【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade

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《本編》

19. Ωの嗅覚(彰宏side⑥)

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「どちらにしろ、このままという訳にはいかん」
「解ってます」

  だから父にに来たんだ。自分の事ではあるが、本来招待されていた父の代わりに参加した社交での『事故』。今は、何故? どうしてこんな事に? などと言っている場合ではないし、今更言っても時間は戻らない。戻せるものなら、あの屋敷に行く前に戻りたいくらいだが…。 父自身も「自分が代わりに行かせたばかりに…」と思っていそうだが、父だって予測出来なかった事態なのだから、責めても仕方がない。ほんの少しは責めたい気持ちがない事もないけれど。
  ともあれ、父が言った様に、このままという訳にはいかないだろう。どちらに非があるかは問題ではなく、番にしてしまった以上、責任を取るのはαである俺だ。望まない番契約からΩを捨てるαは多いが、それだけは出来ない。

「連絡先は置いてきたと言ったな?」
「はい。ただ、こちらからの連絡を待て、と。それと、俺は堂々と玄関から出て来たから、彼の家族には会わなかったけど、使用人には見られてる」
「なら、あちらも今頃は大騒ぎになっているだろうな。息子がどこまで話しているか、本当の事を話したか…」
「……………」

  事実を捻じ曲げて話している可能性はある。誰しも、自分の非を認めたくなければ自分に都合良く語るものだから。

「既婚者だという事は?」
「事後に話した。中庭で対峙した時は琳も一緒だったけど認識していたかは判らないし、認識していたとしてもだとは判らなかったと思うから」
「そうか。それで、その琳くんにだが…。一度は家に帰ったんだろう? どう話した?」
「……………。…話してない。どう説明したらいいのか…分からなかった…」

  本当は話をする暇も余裕も無かった。琳は発情していて、自分は琳を抱く事しか考えられなくなった。理性が戻った時はだ。琳は気絶した様に眠っていて起きなかった。手紙で説明する事も出来ず…。

「………。琳くんは恐らく気付いているぞ?」
「…え…?」
「お前が件のΩと関係を持った事を…だ。
  前に話しただろう? 私が仕事でΩと関わっただけで母さんが浮気を疑う、と」
「あ……」
「私は浮気などしていないし、不必要に触れない様に細心の注意を払っている。礼儀として握手を求められれば握手をするくらいだ。番の嗅覚を侮るな。多少触れたくらいなら洗い流したり香水で誤魔化せるかも知れないが、お前はΩと関係を持ちΩの私室で一晩を過ごした。しっかりと匂いが染み付いているだろうな。番になった事までは判らないとは思うが」
「……………」

  それでか! 俺を求めて手を伸ばしてきたのに、いざ俺が触れようとしたら激しく抵抗された。あれは、俺が自分以外のΩの匂いを付けていたから、それに嫌悪感を抱いたからか!
  なのに、そうとは知らずに俺は、番なのに拒絶した琳に腹を立てて無理矢理…。

「…父さん…」

  自分の仕出かした事の大きさに気付いた俺が情けない声を出せば、父は深く溜息を吐いた。

「とにかく、まずは先方に連絡してみよう」

  父さんがの父親に電話をかけた。俺は黙ってそれを見ていた。

「やはり向こうも大騒ぎになっているようだな。昨日は家族で話をしたらしい。息子は言い訳など一切しなかったらしい。お前が最後に言い残したという事実に、事の重大性に愕然としたそうだ。息子の言い分では、父親が主催のパーティーに参加するαなら身元ははっきりしているし裕福な人ばかりだろうと思って、番にしてもらおうと誘発剤を飲んでネックガードを外し、中庭でαが出てくるのを待っていた。番になれば今後の生活の面倒を見てもらえると考えたらしいな」
「…! そんな身勝手な…! 俺以外にも奥さんを同伴している人は沢山いたんだぞっ?」
「既婚者が多い事までは考えが及ばなかったのだろう。悪い意味で、箱入りの世間知らずという事だ」
「……………」

  そんな身勝手な理由で…。
  怒りで全身が沸騰しそうだ。

「落ち着け。此処で怒っても意味はない。
  明日、先方が此方に来る約束を取り付けた。父親と後継の次男が来る。Ωの息子は来ない。Ωの母親はショックで寝込んだらしい。お前も仕事の都合をつけて、11時に此処に来なさい」
「はい」
「今日は定時で上がって真っ直ぐ帰りなさい。琳くんにどう話すかは自分で考えなさい。夫夫の話し合いには口は出さない」
「…はい」

  午後の仕事は、はっきり言って手につかなかった。
  家に居る琳を想う。身体な大丈夫だろうか。用意した朝ご飯はちゃんと食べてくれただろうか…。昼ご飯は…。
  琳に会いたい……。
  俺は、終業時間を知らせるチャイムか鳴ると、足速に帰途についたー。

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