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【空戦】
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敵は4機のうち2機が交代しながら私の機に襲い掛かり、あとの2機は高いところでトンビのように旋回を繰り返している。
上の2機は物見遊山で、交代しながら私に襲い掛かって来て居る2機のパイロットは未だ日が浅いのだろう。
さほど航空機の操縦に精通していない私でも、案外避けられる。
しかし、いつまで持つのか……。
何度目かの攻撃で私は初めて敵の銃弾を食らってしまった。
被弾した場所は2列目と3列目の座席の辺り。
特に3列目には3~4発食らってしまった。
私の他に搭乗員が居なくて良かった。
もし居れば、3列目の銃座担当員は命を落としていただろうし、2列目に座っているはずの通信員も無事では済んでいない。
敵がコツを掴んできたと言うより、急旋回を繰り返すうちに私の機の速度が落ちてしまったと言う方が正しい。
それゆえに早く加速したくて高度を下げて加速度を利用しているものだから、高度もずいぶんと落ちてしまった。
このまま高度を下げていくと海面にぶつかるか、あるいは水面ギリギリのところを水平飛行で逃げるしかなく、そうなれば上空から雨のように注がれる敵の銃弾を受け続けなければならない。
つまり、もうすぐTHE ENDという訳だ。
結局私も戦火に呑み込まれて、生の戦争の資料を持ち帰ることは叶わなかった。
こうなれば今度は敵の攻撃を避けると見せかけて、S字に移動して敵の進路を塞いでやり、敵のパイロットも道連れにしてやる!
すぐにまたグラマンが襲って来た。
私は舵を引き上げて左に旋回する素振りを見せたあと、舵を押して右に旋回を始めた。
“これで敵機の進路を塞げるはず”
私は目を瞑り、最後の瞬間を待った。
私が生まれた大正の時代は穏やかで良かった。
第1次世界大戦後の好景気で、街は豊かになり生活にも余裕があった。
戦争とは無縁で、軍艦や軍用航空機は盛んに導入されていたが、もう二度とあのような大きな戦争は当分起こらないだろうと誰もが思っていたし、その抑止力として国際連盟も設立された。
軍部の増強に対しても、普通に反対意見を述べることも出来た。
それなのに……いつからだろう、戦争の匂いがきつくなっていったのは。
ドンと言う衝撃波に機が揺れて、熱が伝わり、私は瞑っていた目を開けた。
とうとう最後の時が来た。
そう思って振り返ったとき、炎を上げながら近づいてくる物体に気がつき、慌てて操縦桿をひねる。
“ぶつかったのではない!”
後ろから炎を上げて近づいてくるグラマン。
私の乗る九四式水上偵察機は、まだ無傷だ。
ひらりと機を翻し、一瞬落ちて行くグラマンを目で追ったあと、何かが近づいてくる気配に気づきその方向に顔を向ける。
もう1機のグラマンかと思って見ると、そこには白い機体に日の丸を付けた零戦が居た。
零戦の操縦士が開いた風防から敬礼をしてくれた。
“硫黄島の部隊が、私の出した救援依頼に応えてくれたのだ。
私を撃ち落とそうとしていたグラマンを見事に撃ち落とした零戦は、すぐに機を翻して次の目標へと向かう。
白い主翼に付けた2つの日の丸が鮮やかに空を駆け上がり、果てしなく青く澄みきった空に消えて行く。
水平線に目を移すと、もう1機の零戦がもう1機のグラマンの後ろに着けていた。
私を撃ち落とすために低空をグルグルと回っていたグラマンは海面近くを逃げ回り、その後方やや上の位置を取った零戦に機銃弾を浴びせられている。
波間に立ち上がる無数の水柱は、まるで土砂降りの雨のよう。
やがてチカッと赤く光ったと思う間もなく逃げていたグラマンは頭から海面に突っ込むと、そのまま逆立ちをするように尻尾を上げユックリと波間に消えて行った。
上空に待機していた2機も、状況は芳しくなかったようで、私を救ってくれた零戦にすぐに後ろを取られて逃げていた。
零戦がグラマンを追うなんて、見たこともない。
だが、これは現実。
彼らは私の乗る九四式水上偵察機に夢中になり、低い高度にいたことはうかつだった。
たしかに2000馬力級のエンジンに、頑丈な機体を持つグラマンは相当に手強い。
速度で勝るうえ、仮に後ろを取られたとしても頑丈な機体が持つ高い降下速度を持ってすぐに振り切ることが出来る。(※F6Fの降下制限速度は769km/h、これに対して零戦二二型の降下制限速度は629km/hに過ぎない)
しかし元々の高度が低いと急降下で逃げることは出来ないので、この様な低空域での戦いは翼面荷重が軽く旋回性に優れた零戦の方が有利とは聞いていたがまさか2倍近いエンジン出力を持つグラマンがこうも簡単に零戦に追い回されるとは思ってもいなかった。
やがて1機のグラマンが被弾して一瞬赤い火を上げたが、直ぐに消火装置を作動させたらしく炎は消え何事もなかったように逃げて行き、もう1機は早々に逃げたらしく機影も見えなかった。
直ぐに私を助けてくれた2機の零戦が、九四式水上偵察機の両横に付き硫黄島までエスコートしてくれ、硫黄島に向かった。
上の2機は物見遊山で、交代しながら私に襲い掛かって来て居る2機のパイロットは未だ日が浅いのだろう。
さほど航空機の操縦に精通していない私でも、案外避けられる。
しかし、いつまで持つのか……。
何度目かの攻撃で私は初めて敵の銃弾を食らってしまった。
被弾した場所は2列目と3列目の座席の辺り。
特に3列目には3~4発食らってしまった。
私の他に搭乗員が居なくて良かった。
もし居れば、3列目の銃座担当員は命を落としていただろうし、2列目に座っているはずの通信員も無事では済んでいない。
敵がコツを掴んできたと言うより、急旋回を繰り返すうちに私の機の速度が落ちてしまったと言う方が正しい。
それゆえに早く加速したくて高度を下げて加速度を利用しているものだから、高度もずいぶんと落ちてしまった。
このまま高度を下げていくと海面にぶつかるか、あるいは水面ギリギリのところを水平飛行で逃げるしかなく、そうなれば上空から雨のように注がれる敵の銃弾を受け続けなければならない。
つまり、もうすぐTHE ENDという訳だ。
結局私も戦火に呑み込まれて、生の戦争の資料を持ち帰ることは叶わなかった。
こうなれば今度は敵の攻撃を避けると見せかけて、S字に移動して敵の進路を塞いでやり、敵のパイロットも道連れにしてやる!
すぐにまたグラマンが襲って来た。
私は舵を引き上げて左に旋回する素振りを見せたあと、舵を押して右に旋回を始めた。
“これで敵機の進路を塞げるはず”
私は目を瞑り、最後の瞬間を待った。
私が生まれた大正の時代は穏やかで良かった。
第1次世界大戦後の好景気で、街は豊かになり生活にも余裕があった。
戦争とは無縁で、軍艦や軍用航空機は盛んに導入されていたが、もう二度とあのような大きな戦争は当分起こらないだろうと誰もが思っていたし、その抑止力として国際連盟も設立された。
軍部の増強に対しても、普通に反対意見を述べることも出来た。
それなのに……いつからだろう、戦争の匂いがきつくなっていったのは。
ドンと言う衝撃波に機が揺れて、熱が伝わり、私は瞑っていた目を開けた。
とうとう最後の時が来た。
そう思って振り返ったとき、炎を上げながら近づいてくる物体に気がつき、慌てて操縦桿をひねる。
“ぶつかったのではない!”
後ろから炎を上げて近づいてくるグラマン。
私の乗る九四式水上偵察機は、まだ無傷だ。
ひらりと機を翻し、一瞬落ちて行くグラマンを目で追ったあと、何かが近づいてくる気配に気づきその方向に顔を向ける。
もう1機のグラマンかと思って見ると、そこには白い機体に日の丸を付けた零戦が居た。
零戦の操縦士が開いた風防から敬礼をしてくれた。
“硫黄島の部隊が、私の出した救援依頼に応えてくれたのだ。
私を撃ち落とそうとしていたグラマンを見事に撃ち落とした零戦は、すぐに機を翻して次の目標へと向かう。
白い主翼に付けた2つの日の丸が鮮やかに空を駆け上がり、果てしなく青く澄みきった空に消えて行く。
水平線に目を移すと、もう1機の零戦がもう1機のグラマンの後ろに着けていた。
私を撃ち落とすために低空をグルグルと回っていたグラマンは海面近くを逃げ回り、その後方やや上の位置を取った零戦に機銃弾を浴びせられている。
波間に立ち上がる無数の水柱は、まるで土砂降りの雨のよう。
やがてチカッと赤く光ったと思う間もなく逃げていたグラマンは頭から海面に突っ込むと、そのまま逆立ちをするように尻尾を上げユックリと波間に消えて行った。
上空に待機していた2機も、状況は芳しくなかったようで、私を救ってくれた零戦にすぐに後ろを取られて逃げていた。
零戦がグラマンを追うなんて、見たこともない。
だが、これは現実。
彼らは私の乗る九四式水上偵察機に夢中になり、低い高度にいたことはうかつだった。
たしかに2000馬力級のエンジンに、頑丈な機体を持つグラマンは相当に手強い。
速度で勝るうえ、仮に後ろを取られたとしても頑丈な機体が持つ高い降下速度を持ってすぐに振り切ることが出来る。(※F6Fの降下制限速度は769km/h、これに対して零戦二二型の降下制限速度は629km/hに過ぎない)
しかし元々の高度が低いと急降下で逃げることは出来ないので、この様な低空域での戦いは翼面荷重が軽く旋回性に優れた零戦の方が有利とは聞いていたがまさか2倍近いエンジン出力を持つグラマンがこうも簡単に零戦に追い回されるとは思ってもいなかった。
やがて1機のグラマンが被弾して一瞬赤い火を上げたが、直ぐに消火装置を作動させたらしく炎は消え何事もなかったように逃げて行き、もう1機は早々に逃げたらしく機影も見えなかった。
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