【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20

文字の大きさ
3 / 29

3

しおりを挟む

 そして三年後。



 ――コンコンコン、ガチャ


「旦那様、おはようございます」

「きゃー!」

「なっ!貴様、ぶ、無礼だぞっ!」


 私は夫婦の寝室へとやってきた。本来なら私と旦那様であるモーリスが使う部屋であるが、そこには必死にシーツで身体を隠そうとしている私ではない女性がいた。そうこの女性こそがモーリスの真実の愛の相手であるエリザだ。
 一年前に父親が亡くなり爵位を継いだモーリスは、私が何も言わず大人しいのをいいことに恋人を侯爵邸に住まわせたのだ。
 そこからはよくある話で恋に現を抜かし当主の仕事などせずに恋人と遊び呆け、さらにその恋人は高価な贈り物をねだるようになり、日に日にラシェル侯爵家は傾いていった。むしろ一年でここまで家を傾けるなど才能なのではと思うほどだ。気づいていないのは本人たちだけ。私がいなくなることで給金が払えなくなり、使用人が一気に辞めていくのが目に見えている。まぁ私はもうこの家から出ていく身。モーリスとその恋人がどうなろうと知ったことではないが。


「お楽しみのところすみません。旦那様にお願いがあるのですが」

「い、今はお前の願いなど聞く暇がないことくらい見て分かるだろう!?」


 (まぁ二人とも裸ですからね)


「分かっていますが私も急いでいるのです。なのでこの書類にサインをお願いします」

「お、お前に恥じらいというものはないのか!」

「ええ、ありませんので今こうしてここにいるのですよ」

「なっ…!?」

「さぁ早くこの書類にサインしてください」


 私は二人がいるベッドへと近づき旦那様の顔の前に書類を掲げた。


「り、離婚届、だと…?」


 勢い余って顔に書類を近づけすぎて文字が見えていないかと思ったら、どうやら見えていたようでよかった。


「はい。これでお互い晴れて自由の身です」

「だ、だが、お前は俺のことが好きで嫁いできたんじゃ…」

「あぁ、あの初夜の時におっしゃっていたことですか?勘違いしているようですが、私は全く旦那様のことなんて好きじゃないですよ?ただ訂正するのも面倒でしたので言わなかっただけです」

「な…」

「だってどこに旦那様を好きになる要素があるのですか?私の好みは仕事ができてお金持ちの、旦那様とは正反対の男性ですもの」

「なん、だと?」

「まぁ今はそんなこといいじゃないですか。さっさとこちらにサインしてください」

「しかし…」

「こちらにサインしない限り旦那様の隣にいる彼女はずっと日陰者のままですよ?」

「くっ…!た、確かに…」

「今や旦那様は侯爵様です。うまくやればそちらの彼女を奥方にすることもできるかもしれませんよ?」


 (まぁ実際には無理だろうけど)


 貴族と平民は間違っても結婚することはできない。それでも方法がないわけではない。一つは平民がどこかの貴族家の養子になること。もう一つは貴族が平民となること。前者は養子にすることにメリットがない限り難しい。それに後者はプライドの高い旦那様には無理だろう。


「…」

「モーリス様ぁ~」


 真実の愛のお相手であるエリザが期待を込めた声で旦那様の名前を呼んだ。彼女はここが重要な局面だと思ったのだろう。だから私は彼女を援護することにした。


「旦那様。私と旦那様は白い結婚ではないですか。何を躊躇っているのです?それにすでに白い結婚であることの証明は済んでおります」


 私は懐から別の書類を取り出す。これは白い結婚であることを証明した書類だ。本来貴族同士の結婚は離婚するのが難しい。しかし白い結婚が証明されれば三年で離婚できるのだ。ありがたい。


「真実の愛で結ばれる二人…、素晴らしいじゃないですか!そして二人が結ばれるために邪魔な私。賢い旦那様ならどうするべきかもうお分かりですよね?」

「っ、そ、そうだな!本当なら私とエリザが結ばれるべきだったんだ!」

「ええ、ええ、その通りです。さすが旦那様です」

「よし!ならばその紙にさっさとサインしなければな!」

「ペンも用意しておりますのでどうぞ」


 私はベッドの上に離婚届とペンを置いた。モーリスはペンを手に取りサインをする。机の上ではないので汚い字がさらに汚い。一応読めるからまあいいだろう。


「ほら!これでいいんだろう!」

「ええ、ありがとうございます」

「これで私がモーリス様の奥さんになれるのね!」

「ああそうだ。これからはエリザがこの家の女主人だ」

「うふふ、おめでとうございます。それでは邪魔な私は失礼しますね」

「…あぁそうだ。出ていくのは勝手だがこの家の物は何も持っていくなよ!当然金なんて渡さないからな」

「分かりました。私が嫁入りの際に連れてきた侍女だけ連れて出ていきますからご安心ください」

「ふん!さっさと出ていくんだな!」

「…では最後に一言だけ。きっとこれから困難が待ち受けていると思いますが、真実の愛で結ばれたお二人なら乗り越えられると私は信じております。それではごきげんよう」

「なっ!?それはどういう…」



 ――ガチャン


 私は急ぎ寝室から出る。旦那様が何か言いたそうにしていたが知ったこっちゃない。あとのことは自分たちでどうにかするしかないのだから。


「ノーラ」

「はい。準備はできております」

「ではさっさと出てってやりましょうか」


 私は颯爽と屋敷の廊下を歩いていく。そんな私をすれ違う使用人たちが驚いた顔で見ているがそんなこと気にせずに進む。大人しかった私が堂々と歩いているものだから驚いているのだろう。

 屋敷から出ると外に一台の馬車が停まっている。私は停まっている馬車の御者に声をかけた。


「王都までお願いね」

「かしこまりました、


 ノーラと共に馬車に乗り込む。そして馬車がゆっくりと動き始めた。


「今日からが私の本当の人生の始まりよ。これからは好きなことをして生きていくんだから!」


 離婚届を提出すれば私は晴れて自由の身。ラシェル侯爵夫人でもなければマクスター伯爵令嬢でもない。ただのヴァイオレットになる。そしてここから私の新たな人生が始まるのだ。


「ふふっ、これからが楽しみね!稼いで稼いで稼いでやるわ!」


 私の名前はヴァイオレット。バツイチの二十歳。好きなものはお金、趣味はお金を稼ぐこと。好きな言葉は時は金なり。

 そんなお金大好きヴァイオレットの新しい人生がまもなく始まる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

危ない愛人を持つあなたが王太子でいられるのは、私のおかげです。裏切るのなら容赦しません。

Hibah
恋愛
エリザベスは王妃教育を経て、正式に王太子妃となった。夫である第一王子クリフォードと初めて対面したとき「僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」と告げられる。しかしクリフォードが好きな人というのは、平民だった。もしこの事実が公になれば、クリフォードは廃太子となり、エリザベスは王太子妃でいられなくなってしまう。エリザベスは自分の立場を守るため、平民の愛人を持つ夫の密会を見守るようになる……。

え? 愛されると思っていたんですか? 本当に?

ふらり
恋愛
貧乏子爵令嬢の私は、実家への支援と引き換えに伯爵様と覚悟を決めて結婚した。だが、「私には離れ離れになってしまったがずっと探している愛する人がいる。なので君を愛するつもりはない。親が煩くて止む無く結婚をしたが、三年子供が出来なければ正式に離婚することが出来る。それまでの我慢だ」って言われたんですけど、それって白い結婚ってことですよね? その後私が世間からどう見られるかご理解されています? いえ、いいですよ慰謝料くだされば。契約書交わしましょうね。どうぞ愛する方をお探しください。その方が表れたら慰謝料上乗せですぐに出て行きますんで! ふと思いついたので、一気に書きました。ピスカル湖は白い湖で、この湖の水が濃く感じるか薄く感じるかで家が金持ちか貧乏かが分かります(笑)

溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。 両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。 ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。 そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。 だが、レフーナはそれに激昂した。 彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。 その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。 姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。 しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。 戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。 こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。 しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。 「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」 身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。 堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。 数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。 妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。

私は真実の愛を見つけたからと離婚されましたが、事業を起こしたので私の方が上手です

satomi
恋愛
私の名前はスロート=サーティ。これでも公爵令嬢です。結婚相手に「真実の愛を見つけた」と離婚宣告されたけど、私には興味ないもんね。旦那、元かな?にしがみつく平民女なんか。それより、慰謝料はともかくとして私が手掛けてる事業を一つも渡さないってどういうこと?!ケチにもほどがあるわよ。どうなっても知らないんだから!

処理中です...