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しおりを挟むではラシェル侯爵家に嫁入りして子を生み幸せに暮らしたのか、というとそんなことは当然あるはずもなく。
「俺はお前を愛することはない!」
これがラシェル侯爵の息子モーリスに初夜で言われた言葉だ。
「お前が俺のことを好きでも俺の心と体はすでにエリザのもの!お前はただのお飾りにすぎない!だから大人しくしているんだな!」
そして続けざまに言われたこの言葉でラシェル侯爵がモーリスにこの結婚をどのように説明したのか理解した。きっと侯爵は私がモーリスのことを好きで嫁いできたのだと説明でもしたのだろう。ここまできても息子を甘やかす侯爵は親として失格だと思う。それに恋人の名前もどこまでの関係かなど興味もないのにわざわざ自分から言ってしまう浅慮さ。残念な頭の持ち主である。
「分かりました」
(この家も長くはもたないわね)
私は早々にこの家から出ていく計画を立てることにした。
本当のことを言えば前世の記憶を思い出した私はマクスター伯爵家の当主になることなど全く興味がなかった。父と母には悪いとは思うが。だから売られたこと自体は構わなかった。自由に動くことができるようになるのであれば。
伯爵家では叔父夫婦のせいで給金が払えず年々使用人の数が減っており、それに比例して私の仕事が増えていき自由な時間を捻出するのに苦労していた。そんな時にラシェル侯爵家に売られ嫁入りすることになったのだ。これでようやくやりたいことに集中できるかもしれないと思った矢先のあれだ。時間はできたがこの家に何かあれば私にも被害が及ぶ可能性がある。それは避けたい。だから私は最速でこの家を出ていくことに決めた。
その方法が白い結婚だ。
結婚してから三年間、モーリスに抱かれることがなければ白い結婚を証明して離婚することができる。ただ結婚自体は無かったことにならないのが残念ではあるが、このまま侯爵家に居続けるよりはマシだ。侯爵は口うるさく後継はまだかと言ってくるだろうがモーリスがあれではどうにもならないと言ってやるつもりだ。どうせモーリスの名前を出された侯爵はそれ以上何も言えなくなるのは目に見えている。
「ふん!分かったのならこれ以上俺を煩わせるなよ!」
そう言ってモーリスは夫婦の寝室から出ていった。
「ノーラ」
「はい、お嬢様」
「私は三年後にここを出ていくわ」
「かしこまりました。ケビンには私から伝えておきますね」
「頼むわ。それとリオに手紙をお願いできるかしら」
「直接お会いにならなくてよろしいのですか?」
「うーん、それはこれからの計画に支障が出るかもしれないからやり取りは手紙だけにするわ。頼める?」
「もちろんです。お任せください」
「それにしてもよかったわ。ノーラだけでも一緒に付いてきてもらえて」
「ケビンも一緒に付いていきたかったと嘆いてましたよ」
「まぁそればかりは私が決められることではなかったもの。でもノーラもケビンと離れて寂しいのではない?」
ノーラとケビンは夫婦である。祖父の代から夫婦そろってマクスター伯爵家で働いてくれていた。
今回の嫁入りの際に一人だけなら使用人を連れていけることになりノーラを連れてきたのだ。ケビンは今頃マクスター伯爵家を辞めているはずだ。叔父も祖父の代から仕えているノーラとケビンがいなくなり清々しているだろう。
「寂しくなんかありませんよ。どうせこれからも頻繁に顔を合わせるんですからね」
「まぁそれもそうね。ケビンとノーラには苦労をかけるわ」
「いえ、私どもはお嬢様の元で働けて幸せですから」
「ふふっ。そう?それならこれからもよろしく頼むわね」
「はい、お任せください」
そうして私は結婚初日にここを出ていくことを決めたのであった。
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