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しおりを挟むあの夜会から早いもので半年が経つ。
今思い出してもあの夜会の後は本当に大変だった。
王妃様に献上した新商品の影響で、商会は目が回るほどの忙しさだったようだ。ただ元々商会の運営はリオとケビンに任せており、私自身はオーナーでありながらも商品開発担当なので宣言通り休ませてもらっていた。
しかしあまりの忙しさにさすがに申し訳ないと思い仕事を手伝おうとすると、リオとケビン、それにノーラまでもが加わり無理矢理にでも休まされていた。それを三度程繰り返したが、私は気づいた。私が手伝おうとする度に三人がかりで私を止める。そうするとその間仕事が滞る。オーナーである私自らが無駄な仕事を増やしているのだと。そのことに気づいてからは大人しく休むことにしたのだ。
では何が大変だったのかと言うと、それは求婚書だ。
夜会の日にリオに言われていたが、平民の私に貴族たちから求婚書など届くはずないと思っていた。だが私の予想を裏切るように次の日からひっきりなしに求婚書が届くのだ。気づけば求婚書の山、山、山。私はそれを見てさすがに自分の価値というものを真剣に考えさせられた。
しかしあまりにも数が多すぎて現実逃避したくなったが、そんなことできるはずもなく。求婚を受けるなら受ける、断るなら断るできちんと一件ずつ返事をしなければならない。貴族からの求婚書を面倒だからとそのまま放置するのは危険だ。返事がなかったから受け入れてもらえたと思われる可能性もある。そうしたら望まぬ結婚を迫られることだってあるかもしれない。だから一件一件求婚書を確認して、丁寧にお断りの手紙を書いたのだ。これが恐ろしいほどに大変だった。
私はまだまだやりたいことがたくさんあって結婚どころではないのだ。充電時間を取ったことによりむしろ働きたい意欲がすごい。お金が大好きなのは変わらないが、こうして休んでみると私は働くこと自体が好きなのだと気づかされた。
もちろんこれは強がりではない。
だって今は自分が誰かに愛されていることを実感することができているから。
そんな忙しさが落ち着いたある日の出来事。
「ヴィー」
「あ、リオ」
「今日は何をしていたんだ?俺の愛しのヴィーは」
「っ!そ、そういうのは恥ずかしいからやめてって言ってるじゃない…!」
「恥ずかしがるヴィーも可愛いな」
リオはそう言って私を抱きしめ、頬にキスをした。
「~っ!リ、リオっ!」
きっと私の顔は赤く染まっていることだろう。それを見てリオが嬉しそうに微笑んでいる。
そう。
あれからリオは宣言通り私に想いを伝え続けてくれている。そして私はつい先日答えを出した。その答えの結果がさっきのあれだ。
夜会が終わってすぐの頃はまだ慣れぬ私を気遣ってか控えめに、だけどたしかな想いを伝えてくれていたが、私がリオを信じ受け入れたいと答えを出した後からの愛情表現がすごい。私もすでに二十三歳の立派な大人の女性であるが、こういったことには全く免疫がなく、いつもリオに翻弄されている。
だけどそれが不快かと聞かれるとそうではない。恥ずかしかったり戸惑うことはあるが嫌ではない。むしろ嬉しいと思っている自分がいるくらいだ。ただ人前では恥ずかしいのでやめてほしいとお願いしている。これでも私は大人気商会のオーナーなのだ。オーナーには威厳というものがなければならないのに、こんな恥ずかしくて戸惑っている姿などとても見せられたものではない。
「ひ、人前では絶対にしないでよね!?」
「もちろん。ヴィーが嫌がることは絶対しないよ。それにヴィーの可愛い姿を他の奴らに見せたくない」
「なっ!か、可愛い姿って何を言っているのよ
!?」
「ああ、本当にヴィーが可愛すぎる…!」
「ちょ、ちょっと!リオ!」
リオの顔が再び私に近づいてきたところで、私に救いの手が差し伸べられた。
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