戦はそれだけだ。西アフリカの一画をどうこうしようとか、クマン王国の滅亡を阻止しようとか、一切考えていない。
 セロに捕らえられているクマン王国の人々を、救出する予定もない。
 だが、湖の南で労働させられている人々は、航空偵察によれば、200から300人もいる。記録映像でも、それを確認した。
 これだけの数を救出する計画ではない。精霊族の気象調査隊は18、ヴルマンの駐在商人は6、クマンのお姫様を含めても最多で30人前後のはずだった。
 湖の南にいるヒトのほとんどは西アフリカ人だろう。助けたとしても、それは一時的なことでしかない。セロが西アフリカに居座る限り、この地のヒトに未来はない。
 だが、西ユーラシアには、西アフリカを援助する余裕はない。それに、4000キロを超える道のりは遠すぎる。

 俺は算数を続けているが、水陸両用車4輌に200人は乗れない。陸送するにしても、半分は徒歩になる。
 調査船アークエンジェルは、川を遡れるほど、吃水が浅くない。
 救出できたとしても、人々を移送する手段がない。
 調査船アークエンジェルまで、200キロを徒歩で逃げる……。
 そんな非現実的な選択肢しかない。

 遡上開始から2時間30分後、河口から40キロの進行方向右手に半没した精霊族の特徴的な船を見つける。精霊族の船は、船首と船尾の形状が同一の木造船が多い。
 彼らの船は、最大でも全長50メートルほどだ。俺たちが発見した半沈船は、その最大級の船だった。
 手早く調べるが生存者の姿はもちろん、死体もない。乗員は陸に上がったと思われる。船の陸側に森に続く多数の足跡があった。
 争った形跡はないが、足跡の数は船の大きさに比して多すぎる。

 5時間遡上すると、右舷側に村がある。
 最近襲撃されたらしい。
 女性が、抱きかかえられぬほどの巨木の幹に剣で打ち付けられている。クマン王国兵が使う全長50センチほどの両刃無反の剣で胸を貫かれ、切っ先が幹に達しているようで、両足が宙に浮いている。
 何度も見たセロの所業だ。
 上陸せず、先に進む。救出は一刻を争う。

 水陸両用車の排気音は小鳥のさえずりで消せるほど小さい。エンジンは、遮音されたエンジンルームにあり、音と震動の小さい水冷直列6気筒170馬力スーパーチャージド・ディーゼルを搭載する。
 だが、水陸両用車が立てる水切り音までは消せない。
 水陸両用車は12ノットまで出せるが、水切り音を消すために9ノットで進む。
 2時間ごとに小休止をとるため接岸したが、その間は付近を捜索した。
 クマン王国の農村らしい集落をいくつか見つけたが、ことごとく焼き払われていた。古い襲撃跡もあるし、ごく最近のものもある。
 セロは炊事の火で、ヒトの住地を知る。火を使わずに、ヒトは生きていけない。新しい襲撃の痕跡は、セロの習性を知ったヒトが、できるだけ昼間の火の使用をひかえていたのだろう。
 発見を遅らせる効果はあるが、火を使わなくては生活できないヒトにとって、それは辛いことだし、夜間でも満月であれば発見される可能性がある。わずかな油断で、セロはヒトの住処を見つけ出す。
 それは、ロワール川周辺のヒトの小集落も同じだった。

 若年の隊員は動揺が激しい。西アフリカのこの地が、数年前のロワール川周辺の状況に似ているからだ。
 しかも、西アフリカの人々は銃を知らない。ヴルマンや精霊族は教えなかったし、ドラキュロがいない西アフリカでは銃など必要ない。
 結果、弓矢と剣と槍でセロと戦っている。圧倒的な軍事力を持ち、空から攻めるセロが相手では、クマンに勝ち目はない。

 短い時間だが、生存者を探した。ヴルマンの選抜兵の中にクマン人の言葉を介するものが複数いるので、生存者から情報を得ようと考えていたのだが、セロによるヒトの殲滅は徹底していた。
 生存者は一人も見つからない。

 ララたちが持ち帰った情報では、湖は岸際まで木立が迫っている。密林ではないが、疎林とするには密度が高い。
 救出隊は、湖に至る前に適地を見つけて上陸し、陸側からヒトが使役されている作業場に接近するつもりだ。
 13時に出発し、日付が変わった2時30分、右岸に森の切れ目を見つける。ここに上陸する。スクリュープロペラの推進力と前輪の駆動力では岸に上がれず、車体前部に取り付けているエンジンウインチの力を借りる。
 川にあると小船だが、陸に上がると大きく見える。特に車高3メートルは見上げてしまう。

 夜明けを待つ。

 森は川に沿って数百メートルの幅で続いているが、川岸から離れると草原になっている。これも水上偵察機からの報告だ。
 夜明けの30分前まで、落ち着かない休息をとる。

 夜が明け、一部が徒歩で森を抜け、草原の偵察に向け出発する。

 水上偵察機2機が飛来する。
 これから数時間、この2機が俺たちの頭上を制空する。

 ララからアークエンジェルへの無線を傍受する。
「地上の救出隊を確認。
 捕虜の作業場は、北に8キロ。
 作業場には多数のヒト。
 監視のセロが、上空の我々に向けて発射」

 4輌の水陸両用車が水偵の誘導を受けつつ、作業場に近付く。

 俺は荷台に乗っていた。
 キャビンから上体を出していた機関銃手が、ウマに乗るセロを視認。
 俺も、ウマに乗り、鞭を手にし、背に銃を背負うセロを目視。
 荷台の隊員が水陸両用車後部の大型ランプドアを降ろして車外に出る。銃を構えて、横一列となり、水陸両用車を後方に従えて前進する。

 セロの捕虜監視部隊は、水偵の報告よりもはるかに多かった。
 どこから湧いてくるのか、80体もの青服が現れた。
 半田千早が「多いよ」というと、納田優菜が「偵察機が飛んで来たから、待ち構えていたんだ」と答える。
 イサイアスが命じる。
「戦列を乱すな。弾幕で圧倒するんだ!」
 捕虜の多くは呆然として突っ立っているが、何人かが地面に腹這いになる。
 明らかに、ロワール川周辺のヒトだ。彼らも、水偵の飛来から、ヒトの部隊が接近していることを悟っていたのだ。
 4騎が抜刀して突撃してくる。
 それを、4人が4発で仕留める。
 俺の右にAK-47を構えた納田優菜がいる。左は半田千早だ。
 救出隊の攻撃は奇襲にはなっていない。夜明けから2時間以上経過しており、セロ側も警戒していたからだ。
 セロは混乱していない。

 俺たちは青服の存在を知っていた。交戦は赤服だけだったが、青服も西ユーラシアに現れていたからだ。鬼神族は青服と小規模な交戦をしており、その情報もヒトは得ていた。
 セロの捕虜によれば、赤服と青服は別の国の兵で、この2国は激しい対立関係にあるらしい。
 また、軍の制度も若干異なるようだ。だが、武器はほとんど変わりがないことも知っていた。
 顔に迷彩ペイントを塗り、森林迷彩のヘルメットと防弾ジャケットを着たヒトが現れるが、セロには慌てた気配がない。
 青服も西ユーラシアのヒトを、ある程度は知っているということだ。
 俺たちは丈70センチほどの草むらから出た。
 水陸両用車は草むらに留まる。車高が高く、丸見えだが……。
 草むらを抜けると、土が剥き出しの地面が広がっている。
 遠方に伐採された丸太が見えるが多くない。製材所か?
 ヒトが全員地に伏している。
 捕虜にはリーダーがいるのか?
 セロの歩兵が戦列を作り、騎兵が我々の右翼に回り込もうとする。
 戦列の最前には、切っ先を我々に向けた将校と、太鼓を叩く兵が並ぶ。 
 セロに向けて、一斉に発射する。
 セロの携行兵器よりも、ヒトの銃のほうが射程が長く、威力が大きいことは、承知している。それに、自動小銃と機関銃の発射弾数は圧倒的だ。
 俺たちは赤服相手にセロとの戦い方を学んだ。とにかく、弾幕で圧倒すればどうにかなる。弾薬が豊富な場合だけだが……。
 だが、いまはその弾薬が豊富なときだ!
 弾倉が空になり、「リロード」という声が頻繁に聞こえてくる。
 右翼に回り込んだ10騎ほどのセロが突撃してくるが、水陸両用車のキャビンに据え付けている12.7ミリ重機関銃の発射で完全に阻止した。

 セロの戦列歩兵は、前進を始めたら勝利するか、全滅するまで停止しない。
 結果は全滅だった。
 だが、騎兵数騎は逃走した。セロの騎兵はエリートで、生き残ることが許されている。少なくとも赤服ではそうだ。青服も同じだろう。

「さぁ、立って!」
 トゥーレが捕虜となっていたヒトを促す。
 精霊族の男が右足を引きずりながら、俺に向かって歩いてきた。
 ヒトの言葉で問いかける。
「指揮官はどなたです」
「私です」
「助けていただき、ありがとう。
 ですが、まだいるんです」
「ほかにも?」
「はい。
 手長族は女性をすべて殺すと聞いていました。
 手長族に捕まる直前、女性全員を小船に乗せて逃がしたんです。
 私たちが囮になって……」
「川で?」
「えぇ、もっと下流です」
「数は?」
「同族が2、クマンが2、ヴルマンが1」
「精霊族の男は?」
「同胞は2殺されました」
 イサイアスがヴルマンの男を連れてきた。
「ノイリン人か?」
「そうだ」
「ありがとう」
「ヴルマンの戦士も参加している」
「だが、ノイリンの船で来たんだろう?」
「そうだ」
「ヴルマンの娘が一人、逃げている。
 何とかしてくれ」
「父親が一緒のはずだ」
「かわいそうに、時間を稼ごうと抗ったので、セロに殺されたよ」

 我々がセロを制圧すると、西アフリカ人の多くは逃げ散ってしまった。一瞬のことだった。
 残ったのはわずか3人で、彼らは王女パウラの護衛だ。護衛兼侍女が王女と一緒だという。
 精霊族が通訳してくれた。
「特別に選抜された女性王族専任の戦士だそうです」

 ルサリィが報告する。
「無線が入った。
 東から騎馬100が迫っている」
 俺が命じる。
「撤収する」

 ヴルマン人4、クマン人3、精霊族14を救出できた。だが、ヴルマンの少女1と精霊族の成人女性2、そして王女パウラと彼女の護衛はまだ。クマンの戦士が王女パウラの捜索を懇願する。
 ヴルマンが俺をフルギアの敬称である“ノイリン王”とクマンの戦士に説明したようだ。
 ヴルマンに“王”はいないし、そういった敬称もない。フルギア特有の表現だ。
 ヴルマン人は十分な説明をせずに、俺を“ノイリン王”とクマンの戦士に伝えた。
 3人のクマンの戦士は跪き、何かをいった。
 精霊族が珍しく表情を示した。微笑んだのだ。
「あなたを我らの王だと思ったようです」
 俺は、余計なことをいったヴルマンをにらみつけた。
 ヴルマンの男たちは、ニタニタ笑いしている。

 我々の水陸両用車は、ジブラルタルで入手した内航用フェリーであるアッパーハットに搭載されていた小型の水陸両用汎用車“バスタブ”にルーツがある。
 道が整備されていない人界において、この車輌は便利で、複製の要望は少なくなかった。
 ただ、小型すぎて、使い勝手が悪い面もある。
 ノイリンの学校には、ノイリン周辺のヒトの住地からも通学があった。住地の集約は進んでいたが、住居と農地を捨てられないヒトも多い。
 この通学を支えていたのはライマの夫トルクで、彼は毎朝、トラックをスクールバス代わりにして、休みなく子供たちの通学を手伝っていた。
 ただ、橋のない川が無数にあり、親の都合で船を出せないことがある。その日の通学を諦める子供も多かった。対岸で手を振り、「明日は行くからねぇ!」と叫ぶ子供をトルクは無念な気持ちで残置していた。
 トルクが金沢に「通学用に中型の水陸両用車は作れないだろうか?」と相談したことがきっかけで、金沢がアメリカ軍のLARC-V水陸両用車を一回り小型にしたような形状の水陸両用バスを特注品として作った。
 この車輌の使い勝手は非常に良好で、あり合わせの部品を使いながら、追加でトラックタイプ10輌が作られた。
 そのうちの4輌が調査船アークエンジェルに装備される。
 車体最前部に単座の運転席があり、その後方に並列3座がある。中央の補助席は通路にするため左方に折りたためる。運転席と後部座席は、密閉キャビンになっている。後部座席中央補助席上部にハッチがあり、円形レールに載る12.7ミリ重機関銃が装備されている。
 後部座席後方が荷室だ。
 車体は鋼製モノコック構造だが、装甲はされていない。
 調査船アークエンジェルの車体には、ダークグリーンとライトブラウンの2色迷彩が施されている。

 クマンの戦士と精霊族は、我々の水陸両用車に非常な驚きを感じている。陸上を走り、そのまま水上航行もできるからだ。

 ワグテイル水上偵察機からは、適切な報告が続いている。
 東岸草原を騎馬100が西に向かっており、上流からは10体ほどが乗る手漕ぎのボート4が追跡している。
 水陸両用車は最大船速に近い12ノット(時速22キロ)で下流に向かっていて、セロの手漕ぎボートを引き離しつつあるが、騎馬には追いつかれていた。
 このままでは、先回りされて、待ち伏せされ、上流からのボートと挟撃される恐れがある。

 俺は、対岸である北岸への上陸を決断する。
「北岸に上陸する。適地を探せ」
 2時間航行し、40キロ下流で上陸が可能な地点を見つける。
 最初の1輌が上陸すると同時に東岸の岸辺まで迫った木立の間から青服が現れる。
 車体にセロの銃弾が当たり始める。セロの銃は発射音が低く、発砲炎もないから、威圧感は低いのだが、空気との摩擦による擦過音が不気味だ。
 青服の銃は口径16ミリで、鏃型弾頭は爆燃する。
 我々は車上から応戦し、至近距離による激しい銃撃戦となる。
 上陸地点は、1輌がやっと登れる程度の広さしかなく、先行で上陸した車輌はすぐに進路を開けなければならなかった。
 2輌目が上陸。3輌目が手間取る間、4輌目が掩護する。
 その4輌目に俺が乗っている。千早と優菜が激しく応射し、重機関銃から撃ち空薬莢が続々と排出されてくる。
 セロは次々と木立の間から姿を現し、ヒトに対して決して撃ち負けていない。先に上陸した3輌から下車した隊員が、北岸から南岸に向けて反撃を始める。
 その掩護を受けて、俺たちの4輌目が上陸した。

「撤収!」
 イサイアスの声だ。
 呼応して、トゥーレも叫ぶ。
「撤収!」

 我々の水陸両用車は、水上では遅いが、陸上でも鈍足だ。整地でも時速45キロ、不整地ならば時速25キロ程度しか出せない。
 短時間の追跡ならば、ウマで追いつかれてしまう。だが、対岸に渡ったので、数時間は引き離せたはずだ。

 4輌は、北西に20キロ進み、進路を西に変える。海岸まで、まだ140キロ以上ある。
 精霊族の説明では、女性5を乗せた小船は、河口から20キロほど上流にある北から流れる支流に入ったという。
 120キロ南下しないと、小船と分かれた支流に達しない。
 陸上は地割れや陥没穴などの障害があれば、それを超えるのに相応の時間を要する。
 ならば、川を下ったほうが結果的に早い。
 それと、支流はたくさんある。小船が向かった流れを特定するには、川を下る必要がある。
 再度、川に戻るため東南に進路を変え、2時間走る。
 この付近の北岸川岸の森は、密度が低く、見通しがいい。だが、水陸両用車が通過できそうなルートがない。
 森の陸側縁に沿って南下する。
 4時間走り、ようやく森の切れ目を見つける。
 6時間以上陸上を走り、ようやく本来のルートへ戻れた。日没まで、まだ4時間は進める。11ノット(時速20キロ)で進めば、4時間で80キロ南下できる。
 日没までに、小船を逃した支流まで行き着けるかもしれない。
 4輌は次々と川に入る。

 数時間前に、上空直掩機は母船に戻っている。
 上空から味方機が去ると、誰もが無口になった。直掩機のリーダーがララだと精霊族に伝えると、彼らは誇らしげに頷いた。

 精霊族の半沈船横を通過する。20キロほど下れば、小船を逃がした支流があるはずだが、この20キロ間に支流は4ある。そのうちのどれかということだが、記憶以外の判別方法がない。支流はどれも似ている。
 半沈船の乗員にも絶対的な自信はないようだ。

 明らかに下りすぎている。
 このまま4輌で行動を継続する理由は薄い。
 俺は、1輌での捜索継続を決めた。
 川面で、イサイアスの乗る車輌に横付けさせる。まるで、船のようだ。
「イサイアス、捜索は1輌のみで続ける。クマンの護衛、ヴルマンの通訳、ヒトの言葉がわかる精霊族、各1を連れて行く」
 イサイアスが頷く。
 だが、クマンの護衛3人は、同行を強硬に主張する。一人が脚を負傷しており、二人のみ認めて、どうにか納得させる。
 ヴルマンは通訳の人選に手間取った。商人の娘ミエリキを知る救出者の一人が、同行を懇願したからだ。ミエリキの父親と懇意だったという。彼はクマンの言葉に堪能で、条件を満たしてはいるが、疲労が顔に出ている。
 彼をサポートする理由もあり、ヴルマンから彼を含めて3人が選ばれた。
 精霊族は論理的に1体を選ぶ。
 千早、優菜が志願し、姉貴分のルサリィも手を上げる。ルサリィには金沢との間に子がいる。
 俺は彼女に「船に戻れ」と命じたが、彼女は微笑んで「心配は無用だ。セロなどに私は殺せない」と返した。
 イサイアスの命令で、チュールは船に戻り、トゥーレが同行する。
 結局、ノイリン5、ヴルマン3、クマン2、精霊族1、水陸両用車クルー2の合計13で小船で逃げた5人を捜索することにした。

 救出したヴルマンと精霊族がともに「この支流に間違いない」と断定した小河川を、北に向かって遡上する。
 1キロも遡らない地点で、手漕ぎのボートを見つける。小さなボートで5人を乗せるには、いささか無理がある。
 ここでボートを捨て、上陸したようだ。
 付近を偵察する。
 トゥーレが「5人は西に向かった」と断言する。足跡は川岸にはあるが、水辺から離れた乾いた地面にはない。
 しかし、草の倒れ方や地表のわずかな変化でトゥーレにはわかるようだ。
 トゥーレが「西だ」といっていると、ヴルマンがクマンの戦士に通訳すると、クマンの二人はともに「アボロの村に向かった」と断言する。
 クマンの一人が説明する。
「アボロは500人ほどの村で、パウラ王女殿下を護衛しているシュリの出身地だ。シュリは故郷に向かった。
 村長〈むらおさ〉のテオは、先王の近衛兵を勤めていた。勇者だった。青い服の兵(セロ)から村を守り抜いているかもしれない」
 トゥーレが俺に意見具申。
「アボロという村に向かいましょう」

 アボロまでのルートは、クマンが知っていた。だが、内陸の森を抜けるには水陸両用車は大きすぎた。
 森を迂回し、丘陵の東側を回り込み、10キロほど進むと丈が2メートルもあるイネ科の草が密生する草原に出る。この草原は、2キロほど続く。
 草原の先には、疎林が見える。
 疎林の先に、アボロの村があるという。

 水陸両用車は乗降を迅速にするため、後部ランプドアを水平位置まで開けている。この車輌の荷台アオリ上部までの高さは2.5メートルもあり、車体側面から飛び降りるには、高すぎる。
 そのため、今回の作戦では、地上を走行する場合は、後部ランプドアを水平位置まで下げている。

 疎林を抜けると、そこは戦場だった。
 水陸両用車は、唐突に疎林を抜ける。
 疎林の北端から村までは、200メートルほどしかない。
 我々がいる林に向かって走る幼い女の子。彼女の背後で両手を広げる成年女性の後ろ姿。彼女に迫る騎馬上で抜刀した青服。
 疾走する騎馬が、成年女性を上段から斬り付ける。
 成年女性が仰向けに倒れる。
 騎馬は勢いを落とさず、幼い少女の首を横薙ぎする。
 少女が転ぶ。
 瞬間、青服の片刃曲刀が空を斬る。
 停止している水陸両用車車上から、トゥーレが愛用のツァスタバM79から7.62×51ミリNATO弾を発射する。
 ウマは一切の減速をせず、幼い少女の首をはねようとした青服だけが後方に吹き飛ぶ。
 トゥーレの放った弾が額に命中したのだ。
 水陸両用車の12.7ミリ重機関銃手が「撃てない!」と絶叫する。
 青服が村人を追い回していて、統率のない虐殺の真っ最中だ。
 村人と青服が混ざり合い、弾幕で圧倒する戦術がとれない。

 半田千早が後部ランプドアから飛び降りる。それを納田優菜が追う。
 ルサリィは「ったく!」と呆れた声を発し、二人を追う。
 クマンの戦士二人は、荷台に備えていたスコップや斧を手に村に向かって走る。
 ヴルマンの3人が叫ぶ。
「銃を貸してくれ。剣でもいい!」
 トゥーレが車輌装備のボルトアクション小銃2挺を弾薬とともに渡す。
 俺は、救出した壮年のヴルマンにリボルバーを渡す。
 彼もまた、村に走って行く。
 車上に残ったのは、クルーを除けば、俺とトゥーレだけだ。
 4人で車上から狙撃を開始。
 遠距離射撃で、半田千早たちを掩護する。

 村内でも何人かが青服に対抗している。若者が剣を抜き、青服の斬激をかわし、馬上から青服を引きずり下ろしている。

 半田千早が村に突入する。
 彼女は自分に向かってくる騎馬に銃口を向けたが、一瞬、躊躇った。
 彼女は服を着た動物を撃ったことがなかった。
 この逡巡は彼女の生命を危険にした。ルサリィがSKSカービンを撃つ。弾が半田千早に迫る騎馬兵の胸を撃ち抜く。
 ルサリィが叫ぶ。
「チハヤ、躊躇うな撃て!」

 半田千早は、複数の青服と剣を交えて一歩も引かない女性戦士を見詰めていた。
 彼女を狙撃しようとする青服を撃つ。
 他者の生命を救う一瞬の判断だったことから、今回は躊躇わなかった。
 こうして、撃つことになれていく。

 青服は、我々を追跡していた部隊ではないらしい。我々を追跡していた部隊はタカの紋章を描く旗を掲げていたが、村を襲っている部隊の旗にはクーガーの横顔が描かれている。
 襲撃は50騎ほど。
 虐殺を働いていた侵略生物が、虐殺されていく。
 西ユーラシアからやってきた我々が村人に加勢すると、形成は一気に逆転した。
 セロはヒトを容赦しない。
 ヒトもセロを容赦しない。

 青服が村からの脱出を図るが、村人が積極的に阻止する。
 村の存在が知られれば、ここに住めなくなるからだ。セロを皆殺しにしなければ、自分たちが殺される。

 戦いは30分以上続いた。最終局面では、水陸両用車も村に突入。逃げようとする青服を背後から重機関銃で撃つ。

 それは、殺戮であった。
 そして、何騎かが乱戦を抜け出し、脱出に成功した。

「負傷者は?」
 俺の問いにトゥーレが「いません」と簡潔に答える。
 だが、続けて「村人は100人以上殺されました。正確な人数は確認中です。負傷者は50人程度。軽傷者も含めていますが……」と。

 クマンの女性戦士シュリは、無事だった。王女パウラ、ブルマン商人の娘ミエリキ、そして精霊族2体も擦り傷・切り傷以上の負傷はしていない。
 戦士シュリを含めて、刃物以外の武器を持たずに戦っていた。

 王女パウラが、死体が点々とする広場の中心に立つ。クマン人の一部が彼女を囲み、跪く。跪いているのは王家と関わりがある人らしい。農民は、遠巻きにしているだけ。
  王女パウラが短く発言し、続いて村長が長い発言をする。

 成人女性の精霊族は、我々に丁重な礼をいってくれた。2体とも剣を帯びているが、銃は持っていない。
 ブルマン商人の娘ミエリキは、半田千早と同年齢だ。父の死を知り、涙し、納田優菜が抱きしめている。
 だが、それも短時間のことで、作っているのだろうが平常な態度を見せる。
 気丈な子だ。

 俺には、絶え間なく報告が入る。
 ミエリキは、一瞬の空白を突いて、俺に話しかけてきた。
「お助けいただき感謝します。
 私たちの生命があるのは、精霊族の方々の機転があってこそ。
 多くの方が無事と聞きましたが……」
 俺が答える。
「救出した。
 きみたちが最後だ」
 彼女が安堵の表情を見せる。
「私に銃をお与えください」
「どうするの?」
「父の仇を討ちます」
「ヴルマンの勇者らしいもうし出だが、いまは逃げよう。
 だけど、永遠に逃げるわけじゃない」
「私の父は一介の商人に過ぎませんが、セロの侵略を受けているクマンの人々の力になろうとしていました。
 私は、父の意志を継ぎたい……」
「気持ちはわかる。
 だが、いまは逃げよう」

 彼女との話が無理矢理打ち切られる。
 村人と我々の間で悶着が起きた。
 村長テオは、王女パウラの前で跪かない我々を非礼だと怒っているというのだ。
 我々に同行していたクマンの戦士が説明しているようだが、テオの怒りは収まらない。彼は、王家への臣従を固く誓っているそうだ。
 クマンの言葉を話すヴルマンが何かをいった。
 ミエリキが通訳してくれた。
「あなたを“ノイリン王”だと……。
 本当なのですか?」
「フルギアは俺をそう呼ぶね」
「お目にかかれて光栄です。
 以前、ベアーテ様からノイリンで学んだらどうか、と勧めていただきましたが……。
 父とともにクマン王国に赴きました……」

 王女パウラが村長テオ、護衛兼侍女シュリ、その他のクマン人を引き連れて、水陸両用車の車体前に立つ俺に向かってくる。
 ミエリキが小声で忠告してくれる。
「クマンの貴族と郎党にとって王家は絶対です。ご対応は慎重に」
 ヴルマンの通訳が俺の左横に立つ。彼は、俺たちと一緒にゲマールからやって来た。俺をクマンの戦士たちに“ノイリン王”と紹介した人物だ。
 右には、ミエリキ。
 王女パウラが何かをいう。ミエリキが通訳。
「そなた名は?」
 突然、ヴルマン通訳が怒り出す。ミエリキが驚き、早口で通訳する。
「無礼であろう!
 こちらは“ノイリン王”なるぞ!
 人界を襲わんとする数多〈あまた〉の魔物を東方に封じ込め、手長族の侵略をも退けた、生ける伝説。
 王の中の王。フルギア皇帝でさえ、跪く、王を超えた王なるぞ!」
 そして、見事な美声で、クマン人の言葉で替え歌を歌い始める。ヴルマンの古い童謡の旋律に乗せ、意味不明な英雄譚の歌詞を即興で歌う。
 歌い終わるといった。
「ノイリン王は、いかなるものも御前で跪くことをお許しにならぬ。
 なれど、我らの心は跪いておる」
 そして、続ける。
「姫君、まずは御名〈おんな〉を告げられよ。次に礼をもうせ。
 話はそれからだ。
 我がノイリン王に無礼あらば、剣にかけて名誉を守るぞ」
 鬼気迫る大芝居だ。
 彼は、この事態を予期していたようだ。それで、フルギアが俺に付けた敬称を利用したのだ。
 機転の利く男だ。
 王女は完全に気圧された。村長テオは、俺に目礼することで隙を作った。
 王女がいう。
「失礼をいたしました。
 北の国の国王陛下。
 我が名はパウラ。クマン王国国王エスコラⅢ世の第4王女にございます。
 このたびはお助けいただきありがとうございました」
 王女パウラを助けたことは、ことのついでだ。この作戦の目的は、ヴルマン人と精霊族の救出にある。
 俺は正直にいった。
「あなたを助けにやって来たのではありません。
 残虐な手長族からヴルマン商人の娘を助け出してほしいと、ヴルマンの有力領主ベアーテから依頼され、同時に精霊族の賢者より、気象調査隊員の救出を要請されたので、この地に赴きました。
 あなたは、ついでに助けたに過ぎない。
 ですから、礼は不要です」
 ミエリキの通訳に村長テオが気色ばむ。
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 俺が答える。
「ヒトに上下はない。
 生命は誰にでも一つ。生命に軽重はない。
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 俺は王女に問うてみた。
「この先、どうするつもりですか?
 私たちの情報では、少し南のヒトは姿を消したようです。
 このままでは、クマンの本領、属領も手長族の支配となりますよ。
 クマン王国の勢力は、西アフリカ一帯に及んでいたようですが、国王陛下が身罷った以上、現在の領有はわずかでしょう」
「私は、北から訪れるヴルマンの方々にご助勢いただけないか、と考えておりました」
「それでは、私がベアーテに話してみましょう。ですが、ゲマールとクマンは遠いので……」
「ベアーテ、様……」
「ヴルマンの有力者の一人で、ゲマールの領主です」
「王なのですか?」
「王とは少し違いますが、その理解でいいでしょう」
「陛下は、ベアーテ国王陛下をよくご存じなのですか?」
「ベアーテは女性です」
「失礼しました。
 女王陛下なのですね」
「よく知っています。
 しかし、親しい、という点では、優菜のほうが親しいでしょう」
「ユウナ?」
「彼女です」
 俺は負傷者の手当てをしている、納田優菜を指差した。
 ヴルマンの通訳がフルギアの言葉で俺に告げる。ヴルマンの言葉を解すクマンに、理解させないためだ。
「ハンダ様、実はベアーテ様から、クマンの力になれ、と命じられています」
「……?」
「ベアーテ様は、長らく取り引きをしてくれたクマンを見捨ててはいけないと……。
 我ら50人にそうおっしゃいました」
「ここに残る?」
「はい……。
 ですが、ノイリンの支援がないと……。
 生命を惜しむようで恥ずかしいのですが、無為に屍をさらしたくはないのです」
「私は、ヴルマンにはジブラルタルを任せたい、と考えていたのだが……」
「ベアーテ様は、どうも西アフリカに興味があるようで……」
「それは、ベアーテの考え?
 それとも……」
「ハミルカル様ではないかと……」
「ならば、ジブラルタルはフルギアに声をかけてみよう。
 ノイリンは、ゲマールを支援するよ。
 必ず」
 俺は、この時まで、この通訳の名を知らなかった。報告に来た優菜に小声で尋ねると、ウーゴだと教えてくれる。
 18歳ながら、ヴルマンでは切れ者の評があるそうだ。確かに切れ者だ。

 村の集会所に王女パウラを中心に数人が集まる。
 村長テオが発言。
「王都は落ちたが、第2の街ブラウは健在だ。王女殿下をブラウにお連れ奉り、王国を再興する」
 王女の護衛シュリが反対する。
「手長族は、ブラウを必ず攻める。攻められれば、必ず落ちる。
 天空を進む船には抗いようがない」
 村長テオがシュリに反論する。
「しかし、この村にはいられない。
 手長族に見つかってしまったからね。
 森に隠れて、獣のように生きるか?」
 シュリは反論できなかった。

 半田千早が走ってくる。
 茅葺き屋根の集会所に駆け込む。
「飛行船が、セロの軍用飛行船が向かってきます。
 アークエンジェルからの無線です」
 トゥーレが叫ぶ。
「対空戦闘用意!」
 対空戦闘といっても、12.7ミリ重機関銃しかない。35ミリ高射機関砲と76.2ミリ高射砲がない。
 戦うといっても、戦いようがない。
 俺は、トゥーレに命じた。
「全員を森に避難させろ。
 負傷者は水陸両用車に乗せ、歩けるものは自力で移動する」
 そして王女に告げる。
「王女殿下もお御足で森に向かってください」
 飛行船の恐ろしさを知っているのか、王女パウラは泣きだしそうなほど不安の色濃い顔をしている。

 怪我をした村人が水陸両用車に乗せられていく。
 アボロの村は海岸から25キロ。軍用飛行船は商用飛行船と異なり低空を飛ぶ。レーダーでは発見しにくい。調査船アークエンジェルは、目視で発見したのだと思う。
 とするならば、村と飛行船の距離は、50キロほどか。村の位置が知られていれば、30分ほどで上空に達する。
 南の森は近いが木々の密度が薄い。上空からは丸見えだろう。北の森までは2キロもあるが高木が密生している。逃げ込めば、上空からは見えない。
 村長テオは北の森に向かうと決める。賢明な判断だ。

 一刻も早く逃げ出さなくてはならないのに、村人は食料はともかくとして、家財までも持ち出そうとする。
 これでは到底逃げられない。
 村人は飛行船を知らないようで、切迫感がない。
 村人が右往左往している間に、飛行船の船体が南に見え始める。
 正面からなので、浮体が真円に見える。
 負傷者を乗せた水陸両用車を北の森に先行させたことは正解だった。
 だが、同時に唯一の対空火器を失った。12.7ミリ重機関銃は、水陸両用車のキャビン上に装備している。
 半田千早と納田優菜が駆け寄る。
「養父〈とう〉さん!」
 半田千早の問いに俺は答えを持っていなかった。
「村は爆撃される。
 離れるんだ。南の森に行け」
 トゥーレが村人を南の森に誘導しているが、動きは鈍い。食料や家財に対する執着が強すぎるのだ。
 西ユーラシアではあり得ない。我々は、ドラキュロに襲われたら、何もかも捨てて逃げる覚悟がある。それは、セロに対しても有効だった。それゆえ、人的被害は最小限に抑えられた。
 非常時には、不十分だが、互いに助け合うルールもある。
 ドラキュロがいない西アフリカでは、ヒト本来の業〈ごう〉が生きている。それだけ、安寧な土地ということだ。
 トゥーレに命じる。
「連れて行けるヒトたちだけでいい。
 南の森に向かえ」
 トゥーレが頷く。

 豪農なのだろうか、使用人か小作人らしい農民たちに馬車への家財積み込みを強要している。
 だが、農民は浮き足立っている。
 半田千早が豪農の元に行く。
 無駄だ。言葉と時間の。

 半田千早が、彼女の前に立ちはだかった少女の腹を銃床で殴る。そして、空に向けて発射。
 少女は両耳を掌で押さえて蹲る。
 農民たちが走って南の森に向かう。
 豪農が何かをいうが、半田千早が銃口を向けると黙った。
 養母〈ははおや〉に似て、強引だ。

 半田千早が俺の横を走り抜けようとする。
「何をいわれた!」と尋ねた。
「わかんない!」と答える。

 村には多くのヒトが残っている。財貨を捨てられない人々だ。豪農も、貧農も……。
 彼らの避難を促すため、村長テオが残っている。彼の長男と長女も声を張り上げている。
 だが、なかなか避難しようとはしない。明らかに、村人は村長に対して従順ではない。

 飛行船は小さな円だったが、大きな円にならない。しかし、故障していなければ全速で接近しているはずだ。

 青服の飛行船は、赤服の飛行船にはない小型だった。浮体の直径が15メートルしかなく、接近に時間がかかっているように感じさせたのだ。
 飛行船はやや北に進路を変え、その全貌が見える。
 浮体の下部にキャビンが懸吊されている。この点は、赤服の飛行船と変わりない。
 だが、そのキャビンから左右真横にかなり長い支柱が延びている。支柱は3列。その支柱に円筒状のものが、片側5つ取り付けられている。
 爆弾落射機だ。

 青服の小型飛行船は、爆撃ルートをとる。
 進路は真西。
 飛行船は速度を落とし、明らかな爆撃態勢をとる。セロの爆撃方法は、目標に向かって低高度を低速で侵入し、精密照準を行う。空中で静止して投弾する場合は、高度を300メートル以上とる。
 セロの爆弾には威力によって、いくつかの種類がある。セロは火薬を知らない。爆弾には、高圧縮の可燃ガスと油脂が充填されている。一種の焼夷弾で、250キロ級の間接も含めた威力半径は、150メートルもある。
 青服の飛行船は、爆弾落射機を30基懸吊している。大きさから250キロ級だ。爆弾搭載量は、驚異的な7.5トンだ。

 真っ直ぐ低速で向かってくる。
 そして、キャビンの真下から、ロケットを4発発射。集会所と村長の館が爆発炎上する。
 家財に執着していた村人が炎に包まれる。村に残っていた人々は、何もかも放り出して逃げ惑う。
 結局、こうなるのだ。
 銃を持つ全員が、飛行船に向けて発射している。
 俺はトゥーレに「急げ。全員で、南の森に行くんだ」といった。

 銃と弾薬を抱えて200メートル全力疾走は、40を超えた身体にはきついが、死を感じる恐怖はあり得ない力を発揮させる。その後の筋肉痛は凄まじいが……。

 飛行船は、時速25キロほどで村に侵入し、10発を投弾。

 村が燃えている。
 何もかも失った村人が泣いている。
 親とはぐれた6歳くらいの女の子と、半田千早は手をつないでいる。
 女の子が泣いて、汚れた手で目をこすっている。
 俺たちにできることは何もない。
 最後まで村に留まった村長テオが、俺に何かをいった。
 意味はわからないが、悪意や非難の声音ではなかった。

 トランシーバーに連絡。
「無事ですか?」
 水陸両用車のクルーからだ。
「無事だ。
 隊員に負傷者はいない。
 爆撃で村人がかなり死んだ。
 正確な人数はわからない」
「こちらも隊員に怪我人なしです。
 ですが、村人数人が体調不良を訴えています」
「村が燃えているんだ。
 今夜雨が降れば、雨に打たれることになる。
 体調だって悪くなるさ」

 ワグテイル水上偵察機の2機編隊が飛んでくる。
 疎林の中で、半田千早が「ララ、ララ!」と叫び手を振る。
 低空を通過した2機が翼を振る。
 翼下にロケット弾を懸吊している。命中精度の低い撃ちっ放しの無誘導弾だが、大きな浮体で動きが鈍い飛行船ならば命中させられる。
 水上偵察機は、各機左右翼下に合計4発を懸吊している。
 飛行船は水上偵察機の機動についていけず、ヨタヨタと飛び回っている。
 水上偵察機は、盛んに機関銃弾を命中させているが、ロケット弾は撃たない。
 飛行船の機動が読めず、必中の間合いまで詰められないのだ。

 ララの機体は、垂直尾翼が赤く塗装されている。パイロットたちから“レッドテール”と呼ばれている。
 白を貴い色とする精霊族の慣習に逆らうように、ララのトレードカラーは赤だ。
 レッドテールがロケット弾を同時に4発発射。
 全弾命中。
 飛行船は破口からガスを下方に向けて噴出し、いったん高く浮き上がり、浮力を失って大きく降下。地面に激突。
 そこに2番機がロケット弾を発射する。

 飛行船は2度と浮き上がることはなかった。
 撃墜した飛行船に、村人たちが走り寄り火を放った。

 半田千早がいった。
「この人たち、放っておけないよ」
 その通りだ。
 我々が支援しなければ、セロに殺されてしまう。

 地球の人口は少ない。
 ヒトは団結しなければ生きてはいけない。
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