107 / 108
If…《運命の番》エンドルート 番外編②
EX⑦. 『あの人』の今②
しおりを挟む〈 瑠偉視点 〉
「そう…。そうなの…。幸せ…なんだね…」
誰にともなく呟く琳を、俺は軽く抱きしめた。
「琳、お前の抱えているものには気付いていたよ。もっと早く憂いを解いてやれたらよかったんだが、俺から探るのも違うだろうと思って、気付かないフリをしていた。今回の偶然の再会は、きっと最後の機会だろうと思った」
俺の胸に顔を埋めている琳の背中を、ぽんぽんと子供をあやす時のように軽く叩く。
「本音を言えば、俺はあいつらがどうなろうが知ったこっちゃない。俺達に関わりのない所で勝手に幸せにでも、不幸にでもなってくれと思う。琳を傷付けた時点で、何度謝罪や誠意を示されても、赦せる存在じゃないからな。
でもな、俺は琳が大切にしているものを守りたかった。物でも人でも心でも」
5年前、琳に頼まれて手紙だけは届けに行ったが、それで終わり。もう一切、関わるつもりはなかった。たとえ道端ですれ違っても他人だ、と。
だが、ある日俺は琳の苦悩を知ってしまった。直接何かを言われた訳じゃない。ただ、俺が沖縄に来る度、時々俺の顔をじっと見つめ、何かを言い掛けては口を噤む。そんな事が何度か繰り返された後、「手紙、届けてくれたんだよね…」とぽつりと呟いた琳。はっきりと言葉に出来ない琳からのメッセージ。琳は俺が手紙をちゃんと届けた事を知っている。そして俺は、琳自身から聞いて手紙の内容を知っている。琳は彰宏が幸せに暮らしているのかどうかを知りたいのだと思った。
別れた元夫の様子を知りたがるなど、誰もが変だと思うだろうか。俺はそうは思わない。元夫である前に元番。一度は夫夫以上に強く惹かれ合い結ばれた相手。嫌い合って別れた訳でもない。既に愛情は枯れ果てていても、一度心身に深く刻み込まれた相手。知りたいと思うのは仕方ないのかも知れない。
「…瑠偉くん…」
琳がゆっくりと顔を上げる。もう泣いてはいなかった。
「…僕ね、瑠偉くんは怒るかもしんないけれど、改めて考えれば結構酷い扱いされてたな…って解るけれど、あの人の事、恨んだ事はないんだ。
瑠偉くん、知ってる? 怒るのって…恨むのって…憎むのって、凄く精神削られるし、疲れるんだよ。それにね、僕は結局あの人の事、嫌いにはなれなかったから…。もう恋した気持ちは少しも残っていないけれど、それでも、幸せになってほしいとは思ってる。僕の本心だよ?
僕、今凄く幸せ。幸せってね、毎日増えてくの。自分が幸せだな~って感じる度に、あの人の事も考えてしまう。彼は今幸せ? 『最後の日』に言った僕の言葉に縛られたままだったら? 瑠偉くんに手紙を届けてもらった後ももし縛られたままだったら…」
「大丈夫だ。彰宏は前を向いた。ちゃんと自分の人生を歩いていたよ」
「…うん。教えてくれて、ありがと…」
そう言って、琳は笑ったー。
その夜ー。
愛琉を寝かし付け、「じゃあ僕、お風呂に入ってくるね」と言って琳が浴室の方へと消えた後、俺はリオンに頭を下げた。
ちなみに俺とリオンは、軽く晩酌中だった。『バース専門医』のリオンが夜に病院に呼び出される事は、ほぼ無いから。
「リオン、すまん。琳を泣かせた」
そうして昼間、琳と話した事を話す。
「お前にとっては面白くない話だろう。聞いていて気持ちのいい話ではない事も重々承知している。元夫で元番の話など…。結婚前に元番との事はリオンには話したと琳は言っていた。会った事のない…これからも会う事のない相手でも、お前からしたら憎い相手だと思う。それでも俺は、琳が抱えている荷物を少しでも軽くしてやりたくて、元番の事を話した。結果、泣かせた。たとえそれが安堵から来る涙でも。すまない」
もう一度頭を下げれは、頭上から「怒ってないですよ」と言うリオンの声。俺は頭を上げた。
「ルイさんには、感謝してるんです。
リンが胸の内に何かを抱えているのは感じていたんです。番だからですかね。でも、それが何かは解らない。リンは何も言わないから、俺から訊く事も出来なくて…。けど、納得しました。元番の事だから俺に言えなかったんですね。昔、元番と何があったのかは聞いていますし、話してくれたら…とは思いますけど、リンの性格では言えなかったんでしょう。俺個人の感情として、リンの元番に何かを思う事はないです。もしもリンが助かっていなかったら恨んだり憎んだりしたかも知れませんが…。
今、リンは俺の傍にいます。俺の傍でいつも笑顔でいてくれる。リンは俺の番です。それが全てだ」
「リオン…。
お前、腹が立つくらいいい男だな」
「ありがとうございます」
「……………。
そういう素直なところも、何か腹立つ…」
「…なんでですか…」
俺とリオンは顔を見合わせ、
「「はは…」」
笑い合うと、ビールを注いだコップをそれぞれ手に持ち、もう一度、乾杯したー。
383
あなたにおすすめの小説
僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね
舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」
Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。
恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。
蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。
そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした
水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。
強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。
「お前は、俺だけのものだ」
これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。
【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる