対米戦、準備せよ!

湖灯

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★第2次ノモンハン事件★

【それぞれの役割①】

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<17日PM12:30:第23師団、佐藤大佐>



 第23師団は右翼から回り込んで来る敵の戦車隊に備えて47㎜速射砲とチハ(九七式中戦車)を配置していたが、戦車の殆どは竹で作った骨組みに紙を張って色を付けただけのもの。

 青森出身の隊員たちにより作られた、ねぶた祭りの細工を施した “ハリボテ戦車” だ。

 右翼から来る敵戦車の多くは新型の突撃砲が叩いてくれる予定になっていたので、その残存部隊の突撃を抑止する目的で戦車の数を多く見せただけ。

 思った以上に突撃砲が敵の戦車を退治してくれたので、少なくなった残存兵力の先頭を一斉射撃で叩くと敵はこのまま突入することは叶わないと早々に退却してくれた。

 これで右翼からの敵も、もうしばらくは足止めが出来るが、問題は敵の主力が通るはずの左翼。

 ここまでの戦闘で被った師団の損害は軽微だったが、なにしろ敵の数は思った以上に多く、その戦力差を補えるほどの余裕はない。

 予定通りなら、すぐに第7師団が右翼を抑えてくれるはずだが、少しでもタイミングが遅れると右翼から回り込まれてこの戦場は乱戦となる。

 乱戦になれば数に勝る敵に3方向から攻撃されるばかりか、最悪後方の退路も断たれてしまう。

 無線で第7師団の状況確認をしたいところだが、おそらく敵は我が方の無線を傍受しているはずだから、“予定以外の通信” は禁止されている。

 ソ連兵たちは土塁に登って小銃などを撃って来る。

 地形的には少し高い位置からの攻撃になり、有利な面もあるが戦車砲や野戦砲をその位置には持って上がれないので、平地から野戦砲で応酬しているこちらの方が有利。

 しかし土塁の裏側では爆破して潰してしまったトンネル部の復旧作業とか、土塁そのものの掘削とかをしているに違いなく、いつまでもこの膠着状態が続くはずもない。

 そうなったとき、我が23師団の兵力だけではいかんともし難くなる。

 情報はないが、いまは第7師団の到着を信じて拠点の防衛に努めるしかない。



 

<時間は遡り同日AM10:00:第7師団、園部中将>



 10時にようやく部隊全体の補給が終わり、出発することが出来た。

 機械化された我が部隊は迅速な行動が出来るが、そのためには補給が欠かせない。

 補給は部隊の存続にかかわる一大事だから、23師団には悪いが急いでいるからこの程度で良いかなどと言った妥協は許されない。

 油が尽きてしまえば戦車もトラックも動かない。

 トラックが動かなければ兵士たちは歩いて移動し、重い大砲や砲弾や食料も兵士たちが自力で運ばなくてはならなくなり、戦場での変化に迅速に対応することができなくなる。

 我々機械化された第7師団の役目は、その足を利用したスピードのある突破力ではなく、臨機応変に戦場の穴を埋める対応力だ。

 午前11時、第7師団はまず斥候を出し、前線と第23師団の状況確認をさせた。

 斥候からの報告によると第23師団は善戦しているものの、そう長くは持ちこたえられそうにない状況であることが分かったので、師団を第23師団の横に配置せずに斜め後方約1㎞の場所で進軍を止めることにした。

 真横に並ぶと第23師団が万が一撤退した時に、我が師団が突出してしまうから。

 第7師団の園部中将は進軍を停止するとすぐに防衛線を張り、防御力が貧弱で戦車戦には向かない九五式軽戦車20輌と工兵部隊を第23師団の応援に向かわせ、自軍の陣地の先頭には戦車用のタコつぼを掘りチハ(97式中戦車)と対戦車砲をそこに入れて防衛任務に就かせた。

 その直後方に歩兵用の防御陣地を構築し、更にその後方に司令部を置き司令部の後方には曲射砲陣地を構築し、敵の進軍を止める作戦に出た。

 今は敵の方が数も勢いもある。

 数的に劣勢な場合、下手に攻撃を仕掛けてもなかなか流れを変えられるものではない。

 特にこのような平原ではなおさら。





<AM10:30:ノモンハン要塞、石原中将>



 第7師団の後に来た補給部隊に、ヘンテコな奴らが付いていた。

 首からカメラをぶら下げた奴や、タイプライターを大事そうに抱えて居るヤツ。

 中には女も居た。

 黒い髪に、茶色の髪、赤い髪に金色の髪と、頭の天辺は実にカラフルだが、顔や腕はまるで血の気を失った死人のように真っ白だった。

 その中に一人だけカーキー色の国防服を着た丸眼鏡の若い男がいて、まるでツアーガイドのように先頭に立ち俺の方に奴らを従えてやって来て俺の前で敬礼した。



「石原閣下でありますか?」

 俺が、そうだと答えると彼は、満州国駐在大使2等書記官の鈴木だと名乗った。

 大学を出たばかりくらいの若い男。

 何の用だと聞くと、鈴木は植田閣下の命令により外国人ジャーナリストを連れて来たのだと言った。

 植田というのは、関東軍司令官兼駐満大使の植田謙吉大将に違いない。

 おそらく事件を聞きつけた海外のジャーナリストたちから大使館に取材の申し込みがあったに違いなく、植田大将は先に起こった第1次ノモンハン事件の際に柏原が手配した米英仏伊の外交官を招いたことで我が国の立場が良くなったことで取材を許可したに違いない。



 “あのオッサン、調子に乗りやがって……”



 とりあえず命令書を確認し、この忙しいなかで急造の通信室を彼らのためにこしらえてやった。

 しかし戦闘中の戦場に外国のジャーナリストなんか連れて来やがって、負けたらどう責任を取るつもりなんだ?
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