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「~~っ!どうしてその女なの!?」
どうやらヴィンセント様は王女様に触れられる前に避けたようだ。そして今は私の肩を抱き寄せている。
「どうしてと聞かれましても、婚約者でもない男性に軽々しく触れようとするのはいかがなものかと思います。それに彼女は私の愛する婚約者です。たとえ王女様でも彼女をその女呼ばわりされる謂れはございません」
「なっ…!」
「それに私は王女様と話すことは何一つございません。先日お返事しましたよね?結婚のお話はお断りすると」
「っ!で、でも私ほどヴィンセント様に相応しい女性はいないのよ!?」
「私に相応しいか相応しくないかを決めるのは私自身です。あなたではありません」
「じゃあその女が相応しいって言うの!?調べてみればその女は男爵家の娘だそうじゃない!私は王女よ?どう考えたって私の方が相応しいわ!あんただってそう思うわよね?」
「えっ」
「それならどうすればいいかわかるでしょう?」
突然話を振られたがどう答えるべきなのだろうか。身分差を考えれば王女様の言っていることは正しい。だけどヴィンセント様は今以上の権力はいらないと以前言っていた。ヴィンセント様が王女様を好いているのであれば話は違ってくるが、好いていないのであれば婚約者として誰が選ばれるべきかはヴィンセント様が決めることだ。だから私はヴィンセント様に選ばれた婚約者(仮)としての役を全うしなければならない。
チラリとヴィンセント様に視線を向けるとヴィンセント様は小さく頷いた。
(どうするべきかなんて、私がするべきことはただ一つだけよ)
私はヴィンセント様の胸元に顔を寄せて悲しそうな顔をした。
「ぐすっ、私はどうすれば…」
(ここで涙の一つでも流せればいいのだけど、さすがにそれは難しいわね…)
さすがに涙は流せそうにないので表情で乗りきるしかない。
「やっぱり私じゃヴィンセント様に相応しくないわ…」
「そんなことはない。私にはレイが必要だ」
「でも私は男爵家の娘で…」
「家など関係ない。私はレイがいいんだ」
「ヴィンセント様…!…王女様申し訳ございません。私は私を必要としてくださるヴィンセント様のお側にいたいのです」
「レイが謝る必要はない。王女様。私の婚約者は彼女ただ一人です」
「なっ…」
「それに先日の返事には我が国の国王陛下の印も押してあったはずです。きちんと確認されましたか?これ以上なにか仰るのであれば国王陛下への侮辱とみなし、正式に抗議いたしますがよろしいですか?」
「っ、そ、それは…」
断りの手紙に国王様の印が押されているということは、国王様もヴィンセント様と王女様の結婚は認めないと言っているのと同じだ。まさかこの件に国王様が絡んでいるなど知らなかったので驚きである。さすがヴィンセント様だ。
王女様もこれ以上は言い返せないようで私を睨みつけることしかできないでいる。我が国の建国記念パーティーの場で騒ぎを起こし、国王様を侮辱したと抗議されれば王女様も無傷ではいられないだろう。
好きな人と結ばれたい気持ちは理解できるが、王女様一人のわがままでどうにかなることではない。ただ好きになった相手がヴィンセント様でなければ違う結果だったかもしれないと思うと少しだけ同情してしまう。
「…王女様は国の代表としてこの場にいるのですから、これ以上の騒ぎはよろしくないかと」
「っ…!」
王女様はようやく周囲の視線に気づいたようだ。我が国の貴族や他国の賓客などたくさんの人が私たちのやり取りを見ていた。王女様にとってあまりいい状況とは言えないだろう。
私はこのあとどうやってうまくこの場から離れるかと考えていると、会場内に音楽が流れ始めた。
「ああ、そろそろダンスが始まる時間のようだな。レイ、私たちも行こう。王女様、それでは失礼いたします」
「えっ、あ、失礼いたします」
「…」
ヴィンセント様にエスコートされダンスフロアへと向かって歩く。案外さっぱりと終ったので少し拍子抜けである。これなら私がいなくても、ヴィンセント様一人でどうにかなったのではと思ってしまう。
「…すみません。私あまり役に立てなかったですね」
「そんなことはない」
「でも、ヴィンセント様一人でも何とかできてしまったのでは…」
「いや、私の隣にレイがいたからできたことだ」
「っ!それなら、いいのですが…」
「ああ、助かった。それに先ほどのやり取りはたくさんの貴族たちが見ていたから、王女が何か言ってくることはもうないだろう。そもそもこちらは正式に断っているわけだしな」
「では今日はもう戻られますか?ここ最近は気を張っていてお疲れでしょうから」
すでに国王陛下への挨拶は済ませてあるし、今日の目的は達成したのでこのままパーティーに参加し続ける必要はない。そう思って声をかけたのだが、ヴィンセント様の口からは予想していなかった言葉が返ってきた。
「せっかくのパーティーだ。一緒にダンスを踊らないか?」
「わ、私とですか?」
「ん?私の婚約者はレイ一人だが?」
「そ、それはそうですけど…」
「では言い方を変えよう。…どうか私と踊っていただけませんか?」
「!」
ヴィンセント様が跪き私に手を差し出してきた。突然のことで驚きもしたが、私はヴィンセント様の姿に見惚れてしまい言葉が出てこなかった。
「…ダメか?」
「い、いえ!その、私でいいのですか?」
「もちろん。レイがいいんだ」
「っ!よ、よろしくお願いします…」
「ああ。では行こうか」
「はい」
そうして私たちはダンスを踊った。初めは緊張していたがいつの間にか緊張より楽しさが上回り、三曲も続けて踊ってしまっていた。
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