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しおりを挟む元ラシェル侯爵邸の敷地にできた工房は無事に稼働を始めていた。発売から一年以上経つが化粧水の人気は衰えることなく今も売れ続けており、さらに今回の工房の稼働と合わせて貴族向けより安価な平民向けの化粧水の販売を始めた。売り上げは好調である。
化粧水のレシピに関しては工房の責任者であるマークしか知らない。まだまだ売れ続けるであろう化粧水のレシピは知る人が少ないに越したことはないからだ。ただマークの負担は重くなるが、本人はその分給金がいいから問題ないと言ってくれている。やはりお金は偉大だ。
そして私は化粧水の生産をしなくなったことによりできた時間で次の商品を開発した。それがシャンプーとリンスだ。
この世界には固形の石鹸しかなく、洗うと髪が軋んで仕方がなかった。自分自身もそれがかなりストレスだったので記憶を思い出してからは手に入る材料で手作りシャンプーを作って使っていたのだが、ある日ラフィーネ様に聞かれたのだ。
「ヴァイオレットちゃん。前から気になっていたんだけど、髪の毛って何か特別なお手入れをしてるの?」
「いいえ?特に何もしていませんよ」
「本当?ヴァイオレットちゃんの髪の毛ってツヤツヤのサラサラじゃない?だから何かしてるんじゃないかってクリスティーナちゃんと話していたのよ」
「うーん…毎日シャンプーで髪を洗って、リンスをつけているくらいですかね。でもこれくらい普通…」
「しゃんぷー?りんす?」
「あ」
このやり取りで私はシャンプーとリンスがこの世界にないものだということをようやく思い出したのだ。髪を洗う時に当たり前のように使っていたので忘れていた。そして気づいたと同時にこれは売れるのではと頭の中で計算を始める私であったのだ。
その後シャンプーとリンスもたちまち大人気商品となった。価格が安価なことと香りが何種類もあり、女性たちの心をがっちり掴むことができた。今社交界はあえて髪を結わないのが流行りになっているくらいだ。みなツヤツヤサラサラの髪を自慢しているのだとラフィーネ様が教えてくれた。
◇◇◇
そんなある日グレイル公爵家の夕食に呼ばれていた時のこと。食後のお茶を飲んでいるとベルトラン様から話しかけられた。
「ヴァイオレット、少し話があるんだがいいかい?」
「はい、もちろんです」
私は手に持っていたカップを置きベルトラン様の話に耳を傾けた。改めて話とはなんだろうか。
「ヴァイオレットは王妃様がベル商会の商品を大変気に入っているのは知っているだろう?」
「はい。王妃様に愛用いただけているなんて大変ありがたいことです」
「そうだな。それでだな王妃様がぜひともヴァイオレットに会いたいとおっしゃってね」
「え!?私にですか?」
「ああ。先日王妃様にお会いした際に、商品の開発者に直接お礼を言いたいから会わせてほしいと言われたんだ」
「お礼だなんて…」
「ここだけの話、どうやら化粧水やシャンプーのおかげで陛下との仲がさらに深まったそうだよ」
「なるほど…」
直接お会いしたことはないが王妃様は大変美しいと聞く。その王妃様が化粧水やシャンプーによってさらに美しさに磨きがかかったのなら、夫である国王様との仲が深まるのは当然だろう。そういうベルトラン様とラフィーネ様、アル兄様とクリス姉様も以前より仲がいいように見える。
女性の努力によるものであるが、夫婦仲がいいことはとてもいいことだ。…今度は男性用の美容品を開発するのもいいかもしれない。男性も女性のために努力するべきだと思う。
私は貴族男性向けの商品開発と頭のメモに書き込んでおいた。
「王妃様は無理矢理商会の情報を聞き出そうとするお方ではないからそこは安心してくれ」
王妃様のお誘いを断ることなど一商会のオーナーにできるわけもないので、この話は受けるしかないだろう。さすがに緊張するだろうがせっかくの機会だ。この国の女性の頂点である王妃様との話の中から新商品のいい案が思いつくかもしれないと前向きに捉えることにした。
「分かりました」
「じゃあ日程が決まり次第連絡するよ」
「はい。よろしくお願いします」
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