牧野先生なんて大っ嫌い!

みららぐ

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放課後の「愛してる」

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金曜日の放課後。
校舎の端にある美術部の部室で、私たちは女子4~5人ほどで騒いでいた。

「はい由菜負けー!」
「えぇーまた私の負けなの!?」

私たちは美術部部員。
しかし展覧会が終わった翌週である今日は、部員仲間と部室でゲームをして遊んでいた。
部室には友達がスマホで好きな曲を流していて、顧問の先生も滅多に来ない場所だから日々やりたい放題である。

ゲーム、と一概に言っても何もニ●テンドーなどのゲーム機を持ち寄っているわけではなく、Ti●Tokで見つけた複数人でできるゲームを見よう見まねでやっているのだ。

そしてたった今、そのゲームで私「由菜」が負けたのだ。
しかも、1回だけでなく10連敗という記録まで叩き出してしまった。
…いや、みんなが「やろう」って言うから参加したけど、まじこのゲーム嫌い。

「…もういい。私帰る」

っていうかもうとっくに帰っていい時間だし、スマホの時計にはいつの間にか「18:00」と表示されている。
もうすぐ春だから真っ暗って程でもないけれど、窓の外はもう薄暗い。

しかしそんな私に仲間の1人が面白そうに言った。

「あ、待って由菜!せっかくだから罰ゲームね」
「ば、罰ゲームつきなの!?そんなの聞いてないし!」
「だーめ。せっかく楽しんでんだから罰ゲームくらいつけなきゃ」

仲間はそう言うと、嫌な予感しかしない私を余所に「何する?」とそれはもう楽しそうに考え始める。

「校内3週とか?」
「岸本センセーの髪1本抜いてくるとか?」
「いやそれエグッ!ただでさえ髪少ないのに!」
「わかった!そこのコンビニでうちらにお菓子奢る~」
「うーん、それだと面白くないでしょ。もっと何か……あっ!」

そして仲間の一人が思いついたように声を上げると、私に言った。

「わかった!牧野先生に“愛してる”って言ってきて!」
「っはぁ!?」

彼女が楽しそうにそう言った途端、それを聞いた他の仲間が「それいい!」とその提案に皆で乗り出した。
だけど…

「じょ、冗談じゃない!何で私が牧野なんかに…!」

一方そんなことを突然言われた私は、その提案を断固として拒否した。

牧野先生、とは。
去年の春からこの学校の教師を務める新米の男性教師だ。
担当は数学で、年齢もまだ23歳とこの学校の教師で一番若い。

…が、しかし。
彼はせっかく見た目がイケメンなのに、普段生徒とのコミュニケーションが皆無の男である。
それどころか、数学の授業では毎回必ず宿題出すし、定期的にノート点検するし、真面目すぎて授業中一言も雑談しないし、冗談通じないし、笑わないし、先月のバレンタインなんて私が持ってきたたくさんの友チョコを遠慮なく全部没収していきやがった。
(しかもそこから一向に戻って来ず結局チョコがどうなったのかは不明)

だから、私はそんな牧野先生のことが大っ嫌いなのである。
そんな牧野先生に例え嘘でも「愛してる」なんて冗談じゃない。
だったらまだ頭の禿げた国語の「岸本先生」に言った方がマシだ。
あの先生ならまだ話しやすいし何より冗談が通じる。

…ていうか…

「…コンビニでスイーツ奢るってば」
「だーめ。それじゃ面白くないでしょー?」

私はまだ救いがありそうな罰ゲームを自分で選んでみたけれど、仲間からは敢え無く却下され、「牧野先生に“愛してる”と伝える」ことが今日私が受ける罰ゲームとなってしまった。

…………

「由菜ー。うちらいつものゲーセンで待ってるからー」
「良い報告待ってるよー」

その後。
私たちは皆で一緒に美術部の部室を出て、私だけ牧野先生がいつもいる「数学準備室」に寄ってから帰ることになった。
その為仲間たちとは校内で一旦お別れになったけれど…っていうか「良い報告」って何だよ。

私は仲間たちに手を振った後、独り寂しく数学準備室に向かったのだった。

…………

どーせならもう帰っていれば良かったのに、先生はちゃんとそこにいた。
もうすっかりうす暗くなった廊下に、数学準備室の明かりが漏れている。
…もう。うざぁ。

私は仕方なく証拠の為にスマホの録音機能をオンにすると、そのドアを軽く2回ほどノックした。

「どうぞー?」

ノックすると、中から先生のそんな返事が聞こえてきて、私はガラ、と引き戸を開けるとそこに顔を覗かせる。
いつもの狭苦しい準備室には牧野先生しかいなくて、私はその光景を見ると思わずその場でため息を吐きそうになった。

…いや、危ない危ない。
ここでため息吐いたら不審がられる。

そして私が中に入って後ろ手でドアを閉めると、先生が不思議そうな顔をして私を見遣った。

「?…まだ残ってたの」
「うん…。ちょっと、先生に相談があって」
「?」

私はそう言うと、その辺にあった椅子を引っ張ってきて先生の近くに座る。
一瞬、とっとと終わらせてとっとと帰ろうかと思ったけど…やめた。
私はここに来たついでに、先月先生に没収されたチョコレートのことを聞いてみようと口を開いた。

「…先月、先生に没収されたあたしのチョコ、アレどうなった?」
「え?あー…」

私がそう問いかけると、先生は一旦椅子から立ち上がって、窓際の大きな引き出しから身に覚えのあるそれを取り出した。
…可愛いキャラクターが描かれた手提げの紙袋。
間違いない。これ、私がショッピングモールで買ってきたチョコだ。
手づくりだったらもう食べられなかったかもしれないけど、買ったものだったらまだ賞味期限は余裕だろう。

私はそれを先生から受け取ると、思わず安心して言った。

「良かったぁ。もう戻ってこないのかと…」

しかしそう言って軽く紙袋の中を確認していると、再び自分の椅子に座りながら先生が言う。

「要件はそれだけ?仕事の邪魔だから帰って」
「…」

そう言うと、何かの資料を見ながらパソコンのキーボードをカシャカシャと打っていく。
…そんなはっきり「邪魔」なんて言わなくても。
私はそんな先生のセリフを聞くと、とてもじゃないけど「愛してる」なんて言えなくなる。
むしろここでそんなことを言えるヤツがいるのならこの目で見てみたい。
私はこれ以上ここにいても何だか怒られそうな気がしたから、返して貰ったチョコを片手に椅子から立ち上がった。

「…はいはいわかりました、帰りますよ」

っていうか先生ね、そんな無愛想だといつまでたっても生徒と馴染めないからね?
…さすがにそんなことは言えないけれど、先生にバレない程度にジロ、と目を遣る。
しかしそれにも気づかずに相変わらずパソコンと向き合っている牧野先生。

そのままマジで帰ろうとしたけれど…それだとこの後のゲーセンで友達から大ブーイングが来そうなので、私は物凄く照れくさく感じながら、だけどそんな心を押し殺して言った。

「せーんせ!」
「…?」
「I love you.」

私はそう言うと、あまりの照れくささに顔がニヤけそうになったから、その顔を隠すように先生に背中を向ける。
…日本語じゃないけど意味は同じだし、これはこれでOKでしょ。
英語で言うなとも言われてないし。

「じゃーね、先生!」
「…」

そして私はそう言って背中を向けたまま先生に手を振ると、早速この部屋の引き戸を開ける。
しかし開けた途端に先生が言った。

「I love you,too.」
「…え?」
「…」

突如、背中に思いも寄らなかった一言が投げかけられ、私は少し目を見開いて先生の方を振り返る。
……うん?“I love you,too.”?
って、言った?

英語があまり得意ではない私にも、その意味はなんとなくわかってしまう。
…え、何それ。冗談?冗談だよね?

あまりにもらしくない先生の言葉に私が言葉を失っていると、やがて先生が珍しくふっと笑って私に言った。

「いや何つー顔してんの」
「え、だ、だって…」
「じゃあな。気をつけて帰れよ」

先生はそう言って優しく笑ったあと、再びパソコンに目を戻した。
一方私はそのままほぼもぬけの殻で数学準備室を後にして、独りの廊下をとぼとぼと歩いた。

…牧野先生が、笑った。
あんなに優しい先生の笑顔、初めて見た。

私は未だ放心状態のままスマホを取り出すと、とりあえず録音をオフにして翻訳アプリを呼び出す。
そこに「I love you,too.」と打って日本語に変換すると、「私もあなたを愛しています」という甘すぎる言葉が表示された。

「…やば。なにそれ」

え、そもそもどういう意味で言ったの?

…でも例えで言ったとしても、そんなの先生の冗談に決まってる。
先生が私にそんなことを本気で言うわけがない。
だけど普段、全く冗談が通じない牧野先生が、そんな風に冗談を言うことはあり得るんだろうか…?

私は数歩くらい歩いた廊下で再び立ち止まると、まだ近くにある数学準備室の方を振り向いた。

…いや?
っていうか先生、「冗談だよ」とも言わなかったよね。

私は考えれば考えるほど顔が熱くなってきて、走っちゃいけない廊下をバタバタ走って校舎を後にしたのだった。







【完】
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