悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

文字の大きさ
119 / 128

新たなる王の誕生。

しおりを挟む
城内も城外も静まり返っていた。
戦の後とはまさに虚しいものである。むせ返る血の匂いが、王都を包み込んでいる。陽は登ったが、まだ戦の終わりの声は聞こえない。アメリゴの軍が城に入ってからかなりの時間が立っている。外にいる国民達は、城の中では虐殺が行われているのではと体を震わせている。次は自分ではないかと。

「それで、公爵閣下は何ができます。」
「私なら信者を押さえることかを出来る。」
鼻高々に公爵は言う。

「それだけです? 」
セルビィは小首を傾げた。

「押さえるだけなら、リオル様達にもできます。亡くしてしまえばいいのですから。」
さらりと虐殺めいた事を言うと、残念ですと頭を振った。セルビィは目の前のカップを手に取りお茶を飲む。

「それで。」
「私なら、信者を動向を把握することが出来る。」
ふうっ、と目の前で落胆したように溜息をつく。他にも色々自分が出来る事をアピールする公爵に、セルビィは落胆の表情を向ける。

セルビィが関心を示さない事に公爵は焦る、この場を支配しているのは彼なのだから。彼の求める答えが見つかるまで公爵は不安を抱えつつ話続ける。

(こいつ、まさか!! )

「私なら、リオル様をこの国の王にして差し上げられる!! 」
「それは、素晴らしいです。」
セルビィは満面の笑みで、公爵に向けた。やっと問題の答えに正解した公爵を、セルビィは母親のように誉める。

(やっぱりか!! )
ナルトは頭を抱えて俯いた、その肩にビウェルが慰めるように手を置いた。

「こいつ『リオルの王様にしよう問題』公爵に丸投げしやがった!! 」
「宗教問題は厄介だからな……。最初から考えていたのか。」
「この……、魔王め!! 」
ナルト達二人はセルビィの後ろでヒソヒソと話をしている。 

(そんなことを言うのは、ナルト様くらいですよ。)
前に座るセルビィにも、リオルやロレンス達にもその声は聞こえていた。

「「「………。」」」
リオル達三人は黙っていた。確かにセルビィは、リオルをこの国の王にして見せると言っていた。だが宗教国家であるオースト国の信者達をどのように諌めるのかは分かっていなかった。リオルもセルビィも、オースト国の宗教者に何を言っても受け入れられる信用を持たない。だが、聖教長まで登り詰めた公爵なら信者達も耳を傾ける筈だと。あの時からセルビィはこのことを考えていたのか、そのために国王を外に逃したのか。

(あの時から……いや、違う。彼はずっと前から自分達は独立すると考えていたはず。だとしたら、子供の頃から? )
もし、自分が敵対する立場になっていたらと思うとリオルとロレンスは背中に冷たいものが流れた。

((み、味方でよかった。))
リオルとロレンスは心からよかったと安堵した。いや、協力者に選ばれてよかったと。

「私なら、リオル様を王にすることが出来る。」
セルビィが誉めてたので公爵は鼻高々に胸をはった。誉められて自信を取り戻す。

「リオル様は王の器です。私はそれを陰ながら推し出したい。」
「それは素晴らしいです。」
セルビィは誉めながら両手を合わせた。満面の笑顔のセルビィ以外の者は、顔を青ざめて二人の会話を聞いていた。

「公爵閣下のお手並みを拝見させていただきます。」
セルビィの言葉と共に話し合いは終わり、王都国民 信徒たちに、戦の終わりと新たなる王の誕生が伝えられた。



「アイアン国王陛下はお亡くなりになられた。残念な事に、前国王陛下は神の意に背き罰せられたのだ。」 
ザワザワとざわめく城の門前で、公爵閣下は聖教長司祭として演説を始める。 

「神の意に、背かれた? 」
「罰せられた? 」
「どういうことなの? 」
国民は戦の終わりを喜び、聖教長の言葉を疑問視する。

「神は『我を信じる者は総て信徒である。』そう申されておられた。しかし前国王陛下アイアンは神の意に背き、信徒である豪の者達を蔑み、虐待をしていた。」
聖教長は身体中を悲しみに震わせた。

「何度も改めるよう、私は声掛けを国王陛下にしていた。だが、私の力なく陛下を諌めることができなかった。」
国民達は、司祭の言葉に狼狽えた。自分達も、豪の者達に虐待まがいの事をしたことはあるし、蔑んでもいた。でもそれが神の意に背くこととは思わなかった。なぜなら、国王が、聖徒達が、そのように言っていたのだから。国民達は困惑した。

「神の子である国王陛下が、神の意を背くとは誰も思わなかっただろう。そして、我らは国王陛下の意思に従ってしまった。」

「そ、そうだ!! 俺たちは国王陛下の意思に従ったまでだ!! 」
「神の意に背いてただなんて、知らなかったわ。」
「俺は、蔑みたくはなかった!! 」
「私も、虐めたくはありませんでしたわ。」
「「「「悪いのは国王だ!! 」」」」

司祭は、悪いのは国王だと罪を擦り付けた。それに国民達も乗って来た。

「だが今、悪の王アイアン陛下はうたれた。神の新たなる使者、リオル様に!! 神は新たなる王を我らに与えてくだされたのだ!! 」
「「「おお、新たなる王!! 」」」

「そうだ新たなる王、リオル様だ!! 太陽の赤を纏い、悪の王を倒し我らの前に来てくださったのだ!! 新たなる王を讃えよ!! 」
「「「おお、新たなる王よ!! 」」」
城壁の上にリオルは真紅の髪を靡かせて、国民の前に現れる。その後ろには太陽を描いた旗が揺れている。

「「「リオル様!! 」」」
「「「新たなる王、リオル様!! 」」」

戦争という緊張、閉戦という安堵。神の意に背いてたという不安、そして新たなる神の使者としてのリオルの存在に歓喜。国民達は新たなる神の子に陶酔していった。

リオルが片手を上げた。国民達は静まり返った、新たなる王の言葉を耳を傾ける為に。そこに。

「でも、アメリゴ帝国の皇子であるリオル様がこの国の王様になることを、アメリゴ帝国の皇帝も皇太子もそれを許すでしょうか? 」
金の髪を揺らした美少女が声を、上げる。その声は静まり返った場所に響いた。

「我々には神がついています。」
少女が不安そうに尋ねると、司祭は胸に手をあてて神の意を唱えた。

「我ら信者はリオル様を守りましょう。」
「なんて素晴らしいです。リオル様を守り、アメリゴ帝国と戦おうとなさるなんて。」
少女は手を合わせて、声を上げた。

「いや、戦うとは 」
「なんて素晴らしいです。信徒たちは神の子、リオル様の為に命をかけられるとは!! 」
少女は、興奮のあまり声を上げる。

「アメリゴ帝国はリオル様を殺し、この国の総てを虐殺するでしょう。」

「「「私達を虐殺する!? 」」」
「「神の子を殺すだと!? 」」

「これは神の意を消そうとするアメリゴ帝国との戦い……聖戦なのです!! 」

「私たちは、リオル様を守り!! この国を神の意を守りましょう!! 私たちには神がついてます!! これは聖戦なのです!! 」
少女は声高らかに聖戦をうたった。

「「そうだ、聖戦だ!! 」」
「「リオル様を守れ!! 」」
「「神の意を、つらぬけ!! 」」
「「これは聖戦だ!! 」」 

盛り上がる国民達。いつの間にか聖戦をうたった少女は、この場所から姿を消していた。呆然とする聖教長は、聖戦の盛り上がりに顔を青ざめていた。











    
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

笑う令嬢は毒の杯を傾ける

無色
恋愛
 その笑顔は、甘い毒の味がした。  父親に虐げられ、義妹によって婚約者を奪われた令嬢は復讐のために毒を喰む。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

処理中です...