絶対、手に入れて見せる!

ざっく

文字の大きさ
11 / 11

返さなくていいですか

しおりを挟む
少しだけだが、気を失っていたアニータを揺さぶり起こしたリアム殿下が言った。
「送っていくからこれを着なさい」
そう言って差し出されたのは、リアム殿下の長袖のシャツだった。

ぐちょぐちょになってしまった下着は、気持ち悪いから履かずに持って帰ると言うと、怒られた。
「そんな格好で外を歩けると思うな!」
普段だったら絶対にしない。
当たり前だ。
だけど、今から帰る短い時間なのだし、夜だ。

「短い時間、履かずに堪える方じゃなく、我慢して履く方を選べ」
不機嫌な様子で言うリアム殿下は、引く様子を全く見せない。
認識の違いというやつだと思う。…アニータは思うのだけど。
だけど、睨まれて、しぶしぶ冷たくなってしまった下着に足を通したところだった。

差し出された長そでシャツは大きくて、前ボタンを上まで留めても胸元が少し開きすぎだった。
袖は長くて、手が出ないというかコートからはみ出してしまうのでくるくると巻いた。
裾はおしりまですっぽり隠せてしまうので、安心感がある。
全体的に大きいが、その分安心感がある。
何より、リアム殿下の香りがする。
香水でも洗剤でもなく、彼独特の体臭とでも言おうか。
きっと、これえだけ近づいたことのある人間だけしか感じ取ることができない香り。

アニータは、そのシャツを着たことでリアム殿下の香りに包まれた。
袖口を持ち上げて頬ずりをすれば、リアム殿下がすぐそばにいるようだ。
「アニータ……」
苦々しげな声がして、顔をあげると、苦しそうな顔をしたリアム殿下がこちらを見下ろしていた。
「リアム殿下…殿下は、お金持ちですよね?」
「……なんだ、急に」
突然関係のないことを言い出したアニータに戸惑いながらも、彼は頷く。
「まあ、一応」
それはそうだ。だって、一国の王子だもの。
実際には、働いて稼いでいるだろうが衣食住を城に保証されているのだから、富豪だと言える。
「こんなシャツは、溢れるほどに持っていそうですね?」
嫌そうにされた。
だけど、アニータの思考回路に慣れてきたのだろう。
諦めたように、アニータを見下ろした。

「……欲しいのか」
その言葉に、アニータは満面の笑みで頷いた。
「返さなくてもいいですか?」
嬉しそうに笑って聞いたのに、返事はない。
顔を覆って俯いてしまうリアム殿下に、アニータは譲歩案を提示する。
「じゃ、じゃあ、代わりのシャツをプレゼントするとかではダメ?私はこれがいいの。リアム殿下のものが……ふぎゅ」
まだ提案途中だったのに、リアム殿下に押しつぶされて、変な声が出てしまった。
抱きしめられるのは嬉しいけれど、ぎゅうぎゅうに力が入りすぎていて、少し苦しい。
彼に何が起こっているのか分からないままに、アニータは手を伸ばす。
逞しい背中に手を回して、彼が来ているシャツをきゅっと握る。

そうすると、またリアム殿下の腕に力が入って、これ以上は無理だと思う。
「で、殿下っ、苦しいです」
泣き声をあげると、はっと声をあげてリアム殿下が離れた。
「あ。放して欲しいわけではないので、ぎゅっとするのはしてください」
離れていってしまったリアム殿下の体に手を伸ばす。
そんなアニータを何とも言えない顔で眺めて、リアム殿下は力が抜けるようにアニータを抱きしめた。
「辛い……」
優しく抱きしめられながら、リアム殿下の腕の中で胸に頬ずりをしていると、本当に辛そうな呟きが落ちてきた。
「何がですか?」
辛いようなことがあっただろうか。
アニータは幸せ満点だが。
顔をあげようとしても、頭は胸に抱き込むようにされてできなかった。
リアム殿下はしばらくその体制のままでいた後で、大きな大きなため息を吐いて、アニータの頭を撫でながら言った。
「さあ、もう帰る時間だ。コートを着て」
「はい」
素直に頷いて、コートを着た。着た後で、アニータは気がついてしまった。
コートを着ると、リアム殿下の匂いに包まれていた空気がなくなる。
いつもの自分の匂いだ。
このままいくと、今着ているシャツだって、侍女に服を洗濯に回されてしまうだろう。
いつもいつも洗濯に抵抗できるわけがないし……、
「このシャツ、殿下の匂いが取れてしまったら、また別のシャツと交換してください」
だから、最善の要求をした。
ごんっ。
大きな音に驚いてそちらを見ると、リアム殿下が壁におでこをぶつけてうずくまっていた。
「ええっ?リアム殿下!?」
心配して駆け寄るアニータを見もせずに、リアム殿下は呟いていた。


「結婚式までとか……どこまでの苦行を強いられるんだ……」

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...