19 / 39
第2章
第19話:夏が終わってしまう前に
しおりを挟む
朝の通学路は、夏の陽射しでアスファルトが既に熱を帯びていた。
私は一人で歩きながら、セミの鳴き声に混じる自分の足音を聞いていた。ジリジリと照りつける太陽の下で、どこか私の心の中も熱くざわついている気がした。
和人くんのことを考えると、胸の奥がざわざわする。
好きだという気持ちと、嫉妬という醜い感情が混じり合って、自分でもよく分からない状態になっている。
昨日も、部室で和人くんと三上さんが仲良く勉強している様子を見ていて、またあの嫌な感情が湧き上がってきた。
私だって、和人くんと自然に話したい。
私だって、和人くんに頼られたい。
でも、なぜか上手くいかない。
好きだという気持ちが先走って、いつも空回りしてしまう。
◇
教室に着くと、いつもの朝の風景が広がっていた。
生徒たちがそれぞれの席で、宿題を見せ合ったり、昨夜のテレビの話をしたりしている。私もその輪の中に混じって、明るく振る舞う。
「おはよう、光ちゃん」
クラスメイトの友達が声をかけてくれる。
「おはよう」
私は笑顔で答える。
でも、その笑顔の奥で、私は自分の感情と格闘していた。
和人くんはまだ教室にいない。最近は、朝も三上さんと一緒にいることが多い。図書館で待ち合わせをして、一緒に登校しているらしい。
それを聞いた時の私の気持ちを、どう表現すればいいのだろう。
嫉妬?羨望?それとも、単純に寂しいだけなのだろうか。
朝の強い陽射しが窓から差し込んで、教室全体を明るく照らしている。エアコンが効いているとはいえ、外の暑さが伝わってくるようだった。でも私の心の中は、そんな夏の暑さとは違う、もやもやとした熱を抱えていた。
◇
一時間目の授業中、私は集中できなかった。
数学の公式を板書する先生の声が、遠くから聞こえてくるようだった。
ノートに文字を書きながら、私は自分の感情について考えていた。
いつから和人くんのことを好きになったのだろう。
最初は、null として助けてもらった時の感謝の気持ちだった。困っている時に、匿名で助けてくれる人がいる。それだけで十分だった。
でも、深夜の音声チャットを重ねるうちに、その感謝は別の感情に変わっていった。
和人くんの優しさ、真面目さ、時々見せる不器用さ。
そんな彼の人柄に、いつの間にか惹かれていた。
そして、彼が黒瀬和人だということが分かった時、私の気持ちは確信に変わった。
現実世界の彼も、ネットの世界の彼も、同じように優しくて、同じように不器用で、同じように魅力的だった。
でも、好きになってしまったからこそ、複雑な感情も生まれてしまった。
和人くんが他の女の子と仲良くしているのを見ると、胸が苦しくなる。
特に三上さんとの関係は、私にとって特別に辛い。
二人は似ている。内向的で、人見知りで、でもお互いを理解し合っている。
私には、そんな風に和人くんと関わることができない。
好きだという気持ちが邪魔をして、自然に振る舞えなくなってしまう。
◇
昼休みになっても、私は一人で教室にいた。
いつもなら友達と一緒に学食に行くのに、今日はなんだか気分が乗らなかった。
机に突っ伏して、窓の外を眺める。
校庭では、強い日差しの中で多くの生徒が思い思いに昼休みを過ごしている。木陰のベンチで弁当を食べている子、暑さに負けずに友達と話している子、涼しい図書館で読書をしている子。
みんな、それぞれに充実した時間を過ごしているように見える。
私だけが、こんな風にモヤモヤした気持ちを抱えているような気がした。
そんな時、廊下から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「そうそう、この問題も分からなくて...」
三上さんの声だった。
「ああ、これは昨日やった公式を使えば...」
和人くんの声も聞こえる。
二人は図書館に向かって歩いているようだった。
私は窓際の席から、そっと廊下を覗いた。
和人くんと三上さんが並んで歩いている。三上さんがノートを見せながら何かを説明していて、和人くんがそれに答えている。
二人の距離感は、とても自然だった。
お互いに緊張することもなく、普通に会話している。
私が和人くんと話す時は、いつも心臓がドキドキして、何を話せばいいか分からなくなってしまうのに。
その違いが、私には痛いほど分かった。
好きという感情があるからこそ、自然に振る舞えなくなってしまう。
でも、三上さんには恋愛感情がないから、和人くんと自然に接することができる。
それが悔しくて、羨ましくて、でも同時に理解もできてしまう。
私はそっと席に戻って、再び机に突っ伏した。
◇
放課後の部室は、いつものように三人の空間だった。
でも今日の私は、どこか他人事のような気持ちで二人の様子を見ていた。
和人くんと三上さんが、また勉強の話をしている。三上さんが分からない問題を和人くんに聞いて、和人くんが丁寧に説明している。
私も勉強は得意な方だから、説明することはできる。でも、なぜか割って入る気になれなかった。
二人の世界を邪魔したくないような気持ちと、自分だけが疎外されているような気持ちが混じり合っていた。
「天野先輩、大丈夫ですか?」
三上さんが心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫よ」
私は作り笑顔で答えた。
「なんだか、お疲れのようですが...」
「気のせいよ」
私は三上さんの優しさを拒絶してしまった。
その瞬間、部室の空気が少し重くなった。
和人くんも心配そうに私を見ている。でも、私は何と言えばいいのか分からなかった。
「嫉妬してます」なんて言えるわけがない。
「和人くんのことが好きだから、三上さんが羨ましいです」なんて言えるわけがない。
だから私は、何も言わずに黙っていた。
でも、その沈黙が余計に状況を悪くしているのも分かっていた。
◇
その日の夜、私は自分の部屋で一人になって、ようやく本当の気持ちと向き合うことができた。
ベッドに座って、膝を抱えながら考える。
私は和人くんのことが好き。
その気持ちは、もう疑いようがない。
でも、その気持ちを素直に表現することができない。
なぜなら、和人くんからの明確な答えをもらっていないから。
私たちの関係は、まだ曖昧なままだ。
お互いに意識しているのは分かる。でも、「付き合ってください」「はい」という明確なやり取りをしたわけではない。
だから私は、恋人として和人くんに嫉妬する権利があるのかどうか、分からなくなってしまう。
でも、嫉妬という感情は、そんな理屈では割り切れない。
和人くんが他の女の子と仲良くしているのを見ると、どうしても胸が苦しくなる。
特に三上さんとの関係は、私にとって特別に辛い。
三上さんは悪い子じゃない。むしろ、とても良い子だと思う。
和人くんの初めての友達として、彼女は適任だろう。
でも、それが分かっていても、嫉妬という感情は消えない。
私は枕を抱きしめながら、小さくため息をついた。
◇
次の日の朝も、私は一人で登校した。
和人くんと三上さんは、また図書館で待ち合わせをしているのだろう。
歩きながら、私は昨夜考えたことを思い返していた。
このままじゃだめだ。
嫉妬という感情に振り回されて、和人くんとの関係も、三上さんとの関係も悪くしてしまう。
でも、だからといって、この気持ちをどう処理すればいいのか分からない。
そんな時、ふと思い出したことがあった。
中学時代の私のことを。
あの頃の私は、本当に一人だった。教室の隅で本を読んで、誰とも話さずに過ごしていた。
でも高校に入って、思い切って変わろうと決めた時、私は自分から行動を起こした。
話しかけるのが怖くても、勇気を出して声をかけた。
断られることもあったけど、受け入れてくれる人もいた。
そうやって、少しずつ友達の輪を広げていった。
今回も、同じように勇気を出す必要があるのかもしれない。
和人くんに、はっきりと私の気持ちを伝える。
曖昧なままでいるから、こんな風に苦しくなってしまう。
どんな答えが返ってきても、それを受け入れよう。
そう決心した時、私の胸の奥のざわざわした感情が、少しだけ落ち着いた。
◇
その日の昼休み、私は屋上にいた。
普段はあまり来ない場所だけど、今日は一人になりたかった。
屋上から見える景色は、いつもとは違って見えた。
学校の周りに広がる住宅街、その向こうに見える山々、真夏の強い陽射しを受けて輝く青い空。
全てが、どこか新鮮に感じられた。
私は柵にもたれかかりながら、暑い風に髪を揺らされていた。
昨夜からずっと考えていたことを、もう一度整理してみる。
私は和人くんのことが好き。
その気持ちを、きちんと伝えたい。
でも、それは私の勝手な都合だ。
和人くんには、和人くんのペースがある。
三上さんとの友達関係も、和人くんにとっては大切なものだろう。
だから私は、和人くんの気持ちを急かすようなことはしない。
でも、私の気持ちだけは、ちゃんと伝えておきたい。
和人くんが私のことをどう思っているのか、まだ分からない。
でも、少なくとも私の気持ちを知ってもらうことで、二人の関係がもう少しはっきりするかもしれない。
そうすれば、この曖昧な状態から抜け出せるかもしれない。
暑い風が少し強くなって、私のスカートを揺らした。
もうすぐ夏休みが来る。
新しい季節が始まる前に、私も変わらなければいけない。
和人くんに、きちんと私の気持ちを伝えよう。
その覚悟を決めた時、私の心は少しだけ軽くなった。
◇
放課後の部室で、私は和人くんの横顔を見つめていた。
今日も和人くんと三上さんは、自然に会話している。
でも今日の私は、昨日までとは違う気持ちでその様子を見ていた。
嫉妬という感情は、まだ完全に消えたわけではない。
でも、それに振り回されるのではなく、自分なりに向き合おうと思えるようになった。
近いうちに、和人くんと二人きりで話す機会を作ろう。
そして、私の気持ちをちゃんと伝えよう。
どんな答えが返ってきても、それを受け入れる。
その覚悟ができた今なら、きっと大丈夫だ。
私は小さく深呼吸をして、明日からの行動を心の中で計画し始めた。
和人くんを映画に誘おうか。
それとも、もっとカジュアルにカフェでお茶でもしようか。
どちらにしても、二人きりになれる時間を作って、ちゃんと話をしよう。
私の恋は、ここから本当に始まるのかもしれない。
◇
その夜、私は鏡の前に立って自分の顔を見つめていた。
明日から、私は変わる。
嫉妬に振り回される私ではなく、自分の気持ちにちゃんと向き合う私になる。
和人くんを愛する気持ちを、恥ずかしがらずに伝える私になる。
それは、きっと怖いことだ。
拒絶されるかもしれない。
今の関係が壊れてしまうかもしれない。
でも、このまま曖昧な状態でいるよりは、ずっといい。
私は鏡の向こうの自分に向かって、小さく頷いた。
きっと大丈夫。
私にも、勇気はある。
中学時代から高校に上がる時に見せた勇気と、同じものが私の中にある。
今度は、恋愛という新しい領域で、その勇気を発揮する番だ。
明日からの私を、楽しみにしていよう。
そう思いながら、私は安らかな気持ちで眠りについた。
決戦前夜だ。
私は一人で歩きながら、セミの鳴き声に混じる自分の足音を聞いていた。ジリジリと照りつける太陽の下で、どこか私の心の中も熱くざわついている気がした。
和人くんのことを考えると、胸の奥がざわざわする。
好きだという気持ちと、嫉妬という醜い感情が混じり合って、自分でもよく分からない状態になっている。
昨日も、部室で和人くんと三上さんが仲良く勉強している様子を見ていて、またあの嫌な感情が湧き上がってきた。
私だって、和人くんと自然に話したい。
私だって、和人くんに頼られたい。
でも、なぜか上手くいかない。
好きだという気持ちが先走って、いつも空回りしてしまう。
◇
教室に着くと、いつもの朝の風景が広がっていた。
生徒たちがそれぞれの席で、宿題を見せ合ったり、昨夜のテレビの話をしたりしている。私もその輪の中に混じって、明るく振る舞う。
「おはよう、光ちゃん」
クラスメイトの友達が声をかけてくれる。
「おはよう」
私は笑顔で答える。
でも、その笑顔の奥で、私は自分の感情と格闘していた。
和人くんはまだ教室にいない。最近は、朝も三上さんと一緒にいることが多い。図書館で待ち合わせをして、一緒に登校しているらしい。
それを聞いた時の私の気持ちを、どう表現すればいいのだろう。
嫉妬?羨望?それとも、単純に寂しいだけなのだろうか。
朝の強い陽射しが窓から差し込んで、教室全体を明るく照らしている。エアコンが効いているとはいえ、外の暑さが伝わってくるようだった。でも私の心の中は、そんな夏の暑さとは違う、もやもやとした熱を抱えていた。
◇
一時間目の授業中、私は集中できなかった。
数学の公式を板書する先生の声が、遠くから聞こえてくるようだった。
ノートに文字を書きながら、私は自分の感情について考えていた。
いつから和人くんのことを好きになったのだろう。
最初は、null として助けてもらった時の感謝の気持ちだった。困っている時に、匿名で助けてくれる人がいる。それだけで十分だった。
でも、深夜の音声チャットを重ねるうちに、その感謝は別の感情に変わっていった。
和人くんの優しさ、真面目さ、時々見せる不器用さ。
そんな彼の人柄に、いつの間にか惹かれていた。
そして、彼が黒瀬和人だということが分かった時、私の気持ちは確信に変わった。
現実世界の彼も、ネットの世界の彼も、同じように優しくて、同じように不器用で、同じように魅力的だった。
でも、好きになってしまったからこそ、複雑な感情も生まれてしまった。
和人くんが他の女の子と仲良くしているのを見ると、胸が苦しくなる。
特に三上さんとの関係は、私にとって特別に辛い。
二人は似ている。内向的で、人見知りで、でもお互いを理解し合っている。
私には、そんな風に和人くんと関わることができない。
好きだという気持ちが邪魔をして、自然に振る舞えなくなってしまう。
◇
昼休みになっても、私は一人で教室にいた。
いつもなら友達と一緒に学食に行くのに、今日はなんだか気分が乗らなかった。
机に突っ伏して、窓の外を眺める。
校庭では、強い日差しの中で多くの生徒が思い思いに昼休みを過ごしている。木陰のベンチで弁当を食べている子、暑さに負けずに友達と話している子、涼しい図書館で読書をしている子。
みんな、それぞれに充実した時間を過ごしているように見える。
私だけが、こんな風にモヤモヤした気持ちを抱えているような気がした。
そんな時、廊下から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「そうそう、この問題も分からなくて...」
三上さんの声だった。
「ああ、これは昨日やった公式を使えば...」
和人くんの声も聞こえる。
二人は図書館に向かって歩いているようだった。
私は窓際の席から、そっと廊下を覗いた。
和人くんと三上さんが並んで歩いている。三上さんがノートを見せながら何かを説明していて、和人くんがそれに答えている。
二人の距離感は、とても自然だった。
お互いに緊張することもなく、普通に会話している。
私が和人くんと話す時は、いつも心臓がドキドキして、何を話せばいいか分からなくなってしまうのに。
その違いが、私には痛いほど分かった。
好きという感情があるからこそ、自然に振る舞えなくなってしまう。
でも、三上さんには恋愛感情がないから、和人くんと自然に接することができる。
それが悔しくて、羨ましくて、でも同時に理解もできてしまう。
私はそっと席に戻って、再び机に突っ伏した。
◇
放課後の部室は、いつものように三人の空間だった。
でも今日の私は、どこか他人事のような気持ちで二人の様子を見ていた。
和人くんと三上さんが、また勉強の話をしている。三上さんが分からない問題を和人くんに聞いて、和人くんが丁寧に説明している。
私も勉強は得意な方だから、説明することはできる。でも、なぜか割って入る気になれなかった。
二人の世界を邪魔したくないような気持ちと、自分だけが疎外されているような気持ちが混じり合っていた。
「天野先輩、大丈夫ですか?」
三上さんが心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫よ」
私は作り笑顔で答えた。
「なんだか、お疲れのようですが...」
「気のせいよ」
私は三上さんの優しさを拒絶してしまった。
その瞬間、部室の空気が少し重くなった。
和人くんも心配そうに私を見ている。でも、私は何と言えばいいのか分からなかった。
「嫉妬してます」なんて言えるわけがない。
「和人くんのことが好きだから、三上さんが羨ましいです」なんて言えるわけがない。
だから私は、何も言わずに黙っていた。
でも、その沈黙が余計に状況を悪くしているのも分かっていた。
◇
その日の夜、私は自分の部屋で一人になって、ようやく本当の気持ちと向き合うことができた。
ベッドに座って、膝を抱えながら考える。
私は和人くんのことが好き。
その気持ちは、もう疑いようがない。
でも、その気持ちを素直に表現することができない。
なぜなら、和人くんからの明確な答えをもらっていないから。
私たちの関係は、まだ曖昧なままだ。
お互いに意識しているのは分かる。でも、「付き合ってください」「はい」という明確なやり取りをしたわけではない。
だから私は、恋人として和人くんに嫉妬する権利があるのかどうか、分からなくなってしまう。
でも、嫉妬という感情は、そんな理屈では割り切れない。
和人くんが他の女の子と仲良くしているのを見ると、どうしても胸が苦しくなる。
特に三上さんとの関係は、私にとって特別に辛い。
三上さんは悪い子じゃない。むしろ、とても良い子だと思う。
和人くんの初めての友達として、彼女は適任だろう。
でも、それが分かっていても、嫉妬という感情は消えない。
私は枕を抱きしめながら、小さくため息をついた。
◇
次の日の朝も、私は一人で登校した。
和人くんと三上さんは、また図書館で待ち合わせをしているのだろう。
歩きながら、私は昨夜考えたことを思い返していた。
このままじゃだめだ。
嫉妬という感情に振り回されて、和人くんとの関係も、三上さんとの関係も悪くしてしまう。
でも、だからといって、この気持ちをどう処理すればいいのか分からない。
そんな時、ふと思い出したことがあった。
中学時代の私のことを。
あの頃の私は、本当に一人だった。教室の隅で本を読んで、誰とも話さずに過ごしていた。
でも高校に入って、思い切って変わろうと決めた時、私は自分から行動を起こした。
話しかけるのが怖くても、勇気を出して声をかけた。
断られることもあったけど、受け入れてくれる人もいた。
そうやって、少しずつ友達の輪を広げていった。
今回も、同じように勇気を出す必要があるのかもしれない。
和人くんに、はっきりと私の気持ちを伝える。
曖昧なままでいるから、こんな風に苦しくなってしまう。
どんな答えが返ってきても、それを受け入れよう。
そう決心した時、私の胸の奥のざわざわした感情が、少しだけ落ち着いた。
◇
その日の昼休み、私は屋上にいた。
普段はあまり来ない場所だけど、今日は一人になりたかった。
屋上から見える景色は、いつもとは違って見えた。
学校の周りに広がる住宅街、その向こうに見える山々、真夏の強い陽射しを受けて輝く青い空。
全てが、どこか新鮮に感じられた。
私は柵にもたれかかりながら、暑い風に髪を揺らされていた。
昨夜からずっと考えていたことを、もう一度整理してみる。
私は和人くんのことが好き。
その気持ちを、きちんと伝えたい。
でも、それは私の勝手な都合だ。
和人くんには、和人くんのペースがある。
三上さんとの友達関係も、和人くんにとっては大切なものだろう。
だから私は、和人くんの気持ちを急かすようなことはしない。
でも、私の気持ちだけは、ちゃんと伝えておきたい。
和人くんが私のことをどう思っているのか、まだ分からない。
でも、少なくとも私の気持ちを知ってもらうことで、二人の関係がもう少しはっきりするかもしれない。
そうすれば、この曖昧な状態から抜け出せるかもしれない。
暑い風が少し強くなって、私のスカートを揺らした。
もうすぐ夏休みが来る。
新しい季節が始まる前に、私も変わらなければいけない。
和人くんに、きちんと私の気持ちを伝えよう。
その覚悟を決めた時、私の心は少しだけ軽くなった。
◇
放課後の部室で、私は和人くんの横顔を見つめていた。
今日も和人くんと三上さんは、自然に会話している。
でも今日の私は、昨日までとは違う気持ちでその様子を見ていた。
嫉妬という感情は、まだ完全に消えたわけではない。
でも、それに振り回されるのではなく、自分なりに向き合おうと思えるようになった。
近いうちに、和人くんと二人きりで話す機会を作ろう。
そして、私の気持ちをちゃんと伝えよう。
どんな答えが返ってきても、それを受け入れる。
その覚悟ができた今なら、きっと大丈夫だ。
私は小さく深呼吸をして、明日からの行動を心の中で計画し始めた。
和人くんを映画に誘おうか。
それとも、もっとカジュアルにカフェでお茶でもしようか。
どちらにしても、二人きりになれる時間を作って、ちゃんと話をしよう。
私の恋は、ここから本当に始まるのかもしれない。
◇
その夜、私は鏡の前に立って自分の顔を見つめていた。
明日から、私は変わる。
嫉妬に振り回される私ではなく、自分の気持ちにちゃんと向き合う私になる。
和人くんを愛する気持ちを、恥ずかしがらずに伝える私になる。
それは、きっと怖いことだ。
拒絶されるかもしれない。
今の関係が壊れてしまうかもしれない。
でも、このまま曖昧な状態でいるよりは、ずっといい。
私は鏡の向こうの自分に向かって、小さく頷いた。
きっと大丈夫。
私にも、勇気はある。
中学時代から高校に上がる時に見せた勇気と、同じものが私の中にある。
今度は、恋愛という新しい領域で、その勇気を発揮する番だ。
明日からの私を、楽しみにしていよう。
そう思いながら、私は安らかな気持ちで眠りについた。
決戦前夜だ。
36
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている
夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。
ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。
無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。
クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている
夏見ナイ
恋愛
平凡な俺、相葉祐樹が手にしたのは、ありえないはずの超名門男子校『獅子王院学園』からの合格通知。期待を胸に入学した先は、王子様みたいなイケメンだらけの夢の空間だった!
……はずが、ある夜、同室のクールな完璧王子・橘玲が女の子であるという、学園最大の秘密を知ってしまう。
なんとこの学園、俺以外、全員が“訳アリ”の男装女子だったのだ!
秘密の「共犯者」となった俺は、慣れない男装に悩む彼女たちの唯一の相談相手に。
「祐樹の前でだけは、女の子でいられる……」
クールなイケメンたちの、俺だけに見せる甘々な素顔と猛アプローチにドキドキが止まらない!
秘密だらけで糖度120%の学園ラブコメ、開幕!
バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」
高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。
そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。
見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。
意外な共通点から意気投合する二人。
だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは――
> 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」
一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。
……翌日、学校で再会するまでは。
実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!?
オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2025.12.18)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる