19 / 21
番外編
番外編2
しおりを挟むおそらく私が倒れた時点で医者を家に呼んでいたのだろう。シェインはすぐに医者を連れて部屋へとやって来た。私は自分の口でなんとか今の症状を伝える。すると医者には何か心当たりがあったのかシェインを部屋から出るように促していた。
「俺も一緒に…!」
「公爵様落ち着いてください!少し診察をするだけですから」
「それなら俺も」
「シェイン、大丈夫だからお願い」
「でも…!」
「ね?」
「っ、分かった…。先生、よろしくお願いします」
なんとか渋々ではあるがシェインが部屋から出ていき診察が始まった。
診察はすぐに終わり次に問診が行われた。
「今日のようなめまいや気持ち悪さはよくありますか?」
「いいえ。初めてです」
「最近寝不足だったりは?」
「それは…はい」
「うーん、寝不足は良くないですね。睡眠はとても大切なんですよ」
「…気をつけます」
「それと最後に月のものが来たのはいつですか?」
「え?最後に来たのは二月ほど前だったかと…。あ、そういえば今回はまだ来てないわね…」
「やはりそうですか。これは間違いありませんね。奥様おめでとうございます。ご懐妊です」
「えっ!?」
医者からまさかの懐妊を告げられ驚いてしまった。今回のことはきっと寝不足のせいだろうと思っていたので予想外である。
しかし驚いたのは一瞬だけで次の瞬間には嬉しさが込み上げてきた。
「…ほ、本当ですか?」
「ええ。おそらく二月目に入られた頃かと思われます。詳しくはもう少し調べてみないと分かりませんがこの頃からつわりの症状が現れてきますからね。今回はつわりと寝不足が重なって倒れてしまわれたのでしょう。これからはもうお一人の身体ではありませんから無理はしないでください」
「私のお腹に赤ちゃんが…」
私はまだなんの膨らみもないお腹を撫でた。ここに私とシェインの子がいるのだ。そう思うだけでとても幸せな気分になった。
問診も終わったのでシェインを部屋へと招き入れる。シェインはとても不安そうな表情をしているがこの事を告げたら一体どんな表情をするのだろうか。
「セレーナ大丈夫か?」
「ええ、お医者様から低級なら回復薬を飲んでもいいと言われて飲ませてもらったからもう大丈夫よ」
「よかった…。それでセレーナは一体どこが悪かったんだ?」
シェインが医者に問いかけたが私から伝えたいとお願いしていたので代わりに私が答えた。
「シェイン聞いて」
「セレーナ?」
「実はね私妊娠してたの。今は二月目ですって」
シェインは私の言葉を聞いて動きを止めた。私の言葉をすぐに理解できていなかったようで、少しずつ時間が経つと美しい黒の瞳をこれでもかと見開き口を開いた。
「ほ、本当か…?」
(私と同じ反応だわ。夫婦って似てくるって言うけどその通りね)
「ふふっ、本当よ」
「っ!ああ、セレーナ!今日はなんて素晴らしい日なんだ!」
シェインが優しく私を抱きしめてくれた。私もシェインの背中に手を回し抱きしめ返した。そしてそのままお互いの顔が近づいて…
「…コホン」
「「っ!」」
「仲が良いのはよろしいですができれば人がいないところでお願いします」
「「す、すみません」」
医者がいることを忘れて二人の世界に入ってしまっていたようだ。さすがに人前ですることではなかったと二人で反省した。
その後は今後の注意事項を医者から説明されたので二人でしっかりと聞いた。
魔法薬については低級回復薬ならつわりがひどい時には飲んでもいいそうだ。ただやはり病気ではないので魔法薬に頼りすぎるのはよくないと。本当にきつい時にだけ飲むようにして、普段は休憩したり横になったりしてつわりと上手く付き合っていくようにとのことだった。
それに当然寝不足はダメだと何度も言われてしまった。しっかり睡眠を取って食べられる時はバランスのよい食事を取るようにと言って医者は帰っていった。
部屋に二人きりとなった私たちは顔を合わせ笑いあったのだった。
◇◇◇
あの後は倒れたこともあり念のために仕事を二日お休みをしたが、三日目には体調も問題なかったので仕事に復帰した。
どうやら私はつわりが軽かったようで倒れた日以外はあまり症状がなく済んだ。あの日はやはり寝不足のせいでひどくなってしまったようだ。改めて睡眠の大切さを身をもって体験した私は、あれからは夜中に研究したりせずにしっかりと眠った。
そしてお腹の子も順調に育っていき迎えた出産の時。
前世の記憶があるので出産が痛いものだとは知ってはいたが、前世を含めて初めての出産は本当に痛かった。しかし痛みも我が子を目にした瞬間には忘れてしまっていたが。
パールグリーンの髪に水色の瞳の男の子。
とても小さくてとても愛らしい。
一日一日元気に成長している我が子はどれだけ見ていても飽きないものだ。
「可愛いわね」
「ああ、本当に可愛いな。目元はセレーナに似てるな」
「鼻と口はシェイン似かしら」
「うーん、そうか?」
「ええ。あ、そうだ。この子の名前なんだけど『ディアン』なんてどうかしら?」
「ディアン…。この子によく似合っている」
「ですってディアン」
「すーすー…」
「ふふっ」
「はははっ」
ディアンは私の腕に抱かれスヤスヤ眠っている。
こうして我が子を抱くことをどれだけ待ち望んだことか。ようやくその願いが叶ったのだ。
「セレーナ。これからは三人でもっと幸せになろうな」
「ええ、もちろんよ」
私たちは改めて幸せになることを誓い合ったのだった。
しかしそう遠くない未来、私たちの元にもう一人愛くるしい女の子がやって来ることをこの時はまだ知らないのである。
1,616
あなたにおすすめの小説
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。