【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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《本編》

18. ひきこもりのΩ(彰宏side⑤)

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  ようやくが治まり、琳を解放出来たのは、早朝の事だった。
  ベッドの上に俯せぐったりしている琳の体は互いの体液に塗れ、鬱血や噛み跡など無数の情事の跡…。
  
  昨夜ー。 
  琳に話さなければ…と自宅に戻った俺が見たのは、突発性の発情期に苦しむ琳の姿。こんな俺でも待っていてくれたのか、伸ばしてくれた琳の腕を取ろうと俺が手を伸ばした時…。琳が突然激しく抵抗をした。理由が解らなかった。そして、抵抗された事が赦せない自分がいた。腹を立てる資格などないのに、そんな事にすら気が付かない。琳が絶叫を最後に意識を手放していた事に気付かず、琳の体を蹂躙した…。

「……………」
  
  俺は下着だけを身に着け一度寝室を出て、清潔なタオルとぬるま湯を張った洗面器を持って戻ると、丁寧に琳の体に付着した体液を拭き取っていく。心の中で何度も「ごめん…」と呟きながら…。
  琳に下着とパジャマを着せ一旦床に敷いた毛布の上に寝かせてから、体液塗れのベッドシーツを替える。そして、琳を再びベッドに寝かせ、胸元まで掛け布団を掛けた。琳は一度も目を覚まさないどころか、身動ぎ一つしなかった。寝ている…というより、気を失っている…と表したほうが正しいのかも知れない。規則正しく上下する胸だけが呼吸の安定を教えてくれる事に安堵した。そんな資格すらもないというのに…。

「……………。…ごめん…」

  今度は声にして謝った。けれど、相手に聞こえていない謝罪などに意味はない。解っている。解っていて、それでも謝った。
  今度はスーツに着替えてキッチンに向かう。今家にある食材を確認してから朝食をつくる。いつもは俺が作って琳と一緒に食べる朝ごはん。結婚してから俺が出張でいない時以外は、ずっとそうだった。でも、今朝用意したのは琳の分だけ。テーブルにサンドイッチを載せた皿を置いて、その横にメッセージを書いたメモ用紙を置く。内容は体を気遣う言葉と仕事は休むように…という事だけ。謝罪の言葉は書いたが、一昨日の夜の事は書かなかった。何を書いても言い訳にしかならない様な気がして…。
  それが、修復不可能な程の誤解とすれ違いの前触れになると知らずに……。

  出勤した俺は、まず琳の欠勤届を出してから、父に連絡して今日の予定を確認した。1日会社にいると言う父に会って話したい事があると言えば、昼休みに社長室に来るよう言われて、今に至るー。

  ーーーーーーーーーーーーーーー

「いわゆる『ひきこもり』というやつらしい」

  の父親が言っていたらしい。父がの父親とそんな家庭内の事まで話す仲だった事に、まず驚いた。パーティーに招待されるくらいだから、仕事関係で懇意にしているのは解るけれど。

「詳しい事情は知らんが、Ωゆえの苦悩もあったんだろう。弟2人がαだから余計にな。親は差別なく育てたつもりらしいが。高校卒業後はあまり外に出なくなったらしい。私も含めた数人での酒の席で父親自身が話していた事だ。酔いに任せて口から出た愚痴だったのだろう。確かなのは、彼は息子を疎んでいる訳ではなく、息子の今後を心配して悩んだ末にうっかり口から溢れてしまった、という感じだった。あの場に居た誰もがそう思っただろう。兄弟仲も悪くないようだしな。ただ、こうも言っていた。息子を嫁にもらってくれるαはいないだろうか、と」
「……………」

  嫁にもらってくれるα

「その人、息子をαに嫁がせようとしてたのか?」

  俺の疑問に父が首を横にふる。

「いや、そうでもない。彼は息子が外の世界に目を向けて自立してくれれば…と言っていた。弟が家と会社を継いで結婚すれば、どのみち家を出なければならない。だから、自立が難しいのであれば、結婚させるしかないのだろうか…と。αの…というのは、番に…という事だろう。発情期の度に苦しむ我が子の事を考えれば、親としてはそう考えるのは珍しい事でもない。
  彰宏、私がお前の話を聞いてまず思ったのは、その息子がに発情を誘発させたのではないか、という事だ」
「………。俺もそれを考えた。だと言っていたけど、もしそうなら一晩で互いの発情が終わるわけがない。恐らく、発情誘発剤を使ったんだろうと思う。通常の発情は徐々にフェロモンが強くなるのに対し、強制的に発情させる誘発剤は即効性だと聞いた事がある。強いΩフェロモンには大抵のαは抗えないのだから、フェロモンに魅かれたからといって運命だとは言えない。何より、熱が引いた後の俺はに惹かれるものは何も感じなかった。自分にも非がある事を別にすれば、赦せないくらいだ。
  父さん、故意である事は間違いないと思う。そもそも発情している状態でふらふらしていた事がおかしい。それにその日、自分の家で社交が行われていた事を知らない訳がないし、当然多くのαが集まる事も知っていた筈だ。それなのにネックガードを着けていなかった」

  そうだ。襲ってくれ、噛んでくれ、と言わんばかりに。会場に行かなかったのは父親がいるからというのもあるだろうが、大勢のαがいるからだろう。複数人に襲われる覚悟は無かったか…。だから中庭で待っていた。αが1で出て来るのを。
  そして俺は、まんまとその罠に嵌った訳だ。相手にとって誤算だったのは、事。Ωの琳には当然ながら発情フェロモンは効かないから。
  琳は俺を引き留めようとした。琳の声が聞こえていた俺は、フェロモンに魅かれる本能と琳に縋りたい思いの間で、身動きが取れずにいた。そこに、が俺に抱き着く事で、俺は遂にフェロモンに屈した…。
  思い出すだけで吐き気がする。

『…彰宏さん…』

  切なげに名前を呼んでくれる、琳の声が聞こえた気がしたー。

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