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しおりを挟む目指す王都はラシェル侯爵家から馬車で数時間程の距離だ。王都に着いたらまず離婚届を提出しに城へと行かなければならない。貴族同士の離婚の場合は、城にある文官棟へ直接届け出なければいけないのだ。これが平民同士の離婚であれば街にある役所に届け出ればいいだけなのだが。私は離婚が成立すれば平民になるが、今はまだラシェル侯爵夫人なので城へと届け出なければならないのだ。
(別にどこに届け出たって結果は一緒なのに面倒よね…)
「はぁ、『時は金なり』なのにねぇ…」
「お嬢様はその言葉をよく使いますよね」
「…そうだったかしら?」
「ええ。あの家にいた三年間よく口にしていましたよ」
「完全に無意識ね」
「たしか『時間はお金と同じく貴重なもの』でしたか?」
「そうよ。よく覚えているわね」
「ふふ、お嬢さまの口癖ですから」
私はお金が大切だ。だがそれと同じくらい時間も大切にしている。今世はあまりにも無駄な時間を過ごしすぎた。これからは無駄な時間を過ごさないようにしていきたい。
それから城へと着いた私は早速文官棟へと向かう。文官棟の受付窓口で離婚届と白い結婚の証明書を提出し、不備がないことを確認してもらい無事に受理された。
これでようやく私は自由の身となったのだ。
◇◇◇
城を後にし次に向かうのはとある商会だ。王都に本店を構えるその商会は女性向けの商品を販売する今話題の商会である。その商会の名前はベル商会。
「商会長はいるかしら?」
私がやってきたのは本店ではなく、本店の隣にあるベル商会の本部だ。早速建物の中に入り近くにいた従業員に声をかけた。
「あ、あの、どちら様でしょうか?商会長とお約束ですか?」
従業員は申し訳なさそうに私に聞き返してきた。どうやらこの従業員は私のことを知らないようだ。私もこの従業員を見るのは初めてなのだが。おそらく本部に配属されてまだ日が浅いのだろう。それに知らない人をホイホイ通してしまうよりはきちんと確認を取るのはいいことだ。きちんと教育されているようでなによりである。
「オーナーが来たと言えば分かるわ」
「あっ!オ、オーナーでしたか!大変失礼しましたっ!」
「気にしないで。次からは覚えておいてもらえればいいから」
「あ、ありがとうございます!今呼んで参りますのでお待ちください!」
「ええ、頼むわね」
その従業員は急いで商会長を呼びに走っていった。
(お客の前で走るのはだめね。そこも教育してもらわないと)
そして待つこと数分。
建物の奥から若い男性と初老の男性が笑顔で私の元へとやってきた。
「ヴィー!」
「久しぶりね、リオ」
「お嬢様」
「ケビンも元気そうでよかったわ」
やってきた若い男性の名前はリオ、初老の男性はノーラの夫のケビンだ。
「早速で悪いけど今から打ち合わせはできるかしら?」
「ははっ!さすがヴィーだな。いや、ここではオーナーと呼ぶべきか?」
「お客様の前じゃなければいつも通りでかまわないわよ」
「分かった。じゃあ移動しようか」
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