婚約が白紙になりました。あとは自由に生きていきます~攻略対象たちの様子が何やらおかしいですが、悪役令嬢には無関係です~

Na20

文字の大きさ
32 / 72

フィンメル①

しおりを挟む

 (どうすればいいんだ……)


 私――フィンメル・イエローは頭を抱えた。

 上級貴族イエロー家の長男として生まれた私には、父と三つ年下の妹、メルリルがいる。
 父はこの国の宰相だ。日々陛下と王国を支えているため忙しく、あまり家にいない。
 母は幼い頃に亡くなっており、私とメルリルはいつも二人で過ごしていた。

 メルリルは生まれつきの病気で身体が弱い。
 だから一日のほとんどをベッドの上で過ごすことが多く、私たちは絵を描いたり絵本を読んだりして遊んでいた。
 しかしそれも私が六歳になり後継者教育が始まると、忙しさから徐々に少なくなっていく。
 そしてその後継者教育では、父から同じ言葉を繰り返し言われることになった。

『全てを疑え』

 そうすることで国も家族も守れるのだと。
 最初は意味が分からなかった。なぜ疑うことで守ることができるのか。
 今思えばこの言葉は当主として、また宰相としてたくさんの人間を見てきたからこその言葉だったのだろう。
 けれど幼い私にその言葉はまだ早く、そして重かった。

 少しずつ心がすり減っていくのが分かる。だけど私は嫡男だ。
 やめることなんてできない……


『おにーさま!』


 そんな私を癒してくれたのがメルリルだった。
 病気のせいで辛い毎日を過ごしているはずなのに、いつでも笑顔で私に寄り添ってくれたのだ。
 私も力になりたい。
 そう思うようになった私は、後継者教育の合間を縫って医学の本を読み漁った。
 今の医学では一時的に症状を軽くすることしかできない。だけどきっと何か方法はあるはず。
 必ず治してみせると、一人心の中で誓った。



 それから数年が経ち、十歳になった私に大きなチャンスが巡ってきた。王太子殿下の側近にならないかと声がかかったのだ。
 王宮に行けば新しい情報や何か手掛かりが手に入るかもしれない。私は喜んでその話を受け入れた。
 結果としては手掛かりを見つけることはできなかったが、王太子殿下であるクラウス様と信頼関係を築くことができた。
 クラウス様は優秀で聡明なお方だ。きっと力になってくれるはず。

 そんなクラウス様は、ブルー家の令嬢との婚約を控えていた。メルリルも婚約者候補ではあるが、病気のことを考えれば選ばれることはないだろう。
 ただブルー家の令嬢はあまり良い噂を聞かない。
 それでも年回りの合う上級貴族の令嬢は彼女しかいないので、確実に彼女が選ばれることになる。
 私の推測であるが、恐らくお飾りの王妃になって後継ぎを産めば用無しになるのではないか。
 不憫だとは思うが、妹じゃなくてよかったと密かにホッとしていた。

 けれど学園入学の直前、急遽クラウス様に呼ばれ登城すると、そこでブルー家との婚約が白紙になったことを伝えられた。

 驚いた。

 上級貴族家との婚約は、クラウス様の地盤を磐石にするためのもの。
 国王陛下もブルー家の当主も了承済みだと耳にしていたのに、なぜ今さら白紙になるのか。
 しかしその理由は語られることはなく、その代わり彼女を敵に回すなと告げられただけ。
 意味が分からない。
 クラウス様を問いただしたくなったが、そんなことできるわけもなく、ただ側近としてその指示に従うしかなかった。




 ◇



 私は普通科に在籍している。クラウス様と同じだ。
 普通科を選んだ理由、それは人脈を広げるため。
 剣も魔法も人並み以上に扱うことができ、後継者教育もほとんど終わっている今、多くの貴族が在籍する普通科で人脈を広げる方がいいという父が判断したのだ。
 私もその通りだと思った。それに人脈が広がれば、もしかしたらメルリルの病気を治す手がかりが見つかるかもしれない。

 そんな期待を胸に学園に入学したが、入学してすぐ驚くことを耳にすることになった。
 魔法科の委員長が、あのブルー家の令嬢になったのだと。

 これまで一切表に出ることなく、謎に包まれていた令嬢。
 我儘令嬢や不細工令嬢なんて呼ばれていた彼女が、まさかマティアスより優秀だとは思いもよらなかった。
 これは調べてみた方がいい。そう思い、クラウス様には内緒で彼女のことを調べた。
 しかしどれだけ調べても、学園に入学する前のことは何も分からない。分かったのは学園に入学した後のことだけ。

 成績優秀、容姿端麗でありながら、下級貴族の娘と親しい間柄。それにランドルフに勝つほどの実力の持ち主……そしてつい先日、ブルー家から除籍されている。
 調べれば調べるほど、彼女がどのような人物か分からなくなる。さらに謎が深まるばかりだった。

 これ以上は調べても何も分かりそうにない。
 あとは剣術大会が終わってからにしようと、この件は一旦置いておくことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...