7 / 72
7
しおりを挟む雲一つない青い空。私は今、大きな門の前に立っている。
今日は学園の入学式。
眩しいほどの青色が、新たな始まりを歓迎しているようだ。
――ブランディール学園
カラフリア王国王都にある、屈指の名門校だ。
貴族なら誰でも入れるわけではなく、入学するには入学試験をパスしなければならない。在籍する学園生は、教育の差から圧倒的に貴族が多いが、平民にも門戸を開いている。
貴族も平民も入学を夢見て、毎年試験を受ける者があとを絶たない。なぜならブランディール学園卒業は、一つのステータスだから。
クラスは騎士科、魔法科、経営科、普通科の四つに分かれてて、好きなクラスを自分で選ぶことができる。
騎士科は騎士を目指す者、魔法科は魔法士や治癒士を目指す者が多く在籍するクラスだ。平民の学園生は、この二つのクラスのどちらかを選択している。
逆に経営科と普通科の二つのクラスには、貴族子女しか在籍していない。経営科は領地を継ぐ者の為のクラスであり、普通科はとりあえず卒業することを目的としている者が選ぶクラスである。
では私はどのクラスを選ぶべきか。
入学するからには必ず選ばなくてはいけないが、剣も魔法も改めて学ぶ必要はない。それに領地を継ぐ予定はないし、貴族が多いのもなんかめんどくさそうだし……などなど、色々悩んだ結果、最終的に選んだのは魔法科。
特にこうなりたいとかがあるわけではない。ただ魔法が好き。それが選んだ理由だ。
ちなみにこの世界の人間は、多かれ少なかれ皆が魔力を持っている。血筋の影響なのか、魔力の多い者はほとんどが貴族ばかりだが、平民でも魔力の多い者はいる。
魔力の多い者は魔法士や治癒士など、将来の選択の幅が広げることができ、魔力の少ない者は、火を起こしたり水を出したり程度しかできないというのが一般的な見解だ。
しかし私から言わせてもらえば、魔法は魔力の多い少ないよりも、想像力の方が重要だ。
魔力の少なさを、想像力でカバーする。
こんな考えは、この世界の人には思いもつかないらしく、魔力が少ないからと自ら将来を狭めてしまうのはもったい……まぁそもそもの話、そう思えるのは、私に前世の記憶があるからなのだが。
門をくぐり、入学式の会場へと向かう。もちろん歩いてだ。頬にあたる風が心地よい。
『あの方がブルー家の……』
『綺麗……』
長く伸びた青の髪を揺らし歩いていると、ヒソヒソと話す声が聞こえてくる。それにあちこちから視線も感じた。
(こればっかりは仕方ないか)
初めてブルー家の娘が表に出てきたのだ。みんな気になって仕方ないのだろう。それにこの美しい見た目だ。目立つなという方が無理な話なのである。
会場に着くと、すでにたくさんの新入生がいた。入り口に張り出されていた座席表を見ると、どうやら席はクラスごとに分かれているようだ。
(私の席は……あそこね)
指定された席に座る。先ほどの張り紙を見るに、新入生は五十名くらい。三学年あるから、単純に考えればこの学園には百五十名近く在籍していることになる。
(せっかく学園に通うんだもん。友達できるといいなぁ)
「続きまして新入生代表挨拶――」
そんなことを考えているといつの間にか入学式が始まっていたようだ。次は新入生代表挨拶か。
「王太子殿下よ」
「まぁ……」
「今日も素敵ね」
(新入生代表は王太子なのね)
王太子は『ハナキミ』のメインヒーロー。当然と言えば当然か。
壇上に上がった王太子を見つめる多くの女子からは、うっとりとした声が聞こえてきた。たしかにメインヒーローなだけあって、見た目は極上だ。
王家の色である黒い髪に黒い瞳、格好いいというよりは美しいという言葉がぴったりの容姿をしている。さらに背も高く、女子がうっとりするのも理解できる。私には無しだが。
挨拶を終えた王太子が壇上から降りてくる。その様子を眺めていた私だったが、やはりこの見た目が目立つのか、王太子がこちらに視線を向けた。
(あ、今……)
王太子と目が合った。あちらもあっ、と思ったのだろう。
ついこの間までは見下していた相手が、急に気を遣わなくてはいけない相手になってしまったのだ。一瞬気まずそうな表情をしたものの、すぐに表情を戻し、席に戻っていく。その姿にうっかり笑ってしまいそうだった。
王太子からしても、望んでいない婚約が回避できたのだ。私は今後、王太子や他の攻略対象、そしてヒロインに近づくつもりはさらさらない。だからぜひとも私のことは気にせず、ヒロインとの真実の愛を育くんでいってほしい。
……しかしいくら私がチートだとしても、すべてが思い通りになるわけではない。
この時の私はすっかり忘れていたのだ。
ヒロインは治癒士を目指しているということを。
1,540
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる