婚約が白紙になりました。あとは自由に生きていきます~攻略対象たちの様子が何やらおかしいですが、悪役令嬢には無関係です~

Na20

文字の大きさ
40 / 72

ダミアン②

しおりを挟む

 王太子殿下との顔合わせがあった日の夕方、父に執務室に呼ばれた。
 きっと婚約が調った報告だろう。私は足取り軽く執務室へと入ったが、なんだか様子がおかしい。
 父の顔色は悪く、なぜだか急に老け込んだように見えたのだ。


『理由は……言えない』


 顔合わせの場で一体何があったのか。
 どれだけ聞いても頑なに理由を教えてくれない父。
 そどころか、さらに衝撃的な話を口にした。


『……アレが家からの除籍を願い出ている』


 除籍すれば貴族ではなくなる。妹はそんなことも分からないのか?


『それと学園は寮から通うと』


 なんて自分勝手なんだ。これまで家に置いてやった恩を忘れたのか?
 私は怒りに震え、今すぐ妹のいる離れへ向かおうとした。しかしもう離れにはいないと言う。

 なぜ?

 一体何が起こっているのか。
 突如言い知れない不安に襲われたが、どうすることもできない。

 ただ最後に父から強い口調で


『学園でアレに関わるな』


 そう言われれば従うしかなかった。



 ◇



 妹が学園に入学しても関わるどころか姿すら見ることなく、一ヵ月が過ぎた。
 学年が違うから今後も関わることはないだろう、そう思っていたのに、ある日父から妹を一度家に連れてくるようにと指示を受けた。

 怒りはある。だがそれよりも不安の方が大きくあまり気が進まなかった。
 それでも父からの指示を無視するわけにもいかないと、妹のいる教室へと行ったが、結局その日は連れて帰ることはできなかった。

 そもそも私のことを知らないと言う妹。

 信じられなかった。
 たしかに顔を合わせるのは初めてだが、私は兄だぞ?そんなことがあるのか?
 私は昔一度だけ姿を見たことがあるから青い髪を見てすぐに妹だと分かった。
 それに私はブルー家の次期当主。学園で知らぬ者はいないというのに。
 しかも兄に対して謝罪しろと無礼なことを言い出し、恥をかかせる始末。

 ただ教室では分が悪かった。
 だから次は門の前で帰るところを捕まえようと待っていたのに……


『じゃあ私は行くから』


 そう言って目の前から消えてしまったのだ。
 驚きでしばらくその場から動けずにいたが、待たせていた馬車に飛び乗りタウンハウスへと向かう。
 しかし私がたどり着いた時には、すでに妹の姿なく、頭を抱え何かを呟いている父しかいなかった。

 結局妹はブルー家から除籍となり、平民となった。
 なぜ書類にサインしたのかと問いただしても、父は黙ったまま。
 婚約が白紙になったあの日から、一体何がどうなっているのか。
 何かがおかしい。
 ただそうは思うものの、何も分からないまま日々を過ごしていき、気づけば剣術大会の時期がやってきていた。

 剣術大会には毎年参加している。
 だから今年も参加することにはしたが、もちろん端から経営科の私が優勝できるとは思ってはいない。
 どうせ優勝するのは騎士科の生徒に決まっているのだから。
 運良く準決勝あたりまで行けたらいい。
 そう思って参加したのに、まさか妹と対戦することになるなんて思いもしなかった。

 もちろんトーナメント表に妹の名前があるのは知っていた。
 それを見た時はなぜ参加したのか疑問に思ったが、どうせすぐに負けるからとすぐに意識の外へと放り出してしまったのだ。

 しかし目の前には私と同じ髪色した女が立っている。
 ただその姿があまりにも堂々としていたからか、気づけば私の口から言葉がこぼれていた。


『……お前さえ産まれてこなければ、みんな幸せになれたんだ』


 なぜ母は命を懸けてまで妹を産んだのか。
 私は妹ではなく、母に生きていてもらいたかったのに。

 絶対に打ち負かしてやる、そんな想いで望んだ試合だった。
 しかしその想いは砕け散り、私は無様にも負けてしまう。
 それに暇だからと話し出したあの話……あれは一体何だったのか。

 お姫様と貴族?それはまるで母と父のような……

 それ以上は恐ろしくて何も考えたくない。
 考えたくないのに、数日後私のもとに一通の手紙が届く。

 差出人のないその手紙には、こう一言だけ書かれていた。


 "娘の子はダリアローズただ一人だけ"


 誰からの手紙かなんてすぐに分かった。
 これは祖父からの怒りの手紙だ。
 簡潔すぎる手紙に、祖父の怒りを感じずにはいられなかった。

 手の震えが止まらない。

 私も父も間違ってしまったのだ。
 どこで間違ったのかは分からないが、どうすれば許してもらえるのか。

 答えの出ない問に、私の目の前は真っ暗になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...