婚約が白紙になりました。あとは自由に生きていきます~攻略対象たちの様子が何やらおかしいですが、悪役令嬢には無関係です~

Na20

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 しかしどうしてこうも立て続けに攻略対象に会ってしまうのか。不思議だ。
 でも今のところマティアスもフィンメルも、私にマイナスの感情を抱いているようには見えなかった。
 むしろプラスのような気が……まぁ理由は分からないけど、それならそれでいいか。
 断罪される予定はないけれど、それでもここは『ハナキミ』の世界。
 何時なんどきなにが起こるか分からない。
 だから断罪されないことを裏付ける出来事があると、正直ホッとしている自分がいたりもする。
 その辺りの不安はいくら力をつけても、そう簡単になくならないもの。こればかりは仕方がない。
 それでも私は自由に生きていくつもりだ。

 ……さてと。
 学園の雰囲気に充てられたのか、はたまた先ほどの演奏の余韻なのか、らしくもなく感傷に浸ってしまったが、次はどこへ向かおう。

 気持ちを切り替え、誰もいない廊下を一人歩く。すると


「師匠!」


 (ん?)


 後ろから謎の呼び声が聞こえてきた。
 しかし聞き覚えのある声だなと思い後ろを振り向くと、そこにはランドルフがいた。


「師匠!こんなところでどうしたんだ?」


 ここには私しかいないけど……何?師匠って私のことなの?


「えっと、師匠って……?」

「あっ!わ、悪い。ついいつもの癖で……」


 え、何?そんなに私のことを師匠って呼んでるの?一体どこでよ。


「癖って……。あの、私はレッド様にそう呼ばれる理由なんて」

「あー、レッド様なんて堅苦しいからさ、俺のことはランドルフって呼んでくれ!」


 そう簡単に言うが、この世界で名前を呼ぶのは親しい間柄だけ。
 ただ堅苦しいからというだけで気軽に呼んでいいものではない。それに魔法は教えてあげたけど、別に特別親しいわけでもない。


「それはちょっと……」

 さっきのマティアスは例外よ?あれは商会に優秀な人材を確保する一環だからであって……


「……ダメか?」


 眉を八の字にさせて、シュンとするランドルフ。うっ……か、かわいい……
 ランドルフが犬に見えてきた。
 知らない間にだいぶ懐かれていたみたいで、さっきまではブンブンと尻尾を振っていたのに、断ろうとしたら目に見えて落ち込んでいる。
 かわいそうに……


「よしよし」

「~~っ!な、何を!?」

「……あれ?犬がしゃべって……あ」


 やってしまった。
 犬みたいと思ったのがいけなかった。
 まさか無意識にランドルフの頭を撫でちゃうなんて……
 ランドルフは目を見開き、顔を真っ赤にして固まっている。
 そりゃそうだ。私だってそんなことされたら驚くに決まっている。
 早く謝らないと。


「ご、ごめんなさい!考え事をしていたらつい!」

「い、いや……」


 顔が真っ赤だし、これは相当怒ってるかもしれない。
 もう何をやっているのか、自分。
 前世から人様の犬に勝手に触っちゃダメだって分かっていたのに、なんたる凡ミス。
 ……ここは逃げるしかない。うん、そうしよう。


「そ、それじゃあ私はこれで」


 あまりの居たたまれなさにこの場を去ろうとした。それなのに……


「待ってくれ!」

「え」


 ま、また?
 一体今日は何回呼び止められるの?
 私も止まらなければいいのに、身体が反射的に止まってしまう。
 止まったら最後。もう逃げることはできない。


「そ、その……」

「は、はい」


 ねぇ、何を言うの?
 お願いだからさっきのことには触れないで……


「俺がもっと強くなれたら……そしたらまたさっきみたいに頭を撫でてくれないか?」


 ぐはっ!
 ……ちょ、ちょっと!まさかど真ん中でその話題に触れるなんて。
 というかこれ怒ってるんじゃなくて、照れてたの!?
 今だってすごい照れてるし。
 な、なにこれ、やばい。
 本当にランドルフが大きなワンちゃんに見えてきたよ……


「嫌じゃないの?その、あ、頭を撫でられるのは」

「嫌じゃない!……むしろもっと」

「え?」

「い、いやなんでもない!それよりもさっきも言ったが、俺のことは名前で呼んでくれ。それと俺も師匠のことを名前で呼んでもいいか?」


 懐かれていると分かった途端、さらに耳や尻尾も見えてきたわ……
 前世は根っからの犬派の私。こんな健気なお願い、スルーなんてできないよ。


「……いいわよ」

「本当か!」

「ええ」


 結局ランドルフとも名前で呼ぶようになってしまいました。トホホ……


「ありがとな、ダリアローズ!」

「!」

「じゃあ俺は訓練に行くよ!また手合わせしてくれよな!」


 そう言ってランドルフは嵐のように去っていった。
 ……案外名前で呼ばれるのも悪くはないかも。
 まぁ照れ臭くはあるけどね。
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