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11.七不思議編
51降臨コーリング ⑦
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それを聞いた者たちは、一斉に総毛立った。ざあっと音が聞こえてきそうなほどだった。
昨年に対峙した時、同じ戦慄を覚えた雷奈が震え声で問う。
「やっぱり……あいつ、年とっとらん……?」
「それまでも、年上ながら若々しいままのひとだとは思っていたわ。けれど、雷帆ちゃんが四歳くらいの時っていったら、あのひとはもう三十代後半にさしかかっていたのよ。なのに、ようやく二十代を折り返したような見た目だった。衰えないことへの羨ましさなんかより、変わらないことへの訝しさを感じるほどに」
雷奈の前に現れたガオンは、二十代後半といった容姿だった。しかし、単純計算では、現在彼は四十代のはずだ。雷志の日記からも分かる通り、彼女が出会った当時からほぼ変わらないことになる。
雷志も、亡くなった当時の姿でよみがえったとはいえ、なかなか若い容姿をしているが、彼女の場合は骨格や生来の童顔がそう見せている部分が大きい。それに比べれば、本当の意味で「年を経てもほとんど変わらない」ガオンは異質だった。
「見た目年齢がマイナス十歳とか……化粧品会社の謳い文句かよ」
「その謳い文句に人々が手を伸ばすほどには、普通は手に入りにくいものなのよ」
いつもの朗らかな笑みで美雷が氷架璃に返す。本人はガオンの異常さを強調したつもりだろうが、その口ぶりに、氷架璃は「あんた何歳だよ」とツッコみたくなった。
「……それで、親父は……」
「ぼんやりしていたことも、猫力封印の自然解除も、最初は気づいていなかったあのひとだったけれど、徐々に自覚するようになっていったわ。そして、あの事件が起こる半年くらい前に、打ち明けられた。自分はいずれ、破壊神に戻るだろうって。私に、家族に危害を加えるかもしれないって」
雷奈は膝の上でぎゅっとスカートの裾を握った。長らく平然を装っていたが、近ごろはこの話題が傷跡にしみる。
「散々の苦悩の果ての告白だったようよ。『やはりあの時飛び込んでおけば』なんて口にするほどに。今からでも子供たちを連れて逃げてくれとも言われた」
「だが、お前は逃げなかった」
雷華の言葉に、雷志は目元にほのかな痛みを混ぜてうなずいた。
「なぜだ」
「……信じてたから。あのひとは人間として生きる道を選んで、その道を私達とともに順調に歩んでた。今さら、君臨者を殺した大罪の猫に戻るとは思えなかったの。……いいえ、そう思いたかっただけね。信じたかっただけ」
ゆるゆると首を振り、雷志は最期の時をなぞった。
「半年後、彼の赤い目が私に明確な殺意を向けてきたのを見て、確信した。ああ、私は殺されるんだって。ダメだったんだって。その目を子供達には向けないことだけが救いだった。それにすがって、私は最期まで彼のそばにいることを決めた。……そのことを日記に記した、次の晩だったわ」
何が、とは言わずもがなだ。
――自分がなくなるのも、子供たちを残すのも怖い。
――けれど、私は彼のそばにいる。
――彼が私を殺すとしても。最初から、その覚悟だったのだから。
雷志の日記は、あのページが最後だった。絶筆の理由は、推して知るべしだ。
雷志が口を閉ざし、重い空気が足元にすっかり沈殿したころ、雷奈が「んん……」とうめくような声を漏らした。
「なんていうか……進展があったようななかったような。親父が母さんと出会って、その……あの夜に至るまでの経緯は分かったったい。ばってん、やっぱり核心を突くヒントとはいえんか……」
「ごめんなさい、やっぱり役に立てなかったみたいね」
「でも、ガオンの印象がずいぶん変わったわね」
「確かにな」
ガオンが、フィライン・エデンを破壊したことへの自責の念で自殺までしようとしていたことは、雷夢からすでに聞き及んでいた。そこへ加えて雷志の話を聞くだに、とてもあの暴君の黒猫と同一人物とは思えない。かくも繊細で真摯な男が、何の因果でああも豹変したのだろうか。結局は、答えの出ないその疑問に戻ってきてしまう。
芽華実と氷架璃が顔を見合わせる横で、雷奈が「っていうか……」と歯切れ悪そうに切り出した。
「母さんは……なして親父のこと好きになったと?」
「えっ?」
訊き返され、雷奈は詳細を口にするむずがゆさにもじもじしながら言った。
「だって、好きになったから結婚したっちゃろ? 困ってるひとば助けるのは大賛成やし、母さんがそうしたのもわかるっちゃけど……ばってん、それまで同級生からの告白ば断ってきた母さんが、半年足らず手助けしてきただけの、しかも人間じゃない相手に惚れたのは、なんでかなって……」
その問いが要点ではないことは承知済みだ。そして、興味本位の不要な問いかけが気安い雰囲気ではないことも分かっている。それでも、どうしても気になってしまうのは、もはや年頃の少女の生態としかいいようがない。
目を泳がせながら尋ねる雷奈も、そして氷架璃と芽華実も、初々しい恋愛未経験者だ。初心な者ほど、指の隙間から垣間見るように恋愛話をのぞきたがるもの。
じっと息をひそめながらも、雷志の返答に全力で耳を傾ける少女たちに、雷志は「うーん」とこれまた少女のように首をかしげた。
そして、困ったように笑いながら答えを口にした。
「正直……好きとか、惚れたとか、そういうわけじゃないんだけど……」
「……えええ!?」
聴力の敏感な霞冴がびくっと肩を震わせるほどの声量で、三人は甲高い叫び声を上げた。猫でもないのに雷華も迷惑そうにしている。
「どういうことね!? 好きでもないのに結婚したと!?」
「魔性だろ! やっぱあの男、何か企んでやがったろ!」
「氷架璃、人様の旦那さんにそれはさすがに失礼よ」
すかさず氷架璃をたしなめる芽華実も、内心では驚きを隠せない。
動揺をあらわにする三人を、雷志は小さく笑いながらなだめると、卓上に視線を落とし、ふっと郷愁のにじんだ微笑を浮かべた。それだけで、まとっていた少女のごとき華やかな雰囲気は、一気に大人びた情趣へと変わる。
「結婚というのはね、ただ『好き』の延長線というわけではないのよ」
しとやかな声音に、姦しくしていた三人は、騒いでいたポーズのまま静止し、彼女の言葉に聞き入った。
「『このひとと苦楽を共にしたい』、『このひとのそばで、これから先の人生を過ごしたい』……意外とそんな具体的な思いから決心するものなの。私もそう。傷つき、悩みながらも前に進もうとするガオンさんを、そばでずっと支えられたら――そう思ったから、彼の申し出にうなずいたの。彼への気持ちは、確かに恋ではなかった。けれど、これだけは自信があるわ。あの想いはね、恋よりもずっと強かった」
唇に人差し指を当てて微笑む雷志を、雷奈は不思議な思いで見ていた。
雷奈の知る母は、少女のように無邪気で、雷夢となど親子ではなく友達のように話していたような人だった。
そんな彼女が、今、その名に恥じぬ自らの意志に胸を張る、毅然とした女性に見えた。大人の余裕を醸し出していて、人生の先輩の風格をなしていて、有り体にいえば、とにかくかっこよかった。
雷奈の憧憬のまなざしに、雷志は少し照れながら笑うと、子供たちに向けるものより少しばかり品を磨いた顔で美雷を振り返った。
「話がそれてしまいすみません。私からお話しできることはこれくらいなのですが……」
その顔が、はっと曇った。固唾をのみ、改めてそっと話しかける。
「美雷さん。大丈夫ですか。顔色が……」
「……ええ」
雷志の声かけで、雷奈たちは初めて、いつもの微笑が疲労に侵食されているのに気付いた。普段しゃんと伸びている姿勢も、意識すればわかる程度だが崩れている。
重い呼吸を一つして、美雷は吐息交じりに答えた。
「お気を遣わせてしまいすみません。私は大丈夫ですので」
「み、美雷さん、最近あんまり体調よくなかったんですから、無理しちゃダメですよ?」
「ありがとう、霞冴ちゃん。でも、まだお話は終わってないから」
隣でおろおろと心配する護衛官を優しくなだめ、美雷は雷志に視線を向けた。その目は、顔に浮かぶ困憊の色の中でも強かに輝いていた。
彼女が口を開き、本題のもう片方が卓上に躍り出る。
「雷志さん、次は私が情報提供をさせていただく番です。あなたがこの世にお戻りあそばされた理由について」
その言葉に、雷志は先生の話を聞く子供のように背筋を伸ばした。
「ぜひ、聞かせてください」
「ええ。とはいえ、今お伝えできるのは、あくまでも検証の方向性です。断じるには、私はあまりにも寡聞が過ぎるのです」
一呼吸おいて、美雷は続ける。
「一口に死者蘇生といっても、ことはそう単純ではありません。今、ここに雷志さんは存在している。では、その肉体はどこから来たのか? それが一番大きな問題です。お骨となった御身と合わせると、今この世界に『雷志さん』は二人存在していることになる。そうでないなら、お骨に何かから構成された肉が戻り、それが今動いていることになる。魂の帰還以上に、肉体の再構成のほうが難解なのです」
じっと聞き入っていた雷志は、反応をうかがうようにそっと尋ねた。
「肉体とは分離した魂がある、とお考えなのですね」
「ええ。医療に携わる雷志さんには、滑稽に聞こえるかもしれません。人間界の現代科学では、肉体と対になるもの、すなわち精神は、脳にあるとする立場が多いのは事実です。脳活動が心的過程を、人格を生み、その人の内面を形作る。脳が身体の一部である以上、精神は身体であるとする一元論が主流でしょう。ただ、その哲学は認めながら、フィライン・エデンでは慣習的に、そして学術的にも、肉体と魂は別物と考えるのが常識になっています」
「不思議ですね。陰陽五行などの東洋思想をもちながら、西洋的な考え方をするなんて」
「ご指摘はごもっともです。心身一如と心身一元論は厳密には同一ではないという見解を別にしても、人間界とは異なる視座をもつのは仰る通り。ですが、その理由は明白です。私たちは、主体と双体、二つの体をもつ。けれど、私たちの意識は同一。これが人間との大きな相違であり、魂と肉体を別物ととらえるに十分な動機です」
「得心が行きますね」
「とはいえ、フィライン・エデンと人間界とで答えを一にする必要はないのも共通理解です。フィライン・エデンの哲学はフィライン・エデンの者にのみ適用され、人間界の出である雷志さんには人間界の哲学が適用される可能性も」
ふと、美雷が雷奈たちに目をやる。すでに頭が過熱により発煙している三人と、いいから続けろと言わんばかりに涼しい顔の雷華。両者を見比べると、彼女は静かに失笑して、多数派に配慮した。
「話を戻しましょう。とかく、今の雷志さんの肉体の由来が、蘇生のメカニズムの鍵となるというのではないかというのが、私の所感です」
「つーか……メカニズムがどうであれ、こんなことができるのは君臨者しかいないんじゃないのか?」
オーバーヒートから立ち直りつつあった氷架璃が、まだぷすぷすと排熱しながら問う。
美雷はゆっくりと首を振った。
「氷架璃ちゃんの意見も間違ってないわ。でも、日躍ちゃんと話した時の感触でいえば、君臨者は個人の願いをかなえるような介入はしないはず。……それは、あなたもわかっているでしょう」
最後の一言が具体性を欠いたのは、美雷の配慮だ。
君臨者の使いである日躍は、氷架璃の願いを聞き届けてはくれなかった。母を蘇らせることはしてくれなかったのだ。それはきっと、君臨者の意思に反するから。
「でも、君臨者ほどの存在でないとできない、まさに神業なのは事実なんでしょう?」
こうして、誰がどうやって雷志を生き返らせたのか、などと議論するくらいには、その手立てが思いつかないのだ。つまり、並みの猫には不可能な術。であれば、実行可能なのは神と呼ばれし存在のみではないだろうか。
芽華実の言葉に、美雷は答えなかった。ただ黙って、迷うように視線を曖昧にさまよわせる。
沈黙を肯定ととらえた氷架璃が再び口を開いた。
「もしそうだとしたら、雷奈を昔の家にワープさせたのも君臨者だよな。なんでそんなことしたんだ?」
「おかげで母さんに助けてもらえたってことは、私を助けるために母さんのもとにワープさせた、とか?」
「だったら、雷志さんを雷奈のそばで復活させたほうが早くないかしら」
「だったら、ついでに時間のループについても教えてくれたらよかったとよ!」
「雷奈、それは欲張りすぎだ」
少女三人が議論の末に姦しくなるのを、雷志はおっとりと微笑んで眺めていたが、美雷に向き直ると真剣な面持ちに戻った。
「美雷さん」
身を乗り出し、三つ指をついて頭を下げそうなほどまっすぐに希う。
「誰の御業であれ、私は知りたいです。この体がどうやって再生したのか……今の私は、何者なのか。教えてください、あなたの検証の方向性というのを」
雷志のひたむきな懇願に、やいのやいのと言っていた雷奈たちも静かに美雷の言葉を待った。
注目と期待のまなざしを一身に受けた美雷は、笑みを浮かべた口で端的に答えた。
「猫力学者との面会を提案します」
「猫力学者……」
それは、学院において、猫力を探究する研究者。
そして、かつてガオンが冠していた職名だ。
雷志の表情から、誰を想起したのかを十分に察しながらも、美雷は続ける。
「術者がいることは確実。そして術を使ったなら、源子が絡んでいるもの確実です。猫力学者は源子のエキスパート。源子がいかにしてあなたをこの世に呼び戻したのか、その道筋が分かるかもしれません」
「なるほど……お知り合いがいらっしゃるので?」
「いいえ、私には。ただ、希兵隊員の一人に、猫力学者とつながりのある子がいます。彼女に照会したのち、可能そうであれば、学院長に話を通します」
「まぁ……そこまでしていただけるなんて」
雷志は改めて居住まいを正し、丁寧に頭を下げた。
「お手数をおかけして恐縮です。お手隙の折で構いませんので、どうぞ、よろしくお取り計らいいただければ」
「とんでもございません。こちらこそ、改めてお時間をおとりいただく形になりますが、なにとぞ……」
美雷も頭を下げる。雷志よりも深く――ふらりと、斜めに。
「美雷さんっ!」
側頭部から畳に叩きつけられるより早く、霞冴が上体ごと受け止めた。あまりに突然のことに、驚嘆も発せなかった雷奈たちだが、一瞬にして部屋の空気がざわついたのは確かだ。
数秒遅れて体が動き、雷奈が立ち上がる。
「だっ、大丈夫っちゃか!?」
「……ええ……ちょっと、めまいがしただけ……」
「でも、さっきより顔色が悪いわ」
芽華実も膝立ちになって、霞冴に助け起こされた美雷の顔を覗き込む。霞冴は血色を失った美雷を支えたまま、顔を上げて雷志にきっぱりと言い放った。
「雷志さん、すみません。不躾ながら、今日は……」
「気にしないで、ゆっくり休ませて差し上げて。……美雷さん、本調子じゃないところ、今日は本当にありがとう」
「申し訳、ありません……」
ほとんどささやきに近い声で謝罪の言葉を口にすると、美雷は霞冴の手を借りて体を起こした。ここで少し休んでいってはどうかという雷奈の誘いを辞謝し、せめて主体になったら私が運びますという霞冴の提案にもゆるりと首を振って、立ち上がろうとする。が、急には難しいようで、深くうつむいて呼吸を整えていた。
そこへ、すくっと立ち上がった雷志が、座り込んだ姿勢の美雷のそばに膝をついた。
「美雷さん」
美雷は時間をかけてゆっくりと雷志を見上げた。彼女を見つめ返す雷志の目は、今までで一番真剣なものだった。
「ご負担をおかけしていることは熟知しています。だから、こんなことを私が言うのはおこがましいということも承知の上です。それでも」
自分と対等な大人に対して、心の底から残さずかき集めた真摯さを両手で差し出すように、全霊を込めて訴える。
「これから先、何か必要なことがあったら、どうか遠慮なく言ってください。何だって協力します。私、あなたの助けになりたいの」
琥珀色の瞳が、声もなく微弱に揺れた。雷志も、そこから決して目をそらさず、黙ったまま美雷を見つめ続ける。
言葉を介さぬまま、視線だけで何事かが交わされる間があった。
やがて、美雷の目元がふと緩んだ。
「……幸甚の至りです。拝謝申し上げますわ。ぜひ、その折には、ご助力を賜らせていただきます」
「ええ、喜んで」
美雷が微笑を取り戻したことに、心から安堵したように、雷志も相好を崩した。
「とはいえ、今回も大した情報は提供できませんでしたけど……」
「いいえ、そんなことは」
「そうったい。……まあ、まだわからんことだらけやけど。なして親父はチエアリ化したのかとか、君臨者ば殺したってなんねとか、なして私のことだけ攻撃せんのかとか」
「何のフォローにもなってないぞ、雷奈」
母を励まそうとして、あっけなく墓穴を掘った雷奈は、「あーん」と天を仰いで嘆いた。芽華実が吹き出し、氷架璃が笑いながら、しょげる背中を叩いていると、
「あら、でも、最後のは明らかなんじゃない?」
穏やかで、それでいて存在感のある声。霞冴に支えられながら立ち上がった美雷が、まだ疲れた顔をしながら、そう言った。
「え……何が?」
「なぜ雷奈ちゃんのことだけは攻撃しないのか、よ」
雷奈も、笑い転げていた氷架璃と芽華実も、息をのんで美雷を見つめた。
いつものんきな態度を見せていながら、時に彼女の言葉には真に迫る鋭さを感じざるを得ない。
なぜ、雷奈だけは直接的な攻撃の対象から外れるのか。ガオン自身はその理由を「相性の問題」と述べていたが、それが答えの全容か、そもそも真実なのかはわからない。
ガオンの真実に迫る鍵となるかもしれない、一つの謎への答えを待ち望む雷奈たちに、美雷は微笑で返した。
「三日月ガオンが、雷奈ちゃんの父親だからよ。我が子を傷つけたくない気持ちに、理由なんてあるかしら」
昨年に対峙した時、同じ戦慄を覚えた雷奈が震え声で問う。
「やっぱり……あいつ、年とっとらん……?」
「それまでも、年上ながら若々しいままのひとだとは思っていたわ。けれど、雷帆ちゃんが四歳くらいの時っていったら、あのひとはもう三十代後半にさしかかっていたのよ。なのに、ようやく二十代を折り返したような見た目だった。衰えないことへの羨ましさなんかより、変わらないことへの訝しさを感じるほどに」
雷奈の前に現れたガオンは、二十代後半といった容姿だった。しかし、単純計算では、現在彼は四十代のはずだ。雷志の日記からも分かる通り、彼女が出会った当時からほぼ変わらないことになる。
雷志も、亡くなった当時の姿でよみがえったとはいえ、なかなか若い容姿をしているが、彼女の場合は骨格や生来の童顔がそう見せている部分が大きい。それに比べれば、本当の意味で「年を経てもほとんど変わらない」ガオンは異質だった。
「見た目年齢がマイナス十歳とか……化粧品会社の謳い文句かよ」
「その謳い文句に人々が手を伸ばすほどには、普通は手に入りにくいものなのよ」
いつもの朗らかな笑みで美雷が氷架璃に返す。本人はガオンの異常さを強調したつもりだろうが、その口ぶりに、氷架璃は「あんた何歳だよ」とツッコみたくなった。
「……それで、親父は……」
「ぼんやりしていたことも、猫力封印の自然解除も、最初は気づいていなかったあのひとだったけれど、徐々に自覚するようになっていったわ。そして、あの事件が起こる半年くらい前に、打ち明けられた。自分はいずれ、破壊神に戻るだろうって。私に、家族に危害を加えるかもしれないって」
雷奈は膝の上でぎゅっとスカートの裾を握った。長らく平然を装っていたが、近ごろはこの話題が傷跡にしみる。
「散々の苦悩の果ての告白だったようよ。『やはりあの時飛び込んでおけば』なんて口にするほどに。今からでも子供たちを連れて逃げてくれとも言われた」
「だが、お前は逃げなかった」
雷華の言葉に、雷志は目元にほのかな痛みを混ぜてうなずいた。
「なぜだ」
「……信じてたから。あのひとは人間として生きる道を選んで、その道を私達とともに順調に歩んでた。今さら、君臨者を殺した大罪の猫に戻るとは思えなかったの。……いいえ、そう思いたかっただけね。信じたかっただけ」
ゆるゆると首を振り、雷志は最期の時をなぞった。
「半年後、彼の赤い目が私に明確な殺意を向けてきたのを見て、確信した。ああ、私は殺されるんだって。ダメだったんだって。その目を子供達には向けないことだけが救いだった。それにすがって、私は最期まで彼のそばにいることを決めた。……そのことを日記に記した、次の晩だったわ」
何が、とは言わずもがなだ。
――自分がなくなるのも、子供たちを残すのも怖い。
――けれど、私は彼のそばにいる。
――彼が私を殺すとしても。最初から、その覚悟だったのだから。
雷志の日記は、あのページが最後だった。絶筆の理由は、推して知るべしだ。
雷志が口を閉ざし、重い空気が足元にすっかり沈殿したころ、雷奈が「んん……」とうめくような声を漏らした。
「なんていうか……進展があったようななかったような。親父が母さんと出会って、その……あの夜に至るまでの経緯は分かったったい。ばってん、やっぱり核心を突くヒントとはいえんか……」
「ごめんなさい、やっぱり役に立てなかったみたいね」
「でも、ガオンの印象がずいぶん変わったわね」
「確かにな」
ガオンが、フィライン・エデンを破壊したことへの自責の念で自殺までしようとしていたことは、雷夢からすでに聞き及んでいた。そこへ加えて雷志の話を聞くだに、とてもあの暴君の黒猫と同一人物とは思えない。かくも繊細で真摯な男が、何の因果でああも豹変したのだろうか。結局は、答えの出ないその疑問に戻ってきてしまう。
芽華実と氷架璃が顔を見合わせる横で、雷奈が「っていうか……」と歯切れ悪そうに切り出した。
「母さんは……なして親父のこと好きになったと?」
「えっ?」
訊き返され、雷奈は詳細を口にするむずがゆさにもじもじしながら言った。
「だって、好きになったから結婚したっちゃろ? 困ってるひとば助けるのは大賛成やし、母さんがそうしたのもわかるっちゃけど……ばってん、それまで同級生からの告白ば断ってきた母さんが、半年足らず手助けしてきただけの、しかも人間じゃない相手に惚れたのは、なんでかなって……」
その問いが要点ではないことは承知済みだ。そして、興味本位の不要な問いかけが気安い雰囲気ではないことも分かっている。それでも、どうしても気になってしまうのは、もはや年頃の少女の生態としかいいようがない。
目を泳がせながら尋ねる雷奈も、そして氷架璃と芽華実も、初々しい恋愛未経験者だ。初心な者ほど、指の隙間から垣間見るように恋愛話をのぞきたがるもの。
じっと息をひそめながらも、雷志の返答に全力で耳を傾ける少女たちに、雷志は「うーん」とこれまた少女のように首をかしげた。
そして、困ったように笑いながら答えを口にした。
「正直……好きとか、惚れたとか、そういうわけじゃないんだけど……」
「……えええ!?」
聴力の敏感な霞冴がびくっと肩を震わせるほどの声量で、三人は甲高い叫び声を上げた。猫でもないのに雷華も迷惑そうにしている。
「どういうことね!? 好きでもないのに結婚したと!?」
「魔性だろ! やっぱあの男、何か企んでやがったろ!」
「氷架璃、人様の旦那さんにそれはさすがに失礼よ」
すかさず氷架璃をたしなめる芽華実も、内心では驚きを隠せない。
動揺をあらわにする三人を、雷志は小さく笑いながらなだめると、卓上に視線を落とし、ふっと郷愁のにじんだ微笑を浮かべた。それだけで、まとっていた少女のごとき華やかな雰囲気は、一気に大人びた情趣へと変わる。
「結婚というのはね、ただ『好き』の延長線というわけではないのよ」
しとやかな声音に、姦しくしていた三人は、騒いでいたポーズのまま静止し、彼女の言葉に聞き入った。
「『このひとと苦楽を共にしたい』、『このひとのそばで、これから先の人生を過ごしたい』……意外とそんな具体的な思いから決心するものなの。私もそう。傷つき、悩みながらも前に進もうとするガオンさんを、そばでずっと支えられたら――そう思ったから、彼の申し出にうなずいたの。彼への気持ちは、確かに恋ではなかった。けれど、これだけは自信があるわ。あの想いはね、恋よりもずっと強かった」
唇に人差し指を当てて微笑む雷志を、雷奈は不思議な思いで見ていた。
雷奈の知る母は、少女のように無邪気で、雷夢となど親子ではなく友達のように話していたような人だった。
そんな彼女が、今、その名に恥じぬ自らの意志に胸を張る、毅然とした女性に見えた。大人の余裕を醸し出していて、人生の先輩の風格をなしていて、有り体にいえば、とにかくかっこよかった。
雷奈の憧憬のまなざしに、雷志は少し照れながら笑うと、子供たちに向けるものより少しばかり品を磨いた顔で美雷を振り返った。
「話がそれてしまいすみません。私からお話しできることはこれくらいなのですが……」
その顔が、はっと曇った。固唾をのみ、改めてそっと話しかける。
「美雷さん。大丈夫ですか。顔色が……」
「……ええ」
雷志の声かけで、雷奈たちは初めて、いつもの微笑が疲労に侵食されているのに気付いた。普段しゃんと伸びている姿勢も、意識すればわかる程度だが崩れている。
重い呼吸を一つして、美雷は吐息交じりに答えた。
「お気を遣わせてしまいすみません。私は大丈夫ですので」
「み、美雷さん、最近あんまり体調よくなかったんですから、無理しちゃダメですよ?」
「ありがとう、霞冴ちゃん。でも、まだお話は終わってないから」
隣でおろおろと心配する護衛官を優しくなだめ、美雷は雷志に視線を向けた。その目は、顔に浮かぶ困憊の色の中でも強かに輝いていた。
彼女が口を開き、本題のもう片方が卓上に躍り出る。
「雷志さん、次は私が情報提供をさせていただく番です。あなたがこの世にお戻りあそばされた理由について」
その言葉に、雷志は先生の話を聞く子供のように背筋を伸ばした。
「ぜひ、聞かせてください」
「ええ。とはいえ、今お伝えできるのは、あくまでも検証の方向性です。断じるには、私はあまりにも寡聞が過ぎるのです」
一呼吸おいて、美雷は続ける。
「一口に死者蘇生といっても、ことはそう単純ではありません。今、ここに雷志さんは存在している。では、その肉体はどこから来たのか? それが一番大きな問題です。お骨となった御身と合わせると、今この世界に『雷志さん』は二人存在していることになる。そうでないなら、お骨に何かから構成された肉が戻り、それが今動いていることになる。魂の帰還以上に、肉体の再構成のほうが難解なのです」
じっと聞き入っていた雷志は、反応をうかがうようにそっと尋ねた。
「肉体とは分離した魂がある、とお考えなのですね」
「ええ。医療に携わる雷志さんには、滑稽に聞こえるかもしれません。人間界の現代科学では、肉体と対になるもの、すなわち精神は、脳にあるとする立場が多いのは事実です。脳活動が心的過程を、人格を生み、その人の内面を形作る。脳が身体の一部である以上、精神は身体であるとする一元論が主流でしょう。ただ、その哲学は認めながら、フィライン・エデンでは慣習的に、そして学術的にも、肉体と魂は別物と考えるのが常識になっています」
「不思議ですね。陰陽五行などの東洋思想をもちながら、西洋的な考え方をするなんて」
「ご指摘はごもっともです。心身一如と心身一元論は厳密には同一ではないという見解を別にしても、人間界とは異なる視座をもつのは仰る通り。ですが、その理由は明白です。私たちは、主体と双体、二つの体をもつ。けれど、私たちの意識は同一。これが人間との大きな相違であり、魂と肉体を別物ととらえるに十分な動機です」
「得心が行きますね」
「とはいえ、フィライン・エデンと人間界とで答えを一にする必要はないのも共通理解です。フィライン・エデンの哲学はフィライン・エデンの者にのみ適用され、人間界の出である雷志さんには人間界の哲学が適用される可能性も」
ふと、美雷が雷奈たちに目をやる。すでに頭が過熱により発煙している三人と、いいから続けろと言わんばかりに涼しい顔の雷華。両者を見比べると、彼女は静かに失笑して、多数派に配慮した。
「話を戻しましょう。とかく、今の雷志さんの肉体の由来が、蘇生のメカニズムの鍵となるというのではないかというのが、私の所感です」
「つーか……メカニズムがどうであれ、こんなことができるのは君臨者しかいないんじゃないのか?」
オーバーヒートから立ち直りつつあった氷架璃が、まだぷすぷすと排熱しながら問う。
美雷はゆっくりと首を振った。
「氷架璃ちゃんの意見も間違ってないわ。でも、日躍ちゃんと話した時の感触でいえば、君臨者は個人の願いをかなえるような介入はしないはず。……それは、あなたもわかっているでしょう」
最後の一言が具体性を欠いたのは、美雷の配慮だ。
君臨者の使いである日躍は、氷架璃の願いを聞き届けてはくれなかった。母を蘇らせることはしてくれなかったのだ。それはきっと、君臨者の意思に反するから。
「でも、君臨者ほどの存在でないとできない、まさに神業なのは事実なんでしょう?」
こうして、誰がどうやって雷志を生き返らせたのか、などと議論するくらいには、その手立てが思いつかないのだ。つまり、並みの猫には不可能な術。であれば、実行可能なのは神と呼ばれし存在のみではないだろうか。
芽華実の言葉に、美雷は答えなかった。ただ黙って、迷うように視線を曖昧にさまよわせる。
沈黙を肯定ととらえた氷架璃が再び口を開いた。
「もしそうだとしたら、雷奈を昔の家にワープさせたのも君臨者だよな。なんでそんなことしたんだ?」
「おかげで母さんに助けてもらえたってことは、私を助けるために母さんのもとにワープさせた、とか?」
「だったら、雷志さんを雷奈のそばで復活させたほうが早くないかしら」
「だったら、ついでに時間のループについても教えてくれたらよかったとよ!」
「雷奈、それは欲張りすぎだ」
少女三人が議論の末に姦しくなるのを、雷志はおっとりと微笑んで眺めていたが、美雷に向き直ると真剣な面持ちに戻った。
「美雷さん」
身を乗り出し、三つ指をついて頭を下げそうなほどまっすぐに希う。
「誰の御業であれ、私は知りたいです。この体がどうやって再生したのか……今の私は、何者なのか。教えてください、あなたの検証の方向性というのを」
雷志のひたむきな懇願に、やいのやいのと言っていた雷奈たちも静かに美雷の言葉を待った。
注目と期待のまなざしを一身に受けた美雷は、笑みを浮かべた口で端的に答えた。
「猫力学者との面会を提案します」
「猫力学者……」
それは、学院において、猫力を探究する研究者。
そして、かつてガオンが冠していた職名だ。
雷志の表情から、誰を想起したのかを十分に察しながらも、美雷は続ける。
「術者がいることは確実。そして術を使ったなら、源子が絡んでいるもの確実です。猫力学者は源子のエキスパート。源子がいかにしてあなたをこの世に呼び戻したのか、その道筋が分かるかもしれません」
「なるほど……お知り合いがいらっしゃるので?」
「いいえ、私には。ただ、希兵隊員の一人に、猫力学者とつながりのある子がいます。彼女に照会したのち、可能そうであれば、学院長に話を通します」
「まぁ……そこまでしていただけるなんて」
雷志は改めて居住まいを正し、丁寧に頭を下げた。
「お手数をおかけして恐縮です。お手隙の折で構いませんので、どうぞ、よろしくお取り計らいいただければ」
「とんでもございません。こちらこそ、改めてお時間をおとりいただく形になりますが、なにとぞ……」
美雷も頭を下げる。雷志よりも深く――ふらりと、斜めに。
「美雷さんっ!」
側頭部から畳に叩きつけられるより早く、霞冴が上体ごと受け止めた。あまりに突然のことに、驚嘆も発せなかった雷奈たちだが、一瞬にして部屋の空気がざわついたのは確かだ。
数秒遅れて体が動き、雷奈が立ち上がる。
「だっ、大丈夫っちゃか!?」
「……ええ……ちょっと、めまいがしただけ……」
「でも、さっきより顔色が悪いわ」
芽華実も膝立ちになって、霞冴に助け起こされた美雷の顔を覗き込む。霞冴は血色を失った美雷を支えたまま、顔を上げて雷志にきっぱりと言い放った。
「雷志さん、すみません。不躾ながら、今日は……」
「気にしないで、ゆっくり休ませて差し上げて。……美雷さん、本調子じゃないところ、今日は本当にありがとう」
「申し訳、ありません……」
ほとんどささやきに近い声で謝罪の言葉を口にすると、美雷は霞冴の手を借りて体を起こした。ここで少し休んでいってはどうかという雷奈の誘いを辞謝し、せめて主体になったら私が運びますという霞冴の提案にもゆるりと首を振って、立ち上がろうとする。が、急には難しいようで、深くうつむいて呼吸を整えていた。
そこへ、すくっと立ち上がった雷志が、座り込んだ姿勢の美雷のそばに膝をついた。
「美雷さん」
美雷は時間をかけてゆっくりと雷志を見上げた。彼女を見つめ返す雷志の目は、今までで一番真剣なものだった。
「ご負担をおかけしていることは熟知しています。だから、こんなことを私が言うのはおこがましいということも承知の上です。それでも」
自分と対等な大人に対して、心の底から残さずかき集めた真摯さを両手で差し出すように、全霊を込めて訴える。
「これから先、何か必要なことがあったら、どうか遠慮なく言ってください。何だって協力します。私、あなたの助けになりたいの」
琥珀色の瞳が、声もなく微弱に揺れた。雷志も、そこから決して目をそらさず、黙ったまま美雷を見つめ続ける。
言葉を介さぬまま、視線だけで何事かが交わされる間があった。
やがて、美雷の目元がふと緩んだ。
「……幸甚の至りです。拝謝申し上げますわ。ぜひ、その折には、ご助力を賜らせていただきます」
「ええ、喜んで」
美雷が微笑を取り戻したことに、心から安堵したように、雷志も相好を崩した。
「とはいえ、今回も大した情報は提供できませんでしたけど……」
「いいえ、そんなことは」
「そうったい。……まあ、まだわからんことだらけやけど。なして親父はチエアリ化したのかとか、君臨者ば殺したってなんねとか、なして私のことだけ攻撃せんのかとか」
「何のフォローにもなってないぞ、雷奈」
母を励まそうとして、あっけなく墓穴を掘った雷奈は、「あーん」と天を仰いで嘆いた。芽華実が吹き出し、氷架璃が笑いながら、しょげる背中を叩いていると、
「あら、でも、最後のは明らかなんじゃない?」
穏やかで、それでいて存在感のある声。霞冴に支えられながら立ち上がった美雷が、まだ疲れた顔をしながら、そう言った。
「え……何が?」
「なぜ雷奈ちゃんのことだけは攻撃しないのか、よ」
雷奈も、笑い転げていた氷架璃と芽華実も、息をのんで美雷を見つめた。
いつものんきな態度を見せていながら、時に彼女の言葉には真に迫る鋭さを感じざるを得ない。
なぜ、雷奈だけは直接的な攻撃の対象から外れるのか。ガオン自身はその理由を「相性の問題」と述べていたが、それが答えの全容か、そもそも真実なのかはわからない。
ガオンの真実に迫る鍵となるかもしれない、一つの謎への答えを待ち望む雷奈たちに、美雷は微笑で返した。
「三日月ガオンが、雷奈ちゃんの父親だからよ。我が子を傷つけたくない気持ちに、理由なんてあるかしら」
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