10 / 21
10
しおりを挟む私はしつこく話しかけてくる相手に言い返したところで、ふとどこかで聞いたことのある声だということに気がついた。恐る恐る視線を本から声のする方に向けると、そこにはキルシュタイン公爵様がいた。
「っ、こ、公爵様!?ど、どうしてここに…」
「どうしてとは愚問だな。ここは私の屋敷だぞ?」
「た、たしかに」
「むしろどうして使用人である君がここにいるんだ?」
「っ!」
(そうだ、私は今もメイドの姿だわ…。メイドが仕事もせず仕えている家の図書室で本を読むなんてあり得ないわよね…)
実際に私はメイドではなく婚約者(仮)であるし、ちゃんと図書室の利用もキースさんに許可をもらっている。しかしそれを目の前にいる公爵様にどう説明すればいいのだろうか。
(本当はあなたの婚約者(仮)なんです~!とは言いたくない。…とりあえずキースさんの名前を出して乗りきるしかないわね)
「え、えっと、実は執事長のキースさんから許可をもらいまして…」
「!キースが?」
(あら?意外に反応は悪くないわね。これならなんとかなるかな?)
「は、はい。本を読むのが好きなのでダメ元でお願いしてみたら快く許可してくれたんです」
「そ、そうなのか。…キースめ、だから急に図書室に行けだなんて言ったのか」
なんだか公爵様は苦虫を噛み潰したような顔をしている。その表情から私の説明で納得してくれたのかは分からないが、ここはさっさと立ち去るが正解だろう。
「…で、では私はもう仕事に戻りますので!お邪魔して申し訳ありませんでした!失礼します!」
「ちょっと待て!」
私は頭を下げてから公爵様の横を通り過ぎようとした瞬間腕を掴まれた。
「こ、公爵様?い、痛いです!」
「っ、す、すまない!」
そう言って公爵様は掴んでいた手を離してくれたが、掴まれた腕が少し痛んだ。
(び、びっくりした…!公爵様は女性が嫌いなのよね?それなのに女性である私の腕を掴むなんて一体どうしたっていうのよ)
私が掴まれていた腕を擦っていると、公爵様が心配そうな顔で話しかけてきた。
「君を傷つけるつもりはなかったんだ。すまない…」
「っ!」
(本当にどうしちゃったの!?さっきまでの公爵様はどこに!?そ、それにしてもきれいな顔をしてるわね…)
先ほどまでの強気な公爵様とは違いずいぶんと弱気だ。ただ弱気な公爵様の纏う雰囲気が恐ろしく整った顔立ちをさらに魅力的に見せるから不思議なものである。さすがにこの距離で見るのは心臓に悪い。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
「そうか…」
「…えっと、なにか私に用がおありですか?」
「…」
「公爵様?」
「っ、君の!」
「…?」
「君の名前は?」
「私の名前、ですか?」
「ああ」
一体何の用を言いつけられるのかと思っていたらまさか名前を聞かれるとは。公爵様質問に答えないわけにはいかないが、今はメイドの姿なので偽名を名乗っておくことにした。
「…レイと申します」
「レイ…」
「それでは私はこれで…」
「君はいつからここで働いているんだ?」
「え。あー、二週間ほど前からです」
「では庭で会った時は働き始めたばかりだったのか?」
「はい。初めて外での仕事をしていたらあの木が目に入ったんです」
「そうだったのか。…あの時はすまなかった」
「えっ!?こ、公爵様!頭を上げてください!」
公爵様が初めて会った日のことを話し出したと思ったら頭を下げて謝罪してきた。あの日のことは嫌な思い出として残っていたが、まさかこのような形で謝罪されるなどとは思ってもいなかった。
「いや、あの日の私の発言は思い返せばひどいものだった。ただ女性だというだけで君に失礼なことを…。だからどうか謝罪させてほしい」
「っ、わ、わかりました!謝罪は受け入れますのでどうか頭を上げてください!」
「ありがとう」
あの日の発言から公爵様は嫌な人だと思っていたが、今の態度を見るにとても真面目な人なんだろうなと思った。真面目だからこそ融通が効かなかったのかもしれない。それにこの容姿だ。今までに女性関係で嫌な思いをしてきたのかもしれない。それなのに私は公爵様のことを知らないにも関わらず、ずいぶんと失礼なことを言ってしまった。それなら私も謝らなければならない。
「私の方こそあの時は大変失礼しました。未熟な私は公爵様に何か事情があったのだという考えに至りませんでした。どうかあの日の無礼をお許しください」
「…謝罪を受け入れる。これでお互い様だな」
「ありがとうございます」
539
あなたにおすすめの小説
あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」
「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」
「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」
「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」
あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。
「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」
うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、
「――俺のことが怖くないのか?」
と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?
よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!
【完結】私の婚約者の、自称健康な幼なじみ。
❄️冬は つとめて
恋愛
「ルミナス、すまない。カノンが…… 」
「大丈夫ですの? カノン様は。」
「本当にすまない。ルミナス。」
ルミナスの婚約者のオスカー伯爵令息は、何時ものようにすまなそうな顔をして彼女に謝った。
「お兄様、ゴホッゴホッ! ルミナス様、ゴホッ! さあ、遊園地に行きましょ、ゴボッ!! 」
カノンは血を吐いた。
【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
『義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」
そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。
代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。
世間は笑った。けれど、私は知っている。
――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、
ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚!
鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです
ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?
【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました
つばめ
恋愛
幼い頃に妹により火傷をおわされた私はとても醜い。だから両親は妹ばかりをかわいがってきた。伯爵家の長女だけれど、こんな私に婿は来てくれないと思い、領地運営を手伝っている。
けれど婚約者を見つけるデェビュタントに参加できるのは今年が最後。どうしようか迷っていると、公爵家の次男の男性と出会い、火傷痕なんて気にしないで参加しようと誘われる。思い切って参加すると、その男性はなんと妹をエスコートしてきて……どうやら妹の恋人だったらしく、周りからお前ごときが略奪できると思ったのかと責められる。
会場から逃げ出し失意のどん底の私は、当てもなく王都をさ迷った。ぼろぼろになり路地裏にうずくまっていると、小さい頃に虐げられていたのをかばってくれた、商家の男性が現れて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる