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《本編》
11. 束の間の"幸せ " ①
しおりを挟む大学を卒業した2ヶ月後の6月初旬、僕と彰宏さんは入籍して夫夫になった。
婚約中から準備していた内輪だけの結婚式を挙げ、一週間の新婚旅行先に選んだのは北海道。国内だった。旅行先を決める時、彰宏さんも家族達(お義母様を除く)も「海外でも良いんだよ」と言ってくれたけれど、僕、実はあんまり外国は好きじゃない。子供の頃は家族旅行で何回か行ったけれど。日本が好きなんだ。僕がΩなのが関係しているのかは判らないけれど、海外のあの空気が何だか好きになれなくて…。正直に話したら、彰宏さんは僕の気持ちを尊重してくれた。「俺達の新婚旅行なんだから琳の行きたい所に行こう」って。僕が「北海道に行きたい」って言って即決。ずっと行きたかったんだ、北海道。
幸せな一週間を過ごした僕達は、互いの実家には顔を出さず、そのまま新居へと向かった。
その道すがら、僕は、半年ほど前の顔合わせの日の事を思い出していた。
顔合わせ後のデートの後、自宅まで彰宏さんに送ってもらった時の事ー。
帰ろうとする彰宏さんを、お父さんかわ引き止めた。僕達に『話』があるという。何だろう?と僕は首を傾げたけれど、彰宏さんは何かに気付いているかの様に「分かりました」と言って従った。
通された応接間でお父さんが彰宏さんに問う。
『"あれ"はどういう事だ?』
と。そこで、僕にも解った。
お父さんが言ってるのが彰宏さんのお母さんの事だと。確かに、これから縁を繋ごうとする相手の両親に対して、あの態度はあり得ないと思うけれど…。話自体は父親同士に任せるにしても、挨拶くらいはね。実際に僕のお母さんも、挨拶を口にしてからは求められるまで何も言わなかったし。
僕は彰宏さんと結婚するんであってお義母さんと結婚するんじゃないんだから、お義父さんは歓迎して味方になってくれてるし、お義母さんには出来るだけ会わない様に配慮してくれるらしいから、気にするの止めたんだけれど、大切な息子を嫁がせる身としては看過出来なかったらしい。流石に空気を呼んでその場では何も言わなかったけれど…と。
彰宏さんは僕にしてくれたのと同じ様に説明して母親の態度を謝罪し、
『父と話し合って、新居は教えませんし、母とは必要最低限の接触以外はしません。琳くんは必ず守ると誓います。こちらにも御迷惑にならない様に致します。申し訳ありませんでした』
深々と頭を下げる彰宏さんに、お父さんは…。
『今更、君達の結婚を反対したりはしない。私達はね、琳が幸せならそれで良いんだよ。琳が君と添うことを望んでいるのなら、私達は君を信じて息子を託すだけ。瑠偉と華英の事は、まあ、気にしなくても良い。琳が可愛いが故の「嫁にはやらん」だからな』
嫁にはやらん……。
それ、娘を持つ父親の台詞じゃない?
『解っています。お義兄さんとお義姉さんのお気持ちは。皆様のお気持ちを裏切らないよう、大切に…幸せにします』
『彰宏さん…』
『くれぐれもよろしく頼む…としか言えないな、親としては。君は君、母親は母親…と言いたいところだが、嫁ぐ以上、婚家の親と全く関わらないという訳にはいかないだろう。これだけは覚えておいてほしい。琳が傷付く様な事があれば、即座に連れ戻す。番だからとて関係ない』
『お約束します。誰にも傷付けさせません』
『琳、もし嫌な事、辛い事があれば、すぐに連絡しなさいね』
ずっと黙っていたお母さんが、僕の大好きな優しい笑顔で言った。
『うん。その時は僕のお話、聞いてくれる?』
少しくらい嫌な思いをしたって別れる気はないんだ。だって、誰だってそういうのを乗り越えて長年を連れ添うものでしょう? 少しくらいの嫌がらせで離婚してたら、そこら中離婚経験者ばかりだよ。
でも…別れる気はないけれど、やっぱり少しくらいは不満が出たり、愚痴りたくなる時もあると思う。だって人間だもの。そんな時は、話だけでも聞いてもらえたら心は軽くなると思うんだ。
『もちろんよ』
『ありがとう、お母さん』
僕達は、お互いを慈しみ、支え合い、必ず幸せになる事を、僕の両親に誓った。
「琳、疲れたか?」
マンションの前の駐車場に車を停めた彰宏さんが、助手席で窓の外を見ていた僕に声を掛けてくれた。
「ううん。大丈夫」
「本当? ぼんやりしてたみたいだが…」
「少し物思いに耽っていたの。本当に大丈夫だよ。
僕、彰宏さんを絶対に幸せにするね!」
「……………」
僕が笑顔で宣言すると、彰宏さんが微妙な顔を…。
あれ…? 僕、間違えた…!?
「先に宣言されてしまったな。俺も、絶対に幸せにする…というか、一緒に幸せになるんだろう?」
「あ……」
はい…。そうでした…。
恥ずかしくて俯き加減で頷くと、彰宏さんは僕の頬にキスをした。
「…!」
びっくりして顔を上げれば近付いてくる愛しい夫の顔。僕がそっと瞼を伏せると重なる唇。
場所は車の中で、人が通れば見られるけれど、気にはならなかった。
新婚だからね!
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