悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

文字の大きさ
98 / 128

賽は投げられた。

しおりを挟む
市場へ行く人の波に逆らうように、数台の馬車が北に向かって走る。
ガラガラと、煩い音を立てて。
「何だ!! こんな朝早くから。」
「何時もの様に『豪の者』への支援物資だ。」
「ああ、あの仡潰しか。」

市場へ行く者の中の子供が聞いた。
「でも、お父さん。この国を護る英雄がいるよ。」
「闘うことしか能の無い連中さ。」
「オースト国の王家が、その様に使ってやってるだけさ。」
「嫁にまで取ってやると言う。」
「流石は、神に選ばれた方。慈悲深い。」

「『豪の者』は、我等を護るために神が与えてくれた物なのです。」
 
聖職者が、教示を垂れている。それを聞いて、祈る者もいる。
子供は、
「ふ~ん。そうなんだ。」



学園の卒業式は厳かに行われ、終わった。校舎の殆どが女生徒に開放され、卒業最後の舞踏会の着替えの場となった。高位の者は教室の一つを与えられ、ドレスを運び込みメイド達がなだれ込んだ。下位の者は衝立を立てて教室を仕切り、その場所で数少ないメイド達と着替えをしていた。

王家に嫁ぐ筈のセルビアには、学園の応接室を宛がわれていた。
そこに公爵家へ嫁ぐアイリーン、リリアナ、テレジアも一緒に居たいと申請を出し許可をされた。
馬車から降りて直ぐ応接室に入れるように、外側に扉がある。今、応接室の前に一台の荷馬車が止まっていた。

「セルビィ、一緒に行きましょう。」
心配そうに、セルビアが声を掛ける。
「姉様。誰かが残らなければなりません。」
「でも……。」
セルビィは、姉の手を握り締めた。
「もし、誰かが様子を見に来た時。対処する者が必要なのです。」
「それなら、私が!! 」
こんな危険な場所にセルビィを残しておけないとアリスが声をあげる。
「アリス様は、姉様達に付いてて下さい。」
セルビィが優しく微笑む。

「様子を見に来たお馬鹿様を、体よくあしらえるのは僕しかいないでしょう。」
くすくす と、笑う。
「それに、姉様達に捨てられ阿保面を晒す阿保様達を堪能するには残るしか在りません。」
とてもとても、嬉しそうにセルビィは微笑む。セルビア達は、一歩退いた。

「姉様達にお見せできないのが残念ですが、馬車の中で想像して楽しんで下さい。」
セルビィは、満面の笑みを称える。
令嬢達は、また一歩退いた。

「あの阿保様達の阿保面が、呆気に取られ悔しがる姿を。」
うっとり とするセルビィに、令嬢達は三歩退いた。
 
「こんな楽しいモノを他の者には任せられません。」
「セルビィ、本音が出てるぞ。」
ナルトが突っ込んだ。
セルビィは手を合わせて、喜んでいる。令嬢達は、青ざめた。

「セルビィ君、嬉しそうね。」
「こんな性格だったのね。」
「私の天使が……。」
「やっぱり、真っ黒だわ。」
「坊ちゃま……。」
令嬢達、アリスは茫然とセルビィを見ていた。

「なので、しんがりはお任せ下さい。姉様。」
嬉々として姉達を馬車に押し込む。荷馬車として窓を塞いだ偽造した馬車に。中は座れる普通の馬車だ。

「暫くは窮屈ですが、辛抱して下さい姉様。」
「セルビィ。」
ドアを閉めようとするセルビィの手に手を重ねた。
「父様達も、もう向かっている筈です。安心して下さい。」
優しく微笑む。
「さあ、早く。気づかれては元も子も在りません。」
心配するセルビアの手を外し、ドアを閉めた。
「アリス様、姉様達を宜しく御願いします。」
「分かりましたセルビィ様。」
アリスはマントを頭から被り、御者台に上った。それを合図に御者は馬を引いた。馬が歩き出し、馬車が動き出す。
「ナルト様。姉様達が渡ったら、橋は落として下さい。」
「ああ、分かっている。お前は? 」
神妙にナルトは聞いた。
「僕は、時が来るまで優雅にお茶でも飲んでいます。」
セルビィは、微笑む。
「お茶は作り置きしてある。そのままカップに注いで飲めよ。変なもん入れるなよ。」
「変な物なんて入れません。」
セルビィは頬を膨らます。じとっと、ナルトはセルビィを見ていた。
「入れてません。」
「…………。」
ナルトが見詰めている。
「入れてない、はずです。」
セルビィがお茶を淹れると何故が飲めなくなる。セルビィは、小首を傾げた。
「とにかく、注ぐだけでいいからな。注ぐだけだぞ。」
ナルトはその言葉を残して、馬車の後に飛びついた。
馬車が見えなくなる前にセルビィは、応接室に戻る。窓は総てカーテンがひかれ外から中は見えない。

セルビィはソファに座り、カップにお茶を注いだ。ナルトに言われたように注ぐだけだ。
香りを楽しみ、一口含む
「後は、その時を待つだけ。」
セルビィは、微笑みながら静に目を閉じた。


北へ北へ王都を進む荷馬車。石畳が途切れ、荷馬車は小さな門へと辿り着く。門を出ると馬車が1台通れる位の吊り橋が架かっている。門を護る兵士が荷馬車に近づいて来た。

「異常はないか? 」
ナルトが聞いた。
「ああ、何も無い。いつも通りだ。」
「じゃ、後は頼む。」
ナルトは馬車から飛び降りた。
「如何するんだ? 」
「俺は、セルビィの護衛だ。」
ニヤリと、笑った。

馬車はギシギシ鳴る吊り橋を渡りきる。兵士達が、小さな門を閉めた。外側から閂を掛ける。橋を渡り、吊り橋の縄を切って橋を壊した。
それを見咎めて、ナルトは門の横の小さなドアから中に入り。つないであった馬に乗り、踵を返えした。

「さあ、賽は投げられた。」
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...