33 / 56
★ノモンハン事件★
【第1次ノモンハン事件②】
しおりを挟む<ソビエト軍I-15戦闘機>
次の日、未明に航空機編隊が通過する音を聞き、慌てて布団から飛び出して要塞司令部に向かった。
「今の音は⁉」
「陸軍の航空隊だ」
「情報が集まったんですね」
「いや、集まったのは確かだが、錯綜している。だから航空偵察を兼ねて、出撃を要請した」
辻少佐の報告は無線が壊れたらしく、あれ以来入っていないらしい。
ただ辻少佐の大隊には他にも無線機があり、そこから幾つかの情報を得る事は出来たし、後方の23師団から援護のために出された捜索隊からも情報が入れられていた。
だがこれらの情報にはお互いの位置関係を紐づける情報が乏しく、例えば敵の装甲車10台を確認した情報が複数の部隊で確認されても、それが10台だけなのかそれとも10台×複数部隊の報告なのかは定かではない。
そこでコチラの部隊配置を確認するため、チチハルの航空基地から確認のため偵察機を飛ばしたというわけだった。
私は着替えのために遅れてやって来た薫さんと共に、丘の頂上に向かった。
まだ明け切らない薄暗い空の上を飛ぶ日の丸を付けた20数機の飛行機がグルグルと空を回っているのが見えた。
偵察機らしい機体は2機いて、その周りを護衛するように戦闘機が飛び、軽爆撃機らしい複座機が地上付近に降りてはまた旋回しながら上昇を繰り返していた。
どうやら空から機銃掃射を繰り返し行っているようだ。
“航空機からの地上部隊への機銃掃射……!”
これは石原が陸大試験時に言った有名な逸話で、試験官から機関銃の有効な利用法を聞かれたとき、彼は「航空機に搭載して敵地上部隊へ機銃掃射を行う事だ」と答えたそうだ。
“まさか石原少将は、この日が来ることを予測していたのか?”
当直の見張り員に双眼鏡を借りる。
距離が遠くて双眼鏡でもハッキリとは見えないが、時折装甲車らしき物が航空機からの機銃掃射で炎を上げているのが分かる。
厚い鉄板で防御している装甲車両でも、空からの攻撃など想定していないから上部の防御は薄い。
だが、いくら薄いと言っても、たかが7.7mmの機銃弾でそう易々と貫かれるものだろうか?
機銃弾が尽きたのか、軽爆撃機の機銃掃射による攻撃は終わり、航空部隊は帰路につく。
ちょうどこの要塞を通り過ぎる時、彼らは低空飛行をしてお互いに手を振り合って別れた。
そのとき軽爆撃機に搭載されている機銃も見えた。
機銃は九二式重機関銃や海軍の攻撃機に使われる九二式7.7mm機銃ではない。
あれは威力の強い12.7mm弾を使用するブローニングM2重機関銃だ!
日本軍の航空部隊が基地に戻った後、入れ替わるようにソビエト軍の航空部隊が現れた。
しかも偵察が主任務の日本軍とは違い、大型爆撃機による大編隊だと言う事は遠くから見てもよく分かる。
さっきまでの我が軍の軽爆撃機による機銃掃射とは違い、双眼鏡がなくとも何を行っているのかは耳でも分かるほど激しい爆発の音が響く。
「おい、こっちにも来るぞ‼」
一緒に見ていた見張り員たちが騒めき、すぐに下の司令部に連絡して空襲警報を知らせるサイレンが鳴らされた。
「薫さん、すぐ下に降りて本国にソビエト軍による越境攻撃を打電!あと中国大使館に居る秋山さんにプランAの発動依頼を掛けて下さい」
喋らない薫さんはほんの一瞬だけ子供のように私の袖をつまんだが、私の厳しい眼を見るとすぐにコクリとうなずいて下の司令部に向かって行った。
その仕草はここに就く前の夜に見せた、妖艶な獣だったことを忘れさせるほど素直で幼く儚いもののように思えた。
「少佐! 敵機来ます!伏せて下さい‼」
防空見張り員の下士官に従い、私は身を伏せた。
今大切なのは、自分の好奇心やわがままや威勢を主張している場合ではなく、所々の担当者の邪魔にならない事。
丘の下に設けられた陣地から八八式七センチ野戦高射砲が発砲をはじめ、丘の上では九五式機銃射撃装置により連装25㎜機銃の台座がリモートにより動き始めた。
最初に近付いて来た複葉戦闘機のI-15が機銃を撃ちながら飛び込んで来る。
速度の速い戦闘機に対して、正面に配置されている連装25㎜機銃の銃座が次々に火を吹き飛び込んできた4機のうち1機の撃墜に成功した。
更に1回目の攻撃を終えたI-15が、2回目の攻撃を行うために旋回を始めた所を裏側の連装25㎜機銃たちが追い打ちをかけて更に2機を撃墜することに成功した。
I-15戦闘機は3飛行小隊合わせて12機が突撃してきたが、おおむねその3分の2を撃墜または損害を与えることに成功し、我が方の損害は軽微だった。
次に襲ってきたのは複葉軽爆撃機のR-5だが、この機は元々の最高速度が遅い(228km/h)上に爆装しているので更に速度は遅くなり、要塞に突入してくる前に対空砲火で半数以上を撃墜し残った敵はいいかげんな場所に爆弾を投下して這う這うの体で逃げ帰った。
最後に接近してきた4発大型爆撃機のTB-3は爆弾搭載能力こそ2トンと優れてはいるが、実用上昇限度3,800m最大速度197km/hと既に時代遅れの性能と相まって、全長24.4m全幅39.5mの悠々と空を飛ぶ大きなシルエットは高射砲の格好の的となり、また97式戦闘機(改)による要撃もあり、ほぼ侵入してきた敵全機を撃墜することに成功した。
<日本陸軍97式改>
49
あなたにおすすめの小説
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

