婚約が白紙になりました。あとは自由に生きていきます~攻略対象たちの様子が何やらおかしいですが、悪役令嬢には無関係です~

Na20

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 それから最後の授業が終わると、アナベルは家に帰っていった。
 他の寮住まいの生徒もほとんどが家に帰るため、すでに学園は静かだ。

 終業式の雰囲気が好きだったな~と、ふと前世を思い出す。

 そんな私は明日帰る予定なのでまだ時間がある。
 だから久しぶりに懐かしい雰囲気を味わおうと教室を出た。
 どこに行くかは考えず、気の赴くままに歩き続ける。
 この静けさは、まるでこの世界に自分一人だけのよう。
 そんなことを思いながら歩いていると、いつしか図書室の前にたどり着いていた。


「どうしようかな……」


 迷ったものの、せっかく来たんだからと図書室の扉を開けた。
 さすがに夏休み前日とあって司書の姿すらない。


「すぅ」


 大きく息を吸い込んでみる。この静謐な空間に広がる独特な本の香り……うん、いいね。
 何か面白そうな本でも読んでいこうかな。
 そう思い本棚を眺めながら奥へと進んでいく。


 (……あ)


 すると図書室の一番奥。
 そこに本を広げたまま、椅子の背にもたれ目を閉じているマティアスがいた。どうやら本を読みながら寝てしまったらしい。

 それにしてもマティアスとは図書室でよく会う。まぁガリ勉キャラだからか。
 きっとここは起こしてあげるべきなのだろう。でも私はそうはしない。
 わざわざ攻略対象に関わる必要はなんてないからね。
 ここは起きる前に退散するのが正解だ。

 だからそっとこの場から去ろうとしたのに……


 ――バサッ


「あ」


 運悪く、広げていた本が落ちたのだ。


「ん……え?な、なぜ君がここに……」


 そりゃあ起きちゃうよね。


「えっと、家に戻る前に少し本を読んでいこうかと。そしたらグリーン様が眠っていたので……」

「そ、そうか」


 マティアスは眼鏡の位置を頻りに直している。どうやら恥ずかしかったようだ。
 分かる。無防備に寝てる姿を見られるのは恥ずかしいよね……ごめんね?
 そっとしておいてほしいだろうから、さっさと
 出ていくよ。


「……では私はこれで」

「待ってくれ!」


 ……ねぇ、君のためを思って出ていこうとしたのに、どうして呼び止めるの。


「……私になにか?もちろんグリーン様がこちらで寝ていたことは誰にも言いませんので心配は」

「い、いや、そうじゃなくて……」


 呼び止めたくせに、なかなか口を開こうとしないマティアス。


「言いたいことがあるのなら、はっきり言ってもらえます?」

「……その、君にお礼を言いたかったんだ」

「お礼?」


 なんか感謝されるようなことしたっけ?


「あの日、君が見せてくれた魔法で、自分の世界の狭さを知ったんだ」


 あの日……ああ、緑の薔薇をあげた時か。
 やらかしたって一人反省したやつ……うん、しっかりやらかしていたね。あの陰湿メガネが私に感謝するだなんて。
 ……いや?これはいいことなのかも?

 でもあれはあくまでも些細なきっかけ。大切なのはそれからどうするかだ。


「そう思ったのなら、それはグリーン様の才能と努力によるものかと。私は少しきっかけを作っただけですよ」

「いや、私は君の魔法に対する考えや言葉に衝撃を受けたんだ。思い知らされたよ。君のような人を天才と呼ぶのだと」

「……グリーン様ったら」


 ちょ、ちょっと。君、一体どうしちゃったの?
 そんなキャラじゃなかったでしょう。
 もっとこう、対抗心を燃やして突っかかってくる感じじゃなかったっけ?


「マティアス」

「え?」


 ん?なんだか耳が……


「私のことはぜひマティアスと呼んでほしい」


 ……気のせいじゃなかった。
 急にどうしたの?
 名前で呼んでくれなんて言われても、私たちそんな仲じゃないよね?
 うーん、でも優秀な人材であることには変わりないからなぁ。なんてったって攻略対象だし。
 それなら仲良くしておくのも悪くないのかな?


「……分かりました。では私のこともダリアローズと。同じクラスの仲間としてこれからもよろしくお願いしますね、マティアス様」

「こちらこそよろしく頼む」
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