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狩猟会5

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 大仰なほどに、うんうんと頷きながらリオに近づいてきた医術士はリオの肩を叩いて言った。
 「いや、公爵夫人としてあらゆる事態に対応したいと医術を学ばれたいと仰られた時はどうしようかと思ったものだがの、さすがと申しあげましょう」
 リオとアレクシオは、医術士の顔を見返すだけで、反応ができない。
 「さらに、最近では、自分でできる医術を考えてくださっているらしく、その献身に、敬意を表明いたします。なんとも画期的で素晴らしいお考えですの。
 ああ、いやしかし、助かった。公爵夫人閣下のご判断により、かの令嬢は助かることでしょう。処置が遅ければ、死が待ち受けていた症状だと思いますぞ」
 老医師がリオの手を取って一礼したことに気がつき、周りの使用人たちが一斉に頭を下げた。

 「ありがとうございます」との声が、あちこちから上がって、リオは呆然としながらも、瞳に涙をにじませた。
 医術士が何をしようとしているか分かったのだ。
 「医術士様・・・・・・」
 「ああ、これで風邪などをひかないようにする対策を公爵邸以外でもできるようになりますな!」
 その医術士の言葉に、噂だけで広まっていた、『体の調子を整える』秘術というものを自分たちも知ることができるのかと、周りで聞いていた人たちから、歓声に似た声があがった。
 「ありがとうございます」
 声が出ないリオに代わり、アレクシオが小声で、医術士に礼を言った。

 医術は、専門に習っていない者がその知識を有することを禁止するが、学ぶ者を制限したりはしていないのだ。
 ただ、あまりにも難しく、途中で断念するものばかりで、医術士と名乗れない。断念した者も、医術を語ってはならない。
 それを破れば、禁固刑となる。
 リオが、医術を学んでいる途中だというならば、医術を他人に教えたりすることはできないが、指示をして他人を動かした今の行動は許容範囲だと言える。

 アレクシオの小声の礼に、面白そうに目を細めて、リオを見た。
 「一人一人が自分で病気の対策をする・・・だったかの。噂で聞いておったよ。批判もあるじゃろうが、是非、その話、聞いてみたいと思っとったよ」
 医術士は、そう言って、カカカと笑いながら「また屋敷にお邪魔させてもらう」と言いながら、会場へ戻っていった。
 使用人たちも、それぞれ自分の仕事に戻っていくのを見て、リオもアレクシオを離さなければならないと気がつく。
 「わ、私ごめんなさ・・・」
 あの医術士がいなければ、どうなっていたことだろう。
 公爵家から、犯罪者を出すところだった。
 アレクシオが、リオを抱きとめたとき、覚悟を決めたように息を吸い込んだのを感じた。
 何を言う気だったのかは分からないけれど、公爵家としては、最悪なこと。リオをかばえば、それは、罪を公爵家が被ることになってしまう。

 ・・・・・・それは、なんと甘美な幸せ。
 アレクシオが、一瞬にして、全てのどんなものよりもリオを選んだ瞬間。

 そんな馬鹿なことを考えた。自分の愚かしさのせいで、愛する人にすべてを捨てさせる決心をさせるようなことをしてしまったのに。
 それなのに、この人は、リオの軽はずみな行動も、馬鹿な考えも分かって、リオを丸ごと包み込んでくれる。
 「リオ、知識を持つことを怖がらなくていい。これが私だと、胸を張っていい。オレは、リオを誇りに思うよ」
 リオは友人を助けたんだ。そう言って、アレクシオはリオを抱き上げた。
 「オレの妻は、世界で一番愛らしくて、聡明な人だ」
 この言葉が、リオにとっての一生の宝物になった。


 さて、余談であるが・・・後日分かったことだが、オリヴィアについて帰った兵士は、さらに、彼は屋敷まで同行し、部屋まで連れて行ったりもしたらしい。
 それを聞いて、リオは少々慌てた。出過ぎた真似だと思ったのだ。
 それならば、自分も一緒について帰って、傍についていなければならなかった。
 一人きりで送り出してしまったことを申し訳なく思い、後日、兵士を付き添わせたことを謝れば、オリヴィアはうっとりして言った。

 「いいえ・・・あぁ、リオ様に感謝しなければ。・・・・・・とてもすてきだったの」

 オリヴィア様は、軽々と自分を抱き上げた彼に惚れてしまったらしい。
 彼に抱き上げられたときの安心感から、笑顔や、その腕の感触まで、「他の方には言っても理解されないのですもの!」と言いながら、語り尽くされ 
てしまった。

  ・・・・・・リオに、筋肉萌えな友人ができた。
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