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浮気を見つけました。
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「兄様、伺いたいことがあるの」
両手をぎゅっと握りしめて、アニータは二人の兄、ドナルドとダグラスの前に立った。
アニータの思い詰めたような表情を不思議そうに見てから、上の兄ドナルドが口を開いた。
「アニータ?……答えられることならば」
こくっと首を動かして、アニータは口を開いた―――
その姿を見たのは、偶然だった。
隣国の王女と王子が、親善大使として、我が国を訪問していることは知っていた。
その案内役を、第三皇子―――リアム殿下が務めていることも。
何故か、リアム殿下の兄、ライアン殿下が教えてくれた。
元々あまり会えていないのに、さらに忙しくて会える時間がない。
(会いたいなあ)
そう思うものの、アニータだって侯爵令嬢だ。
勉学や社交、男性ではなく女性が行った方がいい場所への慰問など、意外と忙しい。
その合間を縫ってまで会ってくれようとする気概がない婚約者だからこそ、会えていないのだが。
今日だって、孤児院に行って一緒にクッキーを作ってきたところだ。
それはそれで、とても楽しい時間だったけれど、リアム殿下に会いたいと思う気持ちは、また別物なのだ。
ぼんやりと、寂しいなあと思いながら、帰りの馬車に乗って街並みを眺めていた。
今日は家で父と一緒に過ごしている母に何かお土産でも買って帰ろうかと、お菓子屋さんに目を向けた時、その姿はあった。
遠目でもすぐにわかる。
恋焦がれてやまない人の姿だ。
なんて幸運!運命の様だわ!
アニータが馬車を停めて欲しいと御者に声をかけようとしたとき、リアム殿下の手に引かれている人に気がついた。
流れるような金の髪、抜けるほどに白い肌、その頬はほんのりピンク色に染まり、恥ずかしげに小さく微笑む大きな瞳は晴れた空の色。
とびっきりの美少女を連れていた。
リアム殿下のほかにも数人の近衛騎士がついていたので、すぐにその方が隣国の王女様だと気がついた。
町の視察でも行っているのだろうか、周りをゆっくりと眺める彼女の傍で、その手を取り、何かを説明している様子のリアム殿下がいた。
しかも―――微笑んでいた。
(何それ!?)
アニータでさえ、傍で微笑むリアム殿下など希少だというのに。
何その大盤振る舞い。
気がつけば、御者に声をかけるタイミングも見失い、侯爵家の馬車は王女様のすぐそばを、少しだけスピードを落としながらも止まることなく通り過ぎてしまった。
リアム殿下がちらりとこちらを見た気がするけれど、アニータは二人を見ることができなくて目をそらしていた。
はっきり言って、泣きそうだった。
私なんて、手を取られて微笑まれたことなんてない気がする。
リアム殿下はあまり笑わない方だから。
彼が父に用事があって侯爵家に来た時も必要以上に笑ってはいないから、それが普通なのだと思っていた。
あんなふうに微笑むなんて、知らなかった。
そう考えて、アニータは悔しさに唇をかみしめた。
『知らなかった』なんて。『知っている』ことの方が少ないのに。
正式に婚約してから、まだ一月ほどしかたっていない。
その前までは、ただの上司の娘と父の部下という間柄だ。
何かを深く語り合うような関係ではなかった。
だけど、アニータは彼の姿に恋をした。
馬鹿な真似をしたアニータを救ってくれたヒーローに。
さらに、アニータを守り、本気で心配して怒ってくれた彼に。
姿と言っても、顔はいかつくて、美男子というわけではない。
美男子というならば、ライアン殿下はびっくりするほど麗しい顔をしている。
鑑賞するにはうってつけだ。
ライアン殿下のことを思いだして、先日、リアム殿下に連れられてライアン殿下に謝りに伺ったことを思いだした。
両手をぎゅっと握りしめて、アニータは二人の兄、ドナルドとダグラスの前に立った。
アニータの思い詰めたような表情を不思議そうに見てから、上の兄ドナルドが口を開いた。
「アニータ?……答えられることならば」
こくっと首を動かして、アニータは口を開いた―――
その姿を見たのは、偶然だった。
隣国の王女と王子が、親善大使として、我が国を訪問していることは知っていた。
その案内役を、第三皇子―――リアム殿下が務めていることも。
何故か、リアム殿下の兄、ライアン殿下が教えてくれた。
元々あまり会えていないのに、さらに忙しくて会える時間がない。
(会いたいなあ)
そう思うものの、アニータだって侯爵令嬢だ。
勉学や社交、男性ではなく女性が行った方がいい場所への慰問など、意外と忙しい。
その合間を縫ってまで会ってくれようとする気概がない婚約者だからこそ、会えていないのだが。
今日だって、孤児院に行って一緒にクッキーを作ってきたところだ。
それはそれで、とても楽しい時間だったけれど、リアム殿下に会いたいと思う気持ちは、また別物なのだ。
ぼんやりと、寂しいなあと思いながら、帰りの馬車に乗って街並みを眺めていた。
今日は家で父と一緒に過ごしている母に何かお土産でも買って帰ろうかと、お菓子屋さんに目を向けた時、その姿はあった。
遠目でもすぐにわかる。
恋焦がれてやまない人の姿だ。
なんて幸運!運命の様だわ!
アニータが馬車を停めて欲しいと御者に声をかけようとしたとき、リアム殿下の手に引かれている人に気がついた。
流れるような金の髪、抜けるほどに白い肌、その頬はほんのりピンク色に染まり、恥ずかしげに小さく微笑む大きな瞳は晴れた空の色。
とびっきりの美少女を連れていた。
リアム殿下のほかにも数人の近衛騎士がついていたので、すぐにその方が隣国の王女様だと気がついた。
町の視察でも行っているのだろうか、周りをゆっくりと眺める彼女の傍で、その手を取り、何かを説明している様子のリアム殿下がいた。
しかも―――微笑んでいた。
(何それ!?)
アニータでさえ、傍で微笑むリアム殿下など希少だというのに。
何その大盤振る舞い。
気がつけば、御者に声をかけるタイミングも見失い、侯爵家の馬車は王女様のすぐそばを、少しだけスピードを落としながらも止まることなく通り過ぎてしまった。
リアム殿下がちらりとこちらを見た気がするけれど、アニータは二人を見ることができなくて目をそらしていた。
はっきり言って、泣きそうだった。
私なんて、手を取られて微笑まれたことなんてない気がする。
リアム殿下はあまり笑わない方だから。
彼が父に用事があって侯爵家に来た時も必要以上に笑ってはいないから、それが普通なのだと思っていた。
あんなふうに微笑むなんて、知らなかった。
そう考えて、アニータは悔しさに唇をかみしめた。
『知らなかった』なんて。『知っている』ことの方が少ないのに。
正式に婚約してから、まだ一月ほどしかたっていない。
その前までは、ただの上司の娘と父の部下という間柄だ。
何かを深く語り合うような関係ではなかった。
だけど、アニータは彼の姿に恋をした。
馬鹿な真似をしたアニータを救ってくれたヒーローに。
さらに、アニータを守り、本気で心配して怒ってくれた彼に。
姿と言っても、顔はいかつくて、美男子というわけではない。
美男子というならば、ライアン殿下はびっくりするほど麗しい顔をしている。
鑑賞するにはうってつけだ。
ライアン殿下のことを思いだして、先日、リアム殿下に連れられてライアン殿下に謝りに伺ったことを思いだした。
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