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ざっく

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呑んでも飲まれるな2

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 伯爵家同士の政略と考えられがちだが、オリヴィアとグレイは恋愛結婚だ。
 ここまで辿り着くのにも様々な苦労があった。
 政略とかは全く関係ないところでだ。どっちかというと、両家の結婚は政略と考えてもいいくらいに、両家共に望まれた結婚であっただろう。

 グレイは、「自分がごつくて、格好いい男ではないから」と、しきりに自分を卑下する。
 付き合い始めた後も、「オリヴィアにはもっと格好いい男がいるのではないか」とか、「向こうの方がお似合いだ」とか、見た目に似合わない卑屈っぷりだった。
 夜会に参加しているときに、たまたま他の男性からオリヴィアが話しかけられている姿を見て、あっさりと踵を返したグレイにリオは足が出そうになった。
 「何それ、ウザい!」思わず呟いてしまったリオに、「そんな言葉どこで覚えてきた!」とアレクシオの方が慌てていた。
 「オレ以外見ないでくれ、オレの瞳はいつも君を見ているのに。って言ってきなさい」
 「この場でですか!?無理です!」
 真っ赤になって首を振るグレイをリオは眉をひそめて見た。
 この体つきは好みだが、性格がよくないと、リオは思う。
 リオは口をとがらせてアレクシオを見上げると、小首をかしげてみる。
その仕草に、片眉をあげたアレクシオは少し考えて……
 「命令だ。行け」
 グレイに命令を下した。
 アレクシオが命令を下すその姿に、リオはひそかに感動しながら悶えていた。
 グレイは真っ赤になったり青くなったりと、せわしなく顔色を変えていたが、無表情なアレクシオが命令を取り消すことは無いと理解したのか、頭を下げてオリヴィアの元へ向かった。
 (やはり、長官はさすがだ)
 そう思いながら、リオは満足げにグレイの背中を見送っていると……、
 「オレ以外見ないでくれ、オレの瞳はいつも君を見ているのに」
 アレクシオがと息を耳に吹き入れる気かと思うほど近くでそう囁いてきた。
 「な、なななな……!?」
 リオが真っ赤になって振り仰ぐと、不機嫌な旦那様がいた。
 「いい加減、飽きた。そろそろ俺だけを見ないか?」
 「―――――っ!」
 リオは音にならない悲鳴をあげた。
 思わず鼻を押さえて、鼻血が出ていないことを確認した。
 アレクシオは、真っ赤になったリオを満足げに見下ろして、ふっと優しく微笑んだ。
 「リオ、もういいだろう。おいで?」

 (あの時のアレクシオ様の甘い声は何度思い出しても腰が砕けそうだわ)
 アレクシオの甘く潤んだ瞳を思い出して、リオはほうっとため息を吐いた。
 (……なんのことを考えていたっけ)
 そう思って、目の前にいるオリヴィアを見て思い出す。
 この二人が結婚まで行きつくとは。実は、リオは途中であきらめかけていた。
 だって、めんどうくさいのだ。
 主にグレンが。
 ぐじぐじぐじぐじと!
 それなのに、オリヴィア曰く、
「あなたを見ると、私は自信が持てなくなってしまう。あなたに縋り付いてしまう情けない男と成り果ててしまうのです」
 という言葉は、「美しい」と褒められている言葉であるというのだ。
 ―――どうして?
 さらに、オリヴィアもまた、見た目に似合わないしつこさで「グレイ様はすてきです」と言い続けていた。
 この二人の子の性格がなければ、結婚まで行きつかなかっただろうなとリオは思う。
 大体、二人が愛を確かめ合ったという言葉が、リオには理解できずにいる。

 (まあ、当人同士が理解できているならそれでいいのだけれど)

 リオはそんなことを考えながら、ふとオリヴィアが手に持っている物に目を向けた。
「オリヴィア、今飲んでいるのはなあに?」
オリヴィアの手には、足の付いた三角形の小さなグラスが握られていた。
薄いブルーの中に、キラキラと虹色に光を反射しながら丸い何かが沈んでいる。
「カクテルです。ソーダの中に、お酒をゼリーで固めて沈めてあるのです」
周りを見渡すと、どの令嬢も似たような飲み物を持っていた。
お酒か。少しリオはがっかりした。
お酒を外で飲むことはアレクシオに禁止されているのだ。
しかし、「お飲みになりませんか?」と、わざわざオリヴィアが給仕に合図をしてまで目の前に差し出してくれた。
(……断ったら失礼ではないか?うん、きっとそうだと思う)
差し出してくれたのは、オリヴィアと同じもの。ブルーがキラキラと小さなグラスの中で踊る。
オリヴィアはさっきから普通に飲んでいるし、周りの令嬢たちもおいしそうにしている。
しかも、小さなグラスに少量しか入っていない。
この一杯くらいいいのではないだろうかとリオは思った。

 アレクシオが少し離れた場所で、グレンと話していることを確認して、リオがグラスを受け取った。
 こうして、間近に見れば、さらに綺麗だ。
 ソーダの中で、ゆらゆらとゼリーが揺れながら溶けていっているようだ。
 その美しさに感動しながら、リオは少し口に含んだ。
以前アレクシオの寝酒を勝手に飲んだ時のようになってしまったらすぐにやめようと思って。
しかし―――、
「おいしい!」
口に含んだ途端、シュワっと炭酸がはじけ、柑橘系の香りがした。
しかも、ゼリーの食感がとてもいい。つるんと口の中を滑っていって、喉を冷やしていく。
リオに褒められて、主催者であるオリヴィアは誇らしげだった。
(これなら、前に飲んだときみたいなくらっとする感覚もないし、平気そう)
 そう思って、リオはゼリーのぷるぷるした食感を楽しんだ。

しかし、お酒を飲みなれないリオは知らなかった。
小さなグラスに入っているお酒は、アルコールが強いということを。
 柑橘系系のさわやかさと甘さも、炭酸のすっきりした飲み口も、全てがアルコールを感じさせなくする。
 さらにゼリーに包まれていることから、最初に感じたアルコール度数と、最後のアルコール度数では大きく変わってしまうこと。
 勧められた酒は、非常にたちの悪い部類の酒だったといえる。
 けれど、酒を飲みなれた令嬢たちは、平気で口にするし、自分の限界を知っていた。

 誤算は、リオの限界値は知らなかったことだけ。
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