S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko

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第2章

第22話:心の境界線

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夏休み直前のある日。
問題解決部の部室には、いつもと少し違う空気が流れていた。

俺と天野、そして正式に入部した三上。
三人体制になった初日である。

「改めて、よろしくお願いします」

三上は深々と頭を下げた。
その声には緊張と期待が入り混じっていた。

「こちらこそ、よろしく」
「よろしくね、三上さん」

俺と天野が答えると、三上の表情が少し和らいだ。

部室の窓から差し込む陽射しはジリジリと強い。
セミの鳴き声がうるさいくらいで、景色は暑さで靄がかかったようだ。

「それで、今日から三人での活動になるわけだけど」

天野が口を開いた。

「まず最初に、私から三上さんに謝らせて」

「え?」

三上が困惑した表情を見せた。

天野は申し訳なさそうな表情になって、三上の方を向いた。

「最近、部活の雰囲気を悪くしてしまって本当にごめんなさい。三上さんには何の責任もないのにつらい思いさせちゃったよね…」

「天野先輩...」

三上は驚いたような表情を見せた。

俺も少し意外だった。
天野がこんなにはっきりと謝るなんて。

「私、和人くんと三上さんが仲良くなっているのを見て嫉妬してたの」

天野の声は小さくなった。

「でも、それは私の勝手な感情であって、三上さんに当たるようなことじゃなかったよね…」

三上は天野の言葉を聞いて、少し考え込むような表情を見せた。

「...私も薄々感じてました」

三上が静かに答えた。

「天野先輩がなんだか元気がなくて、私のせいなんじゃないかって心配してて」

「本当にごめんね」

天野は改めて頭を下げた。

「これからは改めて三人で仲良くやっていけたらうれしいな」

その言葉に、三上の表情がパッと明るくなった。

「はい!よろしくお願いします!」

そして少しいたずらっぽい笑顔になって付け加えた。

「でも本当ですよ!ちょっと怖かったんですからね!」

その言葉に、俺は思わず笑ってしまった。

「ごめんごめん」

天野も笑いながら謝った。

こうして、問題解決部は新たなスタートを切った。



しばらく三人で雑談をしていると、扉がノックされた。

「あ、相談者かも」

天野が立ち上がった。

「失礼します」

扉を開けて入ってきたのは、俺も天野も知っている顔だった。

「東城...?」

俺は驚いて相手の名前を呼んだ。

東城隼人。俺と天野と同じクラスのバスケ部のエースで、誰もが認める爽やかイケメンだった。

背は高くて、日焼けした肌に短髪。いつも爽やかな笑顔を浮かべている、典型的なスポーツマンタイプ。

「よ、黒瀬。天野さんも」

東城はいつものように明るく挨拶した。

でも俺の脳内は完全にパニック状態だった。

なんで東城がここに?

三上も俺の後ろで固まっている。

「あの...東城くん?どうしたの?」

天野が代表して聞いた。

「実は相談があって」

東城は少し照れたような表情を見せた。

「問題解決部って、どんな相談でも聞いてくれるんだよな?」

「う、うん。まあ、そうだけど...」

天野は戸惑いながら答えた。

俺はまだ状況を理解できずにいた。

いつもクラスの中心にいる東城が、俺たちに相談?

「えっと...どんなご相談でしょうか?」

天野が改めて聞いた。

「実はな」

東城は少し困ったような表情になった。

「怪我でバスケ部を休んでるんだ。もうほとんど治ったんだけど、リハビリをしなきゃいけなくて」

「リハビリ?」

「医者からは軽い運動から始めろって言われてるんだ。でも、部活のメンバーに頼むのは気が引けるし...」

東城の表情が少し暗くなった。

「バスケ部のみんなには既に迷惑かけてるのに、さらにリハビリに付き合わせるのは申し訳なくて」

その言葉を聞いて、俺は少し意外な気持ちになった。

いつも明るくて自信満々に見える東城が、こんな風に悩んでいるなんて思わなかった。

「それで、もしよかったら」

東城は恥ずかしそうに続けた。

「リハビリに付き合ってもらえないかな?一人じゃできないパス練習とか、ストレッチの補助とか」

その瞬間、俺の頭の中で警報が鳴り響いた。

スポーツ。バスケット。リハビリ。

どれをとっても俺には無縁の世界だ。

俺は慌てて立ち上がった。

「あ、えっと...俺たちじゃ力不足だと思うから...」

「そうそう!」

三上も俺の後ろから声を上げた。

「私たちみたいな素人が付き合っても、逆に迷惑になるだけですから!」

そう言いながら、三上は俺の袖をそっと引っ張った。まるで子供が親に甘えるような仕草だった。

俺たちは必死に断ろうとした。

でも、その時。

「ちょっと待って」

天野が俺たちを止めた。

「二人とも、なんで最初から断ろうとするの?」

「だって...」

「東城くんは困ってるから相談に来てくれたんでしょ?」

天野の言葉に、俺と三上は言葉を失った。

確かにそうだ。俺たちは問題解決部として、困ってる人を助けるために活動している。

相手が東城だからって、最初から断るのは筋が通らない。

「ありがとう、天野さん」

東城は心から安堵したような表情を見せた。

「俺も正直、断られても仕方ないと思ってた。こんな身勝手な相談、普通なら迷惑だよな」

「どうして?」

「だって、俺みたいなやつが相談するような雰囲気では無いのかと思って」

東城の言葉に、俺はハッとした。

俺たちが東城を避けようとしているのと同じように、東城も俺たちとの距離を感じていたのかもしれない。

「そんなことないよ」

天野は首を振った。

「困ってる人を助けるのが私たちの部活だから」

そして俺と三上の方を見た。

「ね?」

俺は天野の視線を受けて、少し考えた。

確かに俺はこういうタイプが苦手だ。
明るくて、人の輪の中心にいる人間をこれまでずっと避けてきた。

でも、東城の表情を見ていると、俺たちと同じように悩みを抱えているのが分かった。

「...分かった」

俺は小さく頷いた。

「リハビリくらいなら、俺でも付き合えるかもしれない」

「本当か?」

東城の表情がパッと明るくなった。

「ありがとう!」

三上は俺の決断に驚いていたが、やがて小さくため息をついた。

「...私もやります」

「三上も?」

「せ、先輩がやるなら私もやりますよ」

三上は照れながら答えた。

「でも、陽キャこわい...」

その言葉に、東城が苦笑いした。

「俺、そんなに怖いか?」

「怖いです…」

「まあ、確かにうるさいとは言われるけど」

「うるさいって自覚あるんですね」

三上がボソッと言った。

「おい」

東城が苦笑いしながらツッコんだ。

「でも、みんなが思ってるより普通だからな」

その言葉には、どこか自分を理解してもらいたいという気持ちが込められているように感じた。

「それで、リハビリって具体的にはどんなことをするの?」

天野が聞いた。

「軽いパス練習とかストレッチとか。あとは筋力トレーニングの補助も少し」

東城は説明した。

「本当に簡単な手伝いだから、バスケの経験がなくても全然大丈夫」

「皆で手伝った方がいいかな?」

天野が聞いた。

「いや、一人いてくれれば十分だよ」

東城は首を振った。

「むしろ大勢だと、俺が緊張しちゃうかも」

そして俺の方を見た。

「黒瀬、頼めるか?」

「あ、ああ」

俺は頷いた。一人で東城と向き合うのは少し緊張するが、断る理由もない。

「それじゃあ、明日の放課後からお願いしていいか?」

東城が提案した。

「第 2 体育館が使えるから、そこで」

「ああ、わかった」

俺は答えた。

「でも、本当に大丈夫か?俺一人で」

「大丈夫大丈夫」

東城は明るく答えた。

「むしろ、気を使わなくていいから楽だよ」

「じゃあ、明日の放課後に」

「よろしく頼む」

東城は深く頭を下げた。

その真剣な態度に、俺は改めて彼の置かれた状況の深刻さを理解した。

怪我で部活を休んでいる。
チームに迷惑をかけている。
一刻も早く復帰したい。

そんな切実な思いが、彼の言葉の端々から感じられた。

東城が帰った後、部室には静寂が戻った。

「スポーツ系の相談なんて、初めてだね」

天野が呟いた。

「まさか東城くんが来るとは思わなかった」

「俺も驚いた」

俺は正直に答えた。

「でも、意外と普通の人だったな」

「そうですね」

三上も同意した。

「思ってたより話しやすかったです」

「あ、そういえば」

三上が突然立ち上がった。

「図書館で借りてた本、今日が返却期限だったんです。急いで返しに行かなきゃ!」

「あ、そうなの?」

天野が答えた。

「じゃあ、私たちも一緒に出てそのまま帰ろうか?」

「いえいえ」

三上は手をヒラヒラと振った。

「明日の東城先輩のリハビリのこと、詳しく相談した方がいいでしょうし」

そして俺と天野を交互に見て、少しニヤリと笑った。

「お先に失礼しまーす。明日、頑張ってくださいね」

俺が何か言おうとした時には、もう三上は部室を出て行ってしまった。

部室に残されたのは、俺と天野だけ。

「あの子...」

天野が苦笑いした。

「なんか、変に空気読むのうまくなったよね」

「そうかな」

俺も苦笑いした。

「でも、三上らしいと思う」

「そうだね」

天野は俺の隣の椅子に座り直した。

さっきより、ずっと近い距離。

「和人くん」

天野の声が、いつもより少し小さくなった。

「明日のリハビリ、大丈夫?」

「まあ、何とかなるんじゃないかな」

俺は答えた。

「東城も思ってたよりいい奴そうだし」

「そうだね」

天野は微笑んだ。そして、何気ない仕草で机に肘をついた。その時、俺の腕にそっと触れる。

「でも、無理はしないでね」

俺は天野の手が腕に触れているのを意識して、心臓がドクンと跳ねた。

「天野...?」

「ん?」

天野は首を傾げた。まるで何も意識していないかのように。でも、その指先が俺の腕をそっと撫でているのが分かる。

「その...手が...」

「だめ?」

天野はそう言って首を可愛らしくコテン、と傾ける。

指先だけが俺の袖に触れている。

「いや、別に...ダメじゃない」

俺がそう言うと、天野の頬が少し赤くなった。

「ならよかった…」

「うん」

しばらく、そのまま静かな時間が流れた。天野の指先の温かさが、袖越しでも感じられる。

「あのね」

天野が小さな声で言った。

「この前、言ったじゃない」

「この前...?」

俺は告白のことを思い出した。

「これからは、もっと...」

天野は言葉を探すような間を置いた。

「もっと近くにいたいの」

その言葉に、俺の心臓がさらに速く鳴った。

「天野...」

俺は正直に答えた。

「ただ...慣れなくて」

「私も」

天野は微笑んだ。

「でも、少しずつでいいから...」

天野はもう一度俺の腕にそっと手を置いた。今度は確信的に。

「こうやって、近くにいてもいい?」

俺は頷いた。

天野は安心したように、そっと俺の腕に寄りかかった。

「こうしてると安心する」

「俺も」

俺は正直に答えた。

「でも、緊張もする」

「それは私も同じだよ」

天野は俯きながら言った。

「心臓、すごくドキドキしてる」

その素直な告白に、俺はさらに動揺した。

「俺も...すごくドキドキしてる」

天野は顔を上げて俺を見つめた。

「そう...」

二人の距離が、さらに近くなる。

でも、その時扉がガラガラと開いた。

「ただいま戻りました!」

三上が戻ってきた。

俺と天野は慌てて離れた。

「あ、お帰り」

天野が少し慌てた声で答えた。

「なんとか本の返却間に合いました!」

三上は何も見なかったかのように明るく答えた。でも、その目がちょっと笑っているのが分かった。

「それじゃあ、今日はお疲れ様でした」

問題解決部として、東城の復帰を支えよう。

そして俺自身も、東城みたいなタイプとの接し方を学んでみよう。

新しい挑戦の始まりだった。



翌日の放課後、俺は約束通りグラウンドに向かった。

体育館には熱気がこもっていて、運動するには厳しい環境だった。

「お疲れ様」

東城が既に待っていた。

バスケ部のユニフォームを着て、軽くストレッチをしている。

「うっす」

俺も挨拶した。

「じゃあ、まずは軽いパス練習から始めようか」

東城が提案した。

「俺がボールを投げるから、受け取って返してくれるだけでいい」

「パス...」

俺は少し不安になった。

普段バスケットボールなんて触らない俺には、パスを受け取るのも難しそうだ。

「大丈夫、ゆっくりでいいから」

東城が俺の不安を察したように言った。

「無理は禁物だからな」

その優しさに、俺は少し安心した。

パス練習を始めてすぐに、俺はボールを受け損ねてしまった。

「あ、すまん...」

俺がボールを追いかけながら謝った。

「うまく受け取れない」

「おい、大丈夫か?」

東城が心配そうに駆け寄ってきた。

「無理させてごめん。俺のペースに合わせる必要はないから」

「これでも...精一杯なんだが...」

俺が困ったような顔で答えた。

「そうか、ごめん」

東城は申し訳なさそうに頭を下げた。

「俺、普段バスケばっかりやってるから、みんながどれくらいできるか分からなくて」

「いやいや、東城は悪くないよ。俺が運動不足すぎるだけだ」

俺は自虐的に呟いた。

「でも、もう少しゆっくりだと助かります…」

その素直な要求に、東城も笑った。

「分かった、もっとゆっくり投げるよ」

「助かるよ」

そんな感じで、リハビリの初日は始まった。

俺のペースに合わせてくれる東城の優しさに、少しずつ心を開いていく。

先入観が、少しずつ崩れていくのを感じていた。

でも同時に、東城の復帰への真剣な思いも伝わってきて、俺も手を抜くわけにはいかないという気持ちになっていた。

「明日も、よろしく頼む」

リハビリを終えた東城が、改めて深く頭を下げた。

「本当に助かる。一人じゃできないことだから、心から感謝してる」

「こちらこそ」

俺は答えた。

東城との新しい関係。

それは、俺にとって大きな挑戦だった。

でも、やってみる価値はありそうだった。

問題解決部として、東城の復帰を支えよう。

そして俺自身も、東城みたいなタイプとの接し方を学んでみよう。

新しい挑戦の始まりだった。
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