悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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生贄。

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窓から朝の光が差し込む。薄いレースのカーテンが風に揺れている。その風が、血の匂いを此処まで運んでいた。

「なんと言うことだ……。」
宰相と軍事総督の討ち死にを聞き王は立ち尽くしていた。

「儂を、儂を護れ!! 」
王は怒鳴った。
「そ、それは勿論で御座います、陛下。」
戦場にも出ず城に残っていた名ばかり近衛騎士達は、王の言葉に返事を返す。だが、総督閣下が亡くなった今、次は此処に敵兵が攻め入って来ることは明白であり彼等は直ぐにでもこの場を離れたかった。
「なんと、残念な。」
聖教長のシアンが飲み干したグラスをテーブルに置いて、立ち上がった。
「少しは時間稼ぎをしてくれると思ったのですが、使えませんね。」
「シアン……。どうするのだ? どうしたらいい? 」
王は助けを求めるようにシアンを見る。彼は憐れむように微笑む。
「時間が稼げませんと近辺からの援軍も間に合いませし、あの少年も探せませんね。」
「そうだあの餓鬼、まだ見つからぬのか!! 」
王は騎士達に怒鳴る。
「も、申し訳御座いません。」
手を尽くして探したが、セルビィ・ランドールは見つからなかった。彼等はもう見つけ出すことを諦めていた、いやもうそれどころではなかった。今にもこの城が堕ちようとしているのに。

「あの餓鬼がいないとセラムが言うことを聞かないではないか!! おのれ~、あの時首に鎖を付けて傍に置いとけばよかった!! 」
王は地団駄を踏んだ。

「残念です、アイアン。いえ、国王陛下。」
シアンは淡々と話す。

「そろそろ覚悟を決めなければなりません。」
「……覚悟、だと? 」
王はシアンに振り返った。

「ええ、戦争を終わらす覚悟ですよ。」
「戦争を終わらすことが出来るのか!? 」
「無論です。」
シアンの言葉に王は望みを湧き上がらせた。その場の騎士達も望みをかける。

「なんだ? どうすればいいのだ!? 」
「差し出すのです。」
シアンは目を細めて王を見た。

「金か? 領土か? し、仕方あるまい。背に腹は代えられぬ。」
王は唸った。
「時を稼ぎあの餓鬼を見つけ出せば、セラムに取り戻させればいいのだからな。」
王は自らの考えに納得をして頷いた。
「よし、停戦の使者を出せ。」
「は、はい。」
命の助かる王の提案に騎士は弾んだ声を上げた。

「それでは無理でしょう。」
「シアン? 」
「敵は此処まで攻め入っているのですから、停戦に応じてはくれないでしょう。」
「では、どうすればいいのだ!! 」
淡々と話すシアンに、苛立た混じりに王は叫んだ。
「生贄が必要です。」
シアンは王の方へ歩き始めた。
「生贄……、人質か!! 確かにそうだな。」
王は頷いた。敗戦国から人質を差し出すのはよく有ることであった。
「よし。アランを差し出そう。王太子なら不服は無いであろう。」
「そうで御座います。王太子殿下なら、立派な人質となられるでしょう。」
騎士達も王の考えを称賛した。

「役だたずと思ったが、儂の為に役に立ってもらおう。」 
王は既に息子を差し出すことを決め、笑顔で頷いている。
シアンはゆっくりと王を後にし、騎士達方へ移動する。

「本当に残念です。」
シアンは騎士達を背に王に向かい合った。憐れむ目を向ける。

「人質如きでこの戦が治まるはずはないでしょう。」
「シアン……。」

「国王陛下の尊き犠牲は、この国を救うでしょう。」
「シアン……? 」
「真に、残念です国王陛下。」
片手を胸にあてて目を閉じる。

「あなた様の御霊は、私がともらいますから。御安心下さい。」
「何を言っている!! 」

シアンはゆっくりと目を開け、憤る王を見据える。

「これは世の常です。」

「シアン、貴さま、儂を差し出すつもりだったのか!! 」
真っ赤になって王は怒鳴った。

「戦を治めるために王の首を差し出すのは当然でしょう。其のための国王陛下ですから。」
シアンは上から目線で王を見据える、口元が微笑みをもたらす。その微笑みに王は己は見捨てられたと感じ取った。

「何をしておる!! 此奴を、シアンを捕まえろ!! 此奴は儂に暗殺を企てたのだ!! さっさと捕まえろ!! 」
王は近衛騎士に命令を下す。騎士達は王の命により、聖教長シアンを囲った。シアンは微笑む。

「国王陛下と共に滅ぶのですか。」
シアンは騎士達に囁やきかける。

「命が惜しくはないのですか? よく考えなさい。」
騎士達の動きが止まり、目が空をさまよっている。シアンは囁やき続ける。

「何をしておる、早く捕まえろ!! いや、殺せ!! 」

王は怒鳴り声。

「国王陛下の高潔な御霊は天に登り、神は我等を護って下さるでしょう。」
シアンは優しく囁やきかける。

「私はアメリゴ帝国の方々を出迎えなければなりません。」
動きを止めた騎士達の囲いを抜けて扉の前に立ち振り向く。

「あなた方は高潔な国王陛下を、その時までお護りなさい。」
「はい、祭司様。」
「宜しい。」
シアンは優しい微笑みを騎士達に向ける、そして王にも。

「シアン……待て。」
「国王陛下。あなたの尊き犠牲は神の御心を打つでしょう。」
騎士達が開けた扉、シアン達は部屋を出ていく。 

「待て、待ってくれ……。」

縋るように呟く王の目の前で、その扉は静かに閉じられた。

























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