対米戦、準備せよ!

湖灯

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【絶体絶命】

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 月明かりに照らされた青ヶ島が見えて来た。

 二重カルデラのこの島は、火山の頂上付近だけを切り取ったような不思議な形をしている。

 向こうには八丈島の黒いシルエットが見える。

 住民たちは、突然上空に現れたこの飛行機をどう思っているのだろう。

 海軍の連絡機だと思って手を振っているのだろうか。

 それとも米軍の爆撃機が来たと思い、怯えているのだろうか。

 願わくは、どこかの飛行機が飛んでいると左程気にしないで夕餉の片づけをしながらラジオから流れて来る音楽でも聴いて、のんびり過ごしてくれていればいいのだが。



 八丈島を過ぎて、高度を500に下げた。

 これから先、東京湾内に入るまでは、南房総にある愛宕山(408.2m)を超える高さの山はない。(※千葉県の最高峰である愛宕山は、47都道府県の最高峰の中で最も低い山となります)

 ほどなくして南房総の館山が見えて来た。

 ここは首都防衛の拠点としてドイツの無人ロケット兵器V1号に似た新兵器の発射基地が予定されていると風の噂で聞いたことがある。

 V1号は都市爆撃用の兵器だが、はたしてそれを模倣したもので迫りくる敵艦隊に甚大な被害を与えられるものだろうか?

 

 本土上陸となれば、敵は連日連夜100機を超える爆撃機を飛ばして無差別に空襲を仕掛けてくるだろう。

 当然空母機動部隊もサイパン島上陸作戦に投入したのと同様に20隻を超える空母を動員してくるはず。

 更に戦艦や巡洋艦による絶え間ない艦砲射撃。

 爆撃に砲撃、ナパーム弾に、空からの機銃掃射。

 上陸地点から10数kmの範囲から完全に生命体を排除してから、数十万規模の部隊が一気に上陸を開始する。

 このような状況で、本土に残る残存兵力だけで対抗できるとは思えない。



 上陸地点はもちろんのこと、全ての工業地帯、都市に住む住民は焼け出され、民間人の被害も甚大になるだろう。

 当然敵と直接戦う兵士たちも、日本本土での戦いでありながら玉砕を覚悟しなければならないだろう。

 人的損害は数百万……いや、数千万規模まで膨れ上がるかもしれない。



 それでも、本土は、守れない。



 そのとき私が持ち帰る資料が、何の役に立つというのだろう……。

 戦況を徹底的に分析すれば、必ず見えてくるものがあるはず。

 そしてそこにこそ、勝機に繋がる何かが隠れている。

 大本営に自ら願い出て立案した任務だったが、その役割に疑問が生じたのは、ちょうど館山上空に差し掛かったときだった。

 目の前を強い光が横切り、慌てて舵を切る。

 “なっ、なんだ、今の光は⁉”



 一本の光の筋が、やがて二本になり三本、四本と増えて行く。

 光の筋はまるで獲物を探す竜のように、うねうねと暗い夜空を彷徨っている。

 やがてその一本が私の機を捕らえた。

 “まっ、眩しい‼”

 幾つもの光の筋はやがて私の機に集まり、一本の光の束となり、真っ暗な夜空の景色が真っ白な光に包まれ、それまで見えていた計器類が真っ暗になる。

 光の逆転⁉

 いやコレはサーチライトだ!

 九四式水偵の上空で大きな赤い光が開き、すぐそのあとで機体が揺れ、ドーンという破裂音が響く。

 “敵の偵察機と間違われている!”

 私は高度を下げ、主翼下に付いた日の丸がよく見えるように機体を左右に揺さぶる。

 しかし味方の誤射は止まないばかりか、今度は機銃弾を浴びせられた。



 幾つも飛んでくる曳光弾のオレンジ色の光は、白く強い光の中でもハッキリと見ることが出来た。

「味方だ! 日本軍だ‼」

 大声で叫ぶが、到底声などは下に届かない。

 カンカンカンカン。

 機体のあちこちから機銃弾の当たる音が伝わる。

 “なぜ分からないんだ⁉”

 水偵の速度では、高度を下げると、いい的になってしまう。

 仕方なく、一旦下げた高度を戻し、東京湾方向に大きく進路を変えて逃げる。

 その直後にドンという鈍い音と、強い衝撃、それに熱が伝わって来た。

 “燃料タンクに被弾‼”

 自動消火器は装備されていないので消火器を探すが、操縦席には見当たらない。

 “後ろの席だ!”

 振り向くと、後方はもう火だるま。

 高度を下げて海面を目指すが、着水するまで機体が持ってくれるとは限らない。

 火災のせいで既に水平尾翼のエレベーターが利かなくなり、ピッチング(機体の縦揺れ)が制御できなくなっている。

 酷いピッチングでうまく機体を制御できないが、降下は続けるしかない。

 後方が火に包まれている状態で、パラシュートで脱出するために機から飛び出しても漏れ出した燃料を浴びたうえに炎に包まれるだけ。

 すなわち焼かれながら、水面に叩きつけられるだけだ。

 “なんとか持ってくれ! 着水さえできればフロートがあるから沈まないはず”

 しかしその時、無残にも再度の爆発が起こり急激な減速と共に機首が90度持ち上がった。

 機体の後部を失ったのだ。

 あとは慣性に任せて落ちて行くだけ。

 “もう私に出来ることは、生涯何もないだろう……”
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