対米戦、準備せよ!

湖灯

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★10年前の日本へ★

【謎の男女】

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「マイナス10年⁉」

 なにかの聞き間違いだと思って聞き直すと、男は持っていた新聞を私に渡した。

 まだインクの臭いが抜けきっていない、真新しい新聞には昭和9年11月18日と記されていて、イタリアのエチオピア侵攻に対して国際連盟が経済制裁を発効する旨の記事が掲載されていた。

 にわかには信じがたいが、先ずは2人が何者で何の目的があるのかが重要だと思い尋ねた。

 私の問いに、2人はすぐに答えてくれた。

 男の名は、柳生やぎゅう 義正よしまさ

 女の名前は、結城ゆうき 薫かおる

 2人とも医者ではなく、科学者だと言っていた。

 2人の目的は、時代を変えること。

 時代を変えるという言葉の意味が分からなくて聞くと、太平洋戦争で負けない国にすることが目的だと言っていた。

 もうこの戦争の負けは決まったも同然で、もし本当に今が10年前の昭和9年だとしても同じ過ちを辿っていくしかないだろう。

「なぜ、私なのです?」

 歴史の改ざんよりも、もっと気になったのがなぜ自分なのかという事だった。

 歴史を変えるのであれば、東条英機や山本五十六、鈴木貫太郎や米内光正にさせた方が確実だろうと思って聞くと、柳生は「もうやってみた」と言った。

「やってみた⁉」

「結局彼らには様々な“しがらみ”があって、現状を変えるだけの力は無かった。軍人には軍人としての立場があり、政治家は財閥との関わりが深く、結局は思い切ったことは何もできなかった」と柳生は名前を明かさずその内容を話してくれた。



 最初に目を付けたのは軍人。

 彼らは陸軍や海軍の中で意見をまとめようと努力してくれたが、結局軍部内で意見をまとめられず何も進展しないまま同じ終戦を迎えた。

 次に目を付けた政治家は何も出来ないまま辞職したり、強行して凶弾に倒れてたりして終わった。



「現場のトップはどうなのです? もしアナタたちが本当に未来から来たのであれば、米国がいつどんな作戦で来るか分かるでしょう? それを伝えても勝つことは出来なかったのですか?」

 私の問いに柳生は答えた。

 たとえ山本五十六連合艦隊司令長官などに伝えても実際の前線指揮官のミスは防ぎようもなく、たとえ作戦で何とか勝利を積み重ねたとしても完全に無傷な勝利などなく、結果的には戦争自体が長引くだけで後は工業生産力の差が出て現状を打開するまでには至らなかったことを教えてくれた。



「陛下は⁉ 陛下にも試されたのですか?」

 私の問いに柳生は淡々と答えた。

「そもそも時代を移動するには一度生と死の間を彷徨う必要があるので、天皇陛下には事前にそのことを知らせたが、陛下は何も仰らなかった」とだけ言った。

 その話を聞いて、陛下は戦争に勝利することに疑問を持たれたのだと思った。



 大物と呼ばれる人たちが相次いで失敗したことを、私のような若輩者が上手くできるのだろうか?

 自分がやることに疑問を感じていたとき、それまで柳生の影に隠れるように黙っていた結城薫が私の手を握って「アナタなら、出来るわ!」と言ってくれた。

 その瞬間、まるで魔法にかかったように自分なら出来ると言う熱い自信めいたものを感じたが、すぐに冷静になってなぜ自分が選ばれたのかを聞いてみた。



 柳生が言った。

 君はなぜ24歳という若さで、特命とは言え大尉になり、他の人たちと違う仕事に付いているのかと。

 たしかに異例と言える出世ではある。

 しかも私の場合、陸大(陸軍大学)を出て1度も実戦部隊への配属は無く、ずっと大本営に居るから特別これといった手柄は立ててはいない。

 だがそれは陸大を主席で卒業しているからだと思っていた。



 この世界(旧日本軍)では、首席で卒業することはその後に付きまとう履歴。

 つまり陸軍でも海軍でも、首席で卒業すればその後の指揮能力や適性にかかわらず、重要なポストが与えられる。

 だから私は陸大で一生懸命勉強に励んだ。

 将来の日本を担う、要職に付くために。

 そのために大本営でも我武者羅に頑張った。



 しかし改めて考えると、私が大本営でしてきたことは本当に戦争に勝つことに必要不可欠な事だったのだろうか?

 してきたことは各地での敗因の分析や、工業生産力や南方からの資源輸送状況の推移の調査が主な仕事。

 これは勝つためと言うには、問題点の抽出といった要素が強い。

 しかも現状では、こういった問題点を是正する手だてもないのに……。

 たとえ本当に10年過去に戻ったところで、特別な打開策を見出せたとしても、実際にそれを実行できる気はしない。



「君なら出来る。いや君にしかできない」

「何故、その様なことが言えるのですか?」

 私の問いに結城薫が答えた。

「アナタは知らないかもしれないけれど、アナタを取り巻く人たちはアナタの事を知っているの」

 意味不明!

 私は少し腹が立って「いったい私の何を知っているんだ!」と叫んでしまうと柳生が私の心を落ち着かせるようにゆっくりと低い声で言った。



「君には、明治天皇の血が流れているのだ」と。
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